経営と接続する
経営戦略におけるマーケティングの位置付け
「経営戦略」は、下図のように大きく三つのフェーズに分けられます。
「全社戦略」 「事業戦略」 「機能戦略」 と、下にいくほどより詳細な戦略が求められます。 マーケティ リング戦略はこの中の機能戦略に属し、同じく機能戦略に属する営業戦略と、近年では同等かそれ以上 に重要な戦略と考えられるようになりました。
これまでの法人取引において最も有効な活動は、営業マンを中心とした足を使う”営業活動でした。 もちろん、現時点でもその活動が重要であることに変わりありません。 しかし、前述のような意識の 変化を受け、その立ち位置を変えつつあります。 営業マン一人の力で業績を上げるのは非常に難しく なっており、営業のチーム内だけでなく隣接する他部署とも密に連携を取りながら、さまざまな作戦」 を遂行していくチームプレイが必要になってきているのです。
そのチームプレイの中でも、先陣を切るのがマーケティング活動です。 マーケティングチームは、 まだ見ぬ未来の顧客に対してコミュニケーションを取り、一定の関心を醸成した後、営業マンにその 情報を受け渡します。
現在では、マーケティング活動の後、インサイドセールスを挟んでニーズをより顕在化した上で従 来の営業チームへ受け渡すという、いわゆるSaaS型の手法も多くの企業で採用されています。
マーケティング戦略を実行する上で気を付けたいこと
経営戦略上、マーケティングが非常に重要な位置にあることについてはご理解いただけたでしょう。 事業戦略の実現には営業活動が不可欠ですが、その営業活動をより強固にし、実現性を高めるのがマー ケティングなのです。冒頭で触れましたように、多くの経営者がコロナ禍により従来の経営戦略の まで良いのかを問われている中、マーケティング戦略をどのように策定するかが、経営戦略の検討や 判断を大きく左右します。
とはいえ、たとえマーケティング戦略の重要性を認識していたとしても、すぐに実行に
本項では、経営とマーケティングを結びつけることを目的としています。一つひとつの手法ではな く、広義の意味でのマーケティングを理解すること。その上で、マーケティングを経営戦略にどのよ うに活かすのか、会社や経営がどのような状態を目指すのかを決定することが重要です。
マーケティングにおける体験を設計する
繰り返しとなりますが、マーケティング活動を単体で考えることは、経営視点での戦略とは呼べま せん。経営戦略は、少なくとも営業組織と合わせた全体像から描く必要があります。 理想を言えば、 その後のデリバリーやサポートも含めて考えたほうがよいでしょう。 なぜなら、昨今の顧客との関係 は、これまで以上にロングスパンで考える必要があるためです。今や、最初だけ良い顔をして売って 終わりという時代ではありません。
もはや高度成長期ではない日本において、関係を築いた一社から得られる収益をいかに最大化させ るかは、営業のみならず企業全体で取り組むべき重要な課題です。 このような視点で考えたときに、 本来つながっているはずのバリューチェーンが部署ごとにサイロ化してしまっているのを見過ごすことはできません。
では、どのような状態が望ましいのでしょうか。 それは、初期のコミュニケーションから、接触、商談、受注、デリバリー、サポートまで、一気通貫で顧客の体験を設計することです。その上で、顧客の期待に応じた。あるいはその期待を超える価値提供を行うことが、 今後多くの企業に求められる重要な 視点になるのです。
この設計を考える際、非常に大切なポイントとなるのが、マーケティング活動における「初期接触」です。 マーケティング活動とは、顧客やターゲットに対してコミュニケーションを図り、関係を構築することが目的です。 大袈な表現や誇張をするのではなく、的確に顧客の課題を捉え、関心と期待を寄せてもらう必要があります。
マーケティングの 「初期接触」 を通じて成した関心と期待を維持しつつ、営業チームが顧客の課 在化させ、より具体的な解決策を提示する。 そして、顧客が期待するサービスを提供し、顧客 がえばサポート部隊が適切にフォローする。 この一連の体験をどのように構築するのか。ここに、 各企業による違いが現れます。
例えば弊社では、マーケティングにおける顧客体験として、次のように設定しています。
「我々のサービスは顧客のニーズに合致した課題解決に資することのみを提供する」
その上で、それぞれの部門では次のような施策の方針を設定しています。
マーケティング部門
● 顧客の課題解決になる情報提供に徹する
●ノウハウ、メソッドの公開は中途半端にせず、すべて出し切る
●誇張 大袈裟な表現を用いることなく、事実に基づいたコミュニケーションをとる
營業部門
●お客様のニーズと提供できる解決策が一致しない場合は提案しない
●顧客がサクセスする条件に合わない場合、サービスの依頼があってもお断りする
●情報の後付けをせず、すべての情報を事前に明確に伝える
CS部門
●依存されるような関係構築は行わない。 あくまで顧客が自走できるサポートに徹する
●顧客がサクセスできているか(売上増加などの成果が出ているか) を重視し、導入後も顧客の 状態を常に把握する
