コンテンツ
企業のマーケティング活動において、コンテンツでの情報発信は欠かすことができません。さらに、 セールス部門やカスタマーサポート部門でも情報発信手段として、コンテンツは役立ちます。
オンラインで提供されるコンテンツには、SNS投稿、ウェビナー、オウンドメディア、ホワイトベー バーなど、さまざまなものがあります。
ここでは、さまざまなチャネルを横断して活用されるコンテンツに対して、一度ニュートラルな視 点から、コンテンツができることについて整理します。
コンテンツマーケティング戦略を立てる
やみくもにコンテンツを制作するのではなく、顧客の視点に立つことはもちろん、課題意識の段階 に応じて考えていきます。ここで言う課題意識の段階は、「潜在層」「準額在層」「顕在層」の三つです。
まずは、認知・関心・購買を逆三角形の形で示した「セールスファネル」との差異を説明します。セー ルスファネルは企業視点なのに対して、カスタマージャーニーマップは顧客視点で整理しています。 この視点だからこそ、どのようにして態度変容を起こすか、最適なメッセージを載せたコンテンツと、 最適なチャネルを検討してプランに活かすことができます。
コンテンツをカスタマージャーニーにマッピングすることも極めて重要なマーケティング行為で す。カスタマージャーニーの作成には時間も労力もかかりますが、顧客理解の機会にもなります。今 はどのようなコンテンツが資産として溜まっているか、どのフェーズのコンテンツが足りないか、ど のコンテンツに投資すべきか否か、といった指針にもなるでしょう。
このように、顧客の購買行動の全体感からコンテンツマーケティング戦略に落とし込んでいくこと が重要です。
例えば、お菓子などの一般消費財は衝動買いも起きやすく、カスタマージャーニーは短い。一方で、 高額商材ほどカスタマージャーニーが長く、複雑になります。また、ご自身のショッピング行動を振 り返っていただくとわかるように、カスタマージャーニーは一直線に突き進むのではなく、顧客はさ まざまな心理・思考のフェーズを行ったり来たりして購買に至ります。
このことからも、それぞれのフェーズに合った接点の張り巡らせ方、そしてコンテンツが必要とい うことがわかるでしょう。
また、マーケティング投資の回収期間についても、潜在層、準顕在層、顕在層を分けることで、例 えば「準頭在層の顧客をもっと増やさなければ、半年後には顕在層が枯渇してしまう」といった状況 が把握できるようになります。現状把握ができて初めて、「潜在層から準顕在層に引き上げるような コンテンツを増やそう」といった指針を立てられるのです。
獲得する顧客フェーズに合わせた書き方
コンテンツの大前提は、「コンテンツを通じて、誰のどんな認識を変えたいのか、そのゴール意識 をして作り込む」ことですが、顧客フェーズで切り分けると、重要な観点が見えてきます。顧客フェー ズ別に、どのようなコンテンツの打ち出し方をすべきか解説します。
潜在層
潜在層とは、まったく課題意識をもっていない人のことです。「まだまだ客」とも呼ばれます。
潜在層の情報ニーズとしては、漠然としていることが多いため、いきなりこの層に対して商品やサー ビスを紹介しても、あまりピンときません。そもそも問題を認識していないため、それを解決するプ ロダクトに関心がないのです。
とはいえ、課題に気づいていないからといって、問題がないわけではありません。自覚がなくとも、 課題は確実に存在します。そこに気付かせてあげるような切り口でコンテンツを発信することで、潜 在層から準鎖在層へ移行する可能性が高まります。
また、現状では大きな問題がない場合でも、「今後のトレンドはこうなっていくので、今から準備 しなければゲームチェンジに乗り遅れますよ」と、将来起こる問題への注意喚起は有効です。
各界の著名人をゲストとし、ホットリンクCMO・飯高が対談する企画です。SNSマーケティング の成功例や、その業界特有の事情について触れており、潜在層の方にも関心をもたれ、SNSやダー クソーシャルで接点を取れるように設計しています。いかにターゲット層の日常の接点に顔を出せる か、いかにその文脈にあったコンテンツを提供できるかが重要です。
注意が必要なのは、「潜在層にはまず認知」という捉え方です。認知と言っても、どれだけの認知が 必要なビジネスなのかを見極めることが肝心です。超ニッチな商材に対して無理に100%の認知を目 指すことは効率的ではありません。場合によっては競合の参入も招くでしょう。さらに、まだ顧客が ニーズに気づいていなく、啓蒙(課題喚起の発信)が必要なプロダクトなのかという観点もあります。
準顯在層
準顕在層は、漠然とした問題意識をもっている人たちのことです。「そのうち客」とも呼ばれます。 なんとなく問題を感じてはいるものの、その問題の原因や解決策が明確ではなく、自社特有の処方箋 を求めている段階だと言えるでしょう。
例えばリード数やアボ数などのKPIの目標達成ができなくなってきたり、競合の成功事例が目につ くようになってきたりすることから、「このままではいけない」と、自社が課題を抱えていることに気 づきます。しかし、どこをどうすれば良いのかが分からない。
このような準顕在層に対しては、解決の方向性を絞り込んであげることが重要です。それは、さまざまな パターンがある中で、抱えている課題がどのタイプであるかを分析したり、課題解決のためのフレームワー クを解説したりすること。課題を明確にし、解決へ至る道筋を示すことで、準額在層から顕在層へフェーズ の移行を促すことができます。「自社はどうか?」を知りたいからこそ、パーソナライズな情報が求められます。
「〜とは」といった用語説明系のコンテンツSEOでは、 この情報ニーズを満たすことはできません。 ホットリンクの例では、「御社のインスタ、どの段階? 成果につながるInstagram活用3STEPS」 のコンテンツがここに該当します。
顕在層
頭在層とは、明確な課題意識をもち、積極的に解決法を探している段階で、「いますぐ客」とも呼ば れます。この層にいる人たちは、商品カテゴリ名や具体的なツールのキーワードでGoogle検索して 情報収集などを行うでしょう。接点としても、オウンドメディアがより重要な役割を担います。
顕在層に対しては、他社と比較されている中で、自社を選んでもらうためのコンテンツを作る必要 があります。成功事例やサービスの紹介、競合との比較など、課題解決に直結する具体的な情報を提 供すると良いでしょう。競合との比較においては、次の2点を考えましょう。
● 選ばれる理由になるような発信
●選ばれない理由にならないような発信
