新規事業を立ち上げるにあたって、 これから自分たちが進めるビジネスがどのような競争力を持っているのか説明することができないと、 社内の東議も出資者から投資においてもうまくいきません。BMGは、ビジネスモデルの弱点を早期に発見し、逆に強みを顧客に提供できる価値としてより高めることで、いっそう強固なビジネスモデルをしていく手法です。
NALは社内でビジネスモデルジェネレーションワークショップを行なっており、今日のテーマは「導入事例で学ぶビジネスモデルのつくり方」についてご説明いたします。
ビジネスの現場で役立つBMG
自分たちのビジネスの優位性や根幹のビジネスモデルを把握し、共有するためにもBMGの活用は有効です。キャンパスに新規事業 のビジネスモデルを落とし込むことで、アドバイザーから意見やア ドバイスをもらう際にも、簡潔に説明できるようになります。 また、あらかじめ想定しうる課題を浮き彫りにしやすくなります。修正点 をキャンパスに反映し、プロトタイプのパターンをいくつか検証しながら、ビジネスモデルをより強固なものにブラッシュアップする ことができます。
成功する企業に共通する要件とは?
近年、画期的なサービスを提供して成功している企業には共通し ていることがあります。それは、商品やサービス自体に特徴があるのではなく、ビジネスモデルに特徴があるということです。 例えば、最近話題のコンビニコーヒーを取り上げれば、 ドリップコーヒー自体は決して新しいものではありませんが、セルフサービスでの提供や、メニューの絞り込みなど、コンビニ利用頻度の高いビジネスパーソンにターゲットすることで、価格での提供が可能となっています。
また、競合他社の既存のビジネスモデルを模倣し追従するだけで広く、新たな視点も求められます。今ではあたりまえになりつつあるソフトウェアのクラウドサービ スもソフトウェアは既存と同等であっても“使った分だけ支払う” という従量課金の考え方が新たな市場とトレンドを生み出しました。 さらに、成功し、成長を続けるためには、証明できるまで待つの ではなく、トライ&エラーを実践し続けることが重要です。 経験を 重ね、ビジネスモデルの修正を重ねることでより迅速に市場に反応 できるようになります。
これからのビジネスパーソンに求められる3つの視点
BMG コアメンバーのアレックスやイヴ博士は、これからのビジ ネスパーソンには、以下のような視点が重要だと語っています。
- 手術を行う外科医のような視点: 外科医のようにどのような時にどのような措置が必要なのかを 考え、今最善だと思うことを迅速に選択し意思決定する。
- 試作品を作るデザイナーのような視点:デザイナーのように、 模倣だけに頼ることなく、 デザイン思考 のテクニックを使い、プロトタイプを作りながら創造していく。
- 実験を行う科学者のような視点:成功に向かって、科学者のように実験と検証を繰り返す。
必要なシーンで、 最適なツールを使いこなす
そのためには、 適切なツールを活用することも重要なのです。 ビ ジネスやビジネスを取り巻く環境が大きく様変わりする今、 ビジネ スモデルを検討し、 ディスカッションするツールも、よりビジネス にフィットするものが必要です。 ですから、 事業計画などを唯一の ツールと決めつけることなく、時として新しいツールを取り入れる ことは非常に有効です。 BMG では、最もよく利用するツールであ るキャンバスに加え、顧客分析のための共感マップや価値提案と顧 客セグメントにフォーカスするVP (バリュープロポジション) キャン バスなどいくつかのツールを活用します。
ツールの活用と同時に、様々なビジネスモデルを参考にしながら、 自分たちに役立つ情報をうまく取り入れていきましょう。本章ではSWOT分析などの手法も取り入れながら、ビジネスモ デルをデザイン思考で考え、実験を行いながら検証し、 またビジネ スモデルを改善するといった一連のプロセスをご紹介していきま す。
自分たちのビジネスをキャンバスに描いてみよう
アイデアや企画概要をキャンバスに落とし込んでいきます。 スピード感を進めることが重要です。
