Webサイト
今の時代、Webサイトはビジネスに大きな影響を与えます。このことにBtoC と BtoBで差異はありま せん。とくにSaaSのようなITビジネスでWebサイトを使わず事業を成り立たせるのはほぼ不可能でしょ う。しかし、その一方で「Webサイトに力を入れても仕方がない」と考えるBtoB企業もいまだ存在します。
売上の9割以上が既存顧客の継続取引、営業力さえあれば案件を獲得できるBtoB企業において、 Webサイトは確かに取り組むべき喫緊の課題にはならないかもしれません。そして「うちの顧客はWeb サイトなんか見ない」と経営陣が判断すれば、Webサイトのための予算が組まれることもなくなります。
しかし、その判断は果たして妥当でしょうか。新規顧客と出会うため、場所と時間の制約なく情報 を届けられるWebサイトの力を借りる必要はないのでしょうか。「うちの顧客はWebサイトなんか見な い」のはWebサイトが充実していないからで、しっかり整備すれば活用されるのではないでしょうか。
BtoB商材は顧客側で入手できる情報が少なく、公式サイトだけが唯一の情報源になることも珍しく ありません。それを裏付けるように、トライベック・ブランド戦略研究所の 「BtoBサイト調査 2021』 では、BtoBにおける製品・サービスの情報源のトップが企業のWebサイト (66.7%)となっています。
仕事上の製品・サービスの情報源 (2020年、複数回答)
BtoBにおけるWebサイトの重要性は、対面での営業は難しくなったコロナ禍にさらに加速しまし た。同じアンケートを実施したなら、この数字はさらに上昇するはずです。
このような条件を踏まえると、BtoBこそ自社Webサイトを充実させるべきであり、これまで本格 的に取り組んでこなかった企業にとっては、大きな伸びしろがある領域と捉えることもできます。
プロジェクトの土台を作る
Webサイトの改善/改修/リニューアルが決まると、複数のWeb制作会社に声をかけ、各社の見 積書を見比べながら予算を決めていく企業が多いです。しかしプロジェクトを有意義にするために、 いきなり制作を始めるのではなく、まずは次のことを整理して、必要であれば関係者に共有すること から始めましょう。
(1) マーケティング全体を理解している人を責任者にする
Webサイトの改善/改修/リニューアルの窓口となる部署は、企業やWebサイトによって異なり ます。事業部が窓口になることもあれば、Web担当者、広報部、人事部、情報システム部が窓口に なることもあります。どれが正解という話ではなく、その企業がWebサイトの主目的を何とするか によって、プロジェクトの担当や窓口が変わります。
本書の主な読者はマーケティング関係の仕事をしている方だと思いますが、リード獲得などのマー ケティング活用がWebサイトの主目的なら、原則的には、マーケティングの責任者がWebサイトの 責任者になるべきでしょう。
マーケティング目的のWebサイトが失敗する要因の一つに、ほかのマーケティング施策とWebサ イトがリンクせずに独立運用されてしまう、ということがあげられます。Webサイトでは訪問数や コンバージョン数を計測することもできます。しかし、マーケティング計画の全体像の中でWebサ イトのような役割を担い、これらの数字がどのような意味をもつか分からなければ、数字の妥当性を 判断することはできません。これが可能になるのは、マーケティング戦略全体を見通せている人だけ です。
そのため、実務担当者を別に任命するのは問題ないとしても、Webサイトの総責任者はCMOクラ スの人物であることが望ましいでしょう。
(2) 関係部署を巻き込んでおく
製品サイトやサービスサイトなど、その事業に特化したWebサイトの場合、事業部やマーケティ ング部だけでWebサイトの検討を進めてもいいでしょう。しかしコーポレートサイトの場合、話は 異なります。
商材が企業名で認知されている場合、コーポレートサイトをマーケティングに活用することが正 攻法です。一方で、コーポレートサイトは複数のステークホルダーをターゲットとするため、事業 部やマーケティング部だけでは判断できないカテゴリが必ず出てきます。例えば採用情報、IR情報、 CSR情報などがこれに相当します。またCMSの更改も行われる場合には情報システム部の管轄、コー ポレート情報を発信する機能が実装される場合には広報部の管轄となります。
そのため、顧客獲得を最大の目的とする場合は、マーケティング部を中心にプロジェクトを編成し つつ、Webサイトに関わる各部門の人員も参加してもらうようにしましょう。このようにすることで、 公開前後の認識違いやトラブルを最小限に防ぐことができます。
(3)予算上限をあらかじめ決めておく
Web制作会社の見積もりを取ってから予算を決めようと考える企業も多く見られます。しかし、 見積基準がWeb制作会社によってバラバラであるため、妥当なコストであるかどうかを判断するの は非常に困難です。その結果、一番安い見積もりと一番高い見積もりの中央値付近を予算として決め てしまいかねません。そのことによって不十分なWebサイトに仕上がったり、価格で選んだばかりに、 相性の悪いWeb制作会社と付き合って疲弊したり、ということが頻繁に起こっています。
予算化が難しい理由の一つに、Webサイトの投資対効果が計測しにくいことがあげられます。コ スト削減目的の場合は、比較的投資対効果が導き出しやすいですが、マーケティング目的の場合、 Webサイトは前工程となるマーケティング施策の影響を受けるため、効果を簡潔に掴み取ることが 難しくなる傾向にあります。
そのため、マーケティング予算や広告予算などから、先にWebサイトリニューアルの予算を決め てしまい、その中でできること、それが実現できるWeb制作会社、といったプロセスでWeb制作会 社を選ぶことをおすすめします。
予算の基準は一概には言えませんが、参考程度の目安を下表にまとめます。
ARR (円) | 獲得匿名コンタクト数 |
---|---|
1億円~5億円 | 500万円~1000万円 |
ARR5億円~10億円 | 1000万円~1500万円 |
