前記事では(こちら)、マーケティングオートメーション、マーケティングファンネル、リードジェネレーションについて理解できると思います、本記事では、2つの重要な要素であるリードナーチャリング、リードクオリフィケーションを説明させていただきます。
●リードナーチャリングをリードクオリフィケーションする
・リードナーチャリングし、リードクオリフィケーションする
以上で見込み客の獲得、すなわち「リードジェネレーション」の現状と、マーケティン グオートメーション(MA)によってどう進化できるのかを見てきた。本章では、リード マネジメントのステップの中で、 リードジェネレーションの後に来る「リードクオリフィ テーション(リードの精査、選別)」、「リードナーチャリング(リードの育成)」の段階で、 MAがどのような効果を発揮するのかを具体的に見ていこう。
・取ったリードのうち、すぐに購入につながるのはごくわずか
Webサイト、広告、展示会、 ウェビナーなどの様々なチャネルで獲得したリードの大半一部の例外を除いてそのままでは直ちに購買に結びつかないのが現実である。このた め、見込み客の購入意欲を高めていくリードナーチャリングや、購入を促すタイミングを 見計らうためのリードクオリフィケーションが必要になる。
もちろん獲得方法にもよるが、購入につながるリードは獲得した全件数に対してほんの 一部と考えたほうがいい。だからといって、闇雲にリードジェネレーションを繰り返し、大々的に実施しても、毎回、獲得したリードの一定比率が顧客になるとは限らない。 広告 リーチを重視で広げたり、来場数重視で展示会に出展したりすればおのずと購入につな る比率は低くなってしまう。単にリードジェネレーションを実施するだけでは、ROI (投下資本利益率)が低いマーケティング施策になってしまうのである。
それでは、リードマネジメントのROIを高めるにはどうしたらいいだろうか。方向性 は2つある。1つは、リードの獲得コストを下げることだ。例えばプレゼントキャンペー を実施して、たくさんのリードを獲得して購買層の実数を増やす。低コストで大量の リードを獲得できれば、購買に至る比率が通常より低くてもROIは下がらずに済む。た だし、プレゼント目当てで商品には全く興味がない“ノイズ”となるリードが増えてしま い、購買比率が平均を大きく下回り、ROIが平均を下回る危険性もある。
もう1つは、獲得したリードを「育成する」という方法だ。獲得した見込み客のうち、すぐに購買する層はたとえ10%だとしても、残りの90%が「絶対に買わない」人とは限らな い。残りの30%も、リードジェネレーションの施策に興味を示した人たちであり、すぐに 購買につながらなくても、意向が変化する可能性は十分ある。コミュニケーションコスト はインターネットで大きく下がった。長期的にリードナーチャリングし、購買意欲が高 まったタイミングを捉えることによって、10%を20%に高められればROIは上がる。
2つの方法のいずれにしても、「そのときに買わない人も、見込みのある客として確保 育成して時期をみる」ことが重要だ。とりあえず情報が欲しくて情報収集の段階の人、 今期予算では諦めたが来期に導入を考えている人、現在商品を検討中で他の商品と天秤に かけている人。 そうした人を最終的に顧客に育てるには、MAが最も適したツールと なる。
・すぐに購入しない残りの人をどのように育成するか
獲得したリードのうち、すぐに購買に結びつく10%を除いた残りの80%の層は、その考 え方が多岐にわたる。今後の購買につながる見込みの度合いも、高い人からごく低い人ま 千差万別だろう。何で購買を判断するかといった「決め手」も、ブランドにこだわる人や、 スペックを重視する人、漠然とそのジャンルの商品に興味を持っている人など、それぞれ で大きな差がある。
さらに獲得したリードは、同じカテゴリーの商品で競合他社と競り合うことになるだけ でなく、異なる商材と戦わなければならないことも往々にしてある。BtoBでは限られ 予算の中で今年度の投資に勝ち残らなければならないし、BtoCでもそれに類するこ とは多い。スマートフォンを新しくしたいと思ってWebサイトの新商品キャンペーンに応募しているけれど、実は通勤に使うバッグもだいぶれてきていて、どちらを買おうか 迷っているというようなことは、生活者としてリアルに実感するところだろう。 法人にし でも個人にしても、”おさいふ”には限りがあり、その使い道として自社の商品が最終的に 選ばれるように誘導することが、リードナーチャリングにつながる。
一口に「リード」といっても、その属性も行動も、そして時間経過に対する反応も、それぞれで大きく異なることは想像に難くない。よって、すぐに購入しない残りの人を育成す るには、見込み度合いによって、コミュニケーションの方法もそれぞれ異なるものが求め られる。One to One マーケティングが求められる背景は、こうしたところにある。
・購入意向を高めるための方策とは
広く獲得したリードには、様々な考え方の人がいることが分かったら、次に「購入意向 を高める」ための方策を考えてみたい。
例えば、スマートフォンかバッグか靴かでお金の使い道を迷っている見込み客がいたと しよう。その中で、バッグや靴ではなくて、スマートフォンを購入するときの判断基準は なんだろうか。見やすい大画面、高性能なカメラ、スムーズな操作、新しいデザイン、高速処理が必要なゲームができる性能―こうした様々な要素がある。 見込み客によって興味を持つポイントは異なり、それぞれの人の嗜好に即した要素で刺激することによってモチ ベーションを高めることができる。
