1. CVP分析でわかる費用削減の効果
費用の削減に取り組む場合、変動費と固定費のどちらを減らすほうがいいのでしょうか。
第3章では、CVP分析を会社の体質を把握するためのツールとして紹介しました。ここでは、変動費と固定費をそれぞれ減らした場合に、CVP分析のグラフはどのように変わるのかを見てみましょう。
変動費を減らすと、費用線グラフの傾きは緩やかに
変動費を削減した場合の CVP分析のグラフ:
変動費を削減した場合は、売上高に対する変動費の割合、変動費率が下がります。このため、費用線の傾きが緩やかになります。これにより、やはり損益分岐点売上高が下がります。
例えば、比較的安価な海外メーカーの材料に切り替える場合などが当てはまります。
固定費を減らせば、費用線グラフは下に移動
固定費を削減した場合の CVP分析のグラフ:
固定費を削減した場合は、費用線がその分だけ下に動きます。このため、損益分岐点売上高も下がり、縦軸で表される利益も、固定費の削減額だけ 増えます。
例えば、現状では敷地に余分なスペースがある場合に、適切な広さの敷地の工場に引っ越すというようなケースが考えられます。このように、CVP分析のグラフを見ると、変動費の削減と固定費の削減 はそれぞれ違った意味合いを持つことがわかります。
2. 業種別に見る、CVP分析の実
CVP分析は、得られた結果の使い道こそ大事(学習塾の事例)
第3章でCVP分析を用いて会社の体質を把握することをおすすめしました。
そこでは「年度の決算が終わった後に、その期の利益がどのようにして 生み出されたか」を知ることにCVP分析を使うことを提案しました。このCVP分析を毎年行うことで、自社の体質を把握することができ、変化があっ た時にすぐにアクションを起こすことができるようになるからです。では、このCVP分析で出た結果から、どのようにその会社を診断するかということを具体的に見ていきましょう。気を付けたいのは、出た結果 (変動費率の高い低い、固定費の多い少ない) だけでは良い悪いという判断をすることはないという点です。体質にあった経営をすれば良く、理想とのズレがあるのなら、体質の改善を試みればよ いのです。
カリスマ講師でなければ、先生は雇うべきではない?
自らが人気講師で、かつオーナー経営者という方がいます。そんな方なら「受 講生をたくさん集めることができない講師は雇わないほうが塾の経営としてはいいのではないか?」 と考えるかもしれません。講師としても優秀な 経営者は、こういう考えを持つのも仕方がないと思います。
売上に連動する費用である変動費が一定程度あります。この変動費の主なものはアルバイト講師の人件費です。先生が多くいれば授業を増やすことができ、受講生をたくさん集められます。つまり売上を増やすことができ ます。先生がやめてしまうと受講生は少なくなり、売上が減ることになります。
先ほどの「受講生をたくさん集めることができない講師は雇わないほうが塾の経営としてはいいのではないか?」という質問に対する答えとしては、「その先生の講座を受ける生徒の授業料がその先生の給料より1円でも 高ければ、雇っておいて損はない」となります。売上である授業料からその 先生の給料を引いた額は、教室の家賃などの固定費に充てることができます。なので、教室がいっぱいにならなくても、先生を雇っておく意味はあるのです。
生徒の授業料の考え方:
売上(生徒の授業料) – 先生の給料
⇒ 固定費(教室の家賃など) に充てることができる
カリスマ講師ではない先生でも雇っておいて損はない!
