ビジネスモデル・ジェネレーション (以下BMG) というメソッド を聞いたことのある方、 あるいはすでに活用している方はいらっ しゃいますか? 初めて耳にした方もいらっしゃると思います。 そ もそも「ビジネスモデル」という言葉を聞いてピンとくる人は、そ う多くはないのではないでしょうか。 ビジネスを進めていく上で、 組織内でビジネスモデルに関する共通認識を持つのは必ずしも簡単 ではありません。 BMG は、 様々なビジネスモデルの考え方をシン プルにし、実践に即したスタンダードとしてまとめた画期的なメ ソッドです。
NALでは、社内教育でビジネスモデルジェネレーションワークショップについてワークショップを毎月行なっております。今日チャップ1:完全再現BMGワークショップについて説明いたします。
1. ビジネスモデル・キャンバスをみんなで作成しましょう
まずは組織の設計図を作成しよう
「ビジネスモデル・ジェネレーション』 は、 今では29か国で翻訳 されています。世界中で愛読され、 IBM、 エリクソン、デロイト・ トウシュ トーマツ、カナダ政府をはじめ、 多くの学校、 企業の組 織ですでに活用され、その有効性が証明されています。 国内でも富 士通、日立ソリューションズ、コクヨ、NTTアドバンステクノロジなど数多くの企業が取り入れています。
BMGでは、企業や組織には必ずビジネスモデルがあると考えます。しかし、同じビジネスに取り組んでいても経験や立場などは人に よって異なるため、 企業や組織がどのように動いているかを客観的 に把握し、そのビジネスモデルを解釈したり議論したりすることは 容易ではありません。 ビジネスモデルとは、いわば企業の設計図で す。 その設計図を作成するために、 BMGでは可視化のためのツー ル「ビジネスモデル・キャンバス」を利用していきます。
自らがあるべき最善のデザインをする時代
昨今、ビジネスの世界では、計画ではなくデザインの時代と言わ れています。なぜなら、ビジネスを推進する上で、計画を立て、 戦 略立案し、それを実行に移すというプロセスに時間をかけていては 移り変わりの激しい市場についていけなくなるからです。そのため、ビジネスをデザインし、今ベストな施策を打ち、さら に明日ベストなやり方をいち早く実行に移すことのほうに主眼が置 かれています。 これは、 自分たちの市場環境を考えれば、すぐに納 得がいくでしょう。 顧客ニーズの多様化やトレンドの変化になるべ く早く呼応し、顧客が望むサービスに修正していくことが成功への 近道になっています。 さらに自社だけでビジネスが完結することが 極めて難しくなっているので、自社の置かれている状況だけでなく、 外部環境の変化も考慮しなければ、長い時間をかけた計画でも無意 味になってしまうことが多いのも大きな理由でしょう。
モデリングアプローチでいち早くビジネスモデルを修正
筆者は、ワークショップでよくBMGでのビジネスデザインをト ランプにたとえて説明しています。 次の手札は次に打つ手です。 ト ランプでは、あらかじめ次の打ち手のパターンをいくつも想定して いたほうが、相手の出方によって次の手札を柔軟に選択できますが、 これはビジネスでも同じです。 何通りものアプローチを考え、 検証 し、市場や環境が変わった際には、いち早くビジネスを最善のモデ ルに修正していきます。 これを「モデリングアプローチ」 と言いま す。 モデリングアプローチを用いる際、 ビジネスモデル・キャンバ スを上手に活用できれば、 様々な状況に応じてビジネスモデルの見 直しや改善のための可視化とコミュニケーションがより簡単に行えるようになります。
かつてない変革のスピードについていくには
ビジネスモデルイノベーションは、まったくの新しい分野ではな く、長年にわたって数多くの研究や実践が行われてきました。 しか しここ数年、 業界をリードする企業や組織のビジネスモデルの変革 の規模の大きさやスピードの速さは、過去に例がないと言っても過 言ではありません。ビジネスに関わる私たちにとって、ビジネスモ デルイノベーションの課題を理解し、体系的に取り組むことは、ビ ジネススキルとして欠かせないものになっています。