さらに、購入意向が高まってきたら、機種変更するためのコストなどの金銭的なポイン ト購入に当たって諦めなければならないカバンなどとのトレードオフの判断に、背中をひと押しする必要もある。 リードマネジメントでは、リードクオリフィケーション、リードナーチャリングの施策 を繰り返すことで、購入意向の高いリードへと絞り込んで、購入見込みの精度を高める。 さらに、リードナーチャリングのプロセスでは見込み客のモチベーションが時間の経過に 伴って上がったり下がったりすることも多い。モチベーションを高めるためのコンテンツ を提供したり、モチベーションが高まってきたタイミングを見計らってキャンペーン情報 提供したりすることができれば、リードナーチャリングの効果は高まる。 MAツールがない時代のマーケティングでも、リードの中から買いそうな人を評価して 抽出することはできた。 メールの開封率などを指標にして、購買意欲が高いと判断した層 に対してはプレミアムな購買条件をメールで一斉配信するといった施策である。
しかし、MAツールがない時代には、特定の商材に対しての購買意欲が「以前よりも高 まっているか」を判断して、マーケティング施策をタイムリーに実行するのは難しかった。
住宅やクルマなど顧客関与が高く商談期間が比較的長い商材の場合、時間の経過に伴い 買意欲が揺れ動くことはよくあるし、何かのきっかけで態度が一気に変容することもあり 得る。せっかく長期に育成してきた見込み客の購買意欲が急速に高まってきたことを素早く察知する仕組みを整えておかないと、あれよあれよと適切な情報の伝達競争に負けて競 他社に成果をさらわれることも考えられる。
こうした見込み客の態度の変容を、デジタルでの行動履歴を中心に容易に追いかけられるのがMAである。MAツールを使って、リードクオリフィケーションからリードナー チャリングといった様々なマーケティング施策の実行を自動化すれば、多くのリードに対個別に適切な施策の実行が可能になる。例えば急にWebサイトの特定商品の価格情報ページに高い頻度でアクセスするようになったことを察知し、購買を促すメールを即 に配信するといったことをあらかじめ設定しておく。そうすれば、適切なタイミングで 適切な施策を「自動的に行えるのである。
・カスタマージャーニーからこぼれた人を救う
リードの購入意欲の変容に対して個別に対応できること以外にも、MAの導入による リードクオリフィケーション、リードナーチャリングのメリットがある。それは購入に至るカスタマージャーニーから外れた人への対応である。
メール配信ツールでも、ある程度のリードセグメン トリードナーチャリングは実行できた。メールの開封串やクリック率をメールの内容ごとに判断し、配信する メールの内容をきめ細かく制御すれば、リードクオリ フィケーション、リードナーチャリングの過程をトレー スすることは可能だった。こうしたマーケティング手法でも、見込み客の購買確率を高めることはできる。しかし、この場合、きめ細かくメールの内容を制御したとしても、購買意欲の変化の兆候を察知する基準はメールでの開封状況やクリックの有無に限られる。さらに、あるメールの開封を条件に次のメールを配信 するような流れは、カスタマージャーニーマップに則っ て作られたストーリーによって決まる。要するに、カス タマージャーニーに近い行動をする見込み客に対しては 上手にアプローチできるものの、そこから外れた見込み客への対応は必ずしもうまくいくとは限らない。
MAならば、いったんは購入意欲が減退したような見 込み客であってもその行動の変化を見逃さずに再度アプ ローチすることが可能だ。 属性や行動、時間変化からス コアリングし、きめ細かいシナリオを作ることで適切な 施策の実行が可能になる。ストーリーから外れた人も、 上手に拾い上げようというのである。
もちろん、自社だけでなく競合他社も同じく見込み客 にアプローチし「買って、買って」というメッセージを 送る。 「50%OFF」などの安売りもあれば、新商品の 発売もある。そうした中で、自社ブランドの強みはどこ にあるのか、ネガティブな印象を拭い去るにはどうした らいいか、市場の動向を見ながら適応したマーケティン グ施策を実行しなければならない。こうした市場環境へ の対応の面からも、MAツールの登場という技術的な面 からも、One to One マーケティングが現実的なものとなりつつある。
・「育成」から「評価・選別」の手法を4ステップで設計
さて、ここからはリードナーチャリング、リードクオリフィケーション実施のための準 備方法を、より具体的に解説していこう。リードクオリフィケーションとリードナーチャリングの実行プロセスをMAツールで自動化するには、事前の作業を4ステップに分けて 考えると整理しやすい。
(1) ペルソナ設計
(2)カスタマージャーニー設計
(3) コミュニケーションシナリオの整理
(4)シナリオ/コンテンツに沿ったスコアリング設計
第1の「ペルソナ設計」により、マーケティングの対象となるターゲット像を明確化す る。第2の「カスタマージャーニー設計」では、商品や情報への接触から購買までの過程
る。第2の「カスタマージャーニー設計」では、商品や情報への接触から購買までの過程におけるペルソナの感情、行動を可視化する。第3の「コミュケーションシナリオの整 理」において、見込み度を上げるためにカスタマージャーニーのどのタイミングで、どの ようなチャネルを使って、どのようなコンテンツを提供するかを整理する。第4が「シナ リオ/コンテンツに沿ったスコアリング設計」で、シナリオを進める際の条件の1つとなるスコアの付け方を設計する。
これらの4ステップについて、順に詳しく説明していこう。
・(1) ペルソナ設計
第1ステップで実施するのが「ペルソナ設計」である。ペルソナとは、ターゲットとす 顧客像をリアルに捉える手法の1つで、顧客像を明文化するものだ。
自社の商品の顧客となるターゲット層の中には、いくつもの属性や行動のパターンを持 つ人が存在する。 ペルソナでは、そうしたパターンを擬人化して具体的に描き上げる。ター ゲットの中の代表的な人物像をベルソナとして記述することで、具体的なイメージが湧き やすくなるようにする。ここで、「ベルソナ=ターゲット」ではないことに注意したい。 ペルソナはターゲットの中の1つの代表であり、ターゲットの中にはマジョリティーを占 めるペルソナもあれば、マイノリティーのペルソナもある。
いずれにしても、リアリティのある顧客を「ペルソナ」としてイメージすることで、第2 ステップで設計するカスタマージャーニーマップの効果を高めることができる。