そうは言っても、あまりに人気がなく、他の先生にマイナスの影響があり、 塾全体のイメージを悪くするような言動がある場合など数値化できない部 分も総合的に判断しなければいけません。ただ、CVP分析をした結果が、 先生はスーパースターばかりである必要はないということは示唆に富んで いると感じます。
美容室のように、スタッフの数により接客数が増減する業種でも同じようなことが言えるのではないでしょうか。
また、閑散期にホテルや旅館が格安プランを用意していることがあります。これも同じような発想で、追加でかかる人件費・水道光熱費などの変動費よりも宿代を少しでも高く設定しておけば、休業するよりはましということです。 宿代から追加の費用を引いて残った額は、建物の減価償却費やロイヤリティなどの固定費の回収に回すことができるためです。
格安プランの宿代の考え方
売上(宿代) ー人件費・水道光熱費の追加費用
→ 固定費 (建物の減価償却費、ロイヤリティ) に充てることができる
閑散期に格安プランで営業することは、休業するよりはまし
良い悪いではなく、体質をしっかり理解しよう
上記に掲げたグラフに対する見方としては、良い悪いという判断の問題 ではなく、自社の状況・特徴を把握することが重要です。そして、そうした 把握のもとに経営判断をしていくこととなります。
このような会社は、仕事があればどんどん利益が増えていくのですが、一 定の売上高を下回ると赤字を出してしまうという傾向があります。売上が 増えても減っても、かかる費用はほとんど変わりません。費用がほぼ固定 費というのは、そういうことなのです。このような前提を踏まえて、将来の 売上見込を考えながら備えておくことが大事です。例えば、仕事が多い時 期には資金や剰余分を貯めておいて、少なくなった時にはその貯えで凌ぐという経営方針もあります。
怖いのは、業績が良いときにはどんどん利益が出るので、勘違いをして過 大な設備投資をしてしまうことです。逆に売上が減少し始めたら、とたんに資金繰りが厳しくなってしまいます。このような経営判断のミスは実務 では起こりがちです。経営者の多くは売上が右肩上がりで増えて利益が多く出ているときには、なかなか売上が減ることをイメージできなくなってしまうのです。
ぜひ、このようなCVP分析というツールを使って、経営者の気づきや現 状の理解につなげていってほしいのです。
このように、CVP分析をした結果に、いろいろな意味合いをつけて「翻訳」していくのが管理会計です。最初に、自社の体質の把握という話をしましたが、どの状態が良い悪いというのではなく、自社の体質に合った経営をし ていけば良いということです。
3. 最近注目されている、KPIの実践的活用法
KPI でメンバーの行動を導こう
KPIという言葉を聞いたことはありますか。KPIとは、業績に大きな影 響を与える数字のことです。正確にはKey Performance Indicatorの頭 文字をとったもので、日本語では「重要業績評価指標」と呼ばれますが、名 称はそれほど気にしなくて構いません。KPIの代表例といえるのが、営業 部門であれば販売単価や販売個数、製造部門であれば歩留り率や機械稼働 率です。
販売単価をKPIとする例を挙げます。通常の販売単価が100円の会社 が「来年度は10%アップの110円にすることを目指そう」と目標を立てた 場合を考えてみましょう。メンバーは販売単価を110円にすることを目指 して活動します。従来よりも単価が高い商品を積極的に売る人もいれば、これまでよりも値引き幅を抑えようと得意先と交渉する人もいるでしょう。KPIには、何を頑張ったらいいのか、そしてどのくらい頑張ったらいいのか をプレなくメンバーに理解してもらうことで、メンバーがとるべき行動が わかりやすくなるという効果があります。
社内で重要視している指標も、KPI
取組みの手順として、まず会社で従来大切にされてきた指標が何かを特 定するのもおすすめです。社内で実際に使われているKPIのほとんどは、長 年の経験から業績向上につながることがわかっており、そのために使われ ています。それ以外にも、もし業績向上につながるKPIがわかっているようなら新たに追加してもいいでしょう。このとき、そのKPIは頑張れば達成で きる性質のものなのか、複数の類似する指標がある場合には最適な指標な のかといった点に注意が必要です。
