NAL は 11月9日、日本貿易振興機構 (JETRO)のハノイで開催された Startup’s Connecting Hub Pitch & Meet イベントに参加しました。
このイベントはスタートアップと日本企業の出会いの場であり、ベトナムの経済情報について紹介され、日本企業がベトナムのスタートアップ エコシステムをより明確に理解し、日本企業の強みをよりよく理解するのに役立ちます。以下はNALがまとめた内容です。
ベトナムの概要
ベトナムの面積は、約33万㎢でおおよそ日本から九州を除いた面積と同じ大きさである。人口は、9,851万人(2021年時点)と1億人にせまる。在留邦人は、2万2,185人おり、うちハノイ市に8,624人、ホーチミン市に1万768人(2021年時点)と2大都市に集中している。国の体制は、社会主義志向の市場経済で共産党の一党制である。公用語はベトナム語で、宗教は約80%が仏教である。ベトナムの北部に位置する首都のハノイ市は、政治の中心地である。ベトナム最大都市のホーチミン市は、南部に位置し、商業の中心地となっている。そのほか、リゾート地で有名なダナン市がベトナム中部に位置する。気候は、北部はゆるやかに四季があり、意外にも寒い日は5℃まで下がる日もある。南部は一年を通して25℃を超える熱帯らしい気候である。
ASEAN内でのベトナムの立ち位置は、人口はインドネシア、フィリピンに次ぐ第3位である。名目国内総生産(GDP)は、2021年に第6位であるが、今後数年間でインドネシア、タイに次ぐ第3位まで成長すると予想されている。また、国民一人当たりの豊かさを示す一人当たりGDPは、昨年フィリピンを抜き、第6位となった。
新型コロナウイルスの状況
ベトナム政府の新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)対策は2021年10月、経済への悪影響を踏まえてゼロコロナからウィズコロナへと方針を転換した。これにより、様々な制限が緩和され、経済活動が再開した。入国規制は、2022年3月15日に入国後の隔離措置を撤廃、5月13日にはベトナムへの入国者に求めていた新型コロナの検査要件を停止した。これにより、日本からベトナムへの入国は新型コロナ前と変わらない仕様となっている。また9月6日より、これまで公共の場では全般的にマスク着用を求められていたが、今後は医療施設や公共交通機関を除いた各施設の利用者については、マスク着用義務の対象外となった。街中を歩いていてもマスクを着用している人はかなり少ない(ただし、筆者はハノイの空気が悪すぎるため、外出する際は必ずマスクを着用している)。2022年11月現在、ベトナム全土での1日の感染者数は、500人を下回る感染者数で推移している。
ベトナムの経済動向
2022年のGDP成長率は、新型コロナによる減速から回復基調にあり、今後も高成長が期待される(図表1参照)。振り返ると、新型コロナ流行前は毎年7%前後の安定した高成長を継続していた。2020年と2021年は新型コロナ対策により、工場の停止や厳格な移動制限が行われ、生産活動は多大な影響を受けた。特に2021年第3四半期(7~9月)は感染第4波によりマイナス6.0%と大幅に減少し、2000年に統計総局が四半期ごとのGDP公表を始めて以来、最大の減少率となった。それでもベトナムは、ASEAN圏内で唯一の2年連続でのプラス成長を維持した。直近の2022年第3四半期の伸び率は13.7%で、1~9月のGDPは8.8%だった。順調な経済回復に加え、新型コロナウイルスの深刻な影響を受けた前年同期(マイナス6.0%増)からの反動で、高い成長率を示した。通年でも政府目標の6.5%を上回る見通しとなっている。各機関の予測は9月時点で、アジア開発銀行(ADB)が6.5%、国際通貨基金(IMF)が7.0%と予測しており、高成長が期待できる。さらにIMFによると、ベトナムは2023~27年までの間ASEAN域内で最高の成長が予測されている。
貿易推移
ベトナムの貿易は、輸出・輸入どちらも右肩上がりに増加している(図表2参照)。2021年は輸出入ともに過去最高を記録し、輸出が3,368億1,065万ドル(前年同期比19.0%増)、輸入が3,322億3,493万ドル(26.5%増)だった。2022年の貿易も順調に推移しており、今年も過去最高の貿易額を更新する見込みだ。貿易内容を主要国・地域別にみると、輸出は米越通商協定を締結したこともあり2002年から米国が1位を維持している。輸入は中国がダントツの1位で、その割合は年々増加しており、2021年は輸入額全体の33.2%を占める。輸出額と輸入額を合わせた貿易額は、中国が最大である。貿易内容を品目別にみると、輸出入ともに電気機械のシェアが拡大している。特に通信機器(携帯電話)、集積回路のシェアが高い。ベトナム北部には、韓国サムスン電子の関連会社で電子部品などを手掛けるサムスン電機のスマートフォン工場がある。こちらではサムスンのスマートフォンの全世界の半分以上を生産している。サムスンの進出により、ベトナムの貿易構造は大きく変わった。輸出に占める携帯電話・電子部品は品目別で1位となり、割合が全体の約16%となっている。
ベトナムの人材・雇用状況