ビジネスモデルとは、 “組織が価値を創造し” “顧客に届ける” ロジックのことを示します。端的に言うと組織が生計を立てるため の仕組みです。そのため、起業を目指している、あるいは新規ビジネスを起案し ている人にとっては、デザインしたビジネスの実効性の検証と課題 のあぶり出しは、最初に行わなければならない最も重要な作業です。 問題があれば直ちに改善していかなければなりません。起業やプロジェクトなどでビジネスモデル・キャンパスを記述す るには、ワークショップなどグループワークでディスカッションしながらキャンバスを作成していくことが有効です。 しかし、必ずしもグループで作業を進められないケースもありま すし、ひとまず個々に検討するフェーズもあるかもしれません。そ こで、まず自分なりにキャンパスを使いながら頭の中で考えているビジネスモデルを可視化してみることから始めましょう。
キャンバスの可視化でビジネスが一目瞭然に
新しい事業やビジネスを始める際、 多くの人はそのアイデアが漠 然としている段階からいろいろな人に相談しながら、少しずつ具体 的なものにしていきます。 しかし、自分の頭の中の考えを合理的に 整理して上手に伝えることができる人はごく少数です。プレゼンテーション用の資料などを使って説明する場合も多いと 思いますが、ビジネスモデルの根幹の課題を把握するためには、構造的な分析を欠かすことはできません。 自分が考えるビジネスモデ ルを一目瞭然で簡潔に伝えられるよう、キャンバスに記述してみる ことは最初のステップとして有効です。実施にキャンパスを作成してみると意外に難しいことに気がつき ます。しかし、何度も記述していくうちに次第に考え方にも慣れて きて簡単になります。また、参考にしたい企業や競合他社のビジネスモデルのキャンバ スを作成することもお勧めします。 キャンバスは、紙と筆記用具さ えあればどこでも描くことができますので、いつでもキャンバスに 落とし込む習慣をつけてみてはいかがでしょうか?
キャンバスは何度も見直し、 修正を繰り返す
アイデアや企画概要をキャンバスに描いたら、アドバイスや顧客 からのヒアリングなどの情報を加味しながら、何度も見直しを行い ます。ですから、キャンバスを丁寧に描くことに注力するのではな く、最初のアイデアをどんどん捨てて、見直しできるような割り切 りを持って取り組むと、スピード感を持って進めることができます。 これならうまくいきそうだと思えるキャンバスが完成したら、 具体 的な戦略に落として実行していきます。ここからは、ビジネスの種となるアイデアをブラッシュアップし ながら、はじめて描くキャンバスをベースにいくつかのツールを使 い3つのキャンパスを描くまでをご紹介していきます。
キャンバスの活用手順
新規ビジネスのプロトタイプを作成してみる
パソコン修理サービスの起業メンバーになったつもりでビジネスについて考えてみましょう。ここからは実際にBMGを導入し、ビジネスの現場でキャンパス の活用を中心にプロトタイプを作成していく過程をご紹介していき ましょう。 ビジネスのテーマは「パソコン修理サービス」 です。 普 さんも起業メンバーになったつもりで一緒に考えてみてください。
ビジネス概要
ソフトウェアの人材派遣会社を経営する私たちは、中小企業 に営業に行くたびに、パソコンのトラブルに関する相談を受けてい ました。もともと私たち自身も技術者出身であったこともあり、様々 な相談に乗っている経験から、パソコンの修理や故障対応のビジネ スを始めたいと考えました。早速、自分のビジネスをデザインするためにキャンパスを作成し ようと考えます。 皆さんも一緒にビジネスモデルのデザインプロセ スを体験していきましょう。
顧客企業の背景
新規ビジネスのアイデアを整理する
アイデア整理シートと顧客ニーズの分析でビジネスについてさらに深く考えます。
キャンバスを書きこなすには、描く練習をたくさんするのが一番 ですが、実ビジネスのデザインを行うには、準備が必要です。 いき なりキャンバスを作成する前に、ぼんやりとしたアイデアを整理し、 ディスカッションすることによって、いくつもの方向性や戦略をあらかじめ揉んでおくことも必要です。 今回は、筆者が企業研修を行う際に使用するフォーマットを使っ てアイデアを整理してみましょう。
シートに書き出してアイデアを整理
まず、検討したいビジネスのテーマやポイントになりそうなキーワードなどを、 アイデア整理シートに記載していきます。 はじめは、いろいろなアイデアを数多く出すことも必要です。 想 定している製品やサービスにおいて、重要になる要素を書き出してみましょう。 いくつも書き出してみた中で、 主な要素をシートに記述するか付紙で張り付けておきます。 さらに、よりキーになると思う要素である訪問対応や緊急対応、さらにいつでも受付できるように24時間受付などにはマーク (ここでは「★」) をつけておきます。
