管理会計のベース、 変動費と固定費
管理会計は業績改善を目指しています。つまり、会社のもうけを増やす から、売上と費用に分けて考えることができます。 売上の管理の方法につ ことを大事にします。 このもうけ、つまり利益は「売上-費用=利益」です いては、既に第2章2で紹介しました。 ここでは費用の管理方法を見てみ ましょう。
管理会計の手法を活用していくための準備として、費用を大きく2つに 分けます。具体的には、費用について「売上と連動するかどうか」という点に注目します。
費用は、 売上との関係をもとに分ける
まず、売上が増えたり減ったりすると、同じように連動して増えたり減っ たりする費用があります。これを「変動費」と呼びます。 もう一つは売上に 運動しない費用、つまり売上が増えても減っても関係なく、決まった額だけ かかってしまうような費用があります。これを「固定費」と呼びます。実務 でも比較的多く使われる言葉ですので、皆さんも一度は聞いたことがある かもしれません。
変動費と固定費に分けると、利益が容易に予測できる
変動費と固定費に分ける理由を3つの視点から考えてみましょう。 既に 管理会計に取り組んでいる方はこの変動費と固定費に費用を分けることや、 変動費と固定費という言葉の定義について何の疑問も持たないかもしれま せん。そういう方こそ、ここではその理由を改めて考えてみることをおすすめします。なぜなら、変動費と固定費という考え方は管理会計のベースであり、このことに続く他の管理会計の説明を理解する上でもガキになるからです。
まず、変動費と固定費を分ける一つ目の理由は、利益の予測をするためです。 売上の予測というのは、多くの会社でもやっています。 やはり、それだけ 会社にとって売上は重要だからでしょう。 例えば、 売上が2割増えると見 込んだ時に、利益はいくらになるかについても経営者は知りたくなるものです。このような場合に備え、変動費と固定費を分けておく必要があります。つまり、費用を2つに分けると、変動費は売上が増えたときに連動して2 増えるからこの金額、 固定費は変わらず今月と同じ金額というように考え ことができます。 その結果、 売上からこれらの2つの費用を引くことで、利益が計算できるのです。 また、これとは逆に、売上が減る場合も、同じうに変動費と固定費に分けて計算すれば、利益の予測が容易にできます。
家計と同じで、 固定費を減らした効果は長く続く
変動費と固定費に分ける二つ目の理由は、費用の削減効果に違いがある ためです。
業績が悪くなり売上が落ちた会社がリストラを行うという話を新聞など でもよく目にします。 このように人件費のカットに取り組むのは、人件費 が固定費であるからです。 つまり、売上が減っても一緒に下がってくれな い費用だからこそ、わざわざ取り組む必要があるのです。
ただ、一度大変な思いをして減らしてしまえば、その効果は長持ちすると いう特徴があります。家庭の家計改善と同じです。 食費のような変動費は がんばって減らしても次の月に気を緩めるとすぐに増えてしまいます。 効 果が一度きりなのです。 一方で、家賃や保険料のような固定費は、一度下 げてしまえば、 ずっと下がり続けてくれます。このように、固定費は削減するのは確かに大変なのですが、その分効果が持続するために、実務でも改 善策の一環として取り組む会社が多いのです。
少ない固定費で、新規事業のハードルを下げる
三つ目の理由として挙げられるのは、新規事業を行う場合には、固定費に はとくに注意が必要だからです。
新たな事業を始める場合には、なるべく固定費がかからない方法が望ま れます。なぜかといえば、固定費を少なくしておけば、 売上が増えない場合 には費用も少なくて済むからです。 このため、 すぐに売上が上がらなかっ たときやうまくいかなかったときも赤字幅が小さくなります。例えば、いきなり大きな重機を購入するのではなく、必要な時だけリースをしてみて様子をみるという方法が考えられます。
新規事業というと、どうしてもお金がかかるために二の足を踏むことも 多いものです。しかし、このように固定費を抑えることで赤字や資金を 心配を減らせるなら、 新規事業に取り組むハードルが下がるのではない でしょうか。
一般的には固定費を抑えようとすると、その分変動費は割高になること が多いものです。先ほどの重機の例であれば、1か月当たりのリース料は 入した場合に比べると高いでしょう。実務では、ずっとリースを続けて 曇りは、稼働率が一定程度になり購入したほうが確実に得になる段階にな 初めて購入するという手もあります。このとき、リースから購入に切 替えるタイミングを見極めるにも、変動費と固定費の違いは役に立ちます。
三動費と固定費に分ける理由
- 利益を予測するため
- 費用の削減効果が違うから
- 新規事業では固定費にはとくに注意が必要だから
変動費と固定費、実務ではどう分ける?