ペルソナを設計するに当たっては、自社の商品の顧客や見込み客の情報が必要だ。 言い換えれば、既存顧客の顧客像を把握することが、ペルソナ設計の第一歩となる。
ペルソナの設計ではある人物の様々な属性や行動を定義する。性別や年齢、ライフス テージ、家族構成、居住地といったような属性はもちろん、平日や休日にはどんな行動を しているか、ライフスタイルやターゲットになる商材に対する購買の価値観はどのような ものかなどを明文化する。BtoB向け商材の場合は、所属企業、業務における役割、業務 の目的などをまとめていく。
ペルソナの把握方法には、いくつかの手法がある。 既存客の情報からペルソナを導く ケース、営業担当者に顧客像をヒアリングしてペルソナを形成するケースなどがある。既 客から導く場合は、まず会員が登録した属性の集計値や統計値などから属性的な偏りを 抽出する女性が何割である、主婦が多い、年齢構成はどうか、といった情報からペルソ のが見えてくる。
さらに過去の買ログや行動の分析結果が役立つ。こういう行動を取っている人は購 買しやすい、何回以上購買している人はリピーターとして安定期に入るといった情報分析できるからだ。 過去の購買行 動を分析すると、かなりカスタマー ジャーニー設計に近い詳細な分析 ができる。このため、実際のMA導 プロジェクトでは、ワークショッ プで第1ステップの「ペルソナ」と 第2ステップの「カスタマージャー ニー」を一緒に扱い、検討すること が多い。
ユーザーへのインタビューやアン ケートを実施して、ペルソナを設計 する場合もある。グループインタ ビューやインターネット上のアン ケートで、属性や嗜好、価値観など を明らかにする。 SNSなどを対象 としたソーシャルリスニングも有効な手段だ。 Twitterやブログサイト上から、自社や競合の商品名などを含む書き込み を定期的に収集、分析すると、評判や盛り上がり度合いを探ることができる。
Q&Aサイトには、顧客のインサイトが非常に多く集まっている。 悩みの解決を目的と しているためユーザーの課題を把握しやすく、初めて見た人に回答してもらうために説明 が丁寧であることも使いやすい理由である。商品名や課題をキーワードとして検索すると、 数百件の情報が集まることもあり、ペルソナ作りに役立つ。
MAを実行する上でのペルソナ設計の役割は、共通認識を得るためである。MAでは、 顧客の獲得を目標として、ゴールに導くシナリオ作りをする。 ペルソナという共通認識を 持つことで、シナリオの仮説立案や設計をしやすくする効果がある。
ペルソナ設計のステップでは、ペルソナは複数作るケースが多い。ターゲット層は、大 くまとめたとしても偏りがある。すべてのターゲット層を1つのペルソナで代表するの は難しいため、各ターゲット層を描いた複数のペルソナを作ることが多いのだ。
・(2)カスタマージャーニー設計
カスタマージャーニーとは、自社の顧客となりうる消費者や見込み客であるペルソナ が、顧客になる過程で体験する「顧客体験」の全体をシナリオ化したものだ。カスタマージャーニーを可視化し、顧客体験の旅の「地図」を作ったものがカスタマージャーニーマッブである。
カスタマージャーニーマップは、ペルソナのベースとなる大きな行動の変容が記述される。消費行動モデルである「AISAS(アイサス)」の法則の、「Attention (気づく) → Interest (興味をもつ)→Search (情報収集する) → Action(購入する) Share (情報共有する)」に代表されるような要素がプロットされる。ペルソナごと に描くことが基本だ。例えば20代主婦、40代男性会社員、70代のシニア、BtoB向け商材 では情報を集める一般社員、経営層へ提案をする管理職、短期間に決断をする経営層では、 同じアクションに対しても顧客体験の感じ方は大きく違うためだ。
カスタマージャーニーマップには、ペルソナが顧客体験の中で経験する行動、気持ち、 モチベーションを記載する。 さらに、ポジティブな気持ちになった場合は促進するように、 ネガティブな気持ちになるなら除外するように、対応するマーケティング施策を検討す る。カスタマージャーニーマップを作ることで、ある特定の状況に対応する施策が現状で は用意できていないといったことも把握できる。
ペルソナや顧客体験の中での気持ちは、データや事実に基づいて記載することが基本 だ。そのためには、カスタマージャーニーマップのインプットとなるプレ調査の結果が重要になる。ここを疎かにして、妄想を仮説として積み重ねて しまうと、「こんな人がいるんだっけ?」といった事態に陥っ でしまうカスタマージャーニーマップの作り方を見ていこう。 カス タマージャーニーマップを整理するには、「顧客体験」と「梶 点」からなる4象限で状況を整理するといい。
「顧客体験」では、「ASーIS:現状」 「TO BE:理想像」 の2つに整理する。 AS-ISは、現状の顧客体験がどう なっているか、 TO BEは理想の顧客体験がどうあるべきかで、それぞれにカスタマージャーニーマップが作れる。 「視 「点」では「Inside Out: 企業視点」 「Outside- In顧客視点」の2つがある。Inside Outは、自 の視点で顧客との接触を考えたマップ、 Outsidel Inは顧客からの視点であり自社だけでなく競合他社などとの直接も考えたマップである。 この4象限の中で、MAにおいて重要度が高いカスタマージャーニーマップは2つに絞られる。
1つは「Outside InのASーIS」であり、 現状の顧客視点で今ある課題を浮かび上がらせるために使う。 企業視点では顧客の体験に 潜む課題を見誤る危険性があるため、顧客視点で作成する。もう1つは目標とする理想的 なカスタマージャーニーマップで、「Insid OutのTOBE」となる。こちらでは、 自社にとってどのように良好な顧客体験を作るかを整理する。MAで施策の実行プロセス 自動化する目的は売上や利益の向上であり、自社の企業視点が重要になる。