顧客セグメントを挙げて優先順位付け
次に、想定し得る顧客セグメントとそのセグメントに対する価値提案を記載していきます。
ここでは、いくつかの顧客セグメントを挙げてみたあと、優先度 の高い顧客セグメントから書いていきます。 “優先度の高い” とい うのは、売り上げが最も大きくなるだろうと想定する顧客順や最初 にシェアをとりたいセグメントなど、 ビジネスモデルにおいて初 めに攻略したい顧客順に書いておきます。
行動パターンなどで顧客のバリエーションを列挙
顧客セグメントがまとめにくい場合は、ニーズ別の顧客のバリ エーションを記載していきます。 自分が顧客だった時の経験やいく つか相談を受けた際の顧客をイメージしながら、顧客のパターンを いくつか考え、 それを顧客セグメントとして想定しながら記述しま す。どのようなニーズがあるか、顧客の行動パターンでまとめてみる と分かりやすくなるかもしれません。 最近のマーケティングでは、 行動や趣味などの特徴で顧客コミュニティをまとめることが多く なっています。 行動パターンが見つけにくい場合は、20代OL、 企 業の管理職などの属性を顧客セグメントに記述しても構いません。
顧客にもたらす価値でニーズを明確化
そして、想定し得る顧客セグメントに対する価値提案を記載して いきます。 価値提案とは、 自分たちのビジネスが顧客にもたらす価 値です。 顧客にとってどのようなバリューがあるのか、また顧客が 自分たちの何にお金を払おうとしてくれるのかを考えていきます。顧客セグメントごとに異なる価値提案であることが多いのですが、もちろん同じ要素が含まれていても構いません。どのようなニーズの違いがあるのかを見極めるために整理します ので、異なる価値提案をざっくりまとめておいたほうが、顧客セグメントごとのニーズに違いを明確化することができます。
新規ビジネスの課題を分析する
まずは大まかに現状のリソースで対応できるのか、不足している要素は何か検討してみましょう。 次に、ビジネスを実施するうえでの確認事項を検討していきます。 なるべく時間をかけずにスモールスタートで、検証していきたいの で、現状のリソース、最小限の投資や活動で実施できるかどうか、大まかで大丈夫ですので、 考えておきましょう。 あくまでキャンパスでデザインする前準備ですので、デザインの ラフを描くイメージで、できそうなところから埋めてみましょう。
課題分析 ①: 新規調達しなければならないもの は何か
ビジネスを実行するにあたって、 必要不可欠な新規調達しなけれ ばならない項目を挙げていきます。 今あるもので流用できる商品やシステムなどのリソースを自社・他社問わず、 列挙しておきます。今回は、修理に必要なハードウェアだけでなく、修理のための人材というソフトリソースも準備しなければいけませんので、これを 新規調達の欄の一番に挙げておきます。 一方、新規調達しなければならないもので、それを実現する対応策が考えられるものを記載しておきます。 人材については、社内の技術者にパソコン整備士の資格を取得させることで、現状の人材を活かして早急に養成します。機材やツールなど新規で購入する必要があるものは、予算を組み、 購入することを想定します。また、今ある資産で流用できるものをピックアップしていきます。
今回、営業先としてアプローチする顧客リストは、既存のものが大 いに活用できると判断し、サービス開始時は、大きな広告宣伝を行 わずに、既存のリレーションをハウスリストとして活用しようと想 定しました。
課題分析 ②:問題点や足りていない要素は何か
このビジネスを推進するうえでの課題や問題点を記載しておきま す。それらに対して、対応策や検討事項も記載しておきます。また、 不足している要素を列挙してください。 それぞれ、考えられる代替 案などもあれば記載します。今回は、社内の技術者を教育して、資格を取得させるという考え ですが、現状では修理の経験者のノウハウが不足しています。 経験 豊富な技術者のノウハウを社内で共有することで、技術レベルを迅 速に向上させたいので、該当する技術者を早急に採用して社内に技 術移転させ、ノウハウを蓄積させてはどうかと考えました。また、新たなサービス分野における認知度が圧倒的に足りていま せん。既存ビジネスにおいても小規模なBtoB ビジネスだったため、 会社自体の認知度も低いと想定しています。そこで、既存の顧客先企業を中心に個別営業による口コミ、ネットでの告知や既存リストへのメールマガジン発行など、あくまでス モールスタートで市場の反応を見ることにします。