これらはほんの一例ですが、直接、間接に関わらず、どれもが 「顧客の課題解決」につながるものとなっています。一つひとつの項目は、すべて大元である「どのような体験を顧客に提供したいのか」 につながっています。 さらに上流に遡ると、これらの体験は弊社がもつミッションやビジョンにつな っているのです。
このように、顧客体験を設計する際には、自社の経営理念に基づいて設計することが重要です。そ うでなければ、セールス、マーケティング、CSなど、各機能の方針や施策がちぐはぐなものになってしまい、顧客に対して一気通貫の体験を提供することができなくなってしまいます。
以下に一般的な経営理念の枠組みをご参考までに記しますが、ぜひとも皆さまの会社においても、 まずはこのような経営理念がそもそもしっかりと言語化されているのか、もしされているのであれば その経営理念と自社が目指す顧客体験の設計が整合しているのか、確認してみてください。
経営理念とはミッション・ビジョン・バリューの枠組み
組織によりさまざまな言葉が使われているが、組織の「存在意義」「目指す姿」 「価値観・行動指針」を表すもの。
バリューチェーンを元に戦略を描く
経営と接続するためには、各バリューチェーンの数値の把握と迅速な判断が対になっている必要が あります。そのためには、次の三つを押さえておきましょう。
●各バリューチェーンをきちんと分業化し、責任の所在を明確にすること
●各バリューチェーンにKPIを設定すること
●上記を迅速に可視化するツールを導入すること
バリューチェーンとは、顧客体験を提供するうえで必要なセクションをつないだものです。 今後、 顧客の体験価値の最大化は、企業にとって避けることのできない課題となるでしょう。それを実現す まるためのバリューチェーンの構築には、1人の従業員が業務を横断的に担う従来のゼネラリスト型で はなく、それぞれの専門性に特化した業務に体制をシフトさせていく必要があります。 マーケティン グ、インサイドセールス、フィールドセールス、カスタマーサクセスなど、 専門性が担保されていれ ば、それぞれの活動を指標化しやすく、 具体的な改善策の検討も容易になります。
セクションと担当KPI(参考)
図のように、弊社では、バリューチェーンのセクションに対して、目標となるKPIをそれぞれ設定 しています。 各セクションにおいて、そのKPIを達成するためにどのような取り組みを行うのか? 全体を通じて目標とする体験は顧客に提供できるのか? できるとすれば、それはどのように実現で きるのか?そのときに必要な人員は何人か? など、これらを紐解いていくことで、バリューチェー ンに沿った戦略の構築が可能となります。
その上で、先行指標となる数値を、営業からマーケティング活動へとって確認していくと、全体 「バリューチェーンの中で、どこがうまくいっており、どこに課題が存在しているかが見えてきます。 これらの数値が経営視点として常に見える状態であれば、迅速な経営判断ができるようになります。
そのようなデータに基づく経営判断を行うためには、従来の数値の管理方法を変える必要が 出てくるかもしれません。 その管理手法について、いくつか紹介していきます。
迅速な意思決定を支援する環境を整える
迅速な意思決定を行うためには、情報をフィードバックして経営判断の支援ができる環境を整える必要があります。とくに取り組んでいきたいのは、次の三つです。
① マーケティング活動のダッシュボード化
②営業手法のオンライン化
③CRMを使った営業管理
それぞれについて、見ていきましょう。
① マーケティング活動のダッシュボード化
すでにマーケティング活動を行っている企業でも、その活動結果をほかの関連部署とも共有できで いるケースはあまり見られません。 Excelやスプレッドシートなどを使っている企業が多いようです が、いわゆる「BIツール (ビジネスインテリジェンスツール)」を使うことで、蓄積された大量のデー タを見える化し、経営判断に必要な情報のみを拾い出して確認できるようになります。 Tableau、 Domo, Looker など、 現在では多くのBIツールが世の中に出ています。
②営業手法のオンライン化
コロナにおいてだけでなく、今後も「オンラインセールス」 は非常に重要な営業手法であり続け るでしょう。 オンラインセールスであれば、外出が不要で時間効率が非常に高い。 また、 オンライン 会議ツールの録画機能を活用することで、新人への的確なフィードバックや、成績上位者のセールストークの振り返りが可能になります。 つまり、営業を個人の属人的な取り組みからチームの活動へと 変革することができるのです。
事業においては、短期の業績よりも、 中長期的な成長を担保する再現性の方が重要です。オンライ セールスは、コロナ禍における一過性のものではありません。チームの進化を促進する手法だと認 することで、事業はより高い再現性を得られるようになるでしょう。
③CRMを使った営業管理