ARR10億円~50億円 | 1500万円~2000万円 |
ARR50億円~100億円 | 2000万円~2500万円 |
ARR100億円以上 | 2500万円以上 |
ARR: Annual Recurring Revenue (年間経常収益)
なお、安くすればするほど、制作に特化した会社になる傾向があります。発注側でマーケティング 的な要件をすべて決められるのであれば、金額を優先して制作に特化したWeb制作会社を選んでも 構いません。しかし、もしマーケティング的な要件整理もWeb制作会社に求める場合、最低でも上 記か、それ以上の金額を想定しておきましょう。
(4)計画を早めに立てて動いておく
Web制作会社は多数存在しますが、それでもまだ需要の方が大きい状態が続いています。実力の あるWeb制作会社ほど引き合いが多く、直近数ヵ月の予定は埋まっている傾向にあります。そのため、 「明日からお願いしたい」「来月には着手したい」と急にプロジェクトを動かそうとすると、必然的に 引き合いが少なく、予定に空きのあるWeb制作会社が選択肢となってしまいます。一概には言えま せんが、そのようなWeb制作会社には、実力や経験の不足が懸念されます。
Web制作会社にはできるだけ早い段階でアプローチした方がいいでしょう。目安として、プロジェ クト開始予定日の3ヵ月前には、Web制作会社に声をかけ始めておくと良いでしょう。
(5) 正しい選定基準を持ってWeb制作会社を選ぶ
多くの企業が、「マーケティングに精通しているWeb制作会社」 を探しています。しかし、そのWeb制作会社が本当にマーケティングを理解しているのかを見極めるには、工夫が必要です。
というのも、マーケティングスキルは自社サイトなどの外面的な情報だけで証明することは難しく、 書籍などを数冊読めば、具体的な言及を避けながら、専門用語を並べてそれらしいセールスコピーが 書けてしまうからです。つまり、「マーケティングに詳しそうに振舞う」ことは、容易にできてしまう のです。
明らかにクリエイティブ寄りのWeb制作会社であるのに、「戦略提案」「マーケティング戦略立案」 「ビジネスに貢献」などと語っていることもよくあります。
本当にマーケティングのスキルがあるかを確かめるには、Webサイト上の情報から実際に会った ときのヒアリングまでを通じて、次のポイントで精査すると良いでしょう。
●ネット上で積極的に情報発信をしている
● 自社サイト内に抽象的ではなく、具体的で詳細な説明が掲載されている
● 自社のマーケティングの取り組みについて内容と成果を語れる
● クライアント向けの取り組みについて具体的な説明ができる
● 具体的なアウトプットを見せてもらえる
● 口頭でいいので、今のマーケティング上の課題に関する指摘をもらえる
● 面談時に話している内容に具体性があり、スキルの裏付けがある
●若いスタッフばかりでなく、経験のあるベテランが存在する
●マーケティングがテーマのイベント登壇や書籍執筆などがある
これらに多くのチェックが入るようであれば、その会社のマーケティングスキルは高いレベルにあ ると判断できます。ほとんどチェックが入らない場合は、クリエイティブ寄りのWeb制作会社であ る可能性が高くなります。そのような会社にマーケティング課題の相談をするのは厳しいでしょう。
また、もう一つWeb制作会社を選ぶ際の大事な視点があります。それは、Web制作会社のコミュ ニケーション能力。Web制作会社に対する不満の主原因になるのは、スキルや技術力ではなく、コミュ ニケーションであることが圧倒的に多いのです。
Web制作会社のコミュニケーション能力を知りたいときは、次のような観点でチェックしてみて ください。該当する項目が多い場合には、コミュニケーション能力(およびマネジメント力)が怪し いといえるでしょう。
●メールなどの返信が遅れることが多い
●要領を得ないメールが多く、やり取りが多い
● メールで済む話なのに、すぐ電話をかけてくる
●担当者によって対応にばらつきがある
●的を外れた返事、機械的な回答が多い
● やたらと至急で対応する (計画性がない)
●メールが深夜や休日に送られてくる(時間管理がされていない)
● プロジェクト管理のための仕組みやワークフローがない
● スケジュールを、ガントチャート専用ツールではなく、Excelで作っている
● ドキュメントが雑で統一されていない
● よく確認せずに先走って行動する傾向がある
●何においても気が利かない
また、会ったときの印象も重要です。コミュニケーションが噛み合うかどうかは、相性によっても 左右されます。上記のチェックに照らし合わせるだけでなく、「コミュニケーションのスタイルやペー スが自社の社風と合いそうか」という点についても確認しておきましょう。
制作に入る前に検討しておくべきこと
目的や役割が曖昧なままWebサイトを作った結果、「Webサイトをリニューアルしたけど効果がよ く分からない」と悩んでいる企業によく出会います。このようなWebサイトのことを弊社では「戦略 不在のWebサイト」と呼んでいます。
インターネットという仮想空間上に作られるWebサイトは、物理的制約を受けないため、やろう と思えば何でもできます。しかし、なんでもできてしまうからこそ、成果とつながらないことにま で時間とお金を費やしてしまいがちです。それを回避するためにも「何のためのWebサイトを作るの か?」「誰のためのWebサイトなのか?」といった目的や役割を、作る前に明確にしておく必要があります。
弊社では、このようなWebサイトの目的や役割を確認するための期間を 「戦略フェーズ」と呼んで います。約2ヵ月かけて戦略フェーズを実施し、Webサイトに関係するマーケティング上の条件を整 理します。
「今すぐWebサイトをどうにかしたい」と考える企業にとって、2ヵ月という期間は長く感じるか もしれません。しかし通常3~5年はWebサイトを使うことを考えると、2ヵ月を惜しんで急いで作 るより、情報を整理して方向性を見定めてから作るべきです。決して安くはない投資に見合った効果 を、中長期的に得られる確率が高まります。