ファーストキャンバスを描く
ここまででアイデアを整理した内容を頭に入れて、早速キャンパ スを作成していきましょう。模造紙にキャンパスの枠組みを描いた ら、9つのブロックに埋めるべき要素を付箋紙で書いていきます。順番は、すでに頭に入っていますか? 確認しながら進めましょう。
- 顧客セグメント: 情報システム部門やパソコン保守発注窓口のあるような規模の企業は顧客として考えにくいため、中小企業や SOHOなどをメインターゲットと考えました。 また、自宅のパソ コンでトラブルにあったビジネスパーソン、 ITリテラシーの低い 高齢者なども顧客セグメントに入れました。
- 価値提案 それぞれの顧客セグメントに対応するニーズを書き出します。特徴的な価値提案に絞ることで、より各顧客セグメント への価値を明確にしておきます。
- チャネル: 電話受付から顧客への出張訪問を行いますので、電話と訪問先オフィスを主なチャネルとしました。また、昨今ではホームページが告知媒体としても窓口媒体としても必要不可欠です。
- 顧客との関係 24時間の電話対応と、より迅速な訪問と、対面 によるアドバイスで顧客の不安を取り除くことが最も重要であると 考えました。
- 収入の流れ: 1回あたりの訪問に対する基本料金として、出張費 を一律に請求します。トラブル診断は1台あたり3,000円、さらに修 理や部品交換の必要に応じて見積もりを行います。
- 主なリソース:そもそも修理経験のノウハウや故障を診断する 知識は必須になります。 また、これらを持っている人材や24時間 受け付けるための体制が必要です。
- 主な活動: 出張訪問がこのビジネスの特徴のひとつなので、訪問は不可欠です。また、故障診断や修理を行うために経験のある技 術者が必要なので、資格の取得と人材の確保なども重要となります。また、教育は継続的に必要です。もちろん、宣伝なども必要なので すが、スモールスタートなのではじめは広告費などの代わりに既存 の顧客を中心にした営業活動を想定しています。
- キーパートナー:はじめに経験値のある人材を採用し、ビジネスを軌道に乗せることが先決なので、信頼できる人材エージェントとアライアンスを組んで運用していくことにしました。 ⑨ コスト構造: 修理経験者や24時間対応スタッフに対する人件費、 故障時の修理備品やツール、資格取得費用などを最も大きな支出と想定しました。
共感マップを使ってキャンパスに改善を加える
共感マップとVPキャンパスを使って顧客セグメントと価値提案を見極めていきます。
共感マップで顧客を具体的にイメージする
キャンバスに顧客セグメントを書き入れたものの、本当にター ゲットにすべき顧客セグメントかどうか不安な場合は、想定してい る顧客セグメントの中で最も典型的だと思われる顧客を具体的にイ メージしていきます。 ペルソナマーケティングでも固有名詞の顧客 をイメージしていきますが、自分たちで顧客が経験するプロセスを 把握することは非常に重要です。
良いビジネスモデルのデザインに、 顧客視点が欠かせないことは 言うまでもありません。 顧客から様々な意見や感想、 商品やサービ スに関する改良点などを聞くことも非常に重要です。 しかし、顧客 に「どんな商品やサービスが欲しいですか?」と尋ねて、いいアイ デアが簡単に聞き出せることはまずありません。ビジネスにイノベーションを起こすためには、顧客のインサイト を深く理解し、いち早く市場のニーズを顕在化することが重要です。 顧客のインサイトとは、消費者の行動や態度の奥底にある、ときに は本人も意識していない本音の部分を見抜くことです。 消費者イン サイトなどとも呼ばれ、 購買時の心のスイッチに大きく関与してい ることが広く知られています。 ホンネを見つけ出すことで、それを とらえる新商品開発やコミュニケーション企画に役立てる手法とし て有効です。そのためにBMGでは、共感マップを使ったプレーン ストーミングを紹介しています。