CRM (Customer Relationship Management) は、顧客管理ツールの代名詞です。 CRMといえ ばSalesforceが有名ですが、その他にも多くの企業がさまざまなサービスを提供しています。 自社 の規模や環境に適したものを使いましょう。
CRMの活用において重要なのは、導入時に経営側がコミットしていること。 そして、慣れるまで 徹底的に使い続けることです。 どのツールであっても、慣れるまでは、当然使いにくさを感じます。 しかし、使いこなすことができれば、顧客の多くの情報が集約され、必要な時に必要な情報がいつで も取り出せるようになります。 CRMは、注力企業の洗い出し、 計画策定、課題抽出など、 多くの用 途で活用が見込める強力な武器となるでしょう。 最初の使いにくさを乗り越え、 使うことが当たり前 になるまで慣らしていくことが大切です。
これまで勘と人間力に頼ってきた営業活動がこのような形で見える化されると、現場では、有効な
商談に的を絞って、優先順位の高い営業活動に専念できるようになります。
特に法人営業の場合は、顧客側の予算化のタイミングによって購買が決まることがほとんどです。 客観的な事実に基づいて対応の傾斜をつけることは、合理的な判断だと言えるでしょう。 また、 デー タを蓄積することで、営業活動に有用な情報を営業チームへ適切に渡すことができます。その情報は、 営業活動の前工程であるマーケティング活動によって取得することが可能なのです。
現在では、一般に公開されている企業データベースの情報を、自社のマーケティング活動から得た データに紐付けられるようになっています。 このような活動をABM(アカウントベースドマーケティ ング)と呼びます。 第三者によって取得整理された情報を活用して、接触した企業をさらに詳細に分 類していくのです。
代表的な企業情報例
●売上高
● 資本金
● 従業員
● 上場区分
●住所
● 決算月
● 設立年月日
これら①〜③のように、マーケティング活動および営業活動をデータに基づいて適切な形に整え 経営にフィードバックする。そして、経営陣はそれらの情報に基づいて迅速な経営判断を行う。これ が、これからの経営における基本的な意思決定の流れとなっていくでしょう。
参考として、下記のツール環境を次回で紹介します。
例:ツール活用
経営とマーケティングを接続するということは、単にマーケティング活動を可視化することだけで はありません。 経営に求められることは意思決定です。 その意思決定に資する情報を手にして、初 止めて経営と接続されるのです。
もちろん全てを経営者自身が確認できるレベルにまで環境を作り込む必要はありません。とはいえ。 会社として、担当セクションへ問い合わせた時には即座に情報が出てくる程度の管理は、これからの 時代、必要となってくるでしょう。
本項では、いくつかの方法を紹介しましたが、共通して言えるポイントは、 施策の結果を検証可能 なレベルまで落とし込むこと、そして結果をデータで検証する体制を作ることです。
迅速な意思決定は、事実に基づいた情報によってのみ行うことが可能になります。 比較的デジタル 化が進んでいるマーケティング活動だけを指標で判断するのではなく、営業活動まで含めて見える化 することで、初めて経営と接続したマーケティング活動が実現されるのです。
顧客を定義する
BtoBマーケティングにおいて、「顧客の定義」 は非常に重要な取り組みです。 なぜなら、顧客像が 明確になるとその後のコミュニケーション設計が容易となり、 再現性の高いマーケティング活動が実 現できるからです。
本記事におけるBtoBマーケティングとは、
“セールス活動に資するリードの開拓、接触、コミュニケーション、受け渡し”
を意味します。つまり、マーケティング組織が作り出したリードを、営業組織へ再現性高く受け渡し 続けることが重要なミッションです。
その際、獲得するリードにばらつきがあり、都度、営業マンによってスクリーニング(ふるい分け) の手間がかかる状態では、トータルの費用対効果が悪くなってしまいます。そうならないためにも、 顧客像を明確にし、提供するサービスに高い関心をもってもらえるように適切なコミュニケーション をする必要があるのです。
本項では、 「顧客の定義」について順を追って解説していきます。
顧客の定義とは
まずは、顧客を定義する上で頻出する言葉を次にまとめました。 ぜひ覚えておいてください。
顧客: 皆様が提供するサービスを利用する人・組織
既存顧客: すでに取引のある人・組織
新規顧客: 新たに獲得する人・組織
要素: 顧客のもつ特徴をまとめたもの
セグメント: 要素を組み合わせたもの
顧客課題: 顧客が取り組みたいこと、 解決したいこと
ターゲット:セグメントと顧客課題を組み合わせて導き出した群
ペルソナ: ターゲットの中にいる個を表した架空の人格
“誰” の“何”を“どのように”シンプルメソッド: 弊社が独自に活用している、顧客理解のためのメ ソッド。 顧客は誰か、何を課題としているのか、それはどのように解決できるのか (サービス提供者が)、を明確化したもの
それぞれすると次のような関係になります。