それでは、実際にどのように変動費と西費に分けたらいいのでしょうか。会社のある費用を変動費と固定費に分ける方法を具体的に見ていきたいと思います。
まずは基本の「勘定科目法」 を押さえよう
主な方法は2つあります。「勘定科目法」と「最小二乗法」です。ここでは、皆さんが感覚的に理解しやすい「勘定科目法」から見てみましょう。変動費と固定費を分ける上で基礎となる方法として、こちらをまず押さ えるのがおすすめです。
勘定科目ごとに、 内容をみて判断する
「勘定科目法」は、損益計算書の費用について、その勘定科目の性質をもとに一つひとつ判断する方法をいいます。 例えば、この勘定科目は売上に連 動して増えるから変動費、この勘定科目に含まれる費用は売上が増えても 金額が変わらないから固定費というように分けていきます。とてもアナロ プなやり方です。
具体的な勘定科目で考えてみましょう。売上原価に含まれる材料費、仕入高や外注費は、売上が増えれば同じように増えていきます。 一般的に、売上原価には変動費が多く含まれます。
次に、 販売費及び一般管理費です。荷造運賃は売上が増えれば増えるほ ど運動して増えていくはずなので、変動費と考えます。
では、給与、賃金、法定福利費などの人件費はどうでしょう。売上が増えても減っても1年というスパンでは連動して増えたり減ったりはしません。つまり、人件費は一般的に固定費として扱われます。ただし、人件費の中で も残業代は売上に応じて増減することも多いため、変動費とする会社もあります。また、地代家賃や減価償却費などは売上に関係なく一定額が毎月計上さ れるため、多くの場合、固定費になります。
一つの勘定科目に、変動費と固定費が混ざっている場合も
同じ勘定科目の中に変動費と固定費の両方が混ざっている場合もありま す。 例えば、外注費の科目の中には毎月定額の清掃費と、排出量に応じて価 格が変わる廃棄物処理代のどちらも含まれているというケースがあります。
このような場合には、変動費と固定費のそれぞれの主な内容と金額を確 認するようにしましょう。総勘定元帳をみれば、それらがわかるはずです。また、補助科目を設定している場合には、補助科目単位で固定費と変動費に 分けている場合もよくあります。
業種別データも参考になる
自社の事業をよく理解しているベテランの方であれば、比較的簡単に変 動費と固定費を分けることができるのではないでしょうか。一方、経理経験の浅い方や事業内容の理解がまだまだの方は、判断に迷ってしまうこと もあるはずです。
そのような場合には、 中小企業庁が出している下記の固定費と変動費の分解の情報が参考になります。
業種別の変動費・固定費の分類
- 製造業
- 卸・小売業
- 建設業
このように、製造業 卸・小売業、建設業という3つの業種について、勘定 科目ごとに変動費と固定費に分けています。
例えば、卸・小売業の場合に、 売上原価は変動費、販売員給料手当は固定費とされています。また、卸売業では車両燃料費は50%が変動費で、残り50%が固定費というように、先ほど紹介したような、勘定科目の中に変動費と固 定費が混在しているものにも対応しています。この資料をまずガイドラインとして活用してみてください。自社と異な る場合もあるとは思いますが、ゼロから考えるのに比べれば手数が減るでしょう。また、同業種の勘定科目ごとの変動費・固定費の傾向がわかるので、比 較することで自分の会社の特徴を理解することにもつながります。
100点の分け方はありえません!