また、KPIは1つだけとは限りません。KPI を複数設定する場合は、おおよそ5つまでにしたほうが把握・管理がしやすいと思います。その場合には、優先順位をつけるようにします。
さらに、KPI同士の関係にも注意が必要です。一般に、単価を下げれば販 売個数が伸びる傾向があるため、販売単価と販売個数はトレードオフの関 係にあるといえます。このとき、どちらも同じように大事にしてしまうと、 部門のメンバーはどちらを優先していいのかがわからず、業務目標の方向 性がバラバラになってしまいます。中途半端な取組みの結果、目標が達成 できないという事態につながることもあります。
KPIは、メンバーの行動を方向付けるためのツールですので、このような 矛盾が発生しないよう注意しましょう。
KPIは、分析・予測まで使いこなそう
KPI を設定したら、次にそのKPIの実績数値を数か月分集めてみましょう。 そこで見られる変動の要因が何なのかを納得できるまで分析します。KPI に影響を与える要因を分析することで、何を頑張ればKPIが向上するのか のヒントを得ることができます。数値の良し悪しに一喜一憂するだけではいけません。数値の裏側にある情報を押さえることのほうがはるかに重要です。
実績数値の分析ができたら、次は予測に挑戦するのもいいでしょう。
仮に数か月分のKPIの数値を予測するとします。活動予定や外部環境の 変化などの前提条件を考えた上で、その情報に基づき数値化します。実績 の分析は「数値から情報」 という流れでしたが、予測は 「情報から数値」 という逆の流れです。時が過ぎ、実績数値が出たら、予測との「答え合わせ」 をします。もし答えが合っていなかった場合、それは押さえるべき情報が もれていたのか、それとも読み間違ったのかと予測を振り返ります。この 振り返りを何度も行うことで、今後の予測の精度を上げることにつながります。
正しく将来を読めるようになることは、管理会計の要といえます。これから自社の業績がどうなるのかを正しく予測できれば、必要な対処策をとることができます。管理会計は「未来のための会計」ともいわれますが、正しく未来を予測し、必要な場合には適切なアクションをとることではじめて、自社をより良い未来へ導くことができるのです。
KPI と決算書を連動させるのがコツ
KPIと決算書の数値を連動させて説明できるようになるとさらにいいでしょ う。管理会計の目的は業績の向上、つまり、より多くの利益を出すことにあ ります。決算書上の利益が目標ですので、これとKPIがどのような関係にあ るのかを把握します。
例えば、製造部門の主力製品の歩留り率をKPIとした場合、これが1%改 善したらいくらの利益改善効果があるのかを、「金額」で知っておくことが ポイントです。KPI を入り口にして、最終的には決算書の金額に結びつけら れるようにするのです。なぜなら、経営者は、決算書を見て会社の全体像を把握します。つまり、 経営者からしてみれば、KPIは会社の指標の一つにすぎません。また、KPIはパー センテージで表示されることも多く、実際の利益への影響が見えにくいも のです。経営者が意思決定に必要な情報を正確に理解するために、業績指 標の数値であるKPIと、全社の数字の集合体である決算書上の利益のあいだを「翻訳」して説明するのは、経理担当者に求められる重要スキルといえます。
KPI データベースで効率的に管理する
日常的にKPIを管理するためには、KPIの実績数値を容易に把握できる仕 組みが必要です。丁寧に確認するのは月次で構いませんが、月中にも途中 経過を確認できるほうがいい場合もあります。
KPI を管理するために、必ずしも立派なシステムは必要ではありません。 エクセルでも結構ですので、確認したいと思ったときにすぐチェックでき る仕組みを作りましょう。必要なときにいつでも参照できるよう、データ ベース形式にして共有するのもいいでしょう。他人に頼まないと数値が見 られないのでは時間がかかり、意思決定への活用がしづらくなってしまい ます。
また、KPIを確実に運用するためには、定例で作る資料の項目に織り込 むことをおすすめします。定点観測がしやすくなり、また分析のためにい ろいろなコメントを得ることができます。そして、KPIの管理に力を入れた い本気度を、メンバーに対して伝えることにもつながります。同様の趣旨で、 定期的に数値をメールで配信するのもいいかもしれません。例えば、小売 業のような動きのはやい業種では、前日の売上に関するKPIが毎朝送信され るのもよく見かけます。