多くの企業において、顧客が存在していないことは稀です。なぜなら企業が存在する以上、これま での営業活動を通じて実際に事業を拡大してきているからです。
そこで、マーケティング活動を始めるうえで、まずはこの既存の顧客を理解することをおすすめし ます。 これまで営業組織内で蓄積してきた顧客情報を会社の資産と捉え、すでに取引のある顧客を通 じて顧客理解を深めていきましょう。
顧客がどのような課題をもっているのか、それらには共通するものがあるのか、 あるとしたらどの ようなことかなどを言語化し、 要素整理することは、顧客理解にとても役立ちます。
一方、既存顧客ではなく、新たに顧客を定義する必要がある場合は、新規事業を立ち上げたり、新 たに販路を拡大して事業規模拡大を狙ったりするケースが考えられます。 この場合においては、既存 客は存在せず、そもそもどのようなターゲットがその事業の顧客になり得るかを模索するフェーズ になります。
このように、顧客は大きく既存顧客と新規顧客に分類できるのです。
顧客定義のためのステップ
ここからは、顧客像をより鮮明に描くためのステップを紹介していきます。
解像度を上げるシンプルメソッド「誰の何をどのように」
まずは大まかにでも顧客像をイメージするための整理を行います。 その際におすすめなのが、前述 “誰の”、”何を”、”どのように”」と、顧客課題、解決策をセットで整理する方法です。
誰の:実在する顧客、もしくはペルソナ
何を:顧客が感じている課題について
どのように:その課題をどのような手段で解決するのか
あくまで顧客の定義なのに解決策まで必要なのか? と疑問に思うかもしれません。 しかし、マー ケティング活動において、 解決策の提示は大事なコミュニケーション要素となるため、 必ずセットで 考えてください。 非常にシンプルですが、これらを書き出すだけで顧客とサービスの関係がとても明快になります。
ご参考までに、次のように定義しています。
誰の:既存の営業主体の組織から、マーケティングを主体とした組織変革を行うことを決めた大手企業の事業責任者
何を: マーケティングの必要性を感じており実行したいが、 人材も経験も不足している
どのように:マーケティングの戦略立案から実行するためのツール、および人材へのトレーニングをセットにしたSaaSサービスの提供
このような形で、顧客は誰であり、一体どのような課題もしくは問題に直面しているのか? そし してサービス提供者である我々はそれらをどのように解決に導くのかをセットで考え、整理していきま す。この際、既存顧客が実在すると具体性が増すので、よりイメージしやすくなります。
もし既存顧客が実在しない場合には、架空の「ペルソナ」を作ることによって、これらを進めてい きます。この「ペルソナ」について次に説明します。
ターゲットとペルソナについて
マーケティングを行う上で、コミュニケーションを図る対象を「ターゲット」や「ペルソナ」と呼び ます。BtoCの場合においては個人のペルソナが重要となり、BtoBの場合にはペルソナが重要 になります。
一般的なターゲットとペルソナの違い
ターゲットとは、自社のサービスに合致するお客様を指し、主に、年代、性別、既婚未婚、職業、年収な どのスペックで語られます。 ユーザーを似たようなグループに分類(セグメンテーション)することで整理を いたい見込み客へアプローチしやすくなる目的で設定します。 一方ベルソナは、ターゲットの解 をより細に設定し、架空の人物像として設定したものをいいます。
BtoB BtoCと異なるのは、BtoBの商品は一個人の都合だけで買われるものではないという点で す。 多くのBtoB企業において、情報収集をする担当者と、最終的な意思決定を下す組織 決裁者)が 購買行動に関わります。 つまり、BtoBの場合は、個人と企業、両方の属性を考慮してはじめて を知ることになるのです。
そのため、BtoBのペルソナ設定では、 「組織のペルソナ」 と 「担当者のペルソナ」の2種類が必要と なります。自社の商品を届けるべき組織を捉え、その組織に属する決済フローをイメージしたうえで 担当者ペルソナをイメージすると、より適切なマーケティング施策を打つことができます。
「組織ペルソナ」と「担当者ペルソナ」の関係性
BtoBの消費行動においては「個人」よりも「組織」の事情や課題に基づいて判断されるケースが圧倒的に多 くあります。 従って、最初に定義するべきは「組織ペルソナ」。 その上で、 組織で商品を決定するフロー上に 「いる「担当者」のペルソナを明らかにしていきます。
顧客を知る
顧客に直接ヒアリングする
冒頭の図で既存顧客と新規顧客を分けていましたが、 既存顧客がいるビジネスにおいて、直接顧客 にヒアリングをすることは、 顧客を知るうえで重要です。 机上で考えるだけではなく、 直接対話する ことで多くのヒントが手に入ります。
前述のとおり、BtoBにおける購買者は、個人ではなく組織(決裁者) となります。 まずは対象とな る組織に注目してヒアリングし、仮説を立てましょう。 マーケティング活動をするうえで、ヒアリン グを通じて聞いておきたいことを次にいくつか列挙します。
●検討を開始したきっかけは何か?
