データマネジメントとは
データ利活用を進めるには、データ利活用の環境整 備やビジネスプロセスの標準化、データの品質向上を継続的に維持することが 欠かせません。これらを支える活動の基盤はデータマネジメントとなります。 まず、データマネジメントの定義を見ていきましょう。
データマネジメントとは、データをビジネスに活かせる状態を継続的 に維持・管理するための組織的な活動である。
■データマネジメント定義における3つの要点
データマネジメントの定義を因数分解すると、次の図の3つの要点が見えて きます。
要点①データをビジネスに活かす状態にすること
データを用いて、どのようにビジネスに活かすかは、データマネジメントを データマネジメントの目的が全てデータの利 活用にあると言っても過言ではありません。言い換えれば、そもそも利活用を る様々なデータにおけるビジネス上の優先度と重要度が異なるため、 何もかも 一緒くたに取り扱うべきではありません。 みましょう。マーケティングとは、ひと言でいうと マーケティングを例にとって考えて 「売れる仕組みを作ること」です。世の中に様々な製品やサービスが溢れる今では、顧客に自社の製品・サー ビスを選んでもらうためには、顧客を理解して顧客のニーズを把握することが 欠かせません。顧客データを収集、分析することで、顧客への理解を深められ たら、より効果的なマーケティング施策を企画・実行できます。そのため、近 年、顧客データの活用を主軸としたマーケティングが活発化しており、顧客デー タが重要視される傾向がますます強くなってきています。例えば、顧客の住所・ 年齢、年収、家族構成のような顧客情報や、顧客の購入履歴、Webサイトの アクセスログ、リアルな店舗での行動データから、顧客の表面的な欲求ではな く、顧客自身も自覚していない潜在的なニーズ (つまり、顧客インサイト) を 理解できれば、ヒット商品・サービスが生み出しやすくなります。顧客データ をマーケティング戦略・施策に活かす状態にするために、顧客データを収集、 蓄積、加工、分析する環境の整備、データ品質の担保、個人情報のプライバシー 保護などを包括的に実現するデータマネジメントが欠かせません。
要点② データの状態を維持・管理すること
データマネジメントの世界観から見ると、データは生き物のようなものです。 データは時間の経過とともに、様々な業務とシステム (機械) の中で次から次 へと生成され、様々な目的で処理されたり活用されたりして、最終的に廃棄さ れます。データが生成されてから廃棄されるまでの一連のプロセスは、データ ライフサイクルと言います。我々人間と同様に、データが誕生してから死ぬまで、 つまり、生成→蓄積→処理→活用→廃棄までのステージをたどって自分の一生 を終えます。そのため、データマネジメントは、ある時点のデータだけをターゲッ トに、ピンポイントでの施策を打っておけばよいわけではありません。人間が 幼児期から高齢期まで生涯を通じて学び続けることを大事にしているように、 データの一生涯にわたるデータライフサイクルを通して、データマネジメント の活動を継続的に実施しなければ、ビジネスにもたらす効果が長続きしません。 つまり、データがビジネスに活用されている状態に到達するまでに、一度きり の活動ではなく、PDCA(計画→実行→評価→改善) を繰り返して回しながら、データの価値を徐々に創出していくことが重要です。そのイメージは次の図の同心円のように、データライフサイクル全体 (データの一生涯) を対象としたデータマネジメントの活動を絶えずPDCA で回していくことになります。
データライフサイクル全体を対象とするデータマネジメント
要点③ 組織的な活動が必要であること
企業内では様々なデータの発生元もデータの利用者も様々な部門に分散して いるのが一般的です。それらのステークホルダー (利害関係者) を全社横断で まとめて組織化しなければ、データマネジメントを継続的な活動として成立さ せることができません。データマネジメントが組織化した取り組みである限り、 組織・ヒトがその拠り所となります。従って、データマネジメント活動の成否 を握るのはデータマネジメントの組織設計と言っても過言ではありません。デー タマネジメントの推進にあたって、その推進体制と様々なステークホルダー(経 営層、中間管理職、業務部門・IT部門の現場の社員を含む)の役割を明確に 定義した上で、組織内で合意形成されていくことが欠かせません。データマネ ジメントの組織設計に関しては、第7章 (データマネジメント 組織とヒト層) で詳しく述べますが、データマネジメントを全社横断的で行う必要があるため、 全社レベルで物事を俯瞰できる経営層が果たす役割が極めて重要です。経営層 がデータマネジメントの本質を理解し、データマネジメントに投入する企業資 源(人、モノ、カネなど)を確保するのはもちろんのこと、経営層が自らリー ダーシップを取って、データマネジメントの取り組みを続けなければ、組織の 持続的な成長は実現できません。