皆さんも早速、ビジネスモデルキャンバスで自分の組織を可視 化して、 今、最善だと思えるビジネスモデルをデザインしてみましょ う。このモデルの検証に、時間や手間をかけすぎることは好ましく ありません。 キャンバスは、 実際の市場での検証結果にあわせて、 どんどん変化していくものです。 むしろ、今のモデルに固執せず、 捨てる勇気を持つことが肝要です。
2. ビジネスモデル・キャンバスの9つの要素
BMGのベースとなるのは、 9つブロックを作 成して顧客の分類や自分たちができる提案、 そして組織のリソース などを書き込んでビジネスモデルを理解していきます。 たった9つの要素という、 シンプルなキャンバスは業種や業態、 組織の規模を問わず活用できます。
ビジネスモデル・キャンバスにある9つの要素
ビジネスモデル・キャンバスを作成すると、 ビジネスモデルの記 述、分析、デザインを簡単に共有できます。 ビジネスモデル・キャンバスの9つの要素をビルディングブロックと言います。 ここでは簡単に「ブロック」と呼んでいきます。 ワークショップで議論する場合は、土台になるキャンバスを大き く描き、グループのメンバーが、 付箋やボードマーカーを使って一 緒にスケッチをしたり、ビジネスモデルの要素を議論したりします。 模造紙やホワイトボードにフリーハンドで枠を描いて、各ブロック の要素を書き込んだ付箋紙を貼り付けていくのがお勧めです。 それぞれの要素はできるだけシンプルに、かつ端的な言葉で表現 すると分かりやすくなります。 基本的に付箋紙にひとつの要素を1 件ずつ記述し、それを貼ったり、剥がしたりしながら議論を進めて いきます。 ブロックの9つの要素は次の通りです。
- 顧客セグメント (Customer Segments) : 組織の存在理由の根幹となる最も重要な要素で、 関係する顧客グループを設定します。
- 価値提案 (Value Propositions): BMGのコアメンバーであるティム・ クラーク博士と筆者は「顧客にもたらす価値」と解説しています。顧客の抱えている問題を解決し、ニーズを満たすもので、製品や サービスを通じて提供されます。
- チャネル (Channels): 顧客セグメントとどのようにコミュニケーションし、価値を届けるかを記述します。
- 顧客との関係 (Customer Relationships) : 組織が特定の顧客セグメントに対してどのような関係を結ぶかを記述します。
- 収入の流れ (Revenue Streams) : 組織が顧客セグメントから生み出す収入の流れです。 非営利団体や無料サービスの場合、 ゼロやマイナスで表されることもあります。
- 主なリソース (Key Resources):ビジネスモデルの実行に必要な資産を記述します。 物理資産だけでなく、 知的財産や人的リソー スなども含まれます。
- 主な活動 (Key Activities): 顧客にとっての価値を提供する源泉と なるような重要な活動を記述します。
- キーパートナー (Key Partners) : 組織の活動にとって、重要なパートナーを記述します。
- コスト構造 (Cost Structure):ビジネスの運営上必要なコストを 記述します。 ビジネスモデルに特有の最も重要なコストにフォーカスすると分かりやすくなります。
(例: スターバックス)
3.「顧客セグメント」 で、 属性ごとにグループ化する
では早速、 自分たち以外のビジネスでキャンバスを実際に作成す ることで自由に使いこなすための練習をしていきましょう。 はじめ てキャンパスを描く練習をするときは、もちろん自分たちのビジネ スで描いても良いのですが、比較的客観的に考えられる他社のビジ ネスをテーマにすることもお勧めです。
今回は、私から題材となるサンプル企業をご提示しますので、 そ のビジネスについて意見を出し合いながら、 キャンバスを作成して いきましょう。 テーマは、コーヒーショップであるスターバックス です。 皆さんで、スターバックスのビジネスモデルについて考え、 ディスカッションしながらブロックを埋めていきます。
顧客セグメントは、 志向や行動属性でグループ化
最初に埋めてほしいブロックは、顧客セグメントです。 スターバックスには、どのような顧客がいると思いますか?