新たにKPI管理に取り組む場合には、KPIの種類を1、2個に絞り込んだ 上でスタートするのが良いでしょう。大事なのは、現場を巻き込みながら、定期的にKPI の管理サイクルを回すことです。KPIをはじめ、管理会計はスピー ド感を持って取り組むことが大切です。数値を確認するのに時間がかかると、分析や実際のアクションにかける時間が減ってしまいます。また、途中で挫 折してしまっては、状況の把握が不十分になってしまいます。数値を集計し、分析し、報告する。この流れをタイムリーに運用し続ける ことを目標に、KPI を中心にした管理会計の仕組みを構築していきましょう。
4. 管理会計で使う、2つのチェック方法
ここでは、管理会計におけるチェックの観点を見ていきます。
管理会計では、情報として価値があることが何より大切です。「価値」を 確保するためのチェックの方法について紹介します。この「価値」とは、平 たい言葉でいえば、「データや資料が利用して役に立つ状態」と言い換えることができます。そこで、資料提出前にどのようなことをチェックするべき なのか、チェックの視点を考えてみましょう。
私たちになじみ深い 「ロジックチェック」
資料を提出する前に行う2つのチェック
- ロジックチェック
- ストーリーチェック
1つは「ロジックチェック」 といわれるもので、金額が正確なのかどうか という視点で見ることです。具体的には、転記の正確性、計算の正確性の 確認などから構成されます。例えば、「転記ミスにより売上の数字を1ケタ多く入力している」「集計された表の数字がおかしい」といった事柄がこれ に当たります。経理担当者の方なら、おそらく実感がわく内容でしょう。
「ストーリーチェック」というチェック方法を知ろう
もう1つは「ストーリーチェック」といわれるものです。この言葉には馴 染みがないという方もいるかもしれません。前期比較や予算比較での増減 分析のときに書くコメントがこれに当たります。
当期の数字が締まり、前期比でかなりの差が出ているとします。その差 が正しいかどうかを確認するのがロジックチェックです。つまり、そもそ も当期の数字が正しいかどうかを見るのがロジックチェックなのです。
これを前提として「なぜそうなっているのか」「この数字が意味している ものは何か」ということを確認するのが、ストーリーチェックです。このた め、データを利用する人に役立つ情報を入手するための見方といえます。
経営者が詳しく聞きたいのは、ストーリーチェック
ロジックチェックとストーリーチェック、どちらが経営者にとって大事でしょうか。管理会計は、経営者のための会計ということで、経営者の視点 から考えてみましょう。もちろん数字が間違っていると問題ではあるものの、どちらかというと、昨今経理担当者や会計事務所の方に望まれているのは、 このストーリーチェックのほうです。
「要は何なのか」「なぜこうなったのか」「もう少し深掘りして説明してほ しい」という気持ちを、経営者は持っているものです。なので、皆さんは既 にロジックチェックには慣れているでしょうから、このストーリーチェックの観点をもう少し意識すると、ちょうど良くなるかもしれません。
ロジックチェック、ストーリーチェックの順番が効率的
また、実務では取り掛かる順番も大事です。まずロジックチェック、次に ストーリーチェックの順で行うように徹底しましょう。なぜなら、間違っ た数字に対して背景を考えても、結局「すみません、数字が違っていました」となってしまっては、もったいないですよね。手戻りになってしまいます。ですので、順番としては、ロジックチェックで理論的な正しさを確認した上で、 ストーリーチェックで感覚的な正しさを確認することが大切です。この順 番を守ることで、手戻りも減ります。
2つのチェックの関係
ここで出てきた「手戻り」 というのは、業務改善の大事なポイントの1つです。手戻りとは、①担当者が上司に数字や書類を提出して、②チェック で間違いなどがあって担当者に戻ってきて、③また直して上司に出すとい うループで表されます。
なるべくこのループの回数が少ないほうが仕事は早く終わりますよね。 やはり、ロジックチェックを先にして、その後でストーリーチェックをする という順番を大事にしないと、どうしてもこのループが多くなってしまいます。 ぜひこれも、頭の片隅に入れておいてください。