ここでの注意点は、変動費と固定費の分解にはあまり悩みすぎないでほしいということです。そもそも変動費と固定費の分け方に100%正解の方法などありません。 例 えば、工場の電気代や水道代も、通常は製造量が増えれば上がっていきます。
しかし、実際は基本料金のようなものも含まれていて、定額の部分と、売上や 製造活動と連動する部分とに分かれています。これを「準変動費」と呼びます。また、固定費の中にも、ある一定水準までは定額で、それを超えると一つ ランクが上の金額である水準まで定額になるというような「準固定費」と呼ばれるものもあります。
「まずはあまり悩まないでやってみる」ということが、中小企業の実務を 知る立場からのアドバイスです。 費用を変動費と固定費とに分けて、実際に使っ てみてください。 活用したあと、「経営者にとって役に立つ情報を提供する」 という管理会計の目的と比べて、 「これくらいの正確さでいいや」「外注費だ けはもう少し細かく分けたほうが傾向がわかりやすいな」 というように、調 整していく進め方がおすすめです。
準変動費と準固定費のグラフ
ちなみに、冒頭で触れた変動費・固定費を分解するもう一つの方法である「最 小二乗法」 は統計的なやり方です。 こちらは、エクセルを活用することで簡 単に計算できます。 既に勘定科目法に取り組んでいる方は、こちらに挑戦 してみるのもいいでしょう。
会社の「体質診断」、 CVP 分析
CVP分析で、会社の体質を把握しよう
管理会計に関わる方は、「CVP分析」や「損益分岐点分析」という言葉を聞 いたことがあると思います。どちらもほぼ同じ内容を意味することが多く、「ここでは「CVP分析」と呼ぶことにします。CVP分析は自分の会社の「体質」を把握することに役立ちます。特に、会社の利益が出るか出ないかが容易にわかる損益分岐点売上高を求めること ができます。
もう少し正確に表現するなら、損益分岐点売上高は、売上高と費用が一 致して、利益がトントンになる売上高のことを指します。さらには、売上が 上がったり下がったりした場合に、利益への影響がどのくらいあるかとい うこともCVP分析を通じてわかります。 最近では、新型コロナウイルスの影響を受けて、売上高が下がった会社も多くあります。
例えば、A社とB社の売上がともに10%下がった場合を考えてみましょう。ともに売上は10%下がったのに対して、A社の利益は5%下がり、B社の 利益は15%もてしまいました。なぜこのようなことが起こるのかを知 あるのにも、 CVP分析は役に立つのです。
自分の会社はA社とB社のどちらの会社に近いのかをあらかじめ把握しておくことはとても大事です。つまり、売上高が減った場合に、利益がどれ だけ減ってしまうのかを把握すると言い換えることもできます。このように、会社の「体質」を知っておくことは、 皆さん個人の健康管理 と同じです。例えば、太りやすい体質の人は、健康のためには日常の食事や 運動に気を付けないといけないでしょう。 CVP分析は、決算書の数値から会社の体質を理解する格好の方法といえます。
変動費と固定費のバランスが、利益の出やすさに直結
まず、CVP分析は、ざっくりいえば、費用、売上、利益の3つの関係を把 握して、将来の予測をしましょうということです。
費用、売上高 (営業量)、利益はそれぞれ、 英語では、Cost (コスト)、Volume (ヴォリューム)、Profit (プロフィット) です。この頭文字を取って「CVP分析」と呼びます。
利益は、売上高から費用を引くことで求められます。この費用を、売上高に連動する変動費と、 売上 高に連動しないで決まった額が 発生する固定費に分けます。そして、変動費は「変動費率×売上 高」として表し、これに固定費を足して費用となります。ここでいう変動費 率とは、売上高に対する変動費の割合のことをいいます。
イメージ図で理解するCVP分析
それでは、イメージ図を見てみましょう。
横軸に売上高をとって、縦軸を金額とします。ここに売上高と費用の2つの線を引いています。これがCVP分析のイメージ図になります。まず、斜め45度の線が、売上高線です。横軸の売上高1に対して、縦軸 の売上高の金額も1になるので、角度が45度の直線で表されています。
次に費用を見ていきます。 売上高がゼロのところでも発生している部分 が固定費になります。固定費は売上高がゼロでも、1,000万円 2,000万 円でも、同じ金額だけかかります。これに対して、変動費は売上高が増えれ ば連動して増えます。このため、固定費の上に、「売上高×変動費率」で計 算される変動費が乗っかって、費用を示す線となります。売上が1増えるのに対して増える変動費の割合が変動費率になり、費用 線の傾きになります。例えば、売上高100に対して仕入などの変動費が35の ときは、変動費率が0.35となり、 費用線の傾きは0.35となります。この売上高線と費用線の2つの線が交わるところが損益分岐点売上高 です。 売上高と費用が同じ額になり、損益がトントンになる売上高を表し ます。