さまざまな解決法がある中で、なぜその手法が良いのか、自社のプロダクトは他社と比べてどのよ うに良いのかを提示し、選択を促します。このとき、独自メソッドをつくりそれが知られるようにな れば、指名検索が起きやすくなります。可能であれば造語を作るなど、独自コンテンツの開発に力を 入れることもおすすめです。
また、ここでは購買決定要因を押さえましょう。扱う製品/サービスが高額なら「不安」があるでしょ う。また。他社と比較検討されるでしょう。「ほんとにここに予算を割いて成果は出るの?」と考えら れるでしょう。
なお、顕在層に限りませんが、やろうと思ったら無限に商品ページや製品資料の改善はできます。 事業戦略上、重要なプロダクトにリソースを注ぎましょう。
コンテンツの形式を選ぼう
テキストや画像だけでなく、動画、音声、GIF、ショートムービー、漫画、ライブ配信など、コン テンツフォーマットは多様化しています。記事や画像に対して、音声や動画は「斜め読み」が難しい ため、細切れでコンテンツを作るといった工夫もいるでしょう。提供者側の都合を押し付けるのでは なく、顧客視点になって役に立つコンテンツの形式を考えてみましょう。
、コンテンツの咀嚼時間では次のようなパターンが考えられます。
● ざっと斜め読みでポイントを掴みたい
●1分で知りたい
● 60分かけてでもじっくりと学びたい
アルゴリズムのことばかり考えて無理に長尺コンテンツを作ろうとして、1分で学べることを60 分もかけて説明することは意味がありません。
顧客がどんな環境で、どんな端末でコンテンツを閲覧したり活用したりするかという想像も働かせ てみましょう。
●オフライン環境でも読めるようにしたい
●スライド形式で読みたい
●テキストで読みたい
●図解で知りたい
● 製品紹介動画で知りたい
● 印刷してITが得意でない上司・経営層に配布したい
上記のように、さまざまなシーンでのコンテンツの活用方法が想像できるはずです。このような顧 客視点をもつことで、「本格的にソリューションの比較検討段階に入った人向けには、馴染みがある スライド形式で提供しよう。PDFで配布して、はじめの数枚は忙しい意思決定者層にも概略を掴め るように構成を作っておこう」とコンテンツの設計方法が具体的に想像できるようになるでしょう。
また、昨今では動画コンテンツを有効活用できる場面も増えています。例えばSaaSツールの機能紹介 のために、実際の管理画面のキャプチャを取得してパワーポイントで作成されたスライドもありますが、 現代ではYouTubeに数分程度の簡単な動画をアップするほうが、制作側も購買検討者も楽かもしれません。
受け手の立場になって、どんなコンテンツフォーマットだと咀嚼しやすいか、情報の利活用として 喜ばれるかを想像して選びましょう。
Podcastもこの数年で見られるようになりました。隙間時間に聴くような習慣も生まれています し、声で伝えることでサービス提供者の人柄を伝えることもできるでしょう。採用コンテンツとして 検討者向けに背中を押すことを目的としたPodcastも有効です。
また、ブログサイトにて、検索されやすいテーマを選定し、まずは漫画の画像を数枚差し込んで、 その後に「○○とは、について解説します」という構成も有効です。
ライティング未経験でも気後れする必要はない。営業のように語りかけよう
ここまで、カスタマージャーニーのフェーズごと、コンテンツフォーマット別に説明してきました。 普遍的なことは、目の前の相手を具体的にイメージして、「この人には何をどうやって伝えれば良い のか」を考えることです。
コンテンツ制作となると、途端に「いつまでにコンテンツを何本作ろう」と制作納期に追われてし まったり、PV数ばかりに目が行ったりしがちですが、相手がいることを忘れてはいけません。
コンテンツのデータ活用
オンライン上のコンテンツからは、閲覧やスクロール、クリックなどのデータを取得できます。
「このページにアクセスしたということは、課題が顕在化してきたかもしれない」 「事例ページを読んだということは、課題解決に関心をもっているかもしれない」 「料金ページを読んだということは、導入を検討しているかもしれない」
などの、顧客のカスタマージャーニーや検討度合いを掴むことに役立ちます。
このデータを掴めていると、顧客が待っていましたと言わんばかりの最適なタイミングでのアプ 「ローチも可能になります。こちらについては本書では紹介しきれないので、アクセス解析などにまつ わる書籍をご購読することをおすすめします。
投資対効果を高める 「一石n鳥コンテンツ」の捉え方
コンテンツは二次利用といわず、三次利用、次利用していくと、投資対効果を高められます。
例えば、営業支援のコンテンツ (セールスイネーブルメントコンテンツ)として活用する、社員に 向けたインナーブランディングのコンテンツとして利用する、取引先とも共有するなど。ほかにも、 セールスやマーケ部門の研修資料として活用も。
セミナーを開催して、その録画をアーカイブ動画として活用、イベントレポートを作成、セミナー 中に紹介したメソッドに関する解説記事を作成、セミナーの録画を数十秒で切り出してSNS投稿に 活用、なども考えられます。
1つのコンテンツで1つの目的だけを果たそうと考えるのはもったいないです。あらゆる活用余地 にも目を向けることで、思いつかなかった活用が浮かぶはずです。
例えば、「新しい教育制度を作りました」というニュースは、求職者にも社内にもポジティブなメッ セージとして届けられます。さらに充実した教育制度の存在は、見込み顧客にとっては「高品質なサー ビス提供を受けられる」と期待もできます。こういった複眼的な見方がない場合、単なる社員向けの発信に留まるかもしれません。採用にもインナーブランディングにも案件獲得にも効くニュースだと わかっていれば、コンテンツの見せ方・コンテンツの配信先も変わり、投資対効果を最大化できるコ ンテンツの作り方になります。
コラム
ソートリーダーシップ
ソートリーダーシップ (Thought Leadership) とは、企業が特定の分野を牽引することを言いま
す。将来を先取りしたアイデア、革新的な解決策を提示することで、その分野における主導的なポジ ションを担います。つまり、業界のリーダーとなるのです。ソートリーダーシップを取ることで、「○ ○と言えばA社だよね」と、特定の分野において第一想起される企業になることができます。
ソートリーダーシップを狙うのであれば、リーダーにふさわしいコンテンツが必要です。SEOに 効果的だからといって、「Instagramのフォロワーを増やす3つのコツ」のような小手先のテクニック 情報ばかりを発信していたのでは、権威性を獲得することはできません。目先のPVではなく、長期 的な目線でブランドを構築することが大切です。