手戻りが業務に与える影響
時間がないときは、ストーリーチェックを
実務をこなす中では、時間が十分ではないときがあります。そんなとき にチェックをおろそかにするのではなく、ストーリーチェックだけをすると いう方法もあります。自分の認識と、数値や書類のストーリーが合っていれば、 大きな方向性だけは外していないという安心感を持って、打合せに望むこ とができます。
もちろん、前提としては担当者が正確さを保つためロジックチェックを していると考えてください。それでも、上司や同僚が担当者の資料を使う 場合の備えとして、状況に応じて対応できるように技をいくつか持ってお くということも実務では必要といえます。
人間だからこそできる、ストーリーチェック
私たち経理の仕事はデータを正確に作成することはもちろんですが、その上で役に立つ経営情報を経営者に届けることが重要です。そのためには、「ロジックチェック」だけでなく、「ストーリーチェック」は必須ともいえます。経理の仕事を奪うと騒がれているAIはロジックチェックは得意ですが、ストー リーチェックをすることはまだまだ難しいようです。AIは相手に合わせた カスタマイズは得意でないため、コミュニケーション領域への進出は難しいと言われています。経理の仕事の中にも、この「ストーリーチェック」 ようにAIに代替できない仕事は多く存在しますので、ぜひそういったスニ ルを積極的に身につけてください。
5. 経営者が喜ぶ、管理会計視点の報告
経営者への情報の伝え方にもコツがある
月次決算や年度の決算ができたら、経理の責任者は経営者に報告します。 また、会計事務所の先生も同様です。経営者へ報告するときに、経営に役 立つ情報をきちんと伝えるためのコツをここでは説明していきたいと思い ます。
経理担当者や会計事務所のスタッフも、このコツを知っておくことで、上 司や先生が何を求めているかを理解できます。そうすると、聞かれてから 調べて答えるというスタンスから、あらかじめ求められているものを情報としてあげていくというスタンスにレベルアップできるでしょう。
経営者がもっとも気にするのは、利益とお金の2つ
経営者の一番関心があることといえば、やはり利益とお金だと思います。中でも、資金繰りと決算書上の利益との関係がすっきりせず、腹落ちし ないという声をしばしば聞きます。売上が増え、利益も増え、税金を払わ なければいけないのに、なぜか税金を払う資金が足りないなんて話を聞くことも。
こういった数字の理由を説明する能力が経理担当者には求められます。 売掛金が多くなっているが、売上代金の回収が進んでいないから、利益は出ているけれど資金は少ないというケースがよくあります。その場合、そのまま売掛金の増加とだけ言ってしまうのでは芸がありません。
例えば、「得意先の入金が遅れていて通常なら1か月分の売掛金が、2か 月分もたまっているので売掛金の額が増えています」 というところまで説 明できるといいでしょう。そうすると、経営者は、「あっ! あのせいでお金 が増えていないのか」と理解できます。そして、その得意先との入金時期の 交渉や、今後の取引の検討といった経営判断につながっていきます。まさに、これは「翻訳」なのです。経営者の肌感覚と、目の前の決算書の 数字を擦り合わせていくことがポイントなのです。
木ではなく、森をしっかり見よう
一方、経理担当者や会計事務所のスタッフは、どうしても木を見て森を見 ずになりがちです。経理の仕事というものは正確に処理をすることが大事 なので、森を見ることは少しハードルの高い要求かもしれません。ただ、経営者の役に立つ情報を提供する管理会計の元データは、日々の会計データ、つまり、皆さんの身近にある情報です。会社の規模によっては、一人で全ての入出金の会計処理をしていることもあると思います。そうで なくても数名のみでやっているということが多いでしょう。実は、皆さん が一番会社の状況を把握できるところにいるのです。
正確な処理を心がける中で、少し余裕が出てきたら、次のステップに進んでみましょう。例えば、次の表に掲げたことを時折気にしながら、日々の業 務を進めていくことから始めてみてください。これは、経営者が求める情報で、かつ、日常の経理業務の中で気づきやすいものです。
経営者に話す前に押さえておくべきこと:
- そもそも利益は黒字か赤字か?