●どのような課題を当初持っていたのか?
●同時に検討していたサービスはあるか、それはどこか? ●課題を言語化するなら何か、もしくは当初何を調べていたか?
●出会いのきっかけとなった場所はどこか?
●自社を選んでくれた理由は何か?
●当初の課題は解決したか、 解決に向かっているか?
もちろんその顧客との関係性によってどこまでヒアリングできるかは変わりますが、可能な限り まで確認することで、顧客像はより鮮明になります。
実際に弊社でも、オンラインツールなどを活用して、既存顧客へのヒアリングを行います。 オンラ インツールが有効な点は、ヒアリングを通じて顧客の解像度が上がるのはもちろんのこと、録画機能 を使うことでヒアリングに参加していないメンバーも含め、チームメンバー全員で顧客の実像を共有 できます。
顧客の声に耳を傾けることは、実は顧客自身にとっても喜ばしいことです。 あまり双方の負担にな らない範囲で、是非挑戦してみてください。
プレセールスやトライアルを行う
もし営業チームとの連携が可能であれば、ターゲットになり得る企業に対してプレセールスや無償 でのトライアルを行ってみるのも、顧客解像度を上げるうえでは有効です。 この場合、実際に売り込 むのではなく、検証したいテーマについて詳しく掘り下げる、あるいは、予定しているプランや価格 について意見をもらうことを中心とします。
弊社でも、実際の商品ができていない段階でプロトタイプを見せる。 半製品の状態で利用してもらうなどして、予定しているサービスが顧客の課題解決につながるかを事前に検証することがあります。
これらの手段をうまく組み合わせて情報を集め、最終的に組織ベルソナを固めてみてください。
担当者ペルソナを明確にする
組織ペルソナができただけでは、まだ完成ではありません。 次に担当者ペルソナを作成していきま す。 前述の通り、 BtoBの場合は組織ペルソナと担当者ペルソナが存在するためです(実際には、 ヒアリングの過程で組織ペルソナと担当者ペルソナが同時にでき上がることも多々あります)。
組織内の全メンバーを対象としたサービスならいざ知らず、多くのサービスは、組織内の特定の部署もしくは特定の人を対象としているはずです。 顧客の中のどの階層、部署、 人がターゲットとなるのかまで、明確にする必要があります。
経営コンサルティングなどの商材の導入をオペレーション層が判断するとは考えにくく、また、現 場のオペレーターの効率を上げる製品について経営層にアプローチするのも、実情とかけ離れたコ ミュニケーションとなってしまうでしょう。
例えば、次の項目を埋めていくことで、担当者ペルソナの解像度は上がっていきます。
●商材は誰向けなのか (経営層 ミドル層、オペレーション層) ?
●どの部署が主に使うのか?
●判断はどこで、使うのはどこか?
●単価はどれくらいか?
●想定される利用人数は何人なのか?
●組織運営における新しい概念か? それとも、既存のものを置き換えるものか?