ヒアリングして顧客イメージを明確化する
ヒアリングによって聞こえてきた顧客の生の声をVPキャンパスに反映させます。
価値提案を見出すための4つのポイント
新たな市場に挑戦することで、新しい価値提案が生まれることもあります。
価値提案を見出すための4つのポイント
- 省く、なくする
- 減らす
- 追加する
- 増やす
ニッチマーケットやブルーオーシャンを見つける
実は、競合が多いと考えられる市場でも、異なる価値を見出すこ とで新たな市場を生み出し成功した事例もたくさんあります。春の市場に参入するのではなく、新たな市場を開拓することを、「ブルーオーシャン」と言います。
レッドオーシャンとブルーオーシャン
レッドオーシャン戦略 | ブルーオーシャン戦略 |
既存の市場空間で競争する | 競争のない市場空間を切り拓く |
競争相手を打ち負かす | 競争を無意味なものにする |
既存の需要を引き寄せる | 新しい需要を掘り起こす |
価値とコストの間にトレードオフ の関係が生まれる | 価値を高めながらコストを押し下 |
差別化、低コスト、どちらかの戦 略を選んで企業活動をすべてそれ に合わせる | 差別化、低コストをともに追求し、 その目的のためにすべての企業活 動を推進する |
新規事業を立ち上げる場合には、事業に対する信頼度や経験が少 ない分、いかにブルーオーシャンを見つけ出せるかが成功の大き な鍵になります。こうしたイノベーションを考える場合は、既存の 競合のビジネスモデル・キャンバスにある種の変化 (震源)を起こ すことで、新たなモデルを考え出す方法などもあります。まったく新しい市場を創造すると考えるとなかなか難しいものすが、業界標準や他社が見逃している点に力を入れると考えると、とっつきやすくなります。自社のキャンバスだけでなく、他社のキャンバスも研究してみることをお勧めします。
新たな市場の定義を創造する
また、見逃している点はない場合でも、既存の市場から視点を変 えて新しい市場の定義を作り出していきます。 例えば、既存の顧客 を分析するのではなく、商品やサービスをまったく使っていない人 に着目し、どうすれば使ってもらえるかを考えていきます。ブルー・オーシャン戦略ではブルーオーシャンを見出すための 6つの視点を提案していますので、参考にするのもいいかもしれま せん。成功した戦略では模倣を防ぐ複数のメカニズムが働いている 場合が多いのですが、いずれはレッドオーシャンになっていくこ ともあります。ビジネスイノベーションのためには、こうしたデザ インプロセスを行うことが必要だと思ってください。
価ブルーオーシャンのための6つの視点
大企業にはできないニッチマーケットは逆に有利
ニッチマーケットに注目することも、特にスタートアップ時点では重要です。ニッチマーケティングは、市場全体ではなく特定の 小さな市場セグメントに焦点を当てたマーケティングのことを言い ますが、大企業や大きな組織では、費用対効果からニッチマーケッ トへのフォーカスはむしろ不利な場合があります。 対して、小規模 な組織やスタートアップのビジネスでは、顧客の声にきめ細やかに 答えることで、特定のニーズに対するシェアや信頼性を大きく向上することも不可能ではありません。 そのため、見逃されていたニー ズや顧客セグメントに注目することで、自分たちが圧倒的に優位に 立てるビジネスモデルを確立し、そのモデルを横展開していく段階 的なアプローチもお勧めです。
特にオンラインでのビジネスでは、販売機会の少ないニッチな商 品でもアイテム数を幅広く取り揃えることで、 総体としての売り上 げを大きくすることがしばしばあります (ロングテール現象)。 ニッ チマーケットを複数開拓することで、 ロングテールで全体の売り上 げを増やす方法はないか考えてみることも必要です。
▶︎ロングテール理論
キャンバスに変更を加えてセカンドキャンバスを描く
共感マップやVPキャンパスで検証メントと の見直しを行ったことで、いくつかの考えられました。そこで、それに基づくキャンパスの改善を行います。