データマネジメントとデータ利活用の切り離せない関係
データ利活用とデータマネジメントは関連する言葉として使われており、し ばしば混同されますが、今一度、基本概念からデータ利活用とデータマネジメ ントの関係性を整理しておきたいです。まず、前章で説明したデータ利活用の 定義を振り返ってみましょう。
データ利活用とは、課題の解決を目的とした、データを収集、蓄積、 処理、分析、活用する一連のプロセスのこと。
上記の定義の解像度を現場レベルまで上げると、業務部門の現場では実務担 当者の一人ひとりがデータの意味合いを理解し、自分の業務の中でデータの利 活用を実践しながら、データの価値を課題解決につなげていくことになります。 現場の取り組みを支えるための環境 (システム)、業務プロセス、データ、こ の3点セットを整備しておくのがデータマネジメントの役割です。言い換えれ ば、データ利活用を支える手段として、データマネジメントという活動基盤が 全社・組織レベルに存在するわけです。逆にデータマネジメントのビューから 見ると、必要な環境・業務プロセス・データの3点セットを整備することで、デー タ利活用という上位目的を達成し、最終的にビジネスの価値の創出にもつなが るため、データ利活用とデータマネジメントは切っても切り離せない関係です。
COLUMN
データマネジメントの知識体系 “DMBOK” とは
データマネジメントを体系的に理解する上では外せないのはDMBOKです。 DMBOK は “Data Management Body of Knowledge” の略で、データマ ネジメントに関する知識を体系化したガイドブックです。データマネジメント に取り組むための専門書として、データマネジメントの構成要素を理解するこ とに大いに役立ちます。そのDMBOK では、DAMAホイール図を用いて、11 のデータマネジメントの知識領域を次のように定義しています。
DAMA ホイール図
DMBOKは、プロジェクトマネジメントの領域で普及されているPMBOK (Project Management Body of Knowledge) (プロジェクト管理に関する ノウハウや手法を体系的にまとめたもの)との考え方は似ています。要するに、 データマネジメントという領域に対して、各企業・団体・個人がそれぞれ定義 し、バラバラになっているデータマネジメントの概念や知識、用語を統一する ことで、グローバルでも通じ合えるデファクトスタンダード (事実上の標準) として確立することです。確かに、DMBOKのおかげで、データマネジメン トに関わる実務者の間では、共通言語を使ってデータマネジメントを議論する ことが可能になり、データマネジメントに関わる者同士でのコミュニケーショ
ンが円滑になったと筆者も実感しています。 しかしその一方で、DMBOK の各知識領域の執筆者が異なるため、各章の 内容で同じ論点に対するダブっている記述も見受けられたり、11の知識領域 の網羅性を追求したりするあまりに、それぞれの要点がぼやけているように感 じる部分もあります。また、DMBOKには情報技術などの専門用語が多く登 場しているため、データマネジメントの入門書にしては難解な側面もあります。 本書ではその側面を考慮し、データマネジメントの要点を押さえた上で、専門用語を極力使わずに、DMBOK のエッセンスをかみ砕いて解説するように工夫しています。
データマネジメントの全体像
これからデータマネジメントの全体像という地図を大きく広げて、その全 を俯瞰してみましょう。次の図は、DMBOK のフレームワークをもとに、 者自身がその内容を整理し、様々なプロジェクトで実践してきたデータマネ メントのフレームワークです。
データマネジメント全体は8つの要素によって構成されています。その8 の要素は次の図のように戦略、実行、組織の3階層に分けられます。戦略、実行 組織の3階層の概要は次の図の通りです。
データマネジメントの3階層
データマネジメントの戦略層
戦略層はデータマネジメントフレームワークの最上位の概念として、組織に おけるデータマネジメント全体の目的、戦略、アクションプランを策定します。 データマネジメントという手段を通して、「どういう目的を達成したいか」「ど ういう課題を解決したいか」と問いかけて、そのあるべき姿を言語化するのは データマネジメントの一丁目一番地です。そして、あるべき姿と現在の立ち位 置のギャップはどこにあるのか、そのキャップを埋めるには、いつまでにどう いうアクションを取れればよいのかという道筋をつける必要があります。つま り、ゴール付近の景色、あるべき姿の状態を想像しながら、ゴールから逆算し て道筋を見出していくアプローチとなります。これはスティーブン・R・コヴィー 博士の名著 「7つの習慣」 (キングベアー出版) に書かれている通り、何事も「終 わりを思い描くことから始める」ということです。これはデータマネジメント の戦略を考える際にも応用できる思考法です。