ジェトロが2021年に海外進出日系企業に調査した「海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)」によると、ベトナムの投資環境上のメリットとリスクのそれぞれ上位10項目は図表4のとおりだった。特徴は、メリットとリスク両方に人材・雇用に関する項目が複数挙げられていることだ。メリットの第3位「人件費の安さ」の回答率は半数を超える一方、リスクの第1位は「人件費の高騰」だ。同調査によると製造業の作業員の賃金は、中国が651米ドルのところ、ベトナムは265米ドルと半分以下である。ASEAN各国で比較してもラオス、カンボジアに次いで安い。しかし、日系企業の賃金は新型コロナ影響下でも年間平均5%程上昇しているのに加えて、ベトナム政府は7月から最低賃金を平均6%引き上げた。経済成長に合わせて最低賃金は今後も引き上げられていくことになる。リスク第5位は「従業員の離職率の高さ」である。ベトナム人は給料や仕事スキルの成長などを重視しており、同じ地域で給料が高い求人があると、すぐに転職するということもよくある。それゆえ、流動性が高く、従業員が見つかりやすい側面もあり、「従業員の雇いやすさ」はメリットの第5位となっている。実際、筆者が働く事務所でも若手ベトナム人スタッフは、転職経験者がほとんどである。メリットの第6、9位は「従業員の質の高さ」である。ベトナム人はまじめで勤勉と言われ、また細かい作業が得意とされる。筆者は在ベトナム日系企業とよく面談をするが、日本人担当者のベトナム人に対する評価は高いと感じる。リスク第8位の「労働力不足・人材採用難」については、失業率は上昇傾向にあるものの、依然低く、実質的に完全雇用の状態であり、労働者の確保が難しい状況にある。人件費の安さ、雇いやすさ、質の高さが評価される一方で、人件費の高騰、離職率、労働力不足はリスクと捉えられている。
外国直接投資
2021年の世界からベトナムへの投資は、認可件数は2,723件(前年比30.6%減)、認可額は約243億ドル(前年比7.8%増)だった(図表3参照)。認可件数は2年連続で減少したが、認可額は製造業の拡張投資、エネルギー案件が下支えし、わずかに増加した。韓国、中国、台湾の製造業を中心に、中国に生産拠点を構えていた企業がベトナムでの生産機能を増強した。2021年以降の大型投資案件としては、北部ハイフォン市でのLGディスプレイの電子機器生産工場の拡張投資、北部タイグエン省でのサムスン電機の半導体パッケージ基盤の拡張投資や南部ビンズオン省でのレゴの玩具製造工場の新規投資案件などが挙げられる。日本からベトナムへの直接投資をみると、投資認可累計額は2013年に1位だったが、2014年から2021年は2位、現在は韓国、シンガポールに次ぐ3位となった。ただし、累計件数では韓国に次ぐ、2位を維持している。日本からの投資を業種別にみると、これまでの累計では、世界からの投資と同様に製造、小売り・卸売り、コンサル、ITといった業種が上位を占める。以前は製造業の投資が中心だったが、近年は小売り・卸売り、コンサルなどの業種の件数が増加している。2021年は、小売り・卸売りで全体の約30%を占める(累計では約15%)。
ベトナムスタートアップの概況:2021年の投資動向
2021年のベトナムスタートアップへの投資は165件(前年比57.1%増)、14億4,200万ドル(3.2倍)。新型コロナウイルス流行 下で投資が低迷した2020年の105件、4億5,100万ドルより大幅に増加。大型投資があった2019年の126件、8億7,400万ドルも上 回り、件数・金額とも過去最高に。
2021年、電子決済を手掛けるMoMoと、人気ブロックチェーンゲーム「Axie Infinity」を手掛けるSkyMavisの2社のユニコーンが 誕生。 VNG(SNS、オンラインゲーム)、VNPAY(電子決済)に続き、ベトナムのユニコーンは計4社に。 ⇒KPMG、HSBC「Emerging Giants in Asia Pacific」(2022年7月)によると、ベトナムの新たなユニコーン候補は、Sendo (ECサイト)、Sipher(NFTゲーム)、Jio Health(ヘルステック)など。
「電子決済」と「小売」は、依然として投資を引き付ける上位2分野。続いて「オンラインゲーム」が3位に上昇。このほか、「ヘ ルスケア」「教育」などへの注目も高まりつつある。
ベトナムで活動する投資ファンドの総数は、2020年の108社に対し、2021年は60%増の173社に。
ベトナムスタートアップの強みと弱み
強み
- 社会のIT受容度、スマホ文化、若い人口
- IT・ソフトウェア人材、英語、高い教育、低コスト開発
- 新興市場、成長市場、伸びしろ
- 豊富な社会課題とビジネス機会
- 政府支援、成功者への敬意(セレブ化)
- 先進国の成功モデルの輸入、ローカリゼーションが容易、素早い展開
- 大手IT系企業からのスピンオフ環境
- ベトナム語・ベトナム慣習に守られた国内市場:海外勢の参入障壁
弱み
- 未発達なエコシステム:VCファンド、メンター、アクセラレータ等の未整備
- 輸入モデルゆえの破壊的イノベーションの不足、独自路線・ブルーオーシャン追求が弱い。
- ベトナム経済・市場規模の限界、競争不足
- グローバルSU&ユニコーンはまだ不在
- バイオ、物質、電気、エネルギー等ハードテック、ディープテック系SUの不足
- 法制度の脆弱(特許保護等)、政府の資金不足
まとめ
稿は、ベトナムの経済情報と日本企業がベトナムのスタートアップ エコシステムについて紹介した。2023年は、日越外交関係樹立50周年を迎える。これまでの日越関係を振り返ると共に、その関係をさらに深化・拡大させる年とするために相応しい記念事業が年間を通して実施される予定だ。興味のある方はオフライン・オンラインに限らず参加することをお勧めしたいです。