- セグメントをヒアリングやVPキャンバスを使った ディスカッションによって、現状では、1つ目のセグメントで ある 「会社でパソコンが故障したビジネスパーソン」に絞ってみる ことにしました。 もちろん、書いた残り2つのセグメントへの ビジネスをまったく行わないという意味ではなく、自分たちのリ ソースを特定のセグメントに絞り込んだほうがビジネスとして道 に乗りやすいという判断です。 このように特にスタートアップのビ ジネスにおいては、全方位の顧客でなく、特定のセグメントにフォー カスすることで、必要最小限のリソースで最大の収もたらす ように設計することが必要です。
- 絞った顧客セグメントにひびく価値提案絞ったセグメン トに対しても、従来の価値提案は重要であるため、そのまま残し す。しかし、なんでも相談できるとメリットよりもどちらかとい とパソコン業務を少しでも早く再開したいというニーズに対して 代替パソコンなどを提供し、 すぐに作業を行えるようにするサービ スも重要だと考えました。
- チャネル:最初に電話で受付し、顧客への出張訪問を行うオペ レーションは変わらないため、電話や訪問先オフィスを主なチャネ ルとすることは変わりません。ホームページも必要なので、そのま ま残します。さらに追加で、ビジネスパーソンを主な顧客としたた め、口コミを重視し、 Facebookをチャネルとして追加します。
- 顧客との関係:これも、大きく変わらず、 24時間の電話対応と直接迅速に訪問して、 対面による対応を基本に考えます。
- 収入の流れ: 収入の流れも基本料金とトラブル診断の料金をベー スに考えるため変更はありませんが、代替機を貸し出す際にリース 代の収入が追加されます。
- 主なリソース: 修理の経験やノウハウ、故障を診断する知識が 必須であることは変わらないのですが、 知識を属人的にしておくと なかなかノウハウがたまらないと思い、一定のマニュアルとしてま とめ、リソースとしてデータベース化しようと考えました。
- 主な活動:以前から記載していた要素に加え、 主なリソースに 加えた修理経験や診断ノウハウのマニュアル化が必要となったた め、マニュアルの制作とアップデートが付け加えられました。
SWOT分析を使ってビジネス環境の変化に対応する
SWOT分析によって外部環境の変化を取り入れ、キャンパスに反映させていきます。新規ビジネスを推進する場合、ビジネスモデルをデザインするフェーズと実ビジネスの運用フェーズを並行して進めなければなら ないこともあるでしょう。 また、実際に現場で検証していくと思ってもいなかった課題が持ち上がることもあります。その場合は、常にキャンバスに立ち返り、要素を見直したり修正したりして検証していくことが重要です。キャンバスはいったん作 り上げたら完了ではなく、必要に応じて更新することも忘れないでください。
外部環境の影響を分析に取り入れる
BMGの企業研修を行っているとよく「外部環境などの影響は、どのようにキャンパスに反映するのか?」といった質問を受けます。外部環境からの影響やプレッシャーは、キャンパスにも当然影響を 及ぼします。 たとえば、自社だけで完結しないビジネスモデルや主 なパートナーに記載されている協業相手に変化が起こった場合、 キャンパスは大きな影響を受け、変更を余儀なくされます。また、外部環境分析などで競合の状況などと照らし合わせた結果 もキャンパスに反映しなければなりません。 前述のVPキャンパスは、顧客セグメントや価値提案にフォーカスして、より詳細に分析します。 一方で外部環境はキャンバスで完 結しない環境による影響を見ることで、全体の影響を俯瞰します。 外部環境分析のための手法も様々ですが、最も身近なツールのひとつであるSWOT分析を活用し方法をご紹介します。
SWOT分析で外部環境からの影響を確認する
通常のSWOTでは、自分たちの強みや弱み、 市場の機会や逆に 脅威になることなどを列挙していきます。 SWOT分析は、最新のツールではないため、昨今のビジネスモデルを検討するには不十分 かもしれません。しかし、キャンバスと組み合わせて活用すること で、分析しやすく、共通の議論が進めやすいツールとして、とても 有効です。
▶︎攻めと守りを戦略的に思考するSWOT分析
次の戦略・シナリオを考える
ここで使用するSWOTは、この4つの要素のそれぞれ重なり合う項目にとるべき、戦略シナリオを考えるという方法です。たとえば、自分たちに強みがあって、市場からも追い風が期待できる場合はより積極的な攻勢をかけるために必要となるシナリオを 考えていきます。あるいはうまくいっているうちに事業拡大のための施策を考えておくことが必要です。