オウンドメディアなどで「月の更新目標5本」 といった数値目標を立てると、目標を達成するため にクオリティが犠牲になってしまうことがあります。それでは本末転倒です。ソートリーダーシップ を取りたいのなら、品質に妥協をしてはいけません。
ソートリーダーシップを獲得できれば、尖ったタイトルに頭を悩ませなくても、「A社の記事なら信 頼できる」と進んで読んでもらえます。ソートリーダーシップを狙うのであれば、ソートリーダーシッ プを獲得できるまで、信頼をコツコツ積み上げていくことです。
多くの企業がソートリーダーシップの座を狙っています。しかし、ソートリーダーシップは業界ナ ンバーワンのポジションです。業界の未来予測や革新的な課題解決法など、他社には真似できないよ うな情報を発信していかなければ、到底その座は手に入らないでしょう。
どの企業でも作れそうな解説コンテンツや「○○とは」といったSEOコンテンツを乱発している場 合ではありません。常に競合を意識しながら、一歩抜きんでるようなコンテンツを発信しつづけなけ ればならないのです。
コンテンツマーケティングのよくある落とし穴
成功には複数の要因が絡み合っているため再現性を出すことは難しいですが、失敗には法則があり ます。ここでは、BtoBでのコンテンツマーケティングに取り掛かろうとするときによくある落とし 穴について解説します。事前に知ることで、大きな失敗は防げるはずです。
リード獲得メディアの手法をそのまま取り入れる
資料請求サイトや比較サイトと呼ばれる「リード獲得メディア」のコンテンツマーケティングの手 法をよく目にすることが多いでしょう。有名なSaaS企業の手法も目に付くでしょう。この一例は、 SEOでの集客を狙ったコンテンツや、ウェブサイトを訪れたときに大量に表示されるコンバージョ 狙いのバナー画像などです。
製造業や代理店はこの手法を真似することはおすすめしません。なぜならば、リード獲得メディア は、リード獲得を目的として課金されるビジネスモデルだからです。基本的にBtoB企業の場合は、リー ド獲得をした先の商談で受注をいただかない限り売上は立ちません。
「リードジェネレーションーリードナーチャリング」が 絶対の経路 (パス) だと認識してコンテンツを作ってしまっている
「世の中にあるフレームワークは、事象をある一部の切り口から整理したものに過ぎません。BtoB マーケティングでよくあるのは、「リードジェネレーションーリードナーチャリング」が絶対の経路(パ ス)だと認識してコンテンツを作ってしまっていることです。
実際にはブランディングができた結果として問い合わせをいただいたり、リードを保有できていな くても外部メディアのコンテンツに触れたからこそナーチャリングにつながったりする経路もありま す。成果への道は一つだけではないことを心得て、マーケティング戦略上のコンテンツでの施策を模 索していきましょう。
外部の著名人を取材したインタビュー記事
ページビューは取れるが、自社のサービス理解が深まるような内容でない限り、ブランド構築はで きません。社員を対談相手に登場させたり、自社のメソッドについて見解をもらったりするなど、プ ランドのエッセンスを盛り込むようにしましょう。
他社と同じようなコンテンツを作ってしまい、過当競争となる
コンテンツSEOと呼ばれる手法ばかり追求していると、他社と同じような「○○とは」「○○メリッ ト」といったコンテンツばかりになります。さらに、こういった独自性がないコンテンツは模倣が容 易で、すぐに過当競争になるかもしれません。
検索で上位表示させるために、Google検索 1~10位のコンテンツを網羅的にまとめたコンテンツ を量産するという昨今の風潮、そして結果として量産される同質化されたコンテンツは、圧倒的にズ レていると感じます。
ホワイトペーパーを警戒しはじめたユーザー
ホワイトペーパーとは直訳すると「白書」 ですが、BtoBのデジタルマーケティングにおいては、 客にとって有益な情報をまとめた、PDFなどで配布されるデジタルコンテンツのことを指します。
Webサイトでホワイトペーパーをダウンロードする際、企業名、氏名、連絡先の入力を促してリー ド獲得につなげる施策が、近年のBtoBマーケティングではよく行われています。ホワイトペーパー をダウンロードしたら、メルマガが送られてくるようになった、という経験をしたことのある人も多 いでしょう。
ホワイトペーパーでのリード獲得は、今や定番のマーケティング施策となりました。次第に、ユー ザーにもホワイトペーパーをダウンロードすると、メールマガジンが届いたりテレアポが来たりする ことが認知され始め、ホワイトペーパーのダウンロードを避ける人が出始めています。
これは、ホワイトベーバー自体のクオリティが問われるようになってきたということです。しかし、 ファネル上層部にいるユーザーを満足させることは難しいもの。何気ない気持ちでホワイトペーパー をダウンロードし、期待外れに終わった後、メルマガやテレアポを受けると、かえって悪い印象を抱
いてしまうこともあります。
まだ課題形成がされる前や情報収集の初期段階のリードに向けたホワイトペーパーを提供する際、
おすすめは、課題形成前や情報収集の初期段階向けのホワイトペーパーを広く開示し、「無料でこ こまで有益な情報をもらえるのか」という驚きを与えることで、強く記憶に残すことです。
このとき、ホワイトペーパーの末尾に連絡先を書いておき、興味をもったユーザーがお問い合わせ できるようにしておきます。あるいは、メールマガジンを紹介し、興味があれば購読できるようにし ておくのも良いでしょう。
ユーザー情報の獲得なしにホワイトペーパーを公開するというのは、BtoBマーケティングのセオ リーから外れているかもしれません。しかし、リードマネジメントにも手間とお金がかかります。間 雲にリード化するのではなく、意欲の高いユーザーに的を絞ったほうが、結果的にマーケティング効 率が高まることもあるのです。これは、あくまで一つの提案です。これまでの定説に惑わされず、そ れぞれの企業の事情を加味して、ホワイトペーパーの運用方針を決めることをおすすめします。
成功確率を高めるコンテンツとは
顧客のニーズがいつ発生するかは結局のところ、コントロールはできず確率論でしかないと考えて います。さらに、確率論である以上、我々は確率を高めるための打ち手を打ち続けるしかありません。 そこで、コンテンツを活用していく意義は、カスタマージャーニーに基づいて顧客の思考・行動を想 像し、接点が取れそうだと想定されるメディア (≒タッチポイント)に情報ニーズのあるコンテンツ を張り巡らせること、いかに自社を知ってもらい頼ってもらうかの活動に活かすことです。
このようにして、本節が戦略的なコンテンツ活用に取り組む上での参考になれば幸いです。
マーケティングオートメーション
マーケティングオートメーション (MA)とは?