戦略フェーズでは、以下の15の項目について、一つずつ内容を明確にしていきます。これらの項 目を埋めるために、ユーザーテストやアクセス解析、競合分析なども行います。
議
論
の
ブ
レ
イ
ク
ダ
ウ
ン
・
詳
細
化
|
問いの繰り返し | Web戦略シートの項目 |
戦
略
|
そもそも事業が目指すことは? | (1) 事業目標 | ||
その上で何がマーケティング上の課題? | (2) マーケティング課題 | ||
課題解決のためにどの市場を目指す? | (3) 市場定義 | ||
その市場はどんなサブカテゴリを含む? | (4) カテゴリ定義 | ||
その市場にはどんな競合がいる? | (5) 競合定義 | ||
その市場にはどんな顧客市場がいる? | (6) 顧客企業定義 | ||
その市場にはどんな顧客がいる? | (7) 顧客定義 | ||
その顧客はどんな行動をする? | (8) 行動定義 | ||
その顧客にどんな価値を提供する? | (9) 商材定義 | ||
その商材にはどんなブランドイメージがある? | (10) ブランド定義 | ||
マーケティング全体はどんな構造になってる? | (11) ファネル定義 |
戦
術
|
|
その中でWebサイトはどんな役割を果たす? | (12) Webサイト戦略定義 | ||
本来の役割に対して今のWebサイトの課題は? | (13) 現Webサイトの課題抽出 | ||
新しいWebサイトに求めることは? | (14) 要求リスト |
設
計
|
|
新しいWebサイトはどんな構成になる? | (15) サイトストラクチャ |
各項目について、もう少し詳しく解説しましょう。
(1)事業目標
Webサイトを経営や事業に活用するからには、検討のスタート地点も、経営や事業でなければなりません。弊社の戦略フェーズも、経営と事業への基本的な理解から検討を始めています。具体的には、Webサイトの検討の最初の段階で、以下のことを明確にしていきます。
●経営ミッション
●経営目標
●経営課題
●事業構造
●事業の優先順位(複数事業を扱う時)
●各事業のミッション
● 各事業の目標
● 各事業の課題
● Webリニューアルの目的
● 各事業がWebに期待すること
● 各事業の売上/案件単価/受注数/商談数/リード数など
なお、事業が複数存在し、それぞれターゲットが全く異なる場合には、事業ごとに、以降すべての 検討を行うことが理想です。しかし、実際には時間と予算の制約が発生するため、あくまでWebサ イトのリニューアル/公開を目標として、重要な事業やWeb戦略と関係が深い事業だけに絞って検 討することが現実的です。
以降の説明は、特定事業に絞った上での検討を前提としています。
(2) マーケティング課題
経営課題や事業課題のアウトラインを把握したら、続いてマーケティング課題の概要を把握します。 弊社では、『コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント (フィリップ・コトラー、ケビン・レーン・ ケラー 著/恵蔵 直人監/月谷真紀訳/丸善出版/2014)』で紹介されている「強み/弱み分析のための チェックリスト」を、企業や商材特性に合わせてカスタマイズして用いることが多いです。このシー トを使えば、マーケティングのどの領域がボトルネックで、何を優先的に解決しなければならないの かが明確になります。ここから、「重要度の高いボトルネックを解消するために、Webサイトが使え ないか」という発想になり、Webサイトの大きな目的が決まっていきます。
(3)市場定義
認識しているマーケティング課題がある程度明確になったら、改めてマーケティングの基本的な要 件を整理していきます。
市場定義とは、本来、事業や製品/サービスを打ち出す時点である程度決まっているものです。し かし、案外、この市場定義が曖昧なまま個別のマーケティング施策を考えていることも少なくありま せん。市場定義が曖昧なままでは、当然、Webサイトのコンテンツ戦略にも影響を与えてしまいます。 ここが不明瞭な場合には、明確にしていく必要があります。
市場定義に決まった定め方はなく、「正解」と断言できるようなものもありません。いくつかの視点 から市場戦略の現状を整理し、社内やプロジェクトチームで共有すると良いでしょう。
例えば、既存ビジネスに対してWebサイトで打ち出したい事業や商材がどのような位置付けにな るかを整理するには、アンゾフ・マトリクスが便利です。
既存市場 | 新規商材 | |
既 存 商 材 |
市場浸透戦略 既存商材を使い 既存市場内でのシェアを拡大する 【Webサイトの主な方向性】 既存商材の価値を既存市場に対して より精度高く伝えていく |
市場浸透戦略 既存商材を使い 新規市場を開拓する 【Webサイトの主な方向性】 既存商材の価値を新規市場に対して 啓蒙も含めて基本から伝えていく |
新
規 商 材 |
製品開発戦略 新規商材を開発し 既存市場に向けて販売する 【Webサイトの主な方向性】 新規商材の価値を既存顧客に対して、 啓蒙も含めて基本から伝えていく |
多角化戦略
新規商材を開発し 新規市場も開拓する 【Webサイトの主な方向性】 新規商材の価値を新規顧客に伝えていく 挑戦的で試行錯誤を伴う |
市場浸透戦略の中で、現状どの段階にあり、この先どのような展開を目指しているのかを整理する には、次図のような市場戦略シナリオを用いて議論すると良いでしょう。
課題領域を固定して業種は特化せずに横軸に広げるのか、特定の業種に特化して課題領域を縦軸に 広げるのかを明確にするには、ホリゾンタル型とバーティカル型の議論が有効です。
資料戦略を決める上では、事業の成長フェーズから考えていく方法もあります。例えばプロダクト ライフサイクルを活用すると、次図のような一般的な傾向があります。「事業は今どのフェーズにいて、 この一般論がどのくらい当てはまるか」「その上でどういった市場を狙うべきか」という議論も、有益 なものになるでしょう。
階段 | 情報 |
導入期
|
・先行投資をしながら市場性を見極めている |
・高速トライ&エラーし、PMF を目指していく | |
・成長期に移行した時のための先行者優位性を蓄積する | |