まずは、思いつくままにどのような顧客セグメントが考えられる か、キャンバスにひとつずつ記述していきます。
思いつくままに列挙してみると、 「コーヒーが飲みたい」 という 顧客以外にもいろいろな意見が出てくると思います。 実は、顧客セ グメントのまとめかたにはコツがあります。 昨今、マーケティング では、顧客をある一定の志向、 つまり共通のニーズ、行動、態度な どによって、 セグメンテーションしてグループ化する考え方が主流 です。 BMG でも一定の行動パターンなどを想定して顧客をグループ化してまとめていきます。 もし、顧客セグメントのイメージがわ かない場合は、より具体的な顧客をそれぞれイメージして書いてお きましょう。その後で、それらをグループとしてまとめられるかを 議論していきます。
グループ化して番号を振って整理する
顧客セグメントについて様々な意見を洗い出した後、似たような 行動属性、 志向属性でグループ化できるものがないか探してみま しょう。 このとき、具体的な顧客セグメントは少し抽象化して、よ り広い範囲を指し示すように見直していきます。ビジネスモデルをデザインするには、まず優先すべき顧客セグメ ントを決め、そのニーズを深く理解することが不可欠です。 いった ん出てきた顧客セグメントをグループとしてまとめることで、自分 たちにとってフォーカスすべき顧客セグメントはどれなのか、そし て優先度を下げてもよいのはどれなのかということを決定しやすく なります。ヒントとして、別の顧客セグメントとして分けたほうがよい例を いくつか挙げておきます。
- ニーズを満たすために異なる提案が必要となる場合
- リーチするために異なる流通チャネルが必要となる場合
- 関係構築に異なる手段が求められている場合
- 収益性が大きく異なる場合
- お金を支払ってくれる部分 (価値) が異なっている場合
顧客セグメントがまとまってきたら、そのまとまりごとに、①、②、 ・・・・、と番号を振っていきましょう。 このとき優先度の高い(売り 上げの大きい) 顧客セグメント順に、ブロック内で並べていくと、 重要性がより視覚的に分かりやすくなります。
4.「価値提案」 で顧客のニーズと自分の価値をマッチさせる
ビジネスの価値とは、顧客の抱えている問題を解決したり、ニー ズを満たすもので、その会社や組織が選ばれる理由になります。 言 い換えれば、顧客が自分たちの何に 「お金を払ってもよい」と考え てくれているかとも解釈できます。
顧客に提供できるベネフィットは何かを考えましょう。 それは革 新的で新しい価値の場合もありますし、 既存製品に対して機能を追 加しただけのものかもしれません。 最近では、 企業が当初提供しよ うとしていた価値とは別の価値を顧客が見出してくれることで大き な成功につながることもあります。 こうした潜在的なニーズにいち 早く気づき、 意図的にそれを提供できるかがカギになります。
顧客セグメントごとに価値提案を考える
価値提案を 「顧客にもたらす価値」 と説明してい ます。 このブロックには、 先ほどまとめたそれぞれの顧客セグメン トに対して、どのような価値が提供できるのかを考え、 付箋に記述 していきます。 価値提案の要素を挙げていく際には、顧客セグメン トブロックのどれに対して提供できる価値なのかを考えていかなけ ればなりません。 対応する顧客セグメントが見つかったら、 それと 同じ番号を価値提案のブロックの付箋に記述します。
たくさん要素を挙げたら、いったん、 すべての顧客セグメントに 対応する価値提案が出ているか見直していきます。 どの顧客セグメ ントにも対応していない価値提案が出ていたり、価値がひとつも提供されていない顧客セグメントがあったりすれば、過不足がなくな るようにもう一度価値提案について考えていきます。 また、セグメントのブロックに立ち返り、 まとめ方を見直し てみるなど、議論を重ねながら修正していきます。
サードプレイス戦略が見事にキャンバスに反映
スターバックスのコンセプトのひとつに「都市に暮らす人々の心
のよりどころとして、家庭と学校・職場の中間となる第3の場所 (サードプレイス) を提供する」というものがあります。 キャンパスでも、価値提案として「居心地の良い空間」 「テーブル・ 椅子・電源(ファシリティ)」「リラックス・スペース」などが挙げ
られ、同社のサードプレイス戦略が見事に浮かび上がりました。 このコンセプトを知らなくても、キャンパスで議論を進めている と、スターバックスにコーヒーだけではない、くつろぎを求めてい る顧客が多いことが理解できます。 仕事の打ち合わせ、勉強待ち 合わせなど、シチュエーションは異なっていても、顧客が自分にとっ て居心地の良い空間に価値を見出していることが把握できました。