本書を手にしたほとんどの方が、マーケティングオートメーション (MA)について、耳にしたこと があるのではないでしょうか。ここ10年ほどで、日本の企業の間でもマーケティングオートメーショ ンという言葉がすっかり定着し、「導入していないのであれば必ず検討すべきツール」という立ち位置 にまで来たのではないかと感じます。
しかしながら、「ツールとしてマーケティングオートメーションが定着した」という話を聞くことは ほとんどありません。その理由はなぜでしょうか。本章では、本来のマーケティングオートメーショ ンはどのようなものなのか、どのように定着させるべきなのかについて解説します。
開発の背景と簡単な歴史
マーケティングオートメーションは、CRMやSFA同様に米国発祥のツールで、2000年前後に誕生 しました。2000年に「エロクア (Eloqua)」がリリースされ、その後、マルケト (Marketo) やハプス ポット (HubSpot)、パードット (Pardot) などが誕生。米国を中心に、BtoB企業であれば、ごく当 たり前に導入するツールとして発展してきました。
米国でマーケティングオートメーションが広がった理由として、米国のビジネス慣習が大きく影響 しています。米国では、企業や個人名簿の売買が可能なため(州によっては法律で禁止)、購入した 購買意欲が不明の名簿に対し、Eメールやインサイドセールスによってアプローチを行っていました。 メールを送信する際は、自社のデータマネージメントの定義を元に購買リストのセグメンテーション などを行い、メールを一括送信。メールに対してエンゲージメントした人の履歴を収集し、そこから 精糖なマーケティング、もしくは営業活動を展開する。また、明らかに人的リソースを注ぐべき重要 企業名簿に対しては、インサイドセールスがあの手この手でアプローチをする、ということが一般的 に行われていました。
米国は国土が広いため、簡単に商談に行くことができず、マーケティングの段階である程度まで顧 客の精度を高めたいという要求がありました。しかしその一方で、膨大な企業名層のデータを人の手 で選別することは大変なことでもあり、このような作業を自動化かつ効率化するツールとして、マー ケティングオートメーション (MA) が大きな発展を遂げたのです。
日本へ入ってきたタイミングと日本での現実
マーケティングオートメーション (MA) が日本企業で徐々に導入され始めたのは2013年くらいか らです。当時、マーケティングオートメーション (MA) を導入していたのは、ある程度の大きな企業 が中心でした。導入理由は、自社内の他部門や他事業で獲得したハウスリストからの見込み客の発掘 や選別をするため、そして、当時のBtoB企業の見込み客創出チャネルとして絶対に欠かすことがで きなかった展示会で獲得した大量の見込み客情報(名刺情報) を適切に管理するためでした。
しかしながら、ご存知のとおり、日本では個人情報の売買は禁止されています。自社努力によって 見込み客を創出 (リードジェネレーション) できなければ、見込み客の選別、購買の意欲を高めるな どのマーケティングオートメーション (MA) 本来の力を発揮することができません。
そのため、見込み客獲得数が安定的ではない場合や少ない場合には、せっかくのマーケティングオー トメーション (MA) が、ただのメール配信ツールやハウスリスト攪拌器になってしまいます。
さらに残念なことに、日本のBtoB企業にはマーケティング部門が存在しないことが多く、営業部 門が非常に広い範囲を担当しています。前章でお伝えしたインサイドセールスやフィールドセールス のように、営業部門で明確な役割分担をしている企業はまだまだ少数です。組織的にマーケティン グオートメーション (MA) を活用するための下準備すらできていない企業の方が多いというのが実 状です。
このような違いが、米国でマーケティングオートメーション (MA) が発展していったのに対し、日 本ではなかなか発展しない大きな要因となっているのでしょう。
今、マーケティングオートメーション (MA)が(再度)日本で注目を浴びている
日本でマーケティングオートメーション (MA)が広がりはじめた当初は、マーケティングテクノロ ジーに関するギークな人たちや、いわゆるイノベータータイプの人たちが導入を進めていました。と ころが、米国と日本の組織的な違いや、企業活動のルールの違いなどからくる戦略がすっぽり抜けて いたため、その流行は“マーケティングオートメーション (MA)の屍”が増加したことにより落ち着き を見せました。
しかし、ここ数年、政府を中心に働き方改革やDXを推進し、さらには若い企業がマーケティング の重要性を企業活動の初期段階から認識。「マーケティングオートメーション (MA) をいずれかのタ イミングで導入すべき」という意識が強まっているように見受けられます。それらの文脈で、マーケ ティングオートメーション (MA) や周辺テクノロジーに、これまでとは異なる視点が注がれ始めてい るように感じます。
また、本書が執筆された2021年現在、コロナ禍の影響により、多くのBtoB企業の命綱であった 展示会や共催イベントなどに代表されるオフライン大型イベントは軒並み中止。オフラインとオンラ インでの自社単独で集客力のない企業は、”共催”施策に頼らざるを得ない状況で、オンラインでの見 込み客獲得を行う施策へのシフトが急務となっています。
見込み客獲得を軌道に乗せること、そして、マーケティングオートメーション (MA) を活用して見 込み客の購買意欲を向上させて選抜し、インサイドセールスに引き渡すことが、事業成長の鍵となっ ていくことは、間違いないでしょう。
マーケティングオートメーション (MA)が補完する
マーケティング業務領域とは?