・新規参入障壁をできるだけ構築していく | |
成長期
|
・市場が自然と拡大しているため、競争の重要性は低い |
・価値に選択肢がない場合、品質が低くても顧客獲得できる | |
・成長カテゴリとの関連付けと、徹底的な認知の拡大 | |
・認知と同時に、拡大する需要に対応できる組織編成、人員確保 | |
成熟期
|
・市場が鈍化しはじめ、競合とのシェアの奪い合いが始まる |
・サービスやマーケティングを磨き、競争優位性を高める | |
・得意分野と苦手分野を見極め、投資を最適化していく | |
・ロコミによる認知など、効率の良い新規開拓の土台を作る | |
衰退期
|
・撤退分野と継続分野を見極める |
・資産を活かしたピボットなどで別市場を狙う | |
・あるいは残存者利益を狙う戦略に舵を切る |
このような議論を踏まえた上で、標的市場を図式化していきます。先ほども述べたように、市場定 養に正解はなく、また事業を営みながら調整していくことが現実的です。明確に図式化することは、 員の目線を合わせることに役立ちます。また、Webサイトのコンテンツを考えるときなど、 施策の詳細を検討するなかで「そもそも論」に立ち戻れるようにするためにも、市場定義を端的に図 式化していくことは有用です。
市場をセグメンテーションする方法は千差万別ですが、多くの場合、次図のようなパターンを活用 して標的市場を表現することで、比較的うまく収まります。
親子構造型
市場をカテゴリ別に構造化・細分化し た上で、どの市場で戦うかを決めてい きます。
象限型
二つの軸から、4象限や6象限、9象 限などを作り、どのエリアで戦うかを 決めていきます。
ベン図型
二つ以上の市場やテーマの重なりで、 自分たちが戦うべき市場を表現していきます。
また、こうした単一の図式で表現するのではなく、複数の図を用いた段階的なセグメンテーション が有効な場合もあります。例えば弊社では、一つ目の市場定義で、デジタルマーケティング市場を セグメントしたWeb制作市場にフォーカスする。二つ目の市場定義でBtoC と BtoCに分類したとき のBtoBにフォーカスする。さらには、その中でもコンサル的性質が強く高価格というマトリクスで フォーカスする。この3段階のセグメンテーションを行って、市場を定義しています。
このように市場を定義したら、該当市場の中で、現在どのくらいのシェアを獲得できているかを明 確にしましょう。詳細な市場調査を行って把握することが理想ですが、それが難しい場合は、まずは フェルミ推定でも構いません。
そのとき、単に顧客のシェアだけではなく、市場におけるリード獲得数、リード化していない認知 やカテゴリ認知の割合についても、確認しておきましょう。これらの状況が、Webサイトの戦略的 方針にも影響を与えることがあるためです。
顧客 – 12%
市場シェアが高く、顧客数が十分な場合は、既存顧客へのク ロスセル、リピート率の向上が事業の主目的となります。
獲得リード – 18%
握得リード数が多いがあまり顧客化できていない場合、保有 するハウリストをベースにしたマーケティング施策(リードナー
チャリング系施策)の優先度が高まります。
商材認知 – 9%
商材は認知されているのに、獲得リード数や顧客数が伸びない 場合には、商材の理解を促すようなマーケティングが必要にな ります。
カテゴリ認知 – 15%
市場の中でカテゴリ自体は認知されている場合、競合商材に対 する優位性やプランドイメージの確立が必要になってきます。
未開拓 – 46%
市場の中でカテゴリ認知すらしていない層が多い場合には、カ テゴリの存在や価値を示すなど、市場を啓蒙・活性化する活 動が必要になります。
(4) カテゴリ定義
カテゴリ定義とは、市場定義をさらに細分化したものであるとも言えます。市場定義の場合には、 市場をセグメントした上で、その中からセグメントを選択するという発想で行います。一方、カテゴ リ定義は、選択した市場の中で、「いかに多くの接点を持つか」という観点で決定されます。
GEの伝説的経営者であるジャック・ウェルチが提唱した「選択と集中」は、「事業を絞る」と誤解さ れたまま、経営の基本原則として広く知られるところとなりました。しかし、実際には、事業を絞り 過ぎれば可能性を失ってしまうこともあるでしょう。過度の絞り込みは事業の成長や拡張性に支障を きたします。
それとは逆に、ここで行うカテゴリ定義は「焦点を明確にした市場の中で、いかに多くのカテゴリ と接続するか」という考えに基づいて行われます。これは、バイロン・シャープ、ジェニー・ロマニウ ク着の『ブランディングの科学 [新市場開拓篇] エビデンスに基づいたブランド成長の新法則(バイロ ン・シャープ、ジェニー・ロマニウク着/加藤巧監/前平謙二訳/朝日新聞出版/2020)』に出てくる、 カテゴリーエントリーポイントにも近い考え方です。
その市場の中で内包するカテゴリでできるだけ多く接続した方が、事業を有利に進めることができるようになります。接点をもつ カテゴリの洗い出しも重要になります。
鎌倉 | デバイス管理 システム |
---|---|
観光 | MAM |
デート | MDM |
海 | リモート デスクトップ |
自然 | セキュア ブラウザ |
東京近郊 | リモート アクセス |
歷史 | テレワーク |
移住 | デバイス管理 |
グルメ |
原著に書かれたカテゴリーエントリーポイントは脳内での想起の話です。脳内で想起したカテゴリ についてインターネット検索をした際の受け皿として、Webサイトも同様に対応しておきましょう。 広告と違い、Webサイトの場合、掲載し続けるためのコストが非常に安価です。ニーズの低いカテ ゴリも含め、網羅的に接点を持っておくことで、Webサイト全体での費用対効果では、リターンが 上回ってくることが見込まれます。
カテゴリ定義をWebサイトのSEO戦略に組み込むことで、想定する検索キーワードと掲載するコ ンテンツの方向性に影響を与えます。カテゴリ定義をされるカテゴリは二つや三つではなく、できる だけ多く、可能なら10以上はリストアップしておきたいところです。