次に自分たちには、十分な強みの発揮できない弱いところがある、しかし、市場はより好条件が想定されているという場合、新たな市 場での取りこぼしがないよう、段階的な施策などを考えておくこと が求められます。一方、外部要因としての脅威が想定されるケースでは、自分たちに勝算があれば、強みのあるところで差別化する戦略が適しているかもしれません。
最後に、市場の脅威に加え、自分たちも弱みがある場合は、最悪 の事態を回避するため、またはリスクヘッジのために、縮小や撤退 なども検討しなければなりません。このように、 SWOTで導き出したシナリオから優先度の高いも のをキャンバスに反映するためのシナリオとして抽出していきま す。
SWOT分析の結果からシナリオを検討する
SWOTによって環境分析ができたら、それをどう戦略として、どうキャンパスに落とし込むかを考えます。
キャンパスに反映するシナリオを選んでいく
すべてのシナリオをカバーするのは難しいと思いますので、いくつかを選択してキャンパスに反映していきます。優先度の考え方は、ケースによっても異なります。 一般的には 急性や重要度で考えますが、時にはスピード感を重視するうえで、 実施のしやすさで選択することもお勧めしています。 BMGでは、 いかに早くプロトタイプを実証するかがキーポイントです。 いくら 良いシナリオでも数か月あるいは年単位でないとできない要素で は、あまり意味がありません。ここでは、次の2つのシナリオをキャンパスに反映してみましょう。
- シナリオ: サービスメニューを開発する:中小企業では、パソコンや社内の情報システムを管理する人材が いない、もしくは兼務であることが多く、個々の社員から故障や修 理に関する問い合わせをしたり、修理業者を探す場合に大きな手間 がかかっています。 また、製造メーカーが混在しており、それぞれ に手配していたのでは時間やコストに関する標準化も図りにくく、イベントドリブンの対応に苦慮していることが多いのがわかってい ます。また、SOHOなどでも同様に個人に大きな負荷がかかっています。そこで、契約することによって、電話一本でトラブルにすぐに対 応するサービスメニューを開発しました。基本契約料は少額ですが、利用があってもなくても徴収します。これによって固定収入が確保 され、事業の先行投資がしやすくなります。一方、顧客企業はその都度メーカーや修理会社を探すのではなく、いつでも対応できる窓口として社内に告知することで、個々の社員 から直接修理依頼を出すことができるようにします。これは、企業 サイドも社員サイドも 「早急に対応したい」という相互ニーズを満 たすため、大きな価値になります。さらに、個々のビジネスパーソンへ効率よく認知させることができます。
- シナリオ2: サポート対応をパソコン以外にも広げる:うひとつのシナリオは、市場動向の変化によって、パソコン修 理だけに依存し続けた場合のリスクを回避する戦略です。 顧客セグ メントを絞るような差別化も重要ですし、サービス自体でいち早く 差別化しておくことがより重要だと考えました。こうして、2つのシナリオを抽出しましたので、これらをキャンバスの要素として成立するように内容を吟味していきます。
外部環境の影響も考慮したサードキャンバスを描く
キャンバスにさらにひと工夫を加え、法人向けのビジネスにも対応できにしてみましょう。VP キャンパスやSWOTなどにより、自分たちのビジネスを詳細 確認したりでチェックしたりしながら、ブラッシュアップ してみました。実際のビジネスにおいては、これをさらに顧客や市場で検証して いくことが必要なのですが、 ここまでキャンパスを改善してくるプ ロセスを確認していただくことができたと思います。さて、ここでまさに最善と思われるキャンパスが完成しました。 さらに、キャンパスを仕上げるにはもうひと工夫必要です。 キャ コンパスの要素に必要なフロー 関係性の流れを付けてみましょう。
顧客セグメントの変化
今回のキャンパス (サードキャンパス) では、顧客セグメントに新 たにパソコン管理者をもつ企業を追加しました。これは、従来のモ デルが個々のビジネスパーソンであったのに対し、法人向けビジネ スの要素が加わったことになります。 BtoCのビジネスがBtoBのモ デルにも対応するキャンパスになりました。