どのようなツールを導入するにせよ、何の目的のために、なぜ導入するのか、誰が利用するのかに ついて、明文化することが重要です。ここでは、マーケティングオートメーションにどのようなこと ができるのか、簡単におさらいしていきます。
マーケティングオートメーション (MA)とは、マーケティング部門が行っている反復的な ロモーション活動やデータ管理を自動化し、「より効率的でよりパーソナライズされた経験を買い手 にもたらす」ためのソフトウェアです。
マーケティングテクノロジーの日進月歩により、2000年当初に比べ、実装機能は飛躍的に進歩しています。また、それと同時に、マーケティング部門が行っている業務内容にも大きな進歩が見られ ます。当時は、大量に買ってきた企業や個人名簿のリストをマーケティングオートメーション (MA) に投入し、リストセグメンテーションを行ってメールを配信、リードスコアリングなどでデータを整 理することが主要機能となっていました。
しかし、昨今のBtoB企業は、メール配信だけではなく、ソーシャルメディアの運営を行い、ウェ ピナーの運営、オウンドメディアの運営、LPOから広告運営、ウェブサイト最適化などを行うため、 複数のマーケティングテクノロジーを利用することが当たり前になっています。マーケティングオー トメーション (MA) にもそのような機能が実装される、もしくは連携されることが、ごく当たり前の こととして認識されています。
また、インサイドセールスなどの他部門とのコミュニケーションを円滑に行うために、Slackなど のコミュニケーションツールとマーケティングテクノロジーを組み合わせることも行われます。現在 の業務内容は多様化しており、マーケティングオートメーション (MA) によっては、それらの業務領 域を補助してくれるものもあります。
マーケティングと営業部門が行う代表的な外部施策と内部施策
この外部施策や内部施策は、ペルソナやカスタマージャーニーの流れに沿って行われるべきもので す。マーケティングオートメーション (MA) で業務内容を補完していく場合、そもそも根本となるマー ケティング戦略や施策が描けていなければ、部門内や他部門間での内部施策や外部施策に統一性や方 向性、組織的な動きが存在しません。
残念なことに、多くの企業において、ペルソナとセグメンテーションの違い、カスタマージャーニー とファネルの違いなどが正しく理解されていません。それら青写真が存在していないために、獲得し たリードを一緒くたに混ぜ合わせてメールを配信するような局所的な作業をしているだけになってし まう・・・。これが多くの企業がハマってしまった”マーケティングオートメーションの屍”の正体です。
マーケティングオートメーション (MA) がしてくれること、してくれないこと
前述したように、マーケティングオートメーション (MA) は前提として、マーケティング部門と営 業部門の切り分けや、組織的な動き方、仕組みの存在が、機能を発揮するために必要です。つまり、 ほかのツールと何ら変わりなく、マーケティング部門の人員がその全体像を描くことによってすべて が始まります。その絵が存在していなければ、特段の効果は期待できず、局所的な業務の補完作業が ツールの利用方法になってしまうのです。
一方で、ペルソナとカスタマージャーニーを作り、それらに合わせて自社の施策全体像を描くこと から始めて、マーケティングオートメーション (MA) をその絵に当てはめていくことができれば、多 様な施策を補完してくれます。
リードジェネレーション (見込み客の創出)とは、「これまで接点をもっていなかった人たちに対し て企業活動を行い、製品・サービスに興味をもってもらい、接点を作り出すこと」です。リードジェ ネレーションを主に担当するのは、マーケティング部門になります。リードジェネレーションで行う ことはさまざまで、オンライン施策であればメール、自社メディア運用、SNS運用、ウェブサイト 最適化、ランディングページ最適化、SEO、オンライン広告などがあり、オフライン施策は展示会、 セミナー、イベントなどです。
リードナーチャリング (見込み客の育成)とは、「見込み客を実際に購買に結び付けるために行う聞 係性作りのための施策であり、結果として購買意欲を高めることとなる」施策を指します。リードナー チャリングは、マーケティング部門が主導することが多いですが、場合によっては、インサイドセー ・ルス部門が行うこともあります。マーケティング部門が手動の場合は、ウェブサイトの最適化やデー タに基づきパーソナライズされたメール配信や、興味のあるコンテンツの配信を行い、インサイドセー ルスに見込み客の購買行動などの情報をシームレスに引き渡すコミュニケーションを設計します。
リードクオリフィケーション (見込み客の選定)とは、「マーケティングや営業活動で集めてきた見 込み客が自社の理想的なプロフィールかどうかを判別し、長期的な顧客となりうるかを判断し選定す る」施策です。この段階でマーケティング部門が行うことは、獲得後に育成したハウスリストについて、 適切なリストであるかを判別するアクションです。それらに対し、営業部門は選別されたハウスリス トや自動通知の優先順位をつけ、アプローチを行っていきます。
ツールによって異なるものの、多くのマーケティングオートメーション (MA)は、これらの業務領 域に付帯する反復的な作業のほとんどを補完します。一例を示します。
● リードジェネレーション:
● SNSやブログ運営などの投稿設定やデータ収集作業
●ウェブサイトやランディングページでのA/Bテストの自動化
●リードナーチャリング:
●メール配信における条件付けに基づく自動配信と配信停止作業
●リード情報に合わせたウェブサイトの最適化
●リードクオリフィケーション:
● リストを自動生成し条件に基づいた得点付(スコアリング)作業
●自動的に他の部門に通知するためのコミュニケーションの自動化
これらは幅広いマーケティングオートメーション (MA)の一部でしかありません。また、ツールが SaaSであるため、日々アップデートがされており、数年後にはまったく異なる機能が実装されてい ることもあるでしょう。
なお、後述しますが、これらの作業をツールで補完するには、そのトリガーとなる戦略的なデータ の定義づけを欠かすことができません。このトリガーとなる部分を定義するのはマーケティング部門 に関わる人であり、マーケティングオートメーション (MA) を含むいかなるツールもお膳立てをして くれない領域です。
この領域を人間が準備して設定することで、はじめてマーケティングオートメーション (MA) がさ まざまな業務を補完してくれるようになることを忘れてはいけません。
どのようなマーケティングオートメーション (MA)を導入すべきなのか?
マーケティングオートメーション (MA)を選定する際は、これまで解説してきたように戦略を描いたうえで、 「業務上非効率になっているどの部分を補完したいのか」を基準に選ぶほうが、運用の成功率は高まります。
ベンダー同士の関係性や上長同士の関係性で、運用をする現場の話を聞かずにツールありきの導入 をしてしまっている企業が見受けられます。これは絶対に避けるべきです。この選定理由でツールを 導入すると、マーケティングオートメーション (MA) が極めて厄介な存在になってしまいます。
これは、マーケティングオートメーション (MA) が、ランディングページのA/Bテストツールのよ うな単機能のマーケティングテクノロジーとは異なり、自社の基幹システムやCRMとデータ連携を しなくてはいけない横断的特性をもっていることにも起因します。マーケティングオートメーション (MA)は、営業部門のデータ管理をする担当者などの労力を借りてはじめて効果的な導入を進めるこ とができるものです。その運用領域をマーケティング部門だけで完結することはできません。
そのため、導入にあたり戦略的な視点がない場合、どうにかしてマーケティング部門で完結させた いのであれば「業務上非効率になっているどの部分を補完したいのか」をミニマムで選定しなければ なりません。コンパクトで安価なものからマーケティングオートメーション (MA)を選択し、運用す る現場にとっても程よいスペックや専門性のみで収まるツールを選ぶことが大切です。
また、それ以外にも、自社の成長のサイクルや顧客企業のサイズ感、ターゲットとなる業界などに より、マーケティングオートメーション (MA)の選定の仕方もさまざま。
自社の企業の成長のサイクルは今どこなのか?
