ITコンサルタントは、仕事の目的や内容がSEとは異なるため、SEとは異なるスキルが求められます。 SEのスキルは、ITが中心ですが、ITコンサルタントのスキルは、経営やマネジメントが中心になります。 ITコンサルタントは、むしろ、顧客の経営層と対等に会話ができないと話になりません。なぜなら、顧客に「〜をすべき」と提案した内容を受け入れるかどうかは経営層が決めるからです。 言いかえれば、顧客の経営層が唸るレベルの提案ができなければ、コンサルフィーはもらえないということです。したがって、 ITコンサルタントには、顧客に経営レベルの提案ができるだけの知識やスキルが必要であり、 ITスキルよりはむしろ、 相手に理解させ導くためのヒューマンスキルのほうが重視されます。
1. 問題解決力
ITコンサルタントに求められるスキルの全体像は、 次表のようになります。次節以降では、とくにITコンサルタントにとって重要なスキルを中心に解説します。
レベル | スキル | 定義 |
◎ | 問題解決力 | 企業が抱える問題を発見、整理、分析し、 解決策を提示する力 |
◎ | 思考ツール活用力 | 思考ツールを使いこなし、 論理的現実的・具体的な提案をする力 |
◎ | IT戦略立案力 | 顧客の経営戦略に基づいてIT活用の方向性を組み立てる力 |
○ | コミュニケーションカ | 顧客の真意を理解し、関係者の利害を調整し、よい方向に導いていく力 |
○ | プロジェクトマネジメント力 | プロジェクトを管理し、リーダーシップを発揮するカ |
○ | 業界知識 | 顧客が属する業界に関する、法規制、商慣習、CSF*、 コア業務、システム体系などの知識 |
○ | 業務知識 | 財務会計、マーケティング、 生産管理、在庫管理、顧客管 理、人事管理などの知識 |
ー | IT知識 | 最新の情報技術に関する知識 |
ー | 最新の情報技術に関する知識 | 開発プロセス、モデリング、 設計手法、品質評価などに関する知識 |
◎:ITコンサルタントにとって特に重要なスキル
○:SEよりも高度なレベルが要求されるスキル
問題解決力とは、企業が抱える問題を発見、 整理、分析し、解決策を提示する力をいい、ITコンサルタントにとって最も重要なスキルです。 また、ITコンサルタントのスキルのなかでも特に個人差が出やすい部分でもあります。 問題解決力を身につけられるかどうかで、一人前のITコン サルタントになれるか、 名ばかりのITコンサルタントで終わるかが決まってきます。
この問題解決力は、 ①問題発見力、 ②論理的思考力、 ③要因分析力から構成されます。
◎問題解決力の3要素◎ | ||
①問題発見力
問題を発見する力 |
②論理的思考力
物事を因果関係に基づいて考える力 |
③要因分析力
問題の真の要因を突き止める力 |
◆ 問題発見力
ITコンサルタントは、顧客企業における問題を解決するため、まず、 起きている問題を発見しなければなりません。もし、問題を間違って認識 すると、それ以降の取り組みがすべて狂ってくるからです。
◆ 論理的思考力
論理的思考力とは、物事を因果関係に基づいて考える力をいいます。 世の中のすべては因果関係で成り立っています。 すべての結果には必ず原因 があり、原因なしに起きる結果はありません。
◆ 要因分析力
「問題を解決する」ということは、すなわち、 問題を起こしている要因を取り除くことです。 もし、起きている問題の要因を間違って認識してしまうと解決の方向性も間違ってしまいます。 逆に、 要因分析が正確にでき れば、解決策の立案はそれほど難しくありません。