整合性が分かりにくいときはVP キャンバスで検証
5.「チャネル」 と 「顧客との関係」を検討する
チャネルのブロックには、の求める価値を提供していること を告知する方法やその価値を届ける様々なルートを記述します。 い わゆるマーケティングプロセスにおける認知、評価、購入、提供、 アフターサービスの5つのフェーズを含みます。 コミュニケーショ ン、流通、販売チャネル、アフターフォローを通じた客へのイン ターフェイスです。 顧客とのタッチポイントとして、顧客の経験に重要な役割を果たします。
顧客の購買プロセスすべてに配慮する
実際に皆さんのビジネスを考える際には、 自分たちの価値をどの ように知っていただき、 どの商品・サービスをどのように届け、 入、 決済していただくか、 その後のフォローまで一連の購買プロセ スに見合ったチャネルを記述していきます。 また、昨今では顧客の 購買プロセスを見極めることは非常に重要です。 顧客がどのような プロセスで購入を決断するのか、どのような決済手段を用いるのか、 顧客が経験するすべてのプロセスを把握することがビジネスを成功 に導く大きな要因になります。
顧客とどのようにつながっていたいかを記述
顧客との関係のブロックでは、それぞれの顧客セグメントに対し て、どんな関係を構築するのかを明確にしていきます。顧客セグメントがどんな関係を構築、 維持してほしいと期待して いるのか、どんな関係をすでに構築しているか、どれくらいのコス トがかかるのか、ビジネスモデルの他の要素とどう統合されるのか を検討していきます。
関係とは、対面や電話などパーソナルなものからオンラインによ ある自動化されたものまで、 様々です。 一般的には、顧客を獲得・維 持し、より高価なものを販売するアップセリングなど顧客を拡大す るためにどのような仕組みを持てば良いのか考えます。
時間の経過とともにキャンバスに修正を加える
キャンバスは、状況の変化に応じて修正を加え改善されることが 望ましいのですが、 特に顧客との関係は、時系列で変化することが 多分にあります。 例えば昔ながらの商店でも、はじめは店頭で販売 しますが、 お得意様には、 電話一本で配達することがあります。 ま たはじめてスーツをオーダーすると考えましょう。 採寸したりデ ザインを選んだりするのにオンラインや電話では不安になるかもし れません。 店舗で実際に対面して話したり相談したくなります。 し かし、いったん購入してサイズが変わらなければ、あとはネットで 柄を確認できれば、いちいち店に行かずに注文したいと思う顧客も 出てくるかもしれません。 このように顧客との関係は、時間や信頼 とともに変化することがありますし、 またこうした優良顧客を囲い 込む施策も検討していくことが求められます。
6.「収入の流れ」 と 「顧客との関係」を記載する
収入の流れのブロックは、企業が顧客セグメントから生み出すお 金の流れを表現します。顧客は自社のどんな価値にお金を払うのか、 企業は自分自身に問う必要があります。 これに明確に答えられる組 織でなければ厳しい競争を勝ち抜くことはできません。 顧客セグメ ントによって価格メカニズムは異なり、固定価格、安売り、オーク ション、市場価格、ボリュームディスカウント、利益管理などがあ ります。ビジネスモデルの成否は、実際には市場での検証後に収入 とコストの収支によって分かります。 キャンバスに詳細を記述でき なくても、どのようなお金の流れがあるのかに着目してみましょう。
もちろん具体的な金額は、きちんとしたバランスシートなどで検 証する必要がありますが、おおまかでもキャンバスに金額を入力で きれば分かりやすくなります。
どんな課金メニューがあるか検討してみよう
私が特にお勧めしているのは、どのような課金形態や課金メ ニューがあるかについて、 できるだけ具体的に検討することです。 課金形態によっては、ビジネスの立ち上がりにおいて差別化でき る要因になるかもしれません。 製品からサービス志向で課金する場合には、 特に重要な要素になります。 一過性の課金だけでなく、 継続的な課金方法にはどんなものがあ るか、またそうしたメニューを考えられないかを検討することで より強固な収益基盤を構築する手助けとなります。
ブロックの右半分は顧客と価値を結ぶ収入モデル
ここまででキャンバスの右半分の要素を埋めることができまし た。 キャンバスの中央に価値提案が位置し、右半分が顧客セグメン トとチャネル、顧客との関係、さらにそこから生じる収入の流れで 構成されています。 一方、 左半分は、これから埋めていく部分です。
7.「主なリソース」 と 「主な活動」を検討する