これらが掛け合わさって、はじめて担当者ペルソナが明確になってきます。
前述した既存顧客へのヒアリングによって浮き彫りになった顧客、もしくは想定した架空のベル ソナ、これらがマーケティングコミュニケーションの対象となります。 言語化や、要素分解は非常に 骨の折れる作業ではありますが、定義し切ることができれば得られる恩恵は大きいです。 あきらめず に取り組んでみてください。
要素を洗い出す
ご紹介したさまざまな形で顧客や顧客になり得る人達と接触し、自社が提供するサービスのマーケ ティング対象であることが確認できたら、次は相手のもつ「要素」を洗い出します。
ターゲットの例(記入サンプル)
今の時代、会社名さえ分かれば様々な情報が公に入手できるデータベースがあります。 また、その ようなデータベース以外にも、何らかの人的ネットワークを駆使して入手できるものもあるでしょう。 そのような情報を駆使しながら、 要素整理を行います。
このときに注意が必要なのは、具体的な顧客像をイメージしながらも、普遍的な要素に変換して整 理するということです。繰り返しとなりますが、マーケティング活動には再現性が重要です。 その際、 設定したペルソナと同様の属性をもつ企業がどれだけいるのかが、 再現性を生み出す鍵となります。
類似した会社をリストアップする
ペルソナが固まり、要素の抽出が完了したら、次に類似した会社を探していきます。その際に取り 組むのは、「セグメント」という作業です。 セグメントとは、特定の条件や属性で企業や顧客をまとめ る行為のことです。 そして、セグメントを通じて導き出した群を本書では「ターゲット」と定義して います。
セグメントのサンプル
・会社名
・住所
・設立日 (年)
・従業員数
・売上高
・利益 営業利益 経常利益
・決算月
・IR
・PR
・業種
・業界特性
・業界課題
・業界トレンド
・取引の有無(部署別)
・個社ニーズ
・個祉課題 etc
当然のことながらセグメント条件が多ければ多いほど、 対象となるターゲットは減っていきます。 一方で、その分、狙うターゲットに対してメッセージが届きやすくなる可能性が高まります。
例えば、車を例に挙げると、 ファミリー向けの車種の場合は、 車中の家族団らんの姿やキャンプ、 買い物などのシーンを訴求することで、誰向けの商品なのかが明確になります。 また、 走りを楽しむ ような車種の場合は、多くの人を乗せることを目的としていないため、ドライバー中心の映像や車が 自然を走り抜けるシーンなどで商品を訴求します。
このように、商品やサービスが解決するターゲットが決まれば、自ずとメッセージの方向性は固ま ります。 繰り返しとなりますが、条件を厳しくすればするほどメッセージは尖りますが、その分、 定の層にしか届かないものになるため、これらの条件は全体の戦略によって決めることが重要です。
ニーズの一致のみでは成立しない BtoB商材
ここまででも少し触れていたBtoBの特徴について、改めて補足説明していきます。 BtoBの商材は、 BtoCのような個人の欲求によってニーズが生まれるものではありません。 いわゆる“衝動買い”は起 こりにくく、組織のルールや決済者の意思決定によって最終的に購入が決定されます。
BtoB BtoCの違い
また、仮にニーズが一致したとしても、すぐには導入まで至らないケースも多々あります。 それは その組織がもつ予算化と課題解決を実行に移すタイミングが関係しています。
図は顧客の意識を4象限に分けたものです。 「必要性と欲求がともに高いいますぐ客から狙うべき である」というマーケティングの有名な考え方です。
BtoBの場合、縦軸を欲求よりも「機能」として考えるとよいでしょう。それを図に反映すると以下 のような形となります。
いますぐ客:ニーズ (課題)が明確であり、解決策に求める機能が一致している場合
おなやみ客:ニーズは顕在化しているが、解決策に何を求めるのかが不明瞭な場合
そのうち客:具体的な解決策(手法など)に関心はあるが、ニーズが組織内でまとまっていない場合。
もしくはニーズもある程度顕在化し、解決策の目星もついているものの予算がない場合
まだまだ客:ニーズが潜在的なため、求める解決策にも関心が薄い
これらに加えて予算化されているか、予算化の時期がいつなのかというタイミングの問題が重なっ て、初めて採択の機会を得るのです。ターゲットもペルソナも解決策も明確で一致したとしても、最 終的にタイミングが合わないために商談が見送られることも、BtoBの場合では頻繁に起こります。
これまで、そのようなケースでは、営業がある種属人的に管理してタイミングを見計って再度提案 「することが多く見られました。 しかし、こういう場面こそ、マーケティング活動が役立つときです。 なぜなら、見送られた商談は継続的にコミュニケーションする先として管理され、しかるべきタイミリングで新たに商談が開始できるように、適切なタイミングで施策実行するための仕組みが作られるからです。