なお、リストアップされたカテゴリはすべて同列に扱うのではなく、長期・中期・短期の観点で分 類し、実施の優先順位を決めていきます。
長期カテゴリ
現時点で顧客化の確率は少ないが、 市場が大きく、張っておくと長期的 にリターンが期待できるカテゴリ
中期カテゴリ
顧客化の確率はややあり、市場は中 規模で、1年前後で好影響が期待で きそうなカテゴリ
短期カテゴリ
顧客化の確率は高く、市場は小規模 であっても、今すぐ狙うべきカテゴリ
① 広い範囲かつ汎用的 マス広告、著名メディア露出、展示 会、大規模イベント、共催ウェビナー、 SNS×オウンドメディアなど
② 中規模の範囲かつやや専門的 ①と③の中庸
③ 狭い範囲かつ専門的
デジタル広告、SEO×オウンドメディ ア、製品サイト、業界向けイベント、 メルマガ、コールドコールなど
長期カテゴリ→ | 中期カテゴリ→ | 短期カテゴリ |
現時点で顧客化の確率は少ないが、市場が大きく、張っておくと長期的にリターンが期待できるカテゴリ | 顧客化の確率はややあり、市場は中規模で、1年前後で好影響が期待できそうなカテゴリ | 顧客化の確率は高く、市場は小規模であっても、今すぐ狙うべきカテゴリ |
↓ | ↓ | ↓ |
①広い範囲かつ汎用的 マス広告、著名メディア露出、展示会、大規模イベント、共催ウェビナー、SNS×オウンドメディアなど |
②中規模の範囲かつやや専門的 ①と③の中庸 |
③狭い範囲かつ専門的 デジタル広告、SEO×オウンドメディア、製品サイト、業界向けイベント、メルマガ、コールドコールなど |
(5)競合定義
競合といえば、通常は業種業態がバッティングする直接競合を指しますが、ここでは間接競合や代 替品、新規参入者を含めて、顧客獲得の脅威となりうるすべての存在を取り扱います。
弊社でWeb戦略を検討する際は、マイケル・ポーターが『競争の戦略 (マイケル・ポーター 著/土岐 坤、服部照夫、中达 万治訳/ダイヤモンド社/1995)』で提唱したファイブフォースのフレームワー クをカスタマイズした競合シートを参考に、クライアントとディスカッションをします。
とくに競合と比較検討されることが多い商材については、競合に対する優位性・独自性を明確に言 語化してWebサイトに掲載することで、事業上有利になります。そのため、競合定義で決定した内 容から、Webサイトに掲載できるコンテンツやメッセージの要件を導き出すことができないか、検 討します。
(6)顧客企業定義
BtoBの契約対象は企業となりますが、顧客企業の中で実際に情報収集や意思決定をしているのは 「人」です。その人物の行動原理やインサイトについても、ある程度想像しておく必要があります。 顧客定義を「顧客企業定義」と「顧客人物定義」に分けて検討を行うと良いでしょう。
弊社で顧客企業定義を行う場合、まず以下の「顧客企業属性表」を用いて、市場の中でも特に顧客 化しやすい企業、あるいは重点的にアプローチすべき企業の共通する基本属性を整理します。
もちろんこの中には、購買に関与する属性と、直接は関係しない属性が含まれます。顧客を知る営 業担当の話を交えたり、顧客に実際にインタビューを行ったりしながら、抑えるべき特性を抽出して いきましょう。
またBtoBの場合、顧客がSMBか、エンタープライズ (大企業) かによってマーケティング戦略が 変わり、その影響下にあるWebサイトの方針も変わることがあります。
SMB型ユーザー
・Webでの情報収集に積極的 (マーケティング 重視)
・担当が少数もしくは兼務 (忙しい&リテラシー 低い)
・役割が不明瞭(全般的なサポートを望む)
・意思決定が速い
・リスク回避くメリット享受(大企業と比べて)
・低価格/低LTV/多数(大企業と比べて)
・オンラインだけのコミュニケーションに寛容
・Webでの集客一リード化が有効 (オンライン 完結)
エンタープライズ型ユーザー
・Webでの情報収集に消極的 (出入業者の情報 に依存)
・担当が組織化・選任
・役割が明確(決められた領域のみアウトソー ス)
・意思決定に時間がかかる
・リスク回避>メリット享受(中小企業と比べ て)
·高価格/高LTV/少数(中小企業と比べて)
・ オンラインだけのコミュニケーションに寛容
・展示会/ウェビナー/ホワイトペーパー/オウンドメディアで集客→メルマガ配信→Web誘導が有効 (オフラインtoオンライン)
図のような一般的傾向を参考にした上で、自分たちの事業やWebサイトが対象とする顧客企業像 を明確にしていきます。
(7)顧客定義
BtoBにおける顧客定義は、BtoCの顧客定義と視点が異なります。BtoBの登場人物にも個性や性 格的特性は存在しますが、趣味趣向で購入するわけではありません。組織の中で与えられた役割に 基づいて購買するため、個人の美意識やライフスタイルを定義することには、ほとんど意味がない のです。
心理としてはリスク回避の傾向が強く働きます。しかし、立場によって何をリスクだと思うかは異 なり、そこが顧客定義における重要な議論ポイントになるでしょう。ただし、これは人物ではなく社 風の影響も受けます。また、組織購買となるため、一個人の判断だけで購買することはなく、その経 済合理性を集団で判断しながら意思決定していきます。
この顧客定義に、近年はペルソナが用いられることが多くなっています。
何のためにペルソナを作るのかを考えなければ、無意味な検討に時間を費やすことになってしまいます。ベルソナの最大のメリットは、多人数間での認識共有にあります。多くの組織を横断して Webサイトの検討を行う場合、ペルソナのような仮想人物を定義しておくことは、後々に効果を発 揮するでしょう。
しかし、少人数あるいはトップダウンでWebサイトのプロジェクトを進められるようであれば、 ペルソナに固執せず、「必要な共通属性だけを定義する」という検討方法も十分に考えられます。また、 解像度の高い人物定義から具体的なアイデアを抽出したいのであれば、実存する具体的なある特定の 人物(n=1)を深堀する手法もあります。
ペルソナを完全否定するわけではありません。手法に囚われずに、顧客人物を定義していきたいも のです。