4象限のうち、左下の現状の課題把握と右上の理想像の双方のカスタマージャーニー マップを作れるとベストだと考えられる。左下のカスタマージャーニーマップで課題を 浮かび上がらせて、右上の理想の姿に持ち込むという流れである。ただし、現状と理想の 2つのカスタマージャーニーマップを作ることが様々な条件で難しいこともある。そうし た場合は、現状はマップまで作ることなく課題の把握にとどめ、理想のカスタマージャー ニーマップだけを作るという方法もある。
カスタマージャーニーマップは、最初の体験からコンバージョンまでの流れを記述す る。そのため、対象となる商材によってジャーニーの期間が大きく異なる。商材によって はペルソナの生涯を描くような長大なケースもあるし、コーヒーショップなどでは来店か ら退店までの短い時間でジャーニーが終わるケースもある。
カスタマージャーニーマップは、正式なフォーマットが決まっているわけではない。 時間軸に従って、顧客体験の「行動(DOING)」「気持ち(FEELING)」のほか、「モチベーション」「施策」といった項目で、それぞれの内容を記載していく。企業の課題に応じて、分かりやすいレイアウトで作っていけばいい。
企業内のリソースだけでは、精緻なカスタマージャーニーマップを作りきることが難しい場合もある。しかし、見栄えは必ずしも重要ではなく、どういう行動、気持ちがあって、対策はあるかといった要素を洗い出すことがポイントである。 Excelのシートにまとめたものでも、場合によっては十分に機能する。
カスタマージャーニーマップはMAツールのシナリオのインプットになるだけでなく、理想とする顧客体験を可視化することで企業内での共通認識の形成にも役立つ。後からプロジェクトに参加したメンバーでも、カスタマージャーニーマップがあれば意識を共有できるだろう。
・(3) コミュニケーションシナリオの整理
リードナーチャリングでは、見込み客に対し メール配信やスマホアプリなどで、興味や関 心を持ったコンテンツに誘導し、育成していく というプロセスが繰り返される。カスタマー ジャーニーマップを作成したら、第3ステップ として実際に見込み客にどのようなアクション を起こしていくかをコミュケーションシナリ オとして整理する。MAの効果を最大限に得る ためには、最終的にどんな施策を打つかが影響 する。カスタマージャーニーマップで整理した 「ポジティブ」な気持ちを伸ばし、「ネガティブ」 な状況を排除し、的確な効果が得られるコンテ ンツをいかに作れるか。その施策アイデアが重 要になる。 カスタマージャーニーマップで定めた方向性に対して、具体的に落としこむのが第3ステップなのである。 まず、カスタマージャーニーマップに沿って、どのような施策が必要かをチェックする。 ペルソナごとに、行動や気持ちを洗い出し、それぞれの段階でどのような施策が効果的か 一般に、施策の精査はマーケティング部門が中心になって実行する。ただし、 顧客の反応や商品、顧客に対する思いといった部分は営業部門にノウハウが蓄積されてい るケースが多いので、マーケティング部門だけでなく営業部門のメンバーなども含めた ワークショップを開催することが望ましい。
理想像として求める施策をすべて洗い出した後で、既存のコンテンツで対応できるの 新しく作る必要があるのかを検討する。それぞれの段階で、利用できるコンテンツが 用意できているかをチェックするのである。 チャネルは多岐にわたる。 Webサイト、メー ル、スマホアプリダイレクトメール(DM)だけでなく、展示会、セミナーなどのリアル イベント、テレビ、雑誌、新聞、ラジオなどのマスメディア、PR、コールセンター、営業 ツールまで含めて、施策を洗い出す。
具体的には、カスタマージャーニーマップを作成してから、施策一覧や施策マップを作 る。こういうタイミングの見込み客にこういう施策を当てるといった施策の内容や、コン テンツをリスト化して整理する。用意できていない施策に対しては、施策シートを作って内容を記入し、実際の制作に入る必要もある。
施策マップでは、見込み客のステップごとに施策を整理するのが一般的だ。各ステップ の中にチャネルごとの分類があって、施策があるという形態をとる。
・施策一覧、施策マップでリスト化する内容
・お客さまの状況のステップ
・コンタクトチャネル
・気持ち
・施策
・コンテンツの内容
施策一覧 施策マップの段階では、すでに具体的なコンテンツの内容を検討しておく必 要がある。例えば、見込み客が「ダイレクト販売に不安がある」ことでネガティブな気持 ちを持つことがカスタマージャーニーマップで想定されたら、ダイレクト販売の不安感を 取り除くコンテンツを用意する。そのコンテンツは具体的にどのようなものにするか、見 出し的なレベルまで掘り下げる。次に、カスタマージャーニーマップの訴求ポイントに対して、マーケティングファネル 各フェーズごとに、必要なコンテンツをチャネル別に配置したコンテンツマッピングフ ローを作成する。未充足なニーズに対応した新規コンテンツ案も記載する。 ただし、一般的にコンテンツマッピングフローに記載されたすべての施策を実行しようと したら、フローが膨大なものになってしまい、予算やタイミングなどとの整合性が取れな くなるリスクがある。
そこで、最重要なコンテンツとは何かを定め、優先順位を付ける。それぞれのステップで肝となるコンテンツを1つピックアップするなどの方法で、予算範囲内で実現可能な施策を見極めるのである。
優先順位の付け方のポイントは「1本のカスタマージャーニーマップの線が先につながるように、コンテンツを充足させたり、マップの線を太くしたりする」ということだ。 コンテンツマッピングフローを作ることで、コンテンツが足りているところと不足しているところが可視化できる。可視化した上どこを増強すべきかを検討する。その際に、カスタマージャーニーマップの流れを作るように、細いところがあれば太くするように、 コンテンツ作成の優先順位を付けるわけだ。見込み客が商品購入を検討するカスタマージャーニーマップの中で、どこかのステップのコンテンツが不足していると見込み客は自己完結するしかなくなる。これでは購入意欲 が途切れてしまう。 最低限、何のコンテンツを追加するとカスタマージャーニーを完結で きるか、という視点が必要だ。