どの企業も成長期や成熟期、衰退期など成長のサイクルが存在しています。製品サービスに至って は市場から受け入れられる段階を示したプロダクトライフサイクルが存在し、市場に対してどのよう なアプローチをとるかの一つの基準になります。
マーケティングオートメーション (MA)の導入を検討するときには、自社のビジネスモデルや事業が どのサイクルにいるかを考えることも、導入に対する成功の確度を上げるためのポイントになるでしょう。
自社ビジネス領域のポテンシャルと、事業環境視点別のマーケティング活動の焦点
自社のビジネスドメインが成長段階であったり、別事業を持ち合わせていたりする場合、デマンド ジェネレーションのどの領域に力を入れるべきかのポイントが異なってきます。
例えば、第二象限(成長産業×単独事業)の企業や製品の場合、新規見込み客を獲得することが事 業成長の鍵となります。つまり、見込み客獲得の施策を強化することが必要で、かつ、見込み客獲得 後のナーチャリング機能を持ち合わせているマーケティングオートメーション (MA) が導入すべき選 択肢となるはずです。
一方で、第四象限(成熱産業×複合事業) の企業や製品の場合、見込み客の獲得はかなり限定的に なるでしょう。ここでは、既存のハウスリストをいかに活用するか、もしくは別事業と共有すること になるリソース (ハウスリストや兼任の営業担当)に対するデータ統合や同期、コミュニケーション を円滑にしてくれるオペレーショナルな業務の補完機能が重要になります。
このように、企業や製品の置かれている状況によって、選ぶツールの特性や焦点をおくべき機能に も違いが生まれるということを理解する必要があります。
自社の事業の顧客像は? (SMB vs Enterprise)
マーケティングオートメーション (MA) が生まれて発展してきた背景に、大量の企業個人名簿を購 入できる背景があるということはお伝えしました。つまり、米国と同様にマーケティングオートメー ション (MA) を利用するためには、大量の見込み客情報の獲得が必要になるということです。
自社のビジネスモデルの対象がSMBの場合、企業数の98%は中小企業と言われているので、獲得 しうる見込み客数は膨大です。また、製品サービスの価格帯は比較的安価でしょう。一方で、対象が Enterpriseであれば、獲得しうる見込み客数は限定的となり、製品サービスの価格帯は高価となる でしょう。両者に求められる機能には、自ずと大きな違いが生じてきます。
前者であれば、収益を上げるために多くの顧客数が必要となり、大量の見込み客を創出する施策が 欠かせません。結果的に、見込み客創出や獲得施策と相性の高いマーケティングオートメーション (MA) が必要になりやすくなります。
マーケティングオートメーション (MA) が求められる理由の一つに、メール配信やスコアリングな どがあります。仮に大量の見込み客獲得が必要になることの多いSMB対象のビジネスであれば、次 のような機能が実装されていると、育成、選定までの流れを効率化しやすくなります。
●ウェブサイト最適化
●オウンドメディア運用機能
● SNSへの自動投稿およびレポート機能
●広告出稿機能およびレポート機能
一方で、後者であれば、対象となり得る見込み客数は限定的です。そのため、見込み客獲得を効率 化する機能よりも、少ない見込み企業情報に対する精度の高いアプローチをするための施策に適した 機能が求められます。必要とされる代表的な機能には、次のようなものがあります。
● ABMに関連する機能
●リードスコアリング機能
●営業部門の利用しているCRMとの連携機能
●サードパーティーのデータとの連携機能
● 営業部門が利用しているツールとの連携機能
自社の事業のビジネスモデルや顧客像が、マーケティングオートメーション (MA) 導入にあたって ツールを絞り込むうえでのヒントになります。
ホリゾンタル型の施策なのか、ヴァーティカル型の施策なのか
自社のビジネスや製品サービスがホリゾンタル型 (水平型) なのかヴァーティカル型(垂直型) なの かによって、マーケティングオートメーション (MA) に必要な機能が異なります。
ホリゾンタル型は、特定の業界に特化せず、どの業界の企業にも利用されるようなビジネスモデル のことを指します。そのため、よほどの有名企業でもない限り、見込み客が自社名や自社ブランド を正しく認知していることはなく、認知拡大のマーケティング活動と関係性作りの活動が必要にな ります。
そのため、マーケティング戦略に、見込み客創出 (リードジェネレーション)と見込み客育成(リー ドナーチャリング)が求められ、結果的にマーケティングオートメーション (MA) には見込み客創出 (リードジェネレーション) と見込み客育成 (リードナーチャリング)に関係する施策に強みをもった 機能が必要になります。
対して、特定業界に特化しているヴァーティカル型では、対象となる企業は自社を取り巻くマクロ 環境を比較的明確に理解しており、課題が顕在化していることが多いものです。ソリューションを提 供する企業が認知されていることが多く、ヴァーティカル型はホリゾンタル型と比較し認知拡大の必 要性が相対的に低くなります。
そのため、顕在化している課題を抱える企業へアプローチを行うことや、そのアプローチの精度を 高めること、つまり見込み客育成(リードナーチャリング)や見込み客の選定 (リードクオリフィケー ション)が重要視されやすくなります。
このようにビジネスモデルに起因するマーケティング戦略の違いから、どのような特徴をもった マーケティングオートメーション (MA) を導入すべきなのか、そして、導入段階であるか否かを判断 することも、大切な考え方です。
マーケティングオートメーション (MA)を導入するにあたって必要なこと
ここまでマーケティングオートメーション (MA) の概要や、経営視点やマーケティング戦略の視点 からの選び方をお伝えしました。それらを理解したうえで、実際にマーケティングオートメーション (MA) を導入する場合にはどのような事前準備が必要なのでしょうか。まず大前提として、本章で深 くは触れませんが、ペルソナやカスタマージャーニーを明確に言語化する必要があります。
後述しますが、マーケティングオートメーション (MA)の活用の鍵は、マーケティング戦略に基づ いたデータマネージメントおよび施策実行にあります。データマネージメントの原型となるのはベル ソナとカスタマージャーニーであり、図の簡易的なカスタマージャーニーの流れに沿って、売り手、 つまり企業はどのようなデータを提供してくれた人たちをリードやMQLと定義するのかを明文化し なくてはなりません。
マーケティングオートメーション (MA)を活用できていない企業のほとんどにおいて、原型となる ペルソナとカスタマージャーニーが欠落し、データマネージメントの観点がありません。
「誰に対して、いつ、何を届ければいいかわからない」と、マーケティングオートメーション (MA) の利用時に悩んでいるなら、自社のマーケティングアクティビティを定義するためのペルソナやカス タマージャーニーを作っているかを、今一度考えてみてください。