この顧客定義においてもっとも重要なのは、ニーズとインサイトを捉えることです。
客理解で大事なのは、属性を把握することではなく、心の内を把握することです。とくに、心の奥にあり、購買のスイッチ となりうる「インサイト」を見つけることが何よりも重要です。
ニーズ
浅いレベルの要求
・セキュアにBYODを実現したい
・セキュアにテレワークに対応したい
・いつも使ってるサービスを使いたい
・オンプレミスでも使いたい
・セキュアかつ使いやすくあってほしい
➡︎希望する機能があるか知りたい
CEPとニーズを紐づけて、それぞれに合わせ た認知経路を設置しつつ、Webサイトではこ れらの情報が統合・整理された状態を作り、 商談につなげていく。
インサイト
深いレベルの心理,欲求
・安全な会社なのかな
・面倒な仕事が発生しないかな
・社内から不評を買いたくないな
・仕事が忙しくて時間使いたくないな
・怖いトラブルだけはとにかく避けたいな
➡︎不安を解消したい
主にコンテンツおよびコピーライティングにお いて、不安を前提にしたクリエイティブを制 作する。長期市場向けのコンテンツも、不安 に訴える内容ほど広まりやすいと考えられる。
また、セールスフォース社の営業研修で用いられる 「四つの不」 という概念も、顧客の心理を考察 して具体的なアイデアを導く上で有効なツールとなりえます。
このように顧客定義をペルソナ化して満足するのではなく、その人物がどんなニーズやインサイト をもち、どんな「不」をもっているかを考えた上で、Webサイトに掲載すべきメッセージやコンテン ツを考えることが、本質的に重要です。
(8)行動定義
顧客のイメージがある程度固まったら、次にその顧客がどのような購買行動をとるのかを明確にし ていきます。ここで用いるツールが、カスタマージャーニーです。
カスタマージャーニーはマーケティングやUXデザインで用いられている一般的なツールです。弊 社では、このカスタマージャーニーを、BtoBならではの特性を考慮した上で活用しています。
BtoBの場合、顧客の絶対数が少ないため、大量のユーザー調査からカスタマージャーニーを作る ことは、ほぼ不可能です。また、特定の用途に専門特化した商材であり、高額でもあるため、BtoB では購買のトリガーがどこで発生するか分かりにくくなっています。そのため、顧客行動の「正確な 描写」に固執すると、どうまとめたら良いのか、分かりにくくなってしまいます。
そこで発想を転換し、「カスタマージャーニーは顧客行動の正確な描写ではなく、典型的な購買行 動のモデル化である」と捉えると良いでしょう。つまり、購買に至るプロセスを大きく三つや四つに 分解し、それぞれの課題、ゴール、行動、情報ニーズなどを整理していくために用いるということです。
これはある程度抽象化したものになるため、現実的にはケースバイケースになるでしょう。しかし それでも、モデル化して条件を整理することが大切です。これにより、認知が課題なのにWebサイ トの改修に投資したり、短期的なリード獲得を目指すのにバーパス型のオウンドメディアを作ったり といった、ユーザー行動と噛み合わない取り組みを避けることができます。
これらの前提条件をユーザー行動視点で整理し、関係者に合意を取ることで、プロジェクトをスムー ズに推進させることができるようになります。これこそが、カスタマージャーニーを作る一番のメリッ トです。
また、弊社のカスタマージャーニーは、BtoBならではの購買プロセスを考慮した作り方をしてい ます。BtoBの購買は組織購買であり、単独の人物では完結しないことがほとんどです。このような 購買意思決定関与者はDMU (Decision Making Unit) という考え方にもまとめられています。
BtoBは複数人で協議して検討する傾向がありま す。そのため、カスタマージャーニーも、複数人
での協議を前提に構成する必要があります。
また、カスタマージャーニーの登場人物が。 DMUでどれにあたるかを意識しておくと、より 整理されるでしょう。
あくまでWebサイトの検討に限定するなら、DMUのすべてのプレイヤーの行動をモデル化する必 要はありません。しかし、Webサイトを訪問するであろう担当者だけでなく、その報告を受ける立 場である周辺関与者の行動や心理もモデルに組み込んでおくと、新しいコンテンツのアイデアにつな がることがあります。
(9)商材定義
市場や顧客がある程度見えてきたら、次に、その顧客に届ける価値の源泉である商材にフォーカス し、Webサイトに反映できる前提がないかを洗い出していきます。
この商材定義の中で決めていくのは、主に次の三つです。
- サービス体系
- KBF (Key Buying Factor)
- コアストーリー
それぞれについて詳しく説明しましょう。
サービス体系
ワンプロダクト/ワンサービスの場合、サービス体系を協議する必要はほとんどありません。しか し、複数のプロダクト/サービスを提供している、あるいは、階層化されたサービスメニューとなっ ている場合には、明確な定義が必要になります。
本来、サービス体系とは、Webサイトの検討以前、事業戦略やマーケティング戦略を考える時点 で決まっているはずのものです。それができている場合には、Webサイトのリニューアルにあたっ て改めて検討する必要はありません。
しかし現実には、場当たり的に事業が多角化していった結果、プロダクト/サービスが整理されて いないまま、Webサイトの検討を始めているという企業は、非常に多いです。複数商材の関係が整 理されていない状態でWebサイトを制作すると、分かりにくい構造やコンテンツに仕上がってしま うリスクが高まります。
そこでWebサイトのリニューアルをきっかけとして、事業や商材を改めて整理してみることをお すすめします。
サービスの体系化に、決まったメソッドはありません。しかし、論理的な情報設計力とクリエイティ ビティを必要とし、プロセスを言語化しにくい領域でもあります。
同時期にリニューアルを担当したホットリンク社のサイトリニューアルにあたっても、以下のよう なサービスの体系化を行いました。
あるデジタルマーケティング企業の提案に際しては、以下のようなサービスの整理をしたことがあ ります。