また、ボトルネックになっている施策があるならば、その部分を補うようなコンテンツ に優先順位を与えることも有効だ。カスタマージャーニーの中で「営業マンに見積もりを とる」ステップで人的リソースの問題から対応が遅れているようだったら、「購入シミュ レーションのコンテンツを用意する」といった具合だ。
・(4) シナリオ/コンテンツに沿ったスコアリング設計
最後の第4ステップが「シナリオ/コンテンツに沿ったスコアリング設計」である。 MAは、マーケティングの複数の施策を橋渡しし、見込み客の状況に応じて自動的にアク ションを起こすことができる。その「自動化」のために、大きな役割を果たすのが「スコア」 「シナリオ」である。MAツールでは、見込み客の「見込み度」をスコアで判定し、あらかじめ設定した「シナリオ」によって起こすべきアクションを自動的に実行する。どのス テップの人に、どんな行動があった場合に、何点のスコアを与えるかの図を作成すること が最終的なアウトプットになる。
スコアの考え方は、難しくない。「見込み客A」が購買意欲が高まっていると考えられる条件を満たした場合に、見込み客Aにスコアを加算する。 見込み客Aが複数の条件を満たして一定のスコアを超えたとき、企業は特定のアクションを起こすという考え方である。 それ自体はシンプルな考え方で、ポイント制で面をクリアしていくゲームなどと大きな違いはない。
ただし、スコアはシナリオと並んでMAの1つの柱になる要素である。何をもってスコ アを加算するか、あるいはどんな状況だとスコアを減算するか。 その設計がMAの成否を 分ける重要なポイントになる。
MAで利用するスコアリングは、3つの側面があることをまず覚えておきたい
・属性別、年齢、居住地、社内の立場など
・行動=メールの開封、Webページの閲覧、展示会やショールームへの来場など
・時間=どのような時間軸で「行動」が 起こったのか
「属性(デモグラフィック)」は、ある 企業人にとって基本的にあまり変化し ないものだ。一般的な表現をすれば、企 業情報・プロフィール情報とも言える。 女性向けの化粧品ならば女性の属性を持 人のスコアが高く、男性のスコアは低 い。 法人向けの商材の場合、入社2年目 の平社員よりも、決裁権を持つ部長のス コアを高く設定する。年齢は年を追うご に加算されるし、企業内の役職も年々 高くなるかもしれないが、急激な変化は 少ない。
属性を使ったスコアリングは、これま でのマーケティング手法でも用いられてきた。ある属性の人が特定の商品を買うか、買わないか。時間をかけて情報を処理すれば、 属性のスコアリングからリードを絞り込んだリードクオリフィケーションも可能である。 一方、2つ目の「行動」を使ったスコアリングは、MAならではの手法と言える。例に 挙げたように、配信しているメールマガジンを「開封」したり、そこからリンクをたどって Webページに「アクセス」したりする行動に対して、スコアを加算、減算するのである。
さらに「行動」の時間的な変化を捉える「時間」もMAのスコアリングで有効に機能する 項目である。 ある商品が欲しいという気持ちが高まった見込み客は、該当する商品情報の Webページへのアクセスが増えるだろう。残念ながら他社の商品を買ってしまったら、 パタリとアクセスがなくなることもある。そうした状況から見込み客の状況を判断し、そ れをスコアという点数に置き換えるのである。
・MAでスコアリングする
リードマネジメントでスコアリングする「行動」にはどのようなものがあるだろうか。 例えば、「商品に対して具体的な問い合わせがあった」「価格の問い合わせがあった」「店 舗に来店した」といった「行動」は、分かりやすい。商品に対して興味を持っていることが 明らかで、そうした人に高いスコアを付けて次のステップのアプローチをすれば、購買につながる可能性は高い。経験豊富な営業担当者は、こうした見込み客の行動と購買行動の 関係をノウハウとして持っている場合が多い。従来、見込み客のリアクションは営業担当 者がフェイストゥフェイスで「監視」していた。そして、何に興味があるか、ライフステー ジの変化はあるか、自動車であれば次の車検はいつかといったことを見込み客と話を しながら、頭の中でスコアを付けていた。
MAでは、従来であれば経験や直感で判断していた次のステップへの判断の部分を、客 観的にスコアリングして数値化することで自動的に処理できるようにする。 過去に商品を 購買した顧客が取った行動のモデルを参考にしてシナリオを立て、MAツールから得られ 見込み客の行動を照らし合わせて、顧客獲得に有効な手段を講じることもできる。
「時間」的な行動の変化に対応できる点もMAツールの特徴だ。例えば、「これまで開か なかったメールマガジンを急に開封しだした」というケースを考える。 こうした時間的な 行動の変化には、背景にライフステージの変化や購入のタイミングの到来が隠されている 可能性が高い。 生命保険のWebページを頻繁に見るようになった見込み客は、結婚した 子どもが生まれたりといったライフステージの変化が起こっている可能性が高いと考え られる。こうした時間的な行動の変化を捉えて、高いスコアを付けるようなスコアリング 手法を取り入れれば、見込み客の購買行動を先回りして読み解くことができるのである。
スコアリングは加算するだけではなく、減算も考慮する必要がある。 商品Webページ に頻繁にアクセスしていた「見込み客」が、ある時点から企業情報や採用ページへ集中的 にアクセスするようになった場合は、就職活動で情報を入手している可能性が高い。こう したとき、加算しかできないとスコアが高いままになってしまう。スコアを減算すること で、見込み度を下げるといった処理が重要になるのである。
