はじめ
近年、大規模言語モデル (LLM) は自然言語処理 (NLP) に革命をもたらし、さまざまな業界にわたる多数のアプリケーションを可能にしました。チャットボットから言語翻訳、コンテンツ生成まで、LLM は期待される多用途性を示しています。これらを使用して、製品の機能を向上させ、業務運営を最適化し、職場の効率を向上させることができます。この記事では、LLM がビジネスにどのようなメリットをもたらすか、実際の活用事例とともに詳しく解説します。
LLM(大規模言語モデル)とは
LLM(大規模言語モデル)は、テキスト分類・生成や感情分析、文章要約、質問応答といったさまざまな自然言語処理(NLP)の分野で使用される深層学習モデルの一種であります。その主な目的は、大量のデータセットとディープラーニング技術を用いて構築され、人間のような自然な言語生成や理解を実現することです。
一方、生成AIは、テキスト・画像・音声などを自律的に生成できるAI技術の総称であり、その生成プロセスはRNN、GAN、Diffusionなど多様に存在します。LLMは生成AIの中でも特に自然言語処理を担うモデルと位置づけられます。つまりLLMは、生成AIと呼ばれるモデルの中の一つなのです。
大規模言語モデルでは、従来の自然言語モデルと比べて「計算量(コンピュータが処理する仕事量)」「データ量(入力された情報量)」「パラメータ数(ディープラーニング技術に特有の係数の集合体)」という3つの要素を巨大化させている点が特徴です。
そのため人間の自然な会話に近い流暢なやり取りや、自然言語のさまざまな処理を高精度で行うことができます。大規模言語モデルの代表例には、OpenAIのGPT-3.5、GPT-4(サービスの例:ChatGPT)が有名ですが、その他にもGoogleのPaLM 2(サービスの例:Bard)やMetaのLLaMa (オープンソースで利用可能)などがあります。
Metaの「LLaMA」とは
米Metaは2023年2月24日、独自の大規模言語モデル(LLM)の「LLaMA」(Large Language Model Meta AI)をリリースすると発表した。研究者向けの限定リリースで、LLM分野の研究推進を支援するよう設計したものとしています。
LLaMAは、大規模インフラを利用できない研究者がLLMを研究できるように、小規模ながら性能の高いモデルとして開発したもの。ラベル付けされていない大量のデータでトレーニングされており、「多様なタスクの微調整に最適」というものです。
研究者は小規模なLLMを研究ツールとして使うことで、例えばチャットbotがどのように偏見や有害性を持つようになるのか、偽情報をでっち上げてしまうのかなどを分析できます。
Metaは、「AIコミュニティ全体が協力し、責任あるAI全般、特に責任あるLLMに関する明確なガイドラインを作成すべきだと考えている。コミュニティがLLaMAを使って何を学び、何を構築するのかを楽しみにしている」と語った。
大規模言語モデル(LLM)の構築
大規模言語モデル(LLM)は、大量のテキストデータで学習した言語モデルを指します。特に「計算量」「データ量」「モデルパラメータ数」を巨大化させることで、より正確で自然なテキスト生成ができるようになりました。
LLMを学習させる際は、主に大量の学習データによる事前学習と微調整であるファインチューニングが繰り返し行われます。事前学習(Pre-Training)では大量のテキストデータを収集し、その単語やフレーズの出現パターンを学習します。一定の学習が終了した言語モデルに対しては、検証用データでテストを行いパラメータの微調整(Fine-Tuning)とモデルの妥当性を判断し、最適化を図るファインチューニングが行われます。
一般的にLLMが文章を出力するまでには、以下の流れを繰り返します。
①トークン化:入力文をトークン(最小単位)に分別し、ベクターに変換
②文脈理解:プロンプト内の各トークンとの関連性を計算
③エンコード:特徴量の抽出
④トークンのデコード:次のトークンを予測
⑤入力文の次のトークンの確率を出力
LLMでは、基本的に上記の手順を繰り返し、文書生成が実行されます。LLMのモデルにより細かな点は異なりますが、多くのLLMでは単語や部分単語をトークンとして扱っています。
LLMの実行可能なタスクや実現できること
LLMはプロンプト(指示を送ること)によって、テキストに関わるタスクを高い精度で実行してくれます。こでは、LLMができること一部を以下にまとめます。