事業の構造や関係性を整理することが、Webサイトの構造やコンテンツの分かりやすさに直結し ます。定型化したフォーマットはありませんが、丁寧に検討していきたいところです。
KBF
KBFとはKey Buying Factorの略で、直訳すると「重要購買因子」です。その名のとおり、購買を 決定する重要な因子のことを指します。商材の特長とKBFが連動していれば、「売れる商材」になり えます。一方でいくら商材のセールスポイントを連呼しても、それが顧客のKBFと連動していなけ れば、その商材は一向に売れないでしょう。Webサイトに掲載する商材の訴求ポイントを、企業側 の思い込みで作ってはいけません。それを避けるためにも、KBFという概念は重宝します。
なお、KBFと似たような意味合いの用語に、USP (Unique Selling Proposition) があります。「独 自のセールスポイント」と訳され、やはり商材の訴求ポイントを考える時に使われる概念です。KBF ベースで検討してもUSPベースで検討しても、Webサイトのメッセージやコンテンツは同じ方向に 収束することがあります。ただ、USPは独自性や差別化といった対競合視点が強く、企業が打ち出したいことが重視されています。USPでは顧客視点を見失いやすいため、商材の特長を整理するなら、 KBFペースで考えたほうが良いでしょう。
● 価格
●納期
●効果
●機能や仕様
● 安全性・安定性
● 外部連携など
●カスタマイズ性
●デザイン性
● サービス内容(より具体的に)
●アフターサービス
●企業規模
● 企業の知名度
●過去の取引履歴
●実績
●評判
●営業担当の人柄
● 会社の風土
●社会的意義 など
KBFの決定にあたっては、顧客調査などの裏付けを取るべきです。BtoCでは、KBFを洗い出すた めに数ヵ月の消費者調査を実施することも珍しくありません。それに対してBtoBの場合には、対象 となる顧客数が少ないため、顧客/見込み顧客に対するインタビューでKBFを掘り起こすケースも 多く見られます。ただしBtoBでは、商材特性や販売チャネルの問題で、エンドユーザーに直接話を 聞くのが難しいこともあります。その場合はエンドユーザーを一番よく知る人物、例えば営業などの ヒアリングを元に、KBFを明らかにしていきます。
繰り返しますが、KBFを定義する上での注意点は、「自分たちの言いたいこと」に流されないこと です。企業が強みだと思っていることと、顧客が求めていることがズレている、というのは頻繁に起 こります。自己認識が眠っているかもしれないという視点に立ち、顧客目線を見失わずに、KBFを 考えることが、何より重要です。
また、実効性のあるKBF設定のためには、表面的なニーズではなく、組織を動かしている組織イ ンサイトに目を向ける必要があります。インタビューをすると、購買理由に「価格が安い」「品質がいい」 などといった回答が返ってくることがありますが、これが真のKBFでないことも多いです。「人が自 己認識しているのは全体の5%に過ぎず、95%は潜在意識に眠っている」という話もあります。表面 的な言葉に惑わされずに、これまでに定義してきた顧客や顧客行動も鑑みながら、インサイトを掴ん でいきましょう。
KBFの表現には、決まった書式はありません。弊社でもプロジェクトによってKBFの表現はまち まちです。例えばあるSaaSのKBF設定では、以下のように四つの影響因子を導き出し、必須要素と 付加価値要素に分類するような設定の仕方をしています。
また、ある法人向けの貸し会議室サービスでは、KBFをユーザーの意思決定プロセスに合わせて モデル化し、Webサイトでの行動を加えて表現しています。
重要なのは、企業の独りよがりにならず、実効性を伴うこと。そして、社内の関係者およびWeb サイトの制作を担当するクリエイター間で認識の共有が行われ、有用なコンテンツを導き出す議論に つながることです。その観点から、自由な発想でKBFを整理するようにしましょう。
コアストーリー
サービス体系やKBFを定義したら、ユーザーに対してそれらをどう伝えるべきかを検討します。 その中心となるのが、弊社がコアストーリーと呼んでいるものです。
コアストーリーは、Webサイトのためだけに使うものではありません。顧客は購買を決めるまで にさまざまなタッチポイントでその商材の情報に触れます。その際、タッチポイントによって訴求内 容が異なっていると、商材の特長や魅力がきちんと伝わりません。そこで、Webサイト、LP、広告、 ホワイトペーパー、メルマガ、営業資料などで一貫して使える「私たちの売りを伝えるための共通ス トーリー」が必要になるのです。
商材の強みの出し方はテーマや施策によって変わりますが、それによってメッセージがぶれてしまう可能 性もあります。そのためまず核となる「コアストーリー」を定義し、テーマや施策によってコアストーリーを カスタマイズして、コンテンツ化/メッセージ化していけば、プレにくい一貫性があるコミュニケーション が可能になると考えます。
コアストーリー | ||||
製品サイト | メルマガ | オウンドペーパー | LP | オウンドメディア |
ウェビナー | DM | 会社紹介 | セールス資料 |
コアストーリーの骨子として、弊社では、ダイレクトマーケティングで用いられるセオリーを流用 しています。これもPASONAの法則、QUESTの法則、BEAFの法則など、いくつか存在しますが、 弊社では、問題提起→結果→証明→信頼→安心の手順で検討していきます。
コアストーリーは、ダイレクトマーケティングなどで用いられる以下の基本構成をベースにすると、アク ションにつながるストーリーに仕上げることができると考えられます。
問題提起 顧客が抱える問題を整理し、問題意識を共有し、共感・関心を得る
↓
結論 顧客が知りたがっている結果を、端的に伝える
↓
証明 問題を解決する力がある (結果を言い切れる)ことを証明する
↓
信頼 信頼できる存在であることを、事実をもって実証する
↓
安心 想定される不安を払拭し、安心してもらう
↓
行動 これに決めよう! or もっと詳しく知りたい!