改めて、冒頭で紹介した図を確認してみましょう。
顧客といっても、状況や状態、課題と解決策との相性によってさまざまに分類されることがわかります。顧客像が明確になれば、その後のマーケティングコミュニケーションは、間違いなく円滑にな るのです。
自社の事業が解決できる顧客はどのような企業なのかを見極め、ぜひ機会を作って多くの企業にコンタクトしてみてください。必ずや、マーケティングコミュニケーションを考えるうえでの材料が見つかるはずです。
強みを知る
ビジネスにおける強みとは
この章では自社における「強み」について解説していきます。 唐突ですが、「自社の強みは何ですか?」 と聞かれたら、一言で答えられますか? 改めて考えてみると、なかなか難しいのではないでしょう か。そもそも、ビジネスにおける強みについて誤解している人が多いようです。 その誤解とは、個人 この強みとビジネスにおける組織の強みを混同しているということです。
個人の強み: リーダーシップ論理性、コミュニケーション能力、 語学力など
ビジネスの強み: 商品の品質、商品開発力、デリバリーの速さ、デザイン性など
このように個人の強みとは、その人自身がもっている特徴を表すものであり、ビジネスにおける強 みは「組織の資産やケイパビリティを使って顧客や社会の課題を解決できるのか」で表されるもので す。そのうえで、競合他社と比較しても相対的に優れており、ビジネスシーンでも実際に選ばれることが多い状態が、「強みがある」 状態だと言えるでしょう。
個人の場合、個人のユニークさを尊重し、他者とは比較しないことも大切にされる時代です。 しかし、 ビジネスにおいては、会社を存続させ、そのために利益を追求することが求められます。 ユニークか どうかではなく、その強みが顧客の課題解決につながるのか、BtoBビジネスであれば仕事をするパー トナーとして顧客が目指す目的が果たされるのかが重要な強みと言えるのです。
マーケティングにおける強みとは
では次に、マーケティングにおける強みとは、何でしょうか。 一言で言い表すと、前述した「顧客 の課題を解決できる力を的確に表現できること」だと考えます。 ビジネスにおける強みが顧客の課題 解決力である以上、狙うターゲットに対して「私たちはあなたの課題を解決する力がありますよ」と いうコミュニケーションを仕掛け、興味関心を醸成することがマーケティング活動には求められるの です。
本書におけるBtoBマーケティングとは、 「セールス活動に資するリードの開拓、接触、コミュニケー 「ション、受け渡し」を意味します。 マーケティング組織が作り出したリードを、営業組織へ再現性高 受け渡し続けることが重要なミッションです。 自社の提供する製品やサービスを見たとき、顧客の頭の中で現在抱えている課題の解決に結びつくことにより、見込み顧客からの問い合わせが発生しま す。 強みと顧客の課題解決は対の関係になっている必要があるのです。
強みは顧客がいて成立する
では、さらに深掘りして、 強みと顧客の課題をどのように結びつけるのかを考えていきましょう。 その前に、自社の強みを改めて整理することが必要です。 そちらから着手したほうが、課題との関係 が鮮明になるためです。
前述のとおり、ビジネスにおける組織の強みとは、 「組織がもっている資産やケイパビリティを使っ て顧客や社会の課題を解決する力」です。 つまり、対象があって、 はじめて強みが定義されるのです。 会社や組織は、ビジネスという手段を通じてある目的を果たすために存在しています。 そしてビジネ スをすること、言い換えると強みを発揮して顧客に選んでもらうことは、相手がいてはじめて成立し ます。つまり、絶対的な力ではなく、 相対的な力であり、顧客にとって必要な力でなければならないのです。
世の中には、残念ながらこの強みを正しく理解せず、一方的な形で顧客に対して表現しているケー スも散見されます。 しかし、それは単なるサービス提供者側のこだわりや勘違いです。 ターゲットで ある顧客からしたら、自分たちには関係のない話になってしまいます。 それを踏まえると、例えばよ 見る次のようなコピーも、 強みという観点では不足していると言えるでしょう。
●キャリア10年のカメラマン多数在籍
●100社以上の導入実績
●御用聞きではない、パートナーとしての誇り
一見すると強みのようにも感じますが、ビジネスにおける強みとは 「顧客の課題を解決する力」で あることを考えると、これらはあくまで参考情報にすぎません。 顧客からすると、どのようにして 自身がもつ課題を解決してくれるのかを知りたいのです。 このように考えると、前の章で解説した “顧客の定義”がいかに重要なのかが改めてわかります。 そもそも顧客が正しく定義できていなければ、 その顧客のもつ課題を到底理解することなどできないのです。
強みを整理する