こうした属性、行動、時間へのスコアリングの重み付けをどう設定すればよいか。当初 試行錯誤で配点していくことになるが、過去に顧客化した見込み客の属性、行動履歴な どが蓄積されている。または購買促進に寄与する要素やその強さをロジスティック回帰分 で洗い出し、統計的な確からしさを担保した、スコアリングロジックの開発が行える。 スコアリングの手法として、「属性」だけに頼るのは危険な場合もある。特にBtoCの 商材では、消費者は属性情報を正しく登録してくれないことがある。また、住所は年に数 といった割合で引っ越しをして変わっていく。BtoBの場合でも、ビジネスパーソン 部署異動や転職があり得る。 変化が少ない「属性」だが、変化してしまったときには獲 得したリードの情報が役に立たなくなることもあり得る。
さらに属性では判断できない消費行動もある。例えば、家の購入を考えよう。 結婚、出 を機会にマイホームを持とうとする人、消費税増税をきっかけに購入を考える人など、重視するポイントは人によって大きく異なる。こうした側面では「属性」に頼ったリードマネジメントに無理があることは明白だろう。 「行動」「時間」を把握し、客観的なスコアに置き換えることができれば、リアルタイ ムで見込み客の動向や環境の変化を知ることにつながる。 見込み客の変化を、メールや Webサイトの利用状況、展示会や店舗への来場といった「行動」と「時間」を合わせて横 串に見ることで捉えられるのがMAの利点である。 見込み客の一人ひとりの行動をリアル タイムにきめ細かく検知することで、One to One マーケティングの実現に一歩近づ くことができる。そのために最も有効に活用できるツールがMAである。
・見込み客を顧客へと育てる「シナリオ」とは
スコアと並んで、MAで重要な要素が、見込み客に対してどのようにアクションを起こ すかを記述した「シナリオ」である。シナリオとはいったいどのようなものだろうか。リードマネジメントでは、リードジェネレーションで集めた見込み客である「ML (Marketing Lead)」をリードナーチャリングによって育成し、リードクオ リフィケーションにより選別して、最終的に営業へ渡す「MQL (Marketing Qualified Lead)」を確保するプロセスが必要である。その際、すべての見込み客に同じアクションを起 こしたのでは効率が悪い。すべての見込み客 が同じカスタマージャーニーをたどるわけで はないからだ。言い換えれば、スコアや行動 が違う人に対してそれぞれに適したアクショ ンを起こすことで、効率的なリードマネジメ ントが実現する。シナリオは、個別の見込み 客の状況に従って適切な情報を提供するため の基本となるまさに「台本」である。 シナリオの考え方を、例を通して見ていこう。 まず、見込み客にメール配信をして、その反応に従ってアクションを起こすというシンプルなシナリオを考える。例のシナリオは、配信されたメー ルを見込み客が「開封」し、さらにメール内 のリンクを「クリック」した場合に、その状況を検知して「営業ヘリードの情報を渡す」というものである。 メールの開封によるスコ アだけではアクションは起こさないが、メールの開封とクリックの双方が実行されること でスコアが高くなり、営業へフォロー移管というアクションを起こす。 その後、営業担当 者がフォローすることで、見込み客の刈り取りを行う。
このように見込み客の「属性」「行動」 「時間」で評価した「スコア」を使って、次のアク ションの実行を判断することが、シナリオの役割と言える。この例はシンプルなものなの で、メール配信ASPのメールログを解析すれば手動でも実行ができそうだ。しかし、実 際にはリードナーチャリングには、もっと複雑なシナリオを作ることもある。
他の例として、Webの問い合わせに対して、スコアリングをした結果から、 さらに複数回のメール配信を経て最終的なアクションを選別するシナリオである。
このシナリオでは、Web問い合わせ時に取得した見込み客の属性と事前の行動によっ 当初のスコアを算出している。まずスコアで見込み度を判定し、個々の顧客特性に合わ せて訴求メールの内容を変化させる。 スコアが高い見込み客には、具体的な商品の事例を 記載したメールを送る一方、スコアが中程度の見込み客には商品詳細メールで商品の理解 を深めるメールを送る。さらに、スコアが低い見込み客には商品により興味を持ってもら えるようなキャンペーンの情報を送るといった具合だ。
そして、スコアが高い見込み客へのメール配信の結果、「開封」と「クリック」の状況か 2回目のメールの内容を変化させる。これを繰り返し、営業担当者に直接渡すリードと、 コールセンターに渡すリード、マーケティング部門で継続育成するリードに選別する。 こ 「うして「シナリオ」によって選別することで、営業担当者には確度の高い見込み客である MQLの情報が渡される。 マーケティング部門から渡された大量のリードが、営業担当者 手元で活用できずに眠ってしまうといった事態が避けられ、効率的なリードマネジメン が可能になる。
こうした複雑なシナリオになると、人海戦術で処理することは現実的でない。特にリー 件数が大量であればあるほど、見込み客の行動に対するアクションを自動的に行う必要 が出てくる。MAは、この一連の作業を自動化するツールなのである。
実際のMAの導入を考えると、最初にメインのペルソナに対するシナリオを作ることが ここで説明している「4つのステップ」のゴールとも言える。 そう定義してしまえば、第 2ステップのカスタマージャーニー設計でも、メインとなる1つのペルソナのカスタマー ジャーニーマップを作れば十分かもしれない。
MAの導入後の動きとして、1つの商材でメインの次に位置する2つ目のペルソナに MAを展開するよりも、2つ目の商材へと広げるケースが一般的だ。 その際にも、メインのペルソナに対するシナリオを詳細に作っておけば、効果ー的な施策の部分を他の商材のシ ナリオに反映することができる。もちろん、複数のペルソナがあったとしても、MAで対 応することは可能である。
・4ステップが成功への最短のステップ