次項からは、ペルソナやカスタマージャーニーの明確化を前提として進めていきます。本質的な施 策を進めたいのであれば、自社のペルソナとカスタマージャーニーが必要となるので、すでにマーケ ティングオートメーション (MA) を導入しているが活用し切れていない場合でも、ぜひペルソナやカ スタマージャーニーをイメージしながら読み進めてください。
データマネージメントとリードライフサイクル
これまでお伝えしてきたように、マーケティングオートメーション (MA) を活用する場は、見込み 客創出(リードジェネレーション)、見込み客育成 (リードナーチャリング)、見込み客選別(リード クオリフィケーション) の三つで構成されるデマンドジェネレーションの領域です。
このデマンドジェネレーションの流れは、シリウスディシジョンズ社の提案するデマンドウォー ターフォールからわかるように、次回のような流れを形成しています。
仮にこの流れに沿ってマーケティングオートメーション (MA) を運用する場合、その区切りを明確 にする必要があります。それを行うのがリード (見込み客)の定義となるリードライフサイクルの策 定や、どのデータを付与するかを定義したデータマネージメントです。
マーケティング関係者の間では、まだこの重要性があまり理解されていないように感じます。しか し、営業部門がセールスサイクルのステージを定義してセールスパイプラインを管理するように、マー ケティング部門もリードライフサイクルのステージを定義し、マーケティングのパイプラインを管理 しなくてはいけません。
マーケティングオートメーション (MA) に利用されるデータはさまざまです。見込み客がセミナー やウェビナーに参加したり、オウンドメディアで資料をダウンロードしたりした際のオンライン経由 の見込み客データ、展示会や他業種イベントで獲得した名刺情報からくるオフラインの見込み客デー タなどが存在します。それらのデータには、すでに自社の製品・サービスへ関心を寄せている見込み 客も含まれれば、これから興味をもってくれるであろう見込み客も含まれます。その状態から見込み 客育成 (リードナーチャリング) や見込み客選定 (クオリフィケーション) を行い、最終的には営業部 門に有望見込み客(製品・サービス購入意欲の高い見込み客)を引き渡す必要があります。
また、リードスコアリングをするにしても、まずは戦略に基づいたリードライフサイクルを定める ことが必要です。リードライフサイクルとは、見込み客がマーケティングファネルやセールスファ ネルのどこにいるかを定義する考えで、大枠で見込み客がどの位置にいるのかを判別するために用 います。
リードライフサイクルの図
リードスコアリングはこの考えを補完する考えであり、特定のリードライフサイクルにいる見込み 客の中から優先順位をつけるために用いられるのが本来の活用の仕方です。一塊のハウスリストから 特定の基準の人たちを見つけ出すために用いるためのものではないことを理解しましょう。では、実 際にマーケティングオートメーション (MA) を利用するにはどのような体制作りをするべきなのかを
次項で見ていきましょう。
マーケティングオートメーション (MA)の運用体制の作り方
皆さんの所属するマーケティングチームの大きさはどれくらいでしょうか。他業務を兼任している メンバーで構成されたマーケティングチームに所属している方、2~4人のマーケティングチームに 所属している方など、さまざまだと思います。筆者の経験上、未上場の中堅企業が抱えるマーケティ ングチームは5人前後が多いと感じています。ITやSaaS企業の急成長企業であれば10人近くになる こともありますが、そのような場合でも、事業関係者総数に対して7~8%ほどマーケティング担当 者が存在すれば、かなり大きなマーケティングチームであると言えるでしょう。
複数人のマーケターがいるチームには、広告担当者、セミナー・展示会担当者、PR担当者がかな り高い確率で在籍しています。マーケティングオートメーション (MA) を担当するマーケターは、安 定的な見込み客創出や獲得の準備がある程度でき上がってから力を発揮しやすくなります。また、コ ンテンツマーケティングのチームが見込み客を惹きつけるための施策を安定的に行うことで、担当者 はさらに力を発揮しやすくなります。
一般的に、王道とされるマーケティングチームの作り方は、潜在見込み客獲得や見込み客獲得を行 うチームを先に組織立て、その後、より効率的に営業部門に見込み客を引き渡すための見込み客育成 に携わる組織を作るという方法です。
ただし、事業がすでに立ち上がっているなら、今すぐにでも見込み客を営業部門に送客しなくては ならないでしょう。そのような場合は、可能な限り営業部門とマーケティング部門の接続面に近い歯 所の施策を強化し、いち早く営業部門を助けることが大切です。
そのような施策としては、セミナーやウェビナー案内、事例案内などが一般的です。そのオペレー ションをマーケティングオートメーション (MA) で可能な限り補完し、担当者はコンテンツの準備や 効果分析に力を入れることをおすすめします。
もし、接続面に近い施策を強化し尽くしている企業なら、見込み客獲得施策を避けることは、もは や不可能です。その場合は、前述のような見込み客獲得にも強みをもつマーケティングオートメーショ > (MA) が必要になるため、マーケティング組織に見込み客獲得能力の高いマーケターを採用する必 要があります。
見込み客獲得にはさまざまな種類の施策があるため、一例を挙げます。
●オーガニック施策
●ベイド(広告)施策
● SNS施策
● 自社オフライン施策 (ウェビナー系施策含む)
●外部オフライン施策 (展示会や共催イベント系施策)
マーケティング業務の分断化
マーケティング組織が機能別に細分化され 横串で活動を行える状況にない企業が圧倒的に多い
このような施策を遂行する能力を持つマーケターをチームに取り入れることによって、マーケティ ングオートメーション (MA)が力を発揮することにつながります。マーケティングオートメーション (MA)の導入が、ただのツール導入では済まないことは、想像に難くないのではないでしょうか。
異なるスキルセットのマーケティング担当者をどの順番で採用していくか、教育していくかは、経 営戦略やマーケティング戦略に直接つながることであり、企業によって異なります。しかし、デジタ ル人材が不足する中、比較的新しいツールであるマーケティングオートメーション (MA)を理解し、 マーケティング戦略にリンクさせることができる人材は、ほとんど存在しません。
図は、筆者がこれまで体感してきたマーケティング業務におけるスキルセットの分断状況を表現し ています。マーケティング担当者ならすでに気づいていることではありますが、担当者レベルだけで なく、営業部門長も、スキルセットの違いについて理解しておくことが極めて大切です。
営業部門に近しい領域でマーケティング活動を積極的に行っている企業は、次のような施策を行っ ていることが多くあります。
●展示会運営とオペレーション