- 売上高は、増えているか減っているか?
- 現金・預金の残高は多いか少ないか?
- 役員からの借入は、増えているか減っているか?
- 金融機関からの借入は、増えているか減っているか?
多忙な実務では、黒字か赤字かも把握しないまま、会計処理を終わらせて いるケースも意外にあると感じます。経営者の立場に立って何が知りたい かを考えてみるといいでしょう。
報告のポイントは、3つの「使わせない」
最後に経営者への報告で大事なポイントを3つ紹介します。経営者に経 営判断に集中してもらうためのポイントと考えてください。
まずは、経営者に「時間を使わせない」ことです。経営者は、スピードを 重視します。一方、経理担当者には丁寧な人が多く、検討した順番に細かい 数字も正確に伝えるというスタイルを取る傾向があります。その結果、経 営者によってはイライラしてしまうこともあるようです。
限られた時間を有効に使うために経営者が気になることをテンポよく答 えるようにしましょう。そして、やはり経営者に時間を使わせないために、なるべく相手が知りたいことを優先して話すように心がけましょう。また、経営者から質問を受けた場合ですが、正確性を重んじるあまり「後 で回答します」と答えてしまいがちではないでしょうか。多少の正確性を犠牲にしてでも、その場で答えることを優先してください。そのほうが、経営者の役に立つということが実務では多くあります。経営者のニーズは、基本的には正確性よりもスピードにあることが大半といえます。
次の「使わせない」は「頭」です。数字だけを淡々と述べてしまうと、その意味合いを経営者自身の頭で考え始めてしまいます。口頭では、「いいか 悪いか」の結論を重視して説明しましょう。数字が必要であれば、そのと きに資料に目をやればよいのです。例えば、この結論を書いた要約文を冒 頭に付けるというのも、経営者に頭を使わせないための対処法の1つです。 これは「エグゼクティブサマリ」と呼ばれます。
勘定科目名を口にしないほうがいい理由
また、口頭で報告する場合には、専門用語に注意しましょう。例えば、「法 定福利費」という勘定科目名は、難しい印象を与え、すぐに理解できないことも多いものです。このため、経営者に馴染みのある「社会保険料」と表現 して伝えることも大事です。まさにここでも、「翻訳」をするということです。経営者の会計知識も一様ではな いので、相手に合わせてムダに経営者の「頭」を使わせないようにしましょう。
そして、最後の「使わせない」 は「気」です。これは頭を使わせないとい うことに近いのですが、経営者の気を散らさないように配慮することを意 味します。例えば、数字を間違えない、資料の流れは左上から右下へ、字は 大きくする、資料の配色はモノトーン(黒や白や灰色) を使用するなどの資 料の形式面に関する注意を徹底して守るだけでも、かなり効果があると感 じます。このように、経営者が求める情報を、簡潔に伝えることで、経営の判断に 役立つ管理会計の実践につながっていくのです。
まとめ
管理会計は社内向けのなんでもありの会計です。難しいものではありません。
会社の実態をつかみ、数字を経営に活かすために中小企業こそ取り入れるべきものです。
自社にあった管理会計を作ったり、アレンジするのが難しければ、ぜひご紹介した5つの中から取り組めるものを実践してみてください。
詳しくはNALまでお問い合わせください!