では、自社のビジネスにおける強みを整理していきましょう。 これについてはさまざまな手法があ りますが、まずはどれだけ会社の特徴を書き出せるかが共通のポイントになります。 [2-2 顧客を定 する] の項でも紹介しましたが、すでにビジネスとしては成立しており、ここからマーケティング 活動をさらに加速していくという場合は、まずは自組織のセールスチームが現状どのような強みを襲 客に対して伝えているのか、実際に使用している営業資料なども参考にしながら整理してみるのも効 率的です。こちらも前項で紹介したとおり、既存顧客にヒアリングすることも、客観的に自社の強み を理解するうえでは非常に有効な手段です。 会社の特徴となるような例を次にいくつか挙げてみま しょう。
資産:拠点数拠点の場所、資金
従業員:キャリア、 有資格者数、 専門性
定量実績:利用者数、提供年数、 在籍人数、保証年数、 誇れる記録
知的財産: 特許 商標
体制:カスタマーサポート体制、 開発体制、 品質保証体制
サービス、プロダクト:機能、デザイン、耐久性、大きさ、価格、保証期間
これらを羅列するだけでも、おおよそ自社の状況が見えてきます。 この強みの整理については、 SWOT や 3Cなど、 ほかにも複数の手法が存在します。 それらの紹介は既存のマーケティングの書籍 やネットメディアの記事にお任せして、ここでは主に、弊社での強みの整理に活用している「バリュー プロポジション」について紹介していきます。
「バリュープロポジション」 を用いた強みの整理
次図のとおり、 バリュープロポジションとは、顧客課題に対して競合がもち合わせていない自社だ がもつ強みのことです。 顧客が求めていないところに自社の価値を提供しても意味はありません。 たとえ顧客課題と自社の提供する価値が一致していたとしても、競合も同様の価値を提供できるので あれば、本質的に強みがあるとは言えないでしょう。
前項で定義した顧客の課題と、自社の特徴として今回洗い出したものとの関係性から、 バリュープロ ポジションの考えに基づいて強みを整理していきます。
全国に拠点がある
顧客にとって、住居の近くにすぐサポートしてもらえる体制が整っていることは重要です。 さらに、 競合他社と比較して、その数や拠点の場所が相対的に優位である場合、それは強みとなる可能性があ ります。
多くの有資格者
顧客が、品質に関する不安やサービス活用における教育や育成についてのサポート体制を強く望ん でいる場合、特定の領域における専門性の担保を客観的に示す有資格者の存在は、強みになり得ます。 この場合も、競合他社が相対的により多くの有資格者を雇用しているときには、必ずしも強みになる とは言えません。「他社と比べてどうなのか」という観点が必要です。
特定のキャリア
創業者や在籍している経営陣が、例えば有名外資系企業でキャリアを形成し、そこで学んだ組織論 をメソッド化している場合、同様の組織を志向したいと考えている企業からすると、それは魅力的に映るでしょう。まだ知名度が低いベンチャー企業のような場合は、とくにその傾向が強くなります。ただしこの場合でも、その元有名外資系企業在籍の社員が競合他社にも同じように在籍していたり、 その会社の中でも相対的により有名な社員であったりすると強みとは言えなくなります。
このように、バリュープロポジションという観点で、自社で洗い出した特徴と、定義した顧客の課 を結びつけることにより、自社の本質的な強みとは何であるかを認識できるようになります。
強みを言葉に変えるここまでに整理された強みを、ターゲット顧客へ届く 「言葉」に正しく変換して伝えることがマー ケティングです。 逆に言うと、このような強みの整理をしないままでは、マーケティング活動は開始 できません。
例えば、弊社ではBtoBマーケティングの手法をメソッド化して保有しています。 ただし、この状 態では単に「メソッドを持っている」という特徴止まりになるため、それを次のように顧客課題と結びつけています。
マーケティング戦略へのローコード(Low-Code)の統合:
急速に変化するビジネスの世界では、迅速な対応と新製品・新サービスの開発が非常に重要となっています。そのため、ローコード(Low-Code)は企業のマーケティング戦略において重要な要素となっています。ローコードはカスタムアプリケーションとソリューションの開発を可能にし、各顧客層のニーズに合わせたトップクラスの体験を提供し、製品/サービスと顧客の間により密なつながりを生み出す手段となります。
ローコード(Low-Code)を活用した顧客体験の最適化:
Low-Codeが私たちと顧客とのやり取り方法を変革する方法の具体例として、カスタムモバイルアプリの開発を挙げることができます。このアプリは顧客の注文と注文の進捗状況の追跡をサポートするために開発されます。Low-Codeを使用することで、迅速にこのアプリを開発し、同時に各顧客や業界の具体的なニーズに合わせてカスタマイズすることが可能です。これにより、顧客体験が向上するだけでなく、私たちと顧客との間により強固な関係が築かれます。Low-Codeの開発を検討している場合は、NALへお問い合わせ ください!