- 文章の作成・要約・校正・言い換え
- 文章の分類
- 質問に対する回答・チャット
- 情報の検索・抽出
- プログラムのコードチェック・バグチェック
- 多言語翻訳
- キーワードの抽出
このように、これまで人間しか行うことができないと思われていたテキストに関わるあらゆる処理が可能になってきています。
文章の要約の例を挙げると、膨大なドキュメントを短時間で読み込まなければならない場合、テキストデータをLLMに与え「この文章を要約してください」と指示を出します。すると、読み込む必要のある文章のうち重要な部分を抽出して提示してくれるため、従来よりも効率的に内容を理解できるようになります。
LLMの活用事例
イメージが浮かびやすいよう、具体的な応用例をご紹介します。LLMの特長ごとに分類しています。
1. 休みなく働かせることができる(物量)
・24時間対応のカスタマーサポート:休みなく顧客の質問に回答し、サポートを提供する
・データモニタリング:絶えずデータの流れを監視し、異常を検知する
・常時更新のニュースサイト:最新情報を絶えず更新し、ユーザーに提供する
2. 自然言語で指示できる(ノーコード)
・市場調査の自動レポート:指定されたキーワードやトピックに関する情報を収集し、レポートとしてまとめる
・企業内ツールのカスタマイズ:特定の業務要件に応じて、既存のツールの機能を変更や拡張する
・教育用コンテンツの生成:指定されたトピックに基づいて、カスタムの教材やクイズを自動生成する
3. ユーザーに個別によりそうことができる(カスタマイズ性)
・パーソナライズされたニュースフィード:ユーザーの興味や閲覧履歴に基づき、個別のニュースや記事を提供する
・オンラインショッピングのレコメンデーション:ユーザーの購入履歴や閲覧履歴から、次に購入する可能性が高い商品を推薦する
・個別指導の教育プラットフォーム:学生の学習進度や弱点に合わせて、カスタムの学習プランや教材を提供する
4. 常識や論理的関係を踏まえた人間のような応答ができる(人間らしさ)
・FAQボットの応答:顧客の質問に人間らしい形での回答を提供し、人間のサポート担当者と同じような体験を実現する
・TRPG(テーブルトークRPG)のゲームマスター:ユーザーの選択に応じて対話し、ストーリーを進行する
・面接トレーニングツール:応募者の回答に対して、適切なフィードバックや質問を行うシミュレーションツール
5. 曖昧な指示からアクションを決めることができる(行動)
・スマートホーム制御:住宅の照明、暖房、セキュリティシステムなどを制御する指示をLLMに与え、それに基づいて各デバイスを操作する
・工場の生産ライン制御:生産状況や在庫情報を元に、生産ラインの速度や稼働機械を最適化するための指示をLLMから受け取る
・自動車の運転支援:運転手からのコマンドや外部のセンサー情報に基づき、車の特定の機能(エアコン、ナビゲーション、音楽再生など)を制御する
・IoTデバイスの遠隔操作:ユーザーのスマートスピーカーでの要求に基づいて、家電、IoTデバイスなどを操作・制御する
このように広範囲の業務やサービスに組み込むことができ、業務効率や利便性を高めることが可能です。
LLMを利用した企業戦略
ビジネス目標も、LLM の構築または微調整が意味があるかどうかを決める重要な要素です。 LLM の機能が企業のより広範な戦略的ビジョンとどのように連携するかを考えてみましょう。こうすることで、中核となるビジネス目標に集中しながら、これらの強力なツールを最大限に活用できます。この記事の冒頭で言及した業界ではいくつかの例が引用されていますが、ここでは LLM が得意とするタスクのいくつかと、さまざまな業界に対するその戦略的影響について説明します。
1. カスタマーサポートの自動化と効率化
LLMの使用は、カスタマーサポート業務を革新的に変革しています。LLM は、提供されたコンテキストに基づいてクエリに回答できるため、さまざまな業界の顧客サービスに役立ちます。たとえば銀行は、LLM を利用したチャットボットを採用して顧客からの問い合わせに 24 時間対応し、顧客に迅速かつ正確な情報を提供し、顧客サービス スタッフの作業負荷を軽減できます。。
また、多くのLLMは多言語対応が可能で、異なる言語を話す顧客へのサポートも効率的に提供できます。そして、顧客の過去の対話履歴や購買履歴を分析し、個人に合わせたサポートを提供することも可能です。