変動費メインなら、はじめから利益が出やすい
変動費と固定費のバランスがどのように利益に影響するのかを理解して おきましょう。
まず、変動費の割合が高い場合は、固定費が少ない分、少ない売上でも利 益が出ます。しかし、変動費が多くかかるので、売上の増えるのに連動して利益が増える度合いは少なくなります。
一方、固定費の割合が高い場合は、多くの売上を上げないと利益になら ないですが、損益分岐点売上高を超えると、変動費が少ない分、どんどん利益が出るようになります。
CVP分析の具体的な見方
安全余裕額とは、 まさに 「余裕っぷり」のこと
また、 CVP分析でよく出てくる次の用語を紹介します。
安全余裕額と安全余裕率
このようなCVP分析はどのくらいの頻度でやったらいいのでしょうか。
おすすめは年1回、例えば年度の決算が終わった後に、損益計算書の月 次推移表などを使って分析してみるといいでしょう。直近の決算書を使って、 変動費・固定費を分けることで、その期の利益が どのようにして生み出されたかを把握します。 分析するときには、変動費率、固定費の額、損益分岐点売上高、安全余裕額も計算してみて、どのような状 況かを確認してみましょう。このCVP分析を毎年しておくことで、自社の体質の変化にもすぐに気づくことができ、 変化があった時のアクションを起こしやすくなるはずです。
さらに、その変動費率や固定費をもとに月次の売上予測に基づい用の予測をし、次期の利益の予測へとつなげていくこともできます。
CVP分析といえば、損益分岐点売上高を出すことがメインのようにとら えがちですが、それだけではありません。むしろ、その計算の過程で変動費 率や固定費の実態を理解することがとても役に立ちます。まさに、会社の体質把握であり、現状の把握から将来の予測や費用の削減方法などの管理会計の活用につながっていくのです。
変動費・固定費でわかる、管理会計PLのカタチ
続いては、管理会計の損益計算書(以下「管理会計PL」といいます)を見ていきたいと思います。管理会計PLを作成している会社では、社内での日 常的な管理はこの管理会計PLの考え方がベースになることもあります。
管理会計PLと聞いて構える必要はありません。 なぜなら、これまで説明してきた変動費と固定費の分解がここでも登場するからです。変動費と 定費の区分こそが管理会計PLの大きな特徴なのです。
理解しやすいよう、普段見慣れている財務会計の損益計算書(以下「財 会計 PL」といいます) からおさらいしていきましょう。
まず、売上高、そこから製造活動の費用である売上原価を引いて、売上 利益を出します。この売上総利益は「粗利」とも呼ばれ、経営者が気にする 代表的な利益の1つとなります。粗利から販売費及び一般管理費(以下 管費」といいます) を引いて、営業利益を出します。
一方、管理会計PLでは、売上原価と販管費を変動費と固定費に分けることが大きな特徴です。まず最初に、売上高から、変動製造原価と変動販管費などの変動費グルー プを引いて限界利益を出します。この限界利益から固定製造原価、固定具 管費などの固定費グループを引いて営業利益を出します。 売上高と営業利 益はもちろん、財務会計PLと同じ数字になります。売上から引く費用を変 動費と固定費のグループに分けて、変動費グループを先に引いているとこ ろがポイントなのです。
費用を分けると、新しい利益が生まれる
費用を変動費と固定費に分けることで、 管理会計における利益が新たに 登場します。
経営者が気にする利益は、「売上 費用 = 利益」、売上から費用を引くことで求められます。この「費用を引くこと」を2段階に分けているのです。
最初に、売上から、売上に連動して発生する変動費グループを引いて出した利益を 「限界利益」 と呼びます。これは、「利益」「貢献利益」と呼ば れることもあります。
管理会計の利益に関する計算式
この限界利益は売上に連動する利益です。売上から売上に連動する費用 である変動費を引いているためです。あとは、限界利益から固定費グループを引けば、通常どおりの営業利益が計算されます。
管理会計の利益は「率」でみると便利
管理会計の利益のとらえ方のコツを一つお伝えしましょう。それは、「額」 ではなくて「率」でみることです。
具体的には、変動費率と限界利益率に注目してみましょう。 変動費率と いうのは、売上高に対する変動費の割合です。また、限界利益率は売上高に 対する限界利益の割合です。
例えば、100万円の売上に対して35万円の仕入などの変動費がかかる とします。 売上が200万円になれば変動費は70万円になります。 ここで 変動費率は、35万円÷100万円で0.35です。つまり35%になります。