要因分析の手法としては、 MECEやロジックツリーなどがあります。
2. 思考ツール活用力
よく誤解されますが、思考力は先天的なものではなく、努力して身につけるものです。つまり、思考力を決めるのは生まれもった才覚ではなく、思考の技術力なのです。「思考が技術である」ということは、道具を使えば思考力を高められるということです。 実際に、 卓越した思考力を発揮する人は例外なく、 思考 ツールを使いこなしています。 思考ツールは、情報を整理し思考をMECE かつ体系的にする道具です。 ITコンサルタントは思考ツールを使いこなすゆえに、顧客よりレベルの高い提案が可能になるのです。
ITコンサルタントの思考ツールはいくつもありますが、ここでは代表 的なものを紹介します。
◆ 企業の内外環境を整理する 「SWOT」
SWOTとは、自社を取り巻く外部環境と内部状況を整理するためのツ ールで、経営戦略の立案で活用します。 SWOT の由来は、社内の強み (Strength)と弱み (Weakness) 社外の機会 (Opportunity) と脅威 (Threat)の頭文字であり、「スウォット」 と読みます。
◆ 外部の潜在的な脅威を洗い出す 「5Forces」
5 Forcesとは、 企業を取り巻く競争環境を、 ① 既存競合先との競争、②新規参入の脅威、 ③ 代替品の脅威、 ④ 買い手の交渉力、 ⑤ 売り手の支配力の5つの要因で表したものです。
◆ マーケティング活動を組み立てる 「4P」
4Pとは、マーケティングミックスを立案する際の切り口であり、製品 (Product)、価格 (Price) 流通経路 (Place) 販売促進 (Promotion) の頭文字をとったものです。 マーケティング戦略を立案する際は、製品、価格、流通経路、販売促進の整合性が重要になります。
◆ 顧客の購買プロセスを分析する 「AISAS」
AISASとは、顧客の購買プロセスを表したもので、 注意 (Attention)、興味 (Interest) 検索 (Search)、 購買 (Action) 情報共有 (Share) の5つの段階の頭文字をとったものです。 購買プロセスをこの5段階に分けて、それぞれの打ち手を適切に組み合わせることにより、顧客を購入まで無理なく誘導することができます。
◆ 企業の競争力を分析する「バリューチェーン」
バリューチェーンとは、企業が顧客価値を生み出すプロセスをモデルで表したものです。 購買物流、製造・オペレーション、出荷物流、マーケティング・販売、サービスの 「主活動」と、全般管理(インフラ)、人材資源管理、技術開発、 調達活動の「支援活動」から構成されています。
バリューチェーンを使ってビジネスプロセスの流れを整理していくことで、競争力の源泉やボトルネックが明確になり、ITで強化すべき箇所が見えてきます。
3. IT戦略立案力
IT戦略とは、経営ビジョンの実現を目的とした情報システム活用の基本的な方針・方策を指します。 IT戦略の立案は、ITコンサルタントのもっとも重要な仕事の1つです。
情報システムの導入は、企業にとって大きな投資であり、経営レベルでは、情報システムが経営ビジョンの実現にどれだけ寄与するか、すなわち「投資対効果」が問題になります。 そのため、情報システム導入についても戦略が必要になり、戦略なき情報システム導入は経費の無駄につながります。 しかし、自社でしっかりとしたIT戦略を立案できる企業はそれほど多くありません。そのため、IT戦略の立案支援がITコンサルタントに は求められています。
では、IT戦略の立案力を身につけるには?