2. コンテンツ生成とマーケティングの強化
マーケティング領域でも、LLMの力を借りることで多くの進展が見られます。LLMは、指定されたプロンプトに基づいてテキストを予測および生成でき、コンテンツの作成を支援するために使用できます。コンテンツ作成やコミュニケーション サービスに携わる業界は、これを活用して生産性と創造性を向上できます。
そして、顧客の嗜好や行動を解析し、ターゲットに合った広告内容を自動生成することが可能です。ソーシャルメディア戦略では、ソーシャルメディア上のトレンドを分析し、最適なタイミングでの投稿やキャンペーンの設計が可能になります。
3. 各外国語の翻訳長文
LLM は、異なる言語間でテキストを翻訳することもできるため、グローバル ビジネスにおけるコミュニケーションの壁を打ち破る可能性があります。この機能は、観光、国際貿易、さまざまな言語地域にまたがって事業を展開する世界的なテクノロジー企業などの業界に利益をもたらします。
4. データ分析とインサイト抽出の最適化
データドリブンな決定を支援するため、LLMの活用が進んでいます。大量のデータを処理し、意味のある可視化を提供することで、企業はより迅速な意思決定が可能になります。
データドリブン経営のメリットをこちらの記事で詳しく説明していますので併せてご覧ください。
LLMは、データの中から重要なパターンやトレンドを自動的に特定し、ビジネス戦略の構築に活用することができます。さらに、過去のデータから未来のトレンドを予測し、供給チェーン管理や販売予測など、さまざまな業務で使用することができます。
LLMを活用したこれらの戦略は、企業が効率的でパーソナライズされたサービスを提供し、競争優位を築く重要な手段となっています。。
5. 人材育成と教育プログラムのサポート
LLMは、人材育成と教育の分野にも革新的な影響を与えています。
LLMは学習者の能力や興味に応じたカスタマイズされた学習プランを生成できます。これにより、各個人のニーズに合わせた効率的な学習が可能になります。複雑なテーマや専門知識を要する分野でも、LLMは容易に理解できる教材やチュートリアルを生成できます。
さらに、オンライン学習プラットフォームと組み合わせることで、学習者に対してリアルタイムでフィードバックを提供し、学習プロセスを強化します。そして、多言語対応のLLMを使用することで、世界中のさまざまな言語を話す学習者にも、均等な教育の機会を提供できます。
6. 製品開発とイノベーションの推進
LLMは、製品開発とイノベーションの推進にも貢献しています。クリエイティブなプロセスを支援するために、LLMは新しいアイデアやコンセプトを提案できます。LLMの解析と提案能力により、企業は新しいテクノロジーの探求や既存製品の改善をより迅速に行えるようになります。
LLMはインターネット上の大量のデータから、市場トレンドや競合分析を迅速に実行し、製品開発の方向性を提供します。そして、技術的なドキュメントや設計ガイドラインを解釈し、エンジニアとデザイナーがプロトタイプを効率的に開発するのを助けることができるでしょう。
7. サプライチェーン管理とロジスティクスの改善
大規模言語モデル(LLM)をサプライチェーン管理とロジスティクスに適用することで、サプライヤーとの通信を自動化し、情報共有の効率を上げ、協力関係を強化します。
8. 法規制とコンプライアンスのモニタリング
法規制とコンプライアンスの分野でも、LLMは非常に役立つツールです。例えば、世界中の異なる司法管轄で変わる法規制の最新情報を効果的に追跡するのをサポートし、企業が常にコンプライアンスを維持できるようにします。多国籍企業の場合、異なる国の法規制を同時に追跡し、必要に応じてその地域の言語で対応することが可能になるでしょう。
また、契約書や企業内ポリシーなどの文書を分析し、法規制や業界基準との整合性を自動でチェックします。LLMによって、法的リスクの評価を自動化し、企業がリスクを最小限に抑えるための対策を策定できるように支援されるでしょう。
LLMのこれらの機能は、特に国際的なビジネスを展開している企業にとって、業務の複雑さを大幅に削減し、戦略的な意思決定を助ける重要な役割を果たすでしょう。
まとめ
大規模言語モデル(LLM)とは、膨大な量のテキストデータをもとに学習を行い、自然言語処理のタスクを自動化する技術です。文章の作成や翻訳、質疑応答などを行う生成系AIの多くは、LLMの仕組みを活用しています。