MA導入に当たって必要な作業を4ステップに分けて説明してきた。マーケティング施 策の実行プロセスを自動化するための前処理として、かなり手間のかかる工程である。し かし、この作業をおざなりに進めてしまうと、MA導入の効果が的確に得られなくなる。 振り返ったときに、効果が検証できず、PDCAサイクルを回すことが難しくなるのだ。 ペルソナ設計、カスタマージャーニー設計、シナリオの整理、スコアリングの設計といっ ステップを踏まなくても、MAで実行プロセスを自動化すること自体はできる。ただし、 その場合は単体の施策の反応は見られるとしても、顧客の体験の全体の中でその施策の影 響がどのような意味を持つかが判断できない。要するに、1つの施策を最適化することは できても、顧客体験の最適化にはつながらないのである。
MAで重要なことは、①全体の施策を見通し、 ②優先順位を付けて、③ここからやるべ きという判断をして、実行することだ。特定の施策だけを最適化しても、前後にボトルネックがあれば、成果につながらないこともある。 施策の順番も考慮しないと同じ施策で も効果が異なる可能性は高い。4ステップの作業を飛ばすことなく進めていくと、MAで 実行し、目標とする効果を得るために必要な情報がもれなく可視化される。手間がかかる 作業だが、MAの効果を最大限に活かすための最短距離が、ここで示した4ステップの作 と考えられる。
・コンテンツ、シナリオ、スコアリング作成のTIPS
・リードナーチャリングに使うコンテンツはどこにあるか
コンテンツの紐付けをしていくと、不足しているコンテンツが洗い出される。不足分を 新規に作るとなるとコストがかさみ、作業の負荷も大きくなることが予想される。そこで 見直したいのが、既存のコンテンツである。例えば企業のWebサイトには、多くのコン テンツが掲載されている。紙のリーフレットを作成している企業も多いだろうし、様々な 動画コンテンツを用意して見込み客にアピールしている場合もある。これをMAのコンテンツに活用しない手はない。
MAを導入して活用するための「デジタル化されたコンテンツがない」と感じたときは、 リーフレットやパンフレットなどの情報が使えないかを考える発想の転換をお勧めする。 実際にデジタル化されていないだけで、目的に合致したコンテンツがある企業も多い。 「コンテンツの数が足りない」というケースでも、1つのコンテンツの中に様々な要素が 詰め込まれている場合がある。分割すれば、カスタマージャーニーマップの複数の地点で 使えるコンテンツが生み出せる。 また、「新商品紹介」として作られていたコンテンツで あっても、カスタマージャーニーマップの中で違う目的で利用したい場合は、コンテンツ 見せ方を修正して対応することも考える。Webページのコーディングを修正するなら ば比較的コストをかけずに、目的とするコンテンツに作り替えることができる。
企業の中ではセクションが縦割りになっており、複数の部署が作り貯めたコンテンツを 「棚卸し」できる権限を持つ適任者がいない場合もある。そうした場合は、外部に棚卸し作 を委託することも考えたい。ヒアリングがすべての部署や担当者にできるわけではない ので、目的とズレが生じるデメリットがある一方で、コンテンツに思い入れがない分だけ リードナーチャリングに必要なコンテンツにばっさりと絞り込むことができるというメ リットも大きい。
・シナリオの上手なフィードバックの仕方
MAツールを導入し、シナリオを作ってパイロットケースを動かしてみた。すると、「導 入したとたんに売上が20%伸びた」という成果が得られた。MAツール導入は成功した、 として思えるかもしれないが、その数字がMAツールの導入による効果と言い切れる のかは簡単には評価できない。本格導入してMAツールを運用していくには、シナリオを 評価してフィードバックする仕組みが必要だ。 評価が簡単ではない理由はいくつかある。例えば、最初の取り組みに多いのは、あらか リードを絞り込んでいるケースがある。 失敗を回避したい思いや、「マーケティング から来るリードは質が高い」と営業担当者に評価されたいとの思いがあり、送り込むリー ドを成約の可能性が高い情報に絞り込みがちだからだ。100件の成約が取れたとしても、 それが110件のリードを基にしているのか、1000件のリードを基にしているのかで は、評価は異なってくる。
また、評価のをどのように定めるかも、評価が簡単ではない要因の1つとしてある。 効果を測定する評価軸としては、売上や販売店への来店であったり、問い合わせの件数で あったりという「定量的」なものが中心的に考えられる。 定量的な指標はもちろん重要だが、MAツールが支援するのは営業担当者の営業活動であり、MAツールの導入による成 果や変化を営業担当者の声という「定性的」な指標として捉えることも忘れてはならない。 MAのシナリオをブラッシュアップする際には、数字で得られる指標だけでなく、成果が 上がった効果がありそうだと実感したといった定性的な営業担当者の生の声も指標とし て、フィードバックすることが重要なポイントとなる。
シナリオを使ってMAツールで施策を実行していくと、何回かサイクルを回しているう ちに「成約率が上がっている」「逆に下がっている」かが分かるようになる。 しかし、最初 はなかなか評価ができない。それでは、どのようにシナリオを評価してフィードバックをしていけばいいのだろうか。 ポイントは、欲張り過ぎないことだ。MAツールを導入し、パイロットケースや本格運用の初期段階では、効果を測定しやすいようなシナリオを作る検討も必要だ。その1つ の方法は過去に成功した定番の施策をMAツールに入れてみることだ。そうすることで、 MAの導入による効果が測定しやすくなる。その上で、新しい施策をシナリオに追加して、 良い反応が出ているものを残し、反応が芳しくないものを修正するようにシナリオを調整 していく。