ITコンサルタントは、経営戦略を踏まえたIT戦略を立案するために、顧客の経営目標や経営課題、 ビジネスモデル、 競争優位性、 組織文化などを理解する必要があります。
また、ITによって経営がどう強化されるのかを熟知している必要があります。 経営とITの知識は別々にもっておくだけでは不十分です。なぜなら、重要なのは「経営とITとの関係」だからです。 たとえば、「なぜSFA*が営業成績の向上につながるのか」 や、 「ナレッジマネジメントを導入すると社員の動きが具体的にどう変わるのか」といったことは最低限理解しておかないと、 具体性のあるIT戦略は立案できません。
また、顧客の経営戦略を理解するには、資格の取得や実務経験の積み重ねも重要ですが、普段から色々な経営者と話をする機会をもつことも必要です。本やインターネットで得られる情報は、要約された情報であって生の情報ではありません。 経営は理想通りにいかない場合が多く、経営者の生の声(本音)を何度も聞いていくことにより、理想論ではなく現実的なIT戦略を組み立てる力が養われるのです。
4. コミュニケーションカ
関係者の立場や言い分を交通整理し、全体を一定の方向に導くには、高度なコミュニケーション力が必要です。コミュニケーション力は、性格などの先天的要素によっても左右されますが、それ以上に影響するのが、コミュニケーション技術の有無です。 つまり、コミュニケーション力は、コツを知り、繰り返し訓練すれば誰でも高めることができます。
◆ 共感を得て情報を引き出す 「傾聴力」
傾聴とは、相手の発言に積極的に耳を傾け、共感と重要情報を引き出すことです。 ITコンサルタントの仕事は顧客へのヒアリングから始まりま すが、その際に表面的な情報しか得られなければ、表面的なコンサルティングしかできません。 初期の段階で顧客から重要情報を引き出せるかどうかがコンサルティングの質を大きく左右します。
ITコンサルタントが押さえるべき情報には、 経営課題、事業のCSF*、過去の失敗事例 キーパーソン、社内の力関係などがありますが、こういった重要情報は、 初対面の相手に出したがらないものです。
◆ 相手の真意を見抜く 「理解力」
ITコンサルタントは、事実に基づいて正しく思考しなければなりませ んが、そのためには、ヒアリングにおいて相手の発言を正しく理解するこ とが重要です。
しかし、これは簡単ではありません。なぜなら、 相手が発した言葉が、 相手の真意と同じとは限らないからです。
◆ 問題解決を容易にする 「ファシリテーションカ」
ファシリテーションとは、会議などにおいて関係者の相互理解と合意形 成を促進することです。 会議やディスカッションでは、声が大きな人や立 場が上の人の意見が通りやすく、参加者が本音をいいにくいため、表現的 な協議に終始しがちです。 そのため、せっかく会議をしても結論が出な い、決定と意見が混在して結局実行されない、といった問題が起こりがち です。こういった場合、 中立的な立場で議論を望ましい方向に誘導する進行役がいると、物事が前に進みやすくなります。
NAL社内教育
◆ Win-Winの状態を作り出す「交渉力」
ITコンサルタントは、全体最適の視点で顧客に問題解決策を提示しま すが、人員削減や業務プロセス変更など、現場に負担を強いる実施項目が あると、一部の関係者と意見や利害が対立することがあります。 その際、 交渉を円滑に進めて相手に理解を求め要望を受け入れてもらうには、権威 を笠に着たゴリ押しでも、相手の顔色を伺う卑屈な態度であってもいけません。交渉は、双方が得をする Win-Winの状態を目指すのが基本です。
◆ 相手に決断や行動を促す 「表現力」
ITコンサルタントにとって、自身の提案内容を顧客が実行するかどう かは、自己の存在価値を左右する重要な要素です。 どんなに苦労して成果 物を作成しても、顧客がそれを受け入れて実践しなければ、それはただの 「紙切れ」 であり、 何の価値もありません。 そのため、ITコンサルタント には、提案内容を顧客に理解させて実行を促す「表現力」 が求められま す。
5. プロジェクトマネジメント力
ITコンサルティングのプロジェクトは、数十名から数百名の規模になることも珍しくはない情報システムの開発プロジェクトとは異なり、自社の要員は多くても数名程度です。したがって、 情報システム開発におけるプロジェクトマネジャーほどは要員管理のスキルが求められません。 ただし、ITコンサルタントは顧客の社員を動かしながら作業を進めるため、 顧客の社員もマネジメントの対象となります。 よって、 SEとは異なるマネジメントスキルが必要になり
ます。
◆ 目標達成に向けたロードマップの作成がプロジェクト成功の鍵
ITコンサルタントは、プロジェクトを進めるにあたり、まずスケジュール作りから始める必要があります。