● PR活動及び業界との関係づくり
●コーポレートサイト運営
● セミナー運営とオペレーション
●メール配信及び顧客情報管理… など
●DMやFAXなど
●オウンドメディア運営とSEO対策
● 事例取材と作成
●広告出稿及び管理
相関性があるように思えるマーケティング業務ですが、実は各々の職務で求められるスキルは専門 職のようにバラバラです。ペイド (広告) 担当者がオウンドメディアを運用することはほぼ不可能に 近く、またメール配信やセミナー運営をする能力とも異なります。このように、別分野の専門性を持 つマーケターをマーケティングオートメーション (MA) 担当にアサインし、ツールを活用することは、 極めて難易度が高いのです。
ここまでお伝えしたように、マーケティングオートメーション (MA)を活用するには、見込み客獲得施策とデータマネージメントの二つが揃っていることが必須条件です。メール配信担当者をマーケティングオー トメーション (MA) 担当にアサインすることがよく見受けられますが、これはあまり適切ではありません。
仮にメール配信担当者をアサインする場合は、上長であるマーケティング責任者、もしくは営業責任者が、メール配信活動よりも上位概念であるリードライフサイクルやデータマネージメントを整備 する必要があります。
「なぜマーケティングオートメーション (MA) を使いこなせないのか。」と、現場担当者やツールが 原因であるかのような言い方をするマーケティング責任者もいます。しかし、本当の原因は、上位概 念を作り出すこと自体がそもそも欠落している点にあることが大半なのです。
仮に、これからデータマネージメントやリードライフサイクルを導入する場合は、セールスサイク ルやセールスパイプラインを利用し、見込み客を段階的に分類する概念が定着している企業の営業部 門長などに話を聞いてみることを強くおすすめします。
マーケティング部門が考えるべきリードライフサイクルやデータマネージメントの概念は、マーケ ティング部門の獲得リード数や獲得MQL数が営業売上目標から逆算されます。それと同様に、セー ルスパイプラインも逆算して考えることが一般的です。これは、パイプライン管理を行っている営業 責任者であれば、リードライフサイクルやデータマネージメントの理解が早いと考えられるためです。
マーケティングと営業部門で対になるべき一般的な概念
また、そのようなパイプライン管理を行っている営業部門には、CRMなどの顧客データを営業プ ロセスに落とし込むための業務を専門にしている人たちがいます。今風にお伝えするとセールスオペ レーションと呼ばれるタイプの人たちです。
営業部門責任者とセールスオペレーションの担当者をマーケティング部門に巻き込み、データと リードライフサイクルに関連性をもたせ、マーケティング部門のすべての担当者に浸透させることが 重要です。
さらに、発展的にデータマネージメントをしながらマーケティングオートメーション (MA) を活用 したいのであれば、データ管理やオペレーションを職責にもつマーケティングオペレーション担当者 を採用もしくは育成しましょう。マーケティングオペレーション担当者がデータマネージメントに目 を光らせることで、まとまりのないデータにメールを一括配信してしまう、といったよくある事態を 避けることが可能になります。
マーケティングオートメーション (MA)の活用を下支えする人材の不足
マーケティングテクノロジーの爆発的進化により、マーケティング業務や考え方が「日本の10年 先を行っている」と言われる米国の大手企業では、マーケティングオペレーションの採用が進んでお り、約60%以上の企業がすでにマーケティングオペレーションの専門担当者を抱えています。
マーケティングオペレーションとは、広義では人材、プロセス、テクノロジー、データなどすべて の面を管轄し、各部門の効率的な運営とマーケティングスタッフの生産性を最大化していく役割を指 します。狭義の解釈では、マーケティングチームを効率的に運営するためのテクノロジーとプロセス を担当する役割を指します。
いずれの解釈であれ、マーケティングオペレーションは、データをもとにしたベスト・プラクティ スの追跡、全体的な成果と投資収益率の測定・改善など、主にデータマーケティング活動を中心に取 り組みます。そして、デマンドジェネレーションと収益成長のためのインサイトを、マーケティング 担当者に提供します。マーケティングオペレーションを担う人材には、各マーケティング領域の専門 知識や自業界の知識だけでなく、最新のマーケティングテクノロジーを理解できるスキルやデータ分 折スキルなど、広範囲な能力が求められます。
これまでお伝えしてきたとおり、マーケティングのオペレーションは、複雑かつ高度になる一方で、 現代のマーケティングはどのような施策であれ、データ、テクノロジーと切り離して考えることが題 しくなってきています。たとえば、マーケティング部門は、日常業務としてWebサイト、コンテン ツ管理システム、A/Bテスト、ソーシャルメディア、ABMなど、多種類の手法をマーケティングオー トメーション (MA)などによって統括しています。
ただし、10年マーケティングが進んでいると言われる米国でも60%ほどの大手企業しかマーケティ ングオペレーションの人材を採用できていないと見ることもでき、日本の人材市場に適任者が存在し ているとは到底考えられません。
そのため、前述したように、まずはマーケティングオペレーションを担う人材を育てることが重要 です。そのためにも、CRMのデータを管理しているセールスオペレーション、または、それに準ず る職責を持つ人の助けを借り、マーケティングオートメーション (MA)の利用の根幹であるデータマ ネージメントやリードライフサイクルの考えをマーケティング部門に浸透させることです。こうして、 次第にマーケティングオートメーション (MA)の活用は進んでいくことでしょう。
まとめ
マーケティング自動化は、顧客情報の追跡から個別化されたマーケティング戦略の作成まで、マーケティングプロセスの最適化をもたらします。これにより、マーケティングチームの効率を最大化し、時間を節約することができます。
しかしそれだけではありません。低コード製品をマーケティング戦略に組み込むことも否定できない利点をもたらします。低コード製品は、迅速なカスタムアプリケーションやツールの作成だけでなく、市場や顧客のニーズに適応する柔軟性も提供します。
品質の高いコンテンツ、マーケティング自動化、低コード製品を組み合わせることで、強力で柔軟性があり、効果的なマーケティング戦略を構築するチャンスがあります。これにより、スマートで効果的な方法で顧客を引きつけ、相互作用を促進することができます。
低コード製品は直感的な開発環境を提供し、アプリケーションやマーケティングツールを迅速に作成および展開することができます。これにより、コンテンツの開発やマーケティング戦略の展開に時間とリソースを節約することができます。NALカスタマイズできるローコードプラットフォームの開発、導入を検討されている際には、ぜひNALへお問合せください!