ITコンサルタントには、ITスキルはもちろん、ビジネス知識やさまざまな業種の専門的な知識が求められます。また、多くの人と関わりながら業務を進めるため、相手の要望を正確に把握するためのヒアリング力や、相手を説得するためのプレゼン力など、高いコミュニケーション能力が求められます。
1. ITプロセスガイドライン
IT活用を支援するITコーディネータ制度の創設
インターネットで特殊ねじ・TSボルトナットキャップ等を販売してい るツルガや、統合基幹システムを構築し資材調達のリードタイムを3分の1 に短縮したヘリオス酒造など、 IT活用で自社の業務を劇的に変化させて いる企業が増えています。 ITは単なる業務の効率化だけでなく、付加価 値を創造し、産業構造の改革を進めます。
しかしITを活用したくても、 中小企業は大企業とは違い専門家が少な いのが実情です。 「日本企業におけるCIO職の設置率」 (ガートナージャパ 2004年)によれば、 企業内でCIO を設置している大企業は 23.9%ですが、 企業全体では6.5%にすぎません。 ましてや、経営者が経営 状況とITの技術やトレンドを把握するのは困難です。 そのため、 経営者 側に立ったITの専門家として、2001年にITコーディネータ (ITC) 制度 ができました。
ITCプロセスガイドラインには 「共通」 と 「フェーズ別」がある
ITCはITを導入するときに、標準化されたプロセスガイドライン (PGL) を利用しています。 このガイドラインは、ITコーディネータ協会のホー ムページで無料で公開されており、 ITCを使う企業側もITCがどのような 手順に添って成果物を提供するのかを把握できます。 また、 ITC同士が共 同作業をする場合、ガイドラインに添った共通の手順を踏み、短時間に共通認識を得ることもできます。
すべてのフェーズで必要な管理を明確にした「共通ガイドライン」
共通ガイドラインは、「プロセス&プロジェクトマネジメント」「コミュ ニケーション」「モニタリング&コントロール」からなり、IT導入において一貫して行なうべき管理方法を記述しています。「プロセス&プロジェクトマネジメント」は、経営をプロセスとしてと らえ、プロセスを維持・改善改革する考え方です。これを補完し、現実 的な条件のもと、一定の期間で目的を達成する管理のしくみが、 プロジェ クトマネジメントです。「コミュニケーション」の目的は、「話す・聞く」という言葉のやりとり だけでなく、相互理解に基づいた合意形成追求することにあります。 経 営戦略の策定やIT導入においては、クライアント企業の経営者や利用者 そのほか、ベンダーなどのステークホルダーとのコミュニケーションが必要 です。 ITコンサルタントは、ステークホルダーに対して共通の目標を設定し、合意形成をしていかなければなりません。 コミュニケーションにもプロセスがあり、これを意識しながらコミュニ ケーションを計画し実施していくことが大切です。
5つのフェーズで構成される 「フェーズ別ガイドライン」
① 経営戦略フェーズ
このフェーズでは、 はじめにSWOT分析を使い外部環境と 内部環境を整理します。 次に企業理念やリスクを見据えて経営戦略を決定 し、 「経営戦略企画書」にまとめます。 これをインプットとして、ベスト プラクティスを参考にしながら各機能別の戦略を立案し戦略 実行時のCSFやIT化の課題を抽出します。IT化の意義を決める重要なフェーズであり、ITコンサルタントが最も深くかかわるべきフェーズです。
②IT戦略策定フェーズ
経営戦略や各機能別戦略をインプットとして,ITを活用したビジネスモデルを策定します。 現状と目標の差を認識したうえで、自社の成熟度を 考慮してIT戦略と展開方針を決定し、「IT戦略企画書」 にまとめます。このフェーズでは、ビジネスモデルの変革とIT導入を同時に進めることを目標とします。 自社資源の制約条件を考慮して、中長期的な計画と短 期的な計画を策定するのがポイントです。 ITコンサルタントは、顧客ニ リーズや技術動向の変化をにらみつつ、IT化の計画が経営戦略と乖離しな いよう十分に注意します。
③IT資源調達フェーズ
「IT戦略企画書」をインプットとし、ハードウェアやソフトウェアなど このIT資源のほか、設備や人材を適切な費用と品質で調達します。 期限内 に調達できるよう調達方法やベンダーの選定および契約をし、「IT導入計 「画書」としてまとめます。ITコンサルタントは、 RFPの策定を支援し、ベンダーの経営基盤や技 術力、 アフターサービス体制などについての評価を支援します。
④IT導入フェーズ