また、「顧客に指示を出す」 と前述しましたが、上司が部下に指示を出 すのとは異なり、ITコンサルタントには顧客に対する指揮命令権があり ません。 かといって、 依頼する形では相手に作業を拒否されたり、作業を 後回しにされたりすることが多々あります。 そこで、 経営層から、ITコ ンサルタントの依頼を本来業務よりも優先する方針を示してもらったり、 依頼事項について各担当者に指示してもらうことが重要になります。
なお、ITコンサルタントが調査や資料作成を依頼する相手は、 多くの 場合、部門責任者クラスです。 こういった人たちは、 本来業務で多忙であ るため、全体の流れと指示内容を具体的に示さないと動いてくれません。 そこで、プロジェクト全体の流れをロードマップとして示し、顧客の各 部門に実施作業を期限付きで振り分けます。 その際、 実施作業の主旨とポイントを十分に理解してもらうことが重要です。そのうえで、定期的に進捗確認をします。
◆ プロジェクトマネジメント能力を高めるには
基礎知識としては、PMBOKや情報処理技術者試験のプロ ジェクトマネージャのカリキュラムを押さえておけば十分です。また、情 報システム開発においてプロジェクトマネージャを務めた経験があれば、 ITコンサルティングにおけるプロジェクトマネジメントのハードルはそ れほど高くありません。
ただ、 発注者である顧客を動かすには、自己の専門性を高め、 顧客側に 専門家として認めてもらう必要があります。 そのためには、特にコンサルングの流れやポイントを頭に叩き込み、コミュニケーション力を身に つけることが重要です。
6. 業界知識
ITコンサルタントは、顧客が抱える課題を整理してITによる解決策を提案します。 しかし、顧客が属する業界の環境や動向を知らずして、 適切 な解決策を導き出すことはできません。 なぜなら、どのような業界にも、 なんらかの規制や商慣習、企業の競合関係があり、それを踏まえた解決策 でなければ実効性が低くなってしまうからです。
業界動向の情報
項目 |
內容 |
市場動向 | 業界は全体として拡大しているのか、 縮小しているのか |
業界構造 | 業界におけるシェアや競争関係はどうなっているか |
業界の特色・課題 | 業界の歴史的背景、共通する課題はなにか |
経営改革のためのCSF | 収益向上や経営改革をしていくためには、どのような 点が重要なのか |
政府による法規制 | 業界でビジネスの制約となる法律や制度には何があるか |
業界団体による自主規制 | 業界団体による自主規制には何があるか |
業界の専門用語 | 業界特有の専門用語には何があるか |
また、単に業種をおさえるだけでは不十分なのが小売業における業態です。 小 業種だけではなく業態にも注目する必要がある売業は、自ら商品を製造しないため、売る商品での差別化が難しくなって おり、消費者の視点で利便性を追求し新しい業態が日々開発されていま す。また、最近は、インターネットとリアル店舗を組み合わせたクリック &モルタルの手法も見逃せません。
ITコンサルタントは、最新の業界動向をおさえるだけではなく、そのことで顧客にどのような影響があるのかを分析しなければなりません。 そ のためには、「顧客の顧客」の情報もおさえることが大切です。 たとえば、 電子部品製造業が顧客の場合、顧客の顧客は、家電メーカーや自動車メー カー、コンピューターメーカーなどになります。
7. 業務知識
業務知識は、業種共通のものと業種固有のものに分けられます。 業種共 通のものには、経営、労務、財務といった企業を運営するうえで必須の業 務があります。このうち、労務や財務は、法律や制度で定められたルール のなかで決められていることが多く、法律や制度を学ぶことで一般論でも 通用しやすくなっています。
では、業務知識を身につけるには?
この業務知識は一朝一夕に身につくものではありません。また、その業 界でビジネスをしている顧客ほど知識を得ることは現実的に不可能です。 たとえば、自動車メーカーで10年以上にわたって出荷業務を担当する社員 よりも、門外漢のITコンサルタントがその業務に精通できるわけがあり ません。
したがって、顧客と会話できるほどの最低限の知識を得るので十分で す。コンサルティングの入り口で会話が成立すれば、そこから密接にかか わっていくことで知識を深めていくことができます。身につけるには、次 の方法があります。
まとめ
ITコンサルティングのスキルについてご紹介しました。
今のところ、NALはITコンサルティングはもちろんですが、最先端のIT技術を取り入れたイノベーション支援でのIT活用、DX(デジタルトランスフォーメーション)、AI・RPAのシステム構築、サイバーセキュリティなど広範囲でのITコンサルティングサービスを提供しています。
現在、NALは社内でITコンサルティングを理解する社員向けの講座を開催しています。
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