また、同時に複数のシナリオを動かして評価する方法もある。1つは従来の経験から確実性の高い、いわゆる“鉄板”のシナリオを用意する。それに対してもう1つのシナリ オではファネルごとに少しずつ分岐を設ける。 施策のA案とB案をランダムに実行して 成果を比較するABテストをファネルごとに行い、PDCAサイクルを回していく。 比 較の対象が明確になっていることで、効果の測定がしやすく、シナリオを的確に調整でき る。闇雲に新しく多くの施策をシナリオに盛り込んでも、その評価は難しい。上手く動い ているときはまだしも、成約率が下がってきたようなときに、問題の切り分けが難しい。 PDCAのサイクルを上手く回せるようなシナリオを用意して、少しずつ成長させていく ことが重要だ。
PDCAのサイクルは、数日から1週間といった短い期間で回せる場合もある。一方、 購買検討に1カ月やそれ以上の期間がかかる商材もある。評価に長期間かかる商材で、短 期に結果を求めると正しいMAの効果測定ができない。逆に短期で評価できる商材で長期 間放置しておくと、的確なシナリオの修正のタイミングを逃すことになる。商材の特性や 具体的なマーケティング手法から、評価してフィードバックするタイミングを的確に判断 することも忘れてはならない。
・MAを有効に活用するシナリオ作りのコツ
見込み客を育成して、確度が高いリードを営業担当者に渡せるシナリオを作るには、重要 ポイントがある。それは、関係する部署にいかに協力してもらえる体制を作るかとい 属人的な側面だ。MAツール導入を推進するマーケティング部門と、実際に営業する営 部門の間には相互理解が不足している面がある。 情報システム部門は、MAツールのよ うな新しいシステムを、社内の他のシステムと連携させることに好意的でない可能性もあ るだろう。協力してもらうためには、関係する部署にMAツール導入がどのようなベネ フィットをもたらすかを伝えなければならない。それを理解してもらえないと、チャネル を複合的に動かし、的確なフィードバックを得られる精緻化したシナリオが作れない。
MAツールを使うことで、非常に多数の見込み客に対して個別のマーケティング施策を 実行することが容易になり、状況が可視化される。しかし、その結果が最終的に営業部門 有効に活用できているかは、マーケティング部門の直接の管轄からは外れてしまい、見 えなくなりがちだ。複数の部署が関係するだけに、マーケティング部門は縁の下の力持ち に徹するぐらいの気持ちで、社内の関係部署との間の協力関係を築くことが、シナリオの を成功させるコツと言える。
もう1つ、できる範囲を越えてまで手を広げてしまうことも、MAの導入を成功に導け なくするリスクの高いポイントである。自分たちの企業の実力や受け入れ体制を考えずに、手を広げすぎてしまうと、ツールは優秀であっても、MAを導入して何を目的にするのか が分からなくなることもある。
マーケティング部門の実力を超えるような施策を実行したいような場合や、的確なシナ リオ作成にノウハウが不足していると感じるような場合は、外部のコンサルティング会社 などの力を借りることも検討したい。 ペルソナごとのカスタマージャーニーマップの作 成から、コンテンツの棚卸し、各チャネルの役割の明確化、そして効果的なシナリオの作 成といったノウハウは、経験を重ねている外部のコンサルタント会社に蓄積されている。 MA導入のベネフィットを短期間で得ることが求められるならば、外部の力を一時的に導 入することも選択肢の1つになる。
・スモールスタートがキモ
シナリオ作りのコツに通じるMA導入のポイントは、何より「スモールスタート」 である、MAを導入して効果を得るまでにはそれなりに時間を要すると考えた方がいい。シナ リオの精緻化を繰り返し、ROIを高めていくには時間がかかる。
それには、できる範囲でのスモールスタートで、小さな成功を重ねていくことが必要だ。 運用できない規模の施策を当初から実行しようとすると、継続が難しい。 また、仮に小さいものであったとしても成功体験を得ることは、営業部門や情報システム部門などにベネ フィットを体感してもらって、継続して施策を行うための力になる。
営業支援システムのセールスフォースオートメーション(SFA)でも、コストをかけ導入したにもかかわらず、運用が上手にできずに眠っているケースが少なくない。MAツールも、導入すれば上手く運用できるという種類のツールではない。導入して、アウト ブットに合わせて修正しながら運用し続けることが、最終的な成功を導く。 スモールスタートは、部署を横断する施策に限ったことではなく、MAツールで利用す シナリオそのものにも関係する。要するに、導入当初からMAで実行するシナリオの範 囲を広げすぎないことである。まずは、「ファネルの一部分だけ」であったり、「ファネル は全部だけれど一部のチャネルだけ」であったり、絞り込んだシナリオをから始めること が肝要だ。複数のチャネルをまたいで高度な運用に挑戦するよりも前に、小さな成功を積 み重ねながら、少しずつMAの利用に慣れていくといいだろう。
・内容概略
MA活用への提言
・カスタマージャーニーマップは消費者視点の課題把握と企業視点の理想像を用意。
・コンテンツはカスタマージャーニーマップの線が先につながるように増強する。
・「属性」「行動」「時間」をスコアに置き換え、見込み客の動向を即座に把握する。
●リードマネジメント(リード管理):
以上の3つ、つまり見込み客の獲得・育成・見極めの一連のプロセス全体を指す概念である。リード情報を管理したり、リードナーチャリングの効果を測定したりすることを指します。
●MAを活用しよう
マーケティングオートメーションは、マーケティング分野における画期的なテクノロジーであり、企業に多くの重要な利点をもたらします。先進的なツールやソフトウェアを活用することで、マーケティングプロセスを最適化し、顧客との良好な関係を構築し、マーケティングキャンペーンの効果を測定するのに役立ちます。マーケティング戦略に取り入れることで、持続的な成長とビジネスの効果を向上させるために、弊社NALも、マーケティングオートメーションを実際のビジネスに適用しております。しかし、MAツールの機能は多様なため、その仕組みや効率化させる方法を理解しておかなければ、上手く活用できないことがあります。自社の課題に応じて、必要性の高い機能を検討してから導入しましょう。