問題提起
「問題提起」とは、顧客の関心や共感を促す、顧客が直面している問題を提示することです。これは、 顧客がもともと認識していることもあれば、提示されて初めて「なるほど、そうか」と気づくことも あります。顧客の印象に強く残り、専門家として見てもらえるようになるのは、当然、後者のパター ンです。また、BtoBの場合、ほとんどは問題解決型の商材であるため、問題提起はペインの提示で あり、「ホラーストーリーを伴った方が、購買のスイッチが入りやすい」と言われています。
結果
「結果」とは、商材を購入・導入することで相手が獲得できる結果、結論です。「売上が○%上がる」、 「コストが○%下がる」、「○ヵ月で社員がスキルアップする」など、顧客が抱えている問題に対し、こ の商材がどのような良い「結果」をもたらすのかを言語化したバートです。
実証
「実証」とは、「結果」 がなぜ得られるのか? を証明するパートです。「結果」だけであれば誰でも 言えてしまう可能性が高いため、具体的かつ論理的に「結果」が高確率でもたらされる理由を述べて いく必要があります。Webサイトでは機能説明やサービスの詳細など、深掘りすればするほど多く のコンテンツを必要とするパートといえます。
信頼
「信頼」は、顧客を信頼させるパートです。いかに優れた問題提起がなされ、良い「結果」と、それ をもたらす仕組みが「実証」されていても、その企業や商材に対する十分な信頼を感じることができ なければ、その提案を受け入れることは難しくなるでしょう。具体的には、実績、取引先、企業規模、 歴史、第三者評価などを提示することで、信頼感を醸成していきます。
安心
「安心」は「信頼」と似ていますが、こちらは懐疑的な姿勢である意思決定者の考えを払拭するため のバートです。信頼できる相手による魅力的な提案であったとしても、「果たして自分に合うだろう か?」「難易度が高そうだが、失敗しないだろうか?」 という不安がよぎるのは、自然な心理です。そ れに対して、導入後の顧客満足度のデータ、顧客の声、サポート体制などを提示し、不安をできる限 り払拭します。
この「問題提起・結果・実証・信頼・安心」のロジックを使って、コアストーリーを定義していきます。
コアストーリーが完成したら、その内容を組み合わせながら、各施策でのコンテンツやメッセージに反映していきます。
このコアストーリーは、Webサイトのためだけに使うものではありません。商材のエッセンスを 詰め込まれているため、あらゆるタッチポイントにおいて用いることが可能です。Webサイトの検 討だけに留めず、LP、広告、営業資料、オウンドメディアの記事、メールマガジンなど、あらゆる メディアのメッセージでこのコアストーリーを活用してください。メッセージに一貫性が生まれ、よ り強固なブランドイメージを築くことが可能になるでしょう。
まとめ
「ウェブサイトはB2B マーケティングにおいて重要な役割を果たしますが、その開発や維持管理は従来、高度なプログラミングスキルを必要としました。しかし、最近のテクノロジーの進歩により、ローコードプラットフォームを活用することで、ウェブサイトの作成や管理が簡素化されました。
ローコードはプログラミングスキルに依存せず、直感的で使いやすいインターフェースを提供します。これにより、B2B企業はより短い期間でウェブサイトを構築し、迅速に変更やアップデートを行うことができます。
この技術を使用することで、ウェブサイトの機能性を向上させるための新しいツールやアプリケーションを迅速に組み込むことが可能です。例えば、自社のニーズに合わせたカスタムフォームやデータベース、追加機能の実装などが手軽に行えます。
さらに、ローコードプラットフォームはウェブサイトの保守や更新作業を簡素化し、マーケティングチームが重要なコンテンツや戦略に注力できる環境を提供します。時間とリソースを節約しながら、ウェブサイトの品質を向上させ、顧客の期待に応えることが可能です。
つまり、ローコードを活用することで、B2B企業は迅速かつ柔軟なウェブサイトの構築・管理が実現でき、効率的かつ効果的なマーケティング戦略を展開することができるでしょう。NALでは、自社専用のウェブアプリケーションを開発し、カスタマイズできるローコードプラットフォームの開発した実績もあり、導入を検討されている際には、ぜひNALへお問合せください!