そのとき限界利益は、100万円の売上から35万円の変動費を引いて65万 円となります。限界利益率は65万円 100万円で0.65です。つまり65% です。 このように、変動費率と限界利益率は、足せばちょうど1になる表裏 一体の関係になります。限界利益によって固定費を回収するというような感覚を持つとわかりや すいと思います。固定費というのは売上高が増えても減っても変わらず、決まった額が発生します。それを売上高が増えることに連動して増える限界利益で回収していきます。 限界利益で固定費を全額回収すれば、それ以降の売上からは利益を稼ぐことができます。変動費率、限界利益率は理屈も大事ですが、 まずは自社の数字を把握しておくことが重要ですのでぜひ計算してみてください。
「自分ごと」化につながる部門別PL
部門別 PLで、当事者意識につなげる
ここからは、部門別損益計算書(以下「部門別PL」といいます)を見てい ましょう。これは管理会計の本をみると必ずと言っていいほど出ている 点です。
まず、皆さんには「どうして部門別PLを作るの?」「部門別PLを作った 何の役に立つの?」ということを押さえてほしいと思います。この部門別PLが、実は管理会計の鉄板技を具体化したものであり、その 技についていろいろな場面で出てくるキーワードがあるということを理解 してください。
そのキーワードの一つは「細分化」です。細分化とは、「細かくする」という意味なのですが、管理会計ではこの技が 非常に好まれます。なぜかというと、管理会計が大切にするものに、「当事 者意識」 があります。なぜ管理会計をやるのかといえば、業績をよくしたい わけですよね。 とすると、 いろいろな部門の方に自分ごととして動いても らう必要があります。どうしたら自分ごとになるのかというと、その方にとっ て身近な数字や小さな単位にしてしまうのです。その1つの方法として、部門ごとにPLを用意します。 私たちにとって一 般的なPLというのは、全社PL、会社で1つだけのPLなのですが、そうでは なくて、自分が所属する、例えば営業部門だけのPL、若しくは管理部門だ けのPLが部門別PLです。このように全社のPLを細かく分けることで当事 者意識を持ってもらいます。 まさに部門別PLは、管理会計の鉄板技である「細分化」を体現したものといえます。
自分の会社では部門別PLを作成しないとしても、ここで説明する考え 方だけは押さえておいてください。そうすれば、会社の状況をより理解しやすくなるはずですし、部門別PLが必要か必要でないかの判断にも役立ちます。
部門別 PLはタイプによって使い方が異なる
もう一つ、皆さんに押さえておいてほしいことがあります。一口に部門 別PLといっても、 実はタイプが2つに分かれるということなのです。 も し皆さんの会社で部門別PLを作っている、 若しくはこれから作ろうと思っ ている場合には、どちらのタイプになるのかということを必ず押さえてお いてください。 なぜかというと、タイプによって使い道が違ってくるから です。まず一つ目は、異なるものが混ざっているケース(以下「異類タイプ」と いいます) です。 例えば、流通業の会社で、卸売をやっているけれども、小 売もやっているというケースがあります。あるいは、建設業をやっている けれども、それとは別に不動産賃貸業もやっていることもあります。 これ らの会社は、 会社内の事業ごとに利益率が違うはずです。その場合には、ど の業績がいいのかを見るために、できたら別々のPLを作っておきたいのです。 これが異なるものが混ざっているタイプです。
二つ目は、たくさんの店を展開しているような会社です。例えば、コンビ ニエンスストアのフランチャイズオーナーなど、数店舗から十数店舗を経 営していることがあります。 それぞれの店は、違いはなくどれも似ています。 これが2つ目のパターン(以下「同類タイプ」といいます)です。この「同類タイプ」の場合には、部門別PLをどのように使うかというと、 系列の店同士を比べます。 つまり、苦戦している店を見つけてサポートしたり、 うまくいっている店をベンチマークとして取り上げることができます。
では、一つ目に戻って「異類タイプ」の場合は部門別PLをどのように使ったらいいでしょうか。 規模にかかわらず、いくつかの事業をしているケー スの場合には、取り出した一つひとつ、先ほどの例でいえば、 卸売業と小売 業のそれぞれのPLを取り出した上で、業績を把握していきます。その上で、それぞれの前期比較をしたり、小売業の他社、卸売業の他社と比べたりする こともできます。 なぜなら、同じ会社の中で小売業、卸売業があったら、そ もそも業種が違うのでその両者は比較しづらいですし、違う業種を合わせ たままだと実際の業績も把握できないですよね。というように、この「異類タイプ」 と 「同類タイプ」では部門別PLの使い道が全く異なります。 部門別PLといってもタイプによって活用法が違うと いうことを、ポイントとして押さえておいてください。