どんなビジネスモデルでも、リソースは絶対に必要です。 これが なければ、企業は価値を生み出すことも、マーケットにリーチして 顧客との関係を構築することも、収益を上げることもできません。 リソースには、資材や機械といった物理的なもの以外に、ファイナ ンス、 知的財産権、 労働力など様々なものがあり、会社が所有して いたり、リースされたり、パートナーから提供されたりします。
必要なリソースはビジネスモデルによって千差万別
主なリソースのブロックでは、ビジネスモデルを実行するために 必要になるリソース (資産) を記述します。 どんなリソースが必要 かはビジネスモデルによって変わってきますが、ヒト、モノ、 カネ といった多種多様のリソースの中でも、同業他社と差別化できる特 徴的なものにフォーカスして洗い出していきます。例えば、同じマイクロチップメーカーでも、大量生産で低価格を 実現しているA社は、製造ラインや機械への多額の投資が主なリ ソースとして必要になります。 一方、デザインの評価が高いB社では、 優秀なデザイナーや意匠権などが必要になるかもしれません。 この ように、 同業種や似たビジネスドメインの企業であっても、 主なリ ソースとして記述する内容が異なります。 自分たちならではの差別 化ポイントになる資産はなにかをじっくり考えていきましょう。
また、活動を通じて勝ち得た経験や実績など属人的なものをいかに資産化していくかも重要な観点となります。 企業や組織の資産として継承するには、マニュアルやデータベースなどのシステム化も 重要な要素になります。 また、それで特許を取得できればより大き 参入障壁となり、強固なビジネスモデルとなり得ます。
主な活動は、自分たちならではの活動にフォーカス
活動のブロックは、ビジネスモデルが機能するために組織が 取り組まなければならない重要な活動を記述し、企業が経営を成功 させるために必ず実行しなければならない重要なアクションに フォーカスします。 リソースのブロックと同様に、価値提案を作り、 マーケットへリーチし、顧客との関係を維持して、収益を上げるた めに欠かせない活動です。 また、同じ業界でもビジネスモデルの種 類によって主な活動が異なるのも、リソースと同様です。
例えば、 検索サービスのGoogleでは、主な活動の中にプラット フォームの維持管理が含まれるでしょう。 また、PCメーカーの Dell にとっては、製造ではなく、 主な活動としてサプライチェーン マネジメントが欠かせません。 つまり、 価値提案の差別化の最も重 要な要因となる活動にフォーカスすると分かりやすくなります。
キャンバスを振り返り主な活動の道標を探す
前述の大量生産で低価格を実現しているマイクロチップメーカー A社が、大量生産を可能にする製造ラインを資産として記述したと します。 低コストの資材調達や大量生産、あるいは販売チャネルの 開拓などが主な活動になるかもしれません。 一方、独自の設計やデ ザインで信頼の厚いB社は、最新デザインのための市場調査や優秀 なデザインができる人材の採用などをさらに活動として加える必要 があるかもしれません。主な活動を記述する “道標” となるのが、 主なリソースや価値提 案のブロックです。 主なリソースを担保し、維持するために必要な 活動や、顧客に提供する価値提案を向上させるために必要な活動な どが必要になるからです。
8.「キーパートナー」 と 「コスト」 を検討する
企業活動で欠かせないキーパートナーと、ビジネスで発生しているコストあります。 一般的に、ひとつの企業がすべてのリソースを自社で所有し、あ らゆる活動を行おうとするのは合理的とは言えません。昨今では、自社だけで完結するビジネスを探すほうが難しい状況です。 例えば、コストを下げるためにアウトソーシングしたり、グルー プ内などでインフラを共有したりすることはよくあります。 また、 ある分野では競合他社と戦略的アライアンスを組むことも珍しいこ とではありません。 リソースや知識・経験を補うだけでなく、 アラ イアンスの目的がリスクの低減になることもあるのです。
キーパートナーは、 代わりがいない重要な協業相手
パートナーとの関係ブロックでは、自社のビジネスモデルを構築 する上で欠かせないサプライヤーとパートナーについて記述しま す。 自社が外部に委託 (アウトソース) している活動や外部から調達しているリソースを洗い出してみましょう。
ビジネスモデルキャンバスに記述する際には、 代替のきくパートナーは記述せずに、 できるだけ代わりがいない重要な協業相手の団体名や個人名を記述していきます。 このとき、パートナーとの関係にすでに顧客セグメントのブロックで登場している名前が記述されることもあります。特にBtoBのビジネスでは、あるときはパートナーとして一緒にビジネスを推進 し、またあるときは顧客として価値を提供すべき相手になり得る ケースがありますが、 どちらにも記述してください。 迷った場合は、 自分たちがお金を支払う相手はパートナーに、お金を頂戴する場合 は顧客セグメントに記述します。