中でも、コンシューマに比べ、法人は一定のニーズが満たされるため、安定的な収入源としてアプローチしやすいと考えました。義サイクルに多少時間がかかりますが、一度契約してしまえば絶閥 ニーズが見込めるというわけです。また、保険のように故障や障害が起きても起きなくても基本料金 や器量を確保することでより安定的なビジネス基盤を構築できると 考えました。 基本契約料の代わりに都度の出張料金を安くするなど 様々な料金プランの開発も追って必要になりますが、ひとまずこう した考え方でトライアルユーザを獲得してみるのも良いのではない でしょうか。
主なリソース、主な活動が価値提案を支える
主なリソースは、できるだけ属人的なものをまとめてデータベース化したり、マニュアル化したりすれば将来的なビジネスの拡張性 にも大きく役立ちます。また、主な活動は主なリソースを担保し、維持するために重要な 活動や顧客に提供する価値提案を実現するための活動から実行して いきます。すなわち、主なリソースと主な活動が最も重要な価値提 案を支える根源になっているわけです。もちろん、自社だけで対応できない場合はこれをパートナーなどが支援するといった具合です。 キャンバスでは、右半分は顧客向けの表の活動を、左半分はバッ クヤードとも呼べる表の活動を支える内部の活動が把握できること になります。
まとめ
ビジネスモデルデザインにおけるまとめとヒント
ここまで、 フェーズやシチュエーションに応じて、活用できるツー ルやキャンパスの改善方法をご紹介してきました。
- アイデアを整理して、 ファーストキャンバスを描く
- 顧客や価値提案を見直して、セカンドキャンパスを描く
- 外部環境を分析して、サードキャンバスをブラッシュアップ
最終的に目指すべきキャンパスが完成したら、 適切なストーリー として、共有することができるようになります。ストーリーテリングの手法を活用して説明する方法は、次のページを参照してください。実は、このプロセスではバラバラのアイデアをたくさん集め、 今 度はそれを収束させ、さらに俯瞰しながら補正するといった「思考 のズームイン・ズームアウト」を行うことが可能になっていること がわかります。 つまり、3つのフェーズ (段階)を経る中でビジネスモデルをより強固なものにしてきたわけです。
ツールの組み合わせを考える
今回ご紹介したツールを必ずしも現場ですべて活用しなければな らないというわけではありません。自分たちの現場が置かれている状況やフェーズを理解した上で、必要に応じて用いればよいだけです。また、既存のツールで使いやすいものがあったら、組み合わせて 活用することももちろんお勧めします。今回は、比較的多くの方に なじみのあるSWOT分析を例にご紹介しました。使い慣れている ということは、作業が早くできるということです。プロトタイプに 時間をかけないという点で、たいへん有効です。
賞味期限が切れたビジネスモデル
一方、ビジネスモデルを強固にするためにいくつかの改善を加え るだけでなく、実ビジネスの世界では変更を余儀なくされるシチュエーションが時として起こります。
中でも外部環境の変化が大きく影響することは先に述べました。 さらに、残念ながらせっかくうまくいっていたビジネスモデルも、 時間の経過とともに賞味期限切れになってしまうことがあります。 主に市場の動向や新たな規制、さらにテクノロジーの進化などの要 因が挙げられます。たとえば、 典型的なものに製薬業界があります。 開発された新薬も一定の期間を過ぎると特許権の期限が切れて、ジェネリック薬品として他社が製造販売することが可能になりま す。また、音楽業界や出版業界では電子媒体の普及により、配付形 態が大きく変化し、ビジネスモデルの変化を余儀なくされました。
常にビジネスモデルの変化に備えることが必要
また、設備の老朽化や市場の飽和など様々な要因で自分たちのビジネス戦略を見直す必要があります。その場合は、より迅速に戦略の変更を行い競争力を維持しなけれ ばなりません。 そうした場合も、 キャンバスを描き、次にあるべき 姿を共有していきましょう。既存のものをベースに作成していきま すが、新しいキャンパスは別のシートで描き、次世代のモデルとしてどのような意味 意義があるのか、確認していきましょう。ビジネスがうまくいっている間にこそ、次のビジネスモデルの変化に備えておくことが非常に重要だと肝に銘じておいてください。
詳しくはNALまでお問い合わせ ください!