このフェーズでは、「IT導入計画書」 に基づいて業務プロセスを詳細化 し、システムを構築します。作業はベンダーが中心になることが多いのですが、 ITコンサルタントは推進をベンダー任せにしてはいけません。エンドユーザーに、自らが利用するシ ステムであることを認識させ、 導入時の役割と責任を明確にしたうえで積 極的に改革を支援します。また、導入するシステムの画面や帳票、 移行データを確認するほか、マ スターデータの作成など、 導入するクライアント企業側の作業が増えるこ とを認識させなければなりません。 加えて、新しい業務を実行するための 運用マニュアルを作成し、教育訓練も実施していきます。
⑤ITサービス活用フェーズ
構築されたITサービスの活用による費用対効果を測定し、業務プロセ スの改善や改革を継続的に行ないます。ITサービスレベルを測定する指標の決定を支援し ます。 この指標により、提供されたサービスがどれほど活用されている か、計画したIT戦略をどれだけ達成しているか、最終的に戦略目標にど れだけ貢献しているかを評価し、 業務とシステムの改善提言を行ないます。
経営戦略とIT戦略の整合が成功の鍵
ITコンサルタントは、 PGLをどのように使うべきでしょうか。 企業変 革を一貫して進めるためには、 PGL全体を忠実に実行することが望ましい のですが、 経営戦略が明確な場合は、IT戦略のみの検討や、 IT導入フェ ーズから支援するのも現実的です。 経営者の戦略は明確でIT活用の重要 性は理解しているが、 どのように導入すればよいかわからない場合は、 IT活用までの時間を短縮できるでしょう。 ただし、ITコンサルタントは、 経営戦略とIT戦略の整合を忘れてはいけません。
2. 戦略マップ
戦略は見える化しなければ共有できない
環境変化の激しい今日、企業はさまざまな手を尽くし生き残らねばなり ません。そのためには、競合他社と差別化をはかり、絶えず変革し続ける 必要があります。 それは、 商品やサービスを待つ顧客のためであり従業 員の雇用を確保するためであり、優れた商品やサービスによる経済全体の 成長であり、地球環境を守るためでもあるでしょう。戦略は、選択と集中を見極め、経営者だけでなくその企業に属するすべての従業員が、進むべき方向性を一致させて実行しなければなりません。 そのために戦略を見える化し、共有することが必要なのです。
仮説検証による戦略の継続的改善が成功の鍵
- 経営者のリーダーシップのもと、 キーパーソンを任命する
企業全体を見渡して戦略を描ける人は、経営者層であり、戦略を実行し てほしいと強く願っている人です。 経営者層の強いリーダーシップのも と、 BSCと戦略を理解し浸透できる人をキーパーソンとして任命すること が重要です。
- キーパーソンを中心に、 BSCの教育を実施する
強いリーダーシップがあっても、組織が大きくなればなるほど、一貫し た戦略は浸透しにくくなります。 また、 新しいマネジメントシステムを導 入するため、現場からは変化に対する強い拒否反応が発生するかもしれま せん。
- 目標達成の進捗管理を行ない、戦略の仮説を検証する
戦略を着実に実行するためには、方法論を浸透させるだけでなく、正しく進んでいるかどうかを把握する進捗管理が必要です。
戦略マップの導入を成功させるためのIT装備
①データを一元化し、リアルタイムに戦略の連動を確認できる
経営戦略はトップから各部門の戦略へ展開されますが、 ITの活用によ り、戦略が正しく連動しているかを容易に確認できます。 また現場から報 告されるデータを集約して、企業の戦略がどのように進んでいるのかをリアルタイムに把握することができます。
②ビジュアル面に優れ、コミュニケーションが促される
戦略マップ上には多くの指標があります。 この指標が悪化傾向にあれ ば、ビジュアルに下向き矢印や赤色で点滅させて目立たせます。 これによ り、問題点を早く認識し、必要な人や部門とコミュニケーションをとって、対策を実行することができます。 ③データ分析や仮説検証などに再利用できる
③データ分析や仮説検証などに再利用できる
戦略は、仮説を検証しながら実行していきます。 データを蓄積し分析す ることで、戦略マップに描いた因果関係が適切か、 また、 現場で実施して いるアクションプランがよい方向に進んでいるかを検証できます。さらに 検証結果から、次の新しい戦略を立てることで企業の継続的な変革に結び つけていくことができます
3. まとめ
さて、いかがでしたでしょうか。最後までご覧いただきありがとうございました。ITコンサルタントになるために必要なスキルとして、キャリアチェンジやキャリアアップをお考えの方々に、学習方法の参考になれば幸いです。
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