データマネジメントの実行層
実行層は、データガバナンス、データアーキテクチャ、マスタデータ管理、 データ品質管理、メタデータ管理、データセキュリティ、この6つの要素によっ て構成されています。それぞれの構成要素の定義は次の表に示しています。
データマネジメント実行層の6つの構成要素
データマネジメントの組織・ヒト層
組織・ヒト層にはデータマネジメントの実行を担う組織の立ち上げおよび維 持、人材の獲得と育成が含まれています。戦略層、実行層の構成要素を現場レ ベルまで落とし込む主体者は言うまでもなくデータマネジメントの組織とその 組織を構成するヒトです。データマネジメントの戦略層、実行層を支えるため に、どのようにヒトを獲得して育成するのか、どのようにデータドリブンな組 織文化を醸成していくのか、どういった組織構造と体制を作って人を束ねて動 かしていくのか、これらの問いかけはデータマネジメント全体の行方を左右す る重要な論点です。なぜならば、人のもつ知見、熱意、行動力と組織の一体感 がなければ、物事を一歩も前進させることができないからです (第7章で更に 解説していきます)。
データマネジメントでデータ利活用の 課題を紐解く
前章で紹介した現場でよくあるデータ利活用の課題に対して、どのように解 いていくのか、データマネジメントの各構成要素と紐づけて考えれば、その解 決の糸口が見えてきます。典型的なデータ利活用の課題とデータマネジメント の各構成要素との紐づけ関係は次の表の通りです。
データ利活用課題とデータマネジメント構成要素のマトリックス表
上の表の紐づけ関係を見ていただければ分かるように、現実的には多くの課 題は複雑に絡み合っているため、データマネジメントの構成要素と1対1の関 係では簡単に解決の方向性が見出せません。課題が大きすぎて漠然としている 時は、大きな課題から生じる要素を洗い出し、「大きな課題」 から 「小さな課題」 へ小分けにして具体化するアプローチが有効です。データ利活用の課題は多岐 にわたる場合が多いため、その課題解決の入り口で勝敗を分けるのは課題の「要 素分解」です。
具体的に、大きな課題はいくつかの要素に分解した上、データマネジメント の各構成要素から複眼的に課題の真因を特定して、解決策を練り上げる必要が あります。例えば、「データ利活用が広がらない」 といった課題であれば、個々 の事業部が強い権限を持っているゆえに、独自の予算で業務の個別最適化に合 わせたデータ利活用を事業部内部で閉じて進めてきたケースが多いです。それ を要素分解すると、「データマネジメント戦略」 における課題もあれば、今ま で縦割りの組織文化の下で、表裏一体で作られてきたシステムとそのシステム にあるデータがサイロ化されており、全社横串しでデータ活用できないという 「データガバナンス」 と 「組織構造」 の課題も明らかになってくるでしょう。 ここまでデータマネジメント定義、その全体像 (3階層8つの構成要素)、データ利活用の課題とデータマネジメントの紐づけ関係を紹介してきました。「レイヤー1の戦略層」のデータマネジメント戦略は、全体を通して上から「レイヤー 2の実行層」を横串で刺す形になっています。「レイヤー3の組織層」がデータ マネジメント全体の土台として、下から「レイヤー2の実行層」(データガバ ナンス、データアーキテクチャなどの6つの要素)を支えています。次章から。 「レイヤー1」から「レイヤー3」までを順に、データマネジメントの戦略論を 先に述べて、次に実行層の各構成要素をそれぞれ掘り下げていき、最終章にデー タマネジメントの組織・人材論で締めくくるような流れで解説していきます。 では、早速、データマネジメント戦略を見ていきましょう。
まとめ
データマネジメントの重要性は現代のビジネス環境において否定できないものです。データを効果的に理解し活用することは、戦略的な意思決定を強化するだけでなく、企業の発展を形作り推進するのに役立ちます。
このことは、データの収集と厳格な保管だけでなく、ビジネス戦略にデータを処理、分析、活用することにも適用されます。データ管理は、顧客、市場、そして発展の機会について企業がより深く理解するのを支援する核心的な要素です。
同時に、ローコードをデータ管理に活用することで多くの重要な利点がもたらされます。ローコードの柔軟性により、データ管理のためのアプリケーションやツールをより迅速かつ簡単に作成できます。直感的な操作とカスタマイズ可能性により、ローコードはプログラミングに精通していなくてもデータ管理ソリューションを自由に開発することができます。これにより、技術的な知識がないチームも効果的にデータ管理プロセスに参加できるようになります。カスタマイズできるローコードプラットフォームの開発した実績もあり、導入を検討されている際には、ぜひNALへお問合せください!