コストから左半分のブロックを導く
コストのブロックには、ビジネスモデルを運営するにあたって発 生するコストを記述します。このブロックは、自社のコスト構造において、 主な活動やリソー スから生まれるどのコストが高額になっているか、また、キャンパ ス全体の関係性によってどんな影響を受けるのかを検証するために 重要です。ビジネスモデルによっては、コスト主導でキャンバスの他のブ ロックが変化するものもあります。 典型的な例では、LCCなどが そうですが、低コストを維持するために必要な活動は何かを検討し ていかなければなりません。 また、必要最小限の活動以外をアウト ソースする必要が出てくることもあるでしょう。 一方、プレミアム な顧客をターゲットとし、価値提案の強化などを主軸とする場合は、 コスト削減などを重視するのとは異なるモデルをデザインしていき ます。 コスト構造を考える上では、固定費と変動費を分けて考える と分かりやすくなります。
9.イノベーションワークに戦略しよう
4つのステップでデザインプロセスを進めよう
BMGを自社に導入するために、どのように進めたらよいか分か らない場合は、右の図のような4つのデザインプロセスを踏んで行 動することをお勧めします。
- Draw (現状の把握): 現状のビジネスモデルをキャンバスに描き ます。
- Reflect (見直し):現状のままでよいのか、 課題問題点を抽出
- します。
- Revise (修正) : イノベーションに向けたキャンバスの修正・反 映を行います。
- Act (実行 検証) 選んだビジネスモデルデザインを実行します。
実際のビジネスでは、外部環境や顧客の変化などによって、否が応でもビジネスモデルのリデザインが必要になります。
ワークショップでは、強制的に外部環境の変化を加えることで、 イノベーションの第一歩であるキャンバスの改編を行っていきます。ビジネスモデル・キャンバスでは、ある特定のブロックに変化を 起こすことで、 キャンバス全体の見直しが必要になります。
10. キャンバスに揺らし” を起こしてみよう
ビジネス拡大を考える際の定石として、既存の顧客セグメントに対して、より高い価値提案を行い、ロイヤリティの高い顧客を してせるというものがあります。 これは、マーケティン グの世界における、One-to-One マーケティングと呼ばれる考え方で す。 パレートの法則 (80-20の法則) でビジネスの売り上げの8割を生 み出しているのは2割の常だと言われていることからも、この への継続的なアプローチが重要だと分かります。
一方、プレミアム戦略をとりにくい商材や、市場自体が縮小傾向にあるビジネスにイノベーションをもたらすには、まったく新しいセグメントを創造することが非常に大きな意味を持っています。 そこで、新たな顧客セグメントを追加するというデザインモデルを作 成してみたいと思います。
顧客とエンドユーザの違いに注目しよう
例えば、スターバックスの店舗販売は、基本的にはBtoCのビジネ スモデルです。 そこに顧客セグメントとして、コンビニチェーン(企業) を新たに追加して、スターバックスコーヒーの価値をBtoB で提供す るモデルを考えてみます。 従来の価値提案だけでは成立しなくなり ますので、 主なリソースのブロックに記述してあったCI・知名度、
レシピメニューが価値提案にも当てはまります。 また、コンビニエンスストアチェーンを顧客セグメントではなく、 チャネルとして捉えると、コーヒーを飲みたいエンドユーザが顧客セ グメントとして追加されるBtoCモデルになります。 このように、サー ビスや製品の価値を享受するエンドユーザと、自分たちにお金を払っ してくれる顧客セグメントをしっかり把握して考えることが重要です。
また、スターバックスには当てはまりませんが、フランチャイズ制 がある企業ならば、そのオーナーを顧客セグメントに追加すること も可能です。 この場合、主なリソースであるブランドや運営マニュア 教育システムなどがいずれも、オーナーがお金を払っても良い と考える価値になります。
まとめ
ここまでで、ビジネスモデルイノベーションの考え方も、 道筋を 立てて可視化すれば納得しやすくなることに気づかれたのではない でしょうか? イノベーションのきっかけを見つけたら、別シートで 改めて議論しながら、目指すべきキャンバスをデザインしてみること をお勧めします。
NALでは、プロジェクトマネージャーから従業員までの質を向上させたいという目標を持ち、社内でスタッフトレーニングを常に開催しております。
詳しくはNALまでお問い合わせください。