部門と部門長は分ける考え方もある
そして、もう一歩踏み込んだ分け方があります。 個別固定費を2つに分 けるのです。個別固定費というのは、それぞれの部門でかかるものでした。例えば、徳島支店の固定費、これは個別固定費になります。これをさらに2つ に分けていきます。
では、どういう観点で分けるのかというと、管理可能と管理不能という考 え方なのです。ここで登場する人がいます。支店長です。その部門のトップの立場から見たときに、この人が頑張ったら減らしたり抑えたりするこ とができるのかどうかという点で、個別固定費を2つに分けるということです。その支店長が、頑張ってどうにかなるもの (以下「管理可能個別固定費」といいます)として、 例えば、水道光熱費が挙げられます。みんなで節電に 取り組めば削減できると考えるのです。一方で、 支店長に人の配属を決め る権限がないとしたら、人件費は支店長にとっては管理不能なもの(以下「管 理不能個別固定費」といいます) です。このように、同じ徳島支店でかかっている個別固定費だとしても、支店長 にとって管理可能か、管理不能かというので分けているのが、前ページの表 その点線の枠の中になります。このように管理会計は費用を何段階かに分けていきます。
決して間違えてはいけない、 2つの利益の意味合い
より具体的に見てみましょう。なぜ、個別固定費を管理可能と不能にわ ざわざ分けるのでしょうか。管理不能個別固定費のうちの1つ、家賃を例 に考えてみます。家賃は地域によってすごく相場が違いますよね。ご存じのとおり東京は
とても高いです。 ですが、 地方に行けば比較的安くなります。多くの場合、 支店長が支店の場所を自由に選ぶことはできないでしょう。 では、もし自 自分が支店長だったとして、自分の評価が部門利益で決まるとしたらどうでしょ うか。つまり、家賃の金額次第で自分の評価が大きく変わることになります。 皆さん、家賃がとても高い東京支店と、家賃が比較的安いであろう徳島支店、 どっちの支店長をやりたいですか。 たぶん皆さん、徳島支店なんじゃないでしょ うか。 ちなみに、徳島がダメと言ってるのではなく、 私の地元が徳島なので 例に挙げさせてもらいました。 徳島のほうがおそらく部門利益が出やすく なります。
ただ、これだと不公平なので、 管理不能個別固定費のような支店長では どうにもならないものというのは、いったん取り出しておきます。 その上で、 支店長全員に共通してなんとかなるであろうものだけ引いて利益を計算して、 支店長の評価に使いましょうということです。 表の部門別PLに部門長の評 価と書いてあるところ、ここがポイントになってきます。 この管理可能利 はなぜ計算するかというと、部門長の評価をしたいからということなの です。
逆に言うと、部門長の評価に用いないのであれば、わざわざこのように管 理可能・不能と個別固定費をさらに分ける必要もありません。 皆さんが業務 の中で、社長から部門長の評価の情報がほしいと言われたら、こんな手法も あるというのを覚えておいてください。まず手法の背景に必ずある目的を 押さえておくことが重要です。
まとめ
個別固定費を2つに分けるのは、部門長の評価と部門の評価 を分ける必要がある場合というふうに押さえておいてもらえれば十分です。このように部門別PLは、作ることや形式が重要ではなくて、 何を目的に 部門別PLを活用するのかが大事になります。 使い道がなければ、 作る必要もありません。まず目的があり、その上で使ってこそ、作る意味があるということを忘れないでください。結論からいうと、部門別PLは本当に必要な業種や場合に限って作成すれ ばいいでしょう。 例えば、 コンビニエンスストアのフランチャイズオーナー の場合は、店舗ごとに部門別PLを作成することで、 各店舗の業績がわかる ので意思決定に活用できます。 また、 不動産賃貸業も物件ごとに利益を把 握できれば今後の売却などの判断に有用です。 このように、 部門別の利益 までの業績が必要なケースというのは多くはありません。 ほとんどの場合 は、第2章で説明した勘定科目を使って売上を区分できるようにするのが、 効率の面からもいいでしょう。
ちなみに、本社費などの共通費の配賦は、 中小企業ではかかる手数のわ りにはあまり役に立たないことが多いものです。 そこで、共通固定費とし て区分して金額だけを明確にし、基本的には配賦しないでいいかと思います。NALでアジャイルチームに管理会計を実践しておりますので、また情報共有させて頂きます。