経理の延長線上で すぐできる管理会計
管理会計のカナメ、 月次決算
この章では、比較的手軽に、すぐに実践できるような管理会計の手法を紹 介していきます。 管理会計にはたくさんのリソースが必要と考える方もい あるかもしれません。しかし、中小企業でそういった対応は難しいのが現実です。 そこで、中小企業でも負担なく取り組めるような管理会計の手法を扱うことで、 「まずは少しやってみる」ことを一緒に目指したいと思います。
- 皆さんは管理会計をもうやっている!
管理会計というと、一般的には予算管理、 部門別損益計算書(以下「部門 別PL」といいます) をイメージされる方も多いと思います。 しかし、中小 企業の管理会計の第一歩は、 実は 「月次決算」にあるのです。もともと管理会計には特に決まったルールはありません。 経営者の意思 決定に役立つこと、日々の管理に役立つことが重要であり、これらがもっと も大事な目的になります。 具体的には、 税務申告の納税額の計算以外、すべ ての数字に関わるところが管理会計の範囲といえば、わかりやすいかもし れません。つまり、かなり広い範囲とまずはとらえていただきたいのです。もう少し詳細に見てみましょう。 経理や会計事務所の担当者が、 決算が終わった後経営者に報告します。 会計事務所の方であれば、納税額を伝えて、「いつまでに税務署に納付して ください」という話もするでしょう。このときに、例えば「売上高が今年は増えました」「利益が出ました」「利 益率が何パーセントです」ということも話す場合もあります。これは、「増 減分析」 と呼ばれます。
さらに、「今年は業績がいいですが、設備投資をしたので今後ちょっと資金繰りが苦しくなります」といった話もすることもあるでしょう。 こちらは「資 「金繰り」の観点からの話ですね。増減分析も、資金繰りも、 経営の参考になる情報ということでは共通して います。 このような経営者に役に立つ情報のすべてが管理会計に含まれるのです。
- まずは月次決算の精度を上げ
ようその中で、まずやってもらいたいのが月次決算です。数字の正確さにも気をつけつつ、なるべく早いタイミングで数値を把握することが大事です。そうすることが、管理会計の手法の活用や分析に当たってのファースト ステップになります。 月次決算が早く正確にできるということは、会社の 足元の業績の把握が可能ということを意味します。管理会計といえば、将来のことと考えがちです。しかし、月次決算がうま くいっていない状況で、予算の策定をしようとしても、不安定な土台の上に 建物をたてるような話なのです。そもそも把握している数字が正しくない のであれば、それをもとに将来を考えても意味がなく、正確でない予算で予 算管理をされてしまうと、営業や製造といった現場はむしろ混乱してしま います。百害あって一利なしということです。このように、実績の数値を通じて、 現在の状況を把握することが、管理会 計をはじめる上では重要です。そのためには、月次決算が管理会計のファー ストステップとなります。
- 年度決算よりも月次決算が大事な理由
「決算なら年に1回やっているので、それで良いじゃないか」と考える方 もいるかもしれません。 しかし、管理会計の視点からは1年に1度では遅すぎて、不十分なのです。過去1年間の活動の結果を年に1回確認する程度では、会社の状況を 握するのが遅くなります。また、時が経つにつれ詳しい情報を入手するのが難しく、分析をするにしても、その精度が粗くなってしまいます。
- 月次決算のカギは会計処理の違いにある
それでは、月次決算では具体的に何をしたらいいのでしょうか。まずは、月次決算に発生主義を取り入れることです。小規模・零細企業では、 現金主義を用いていて、 入金・出金があった時点で 記帳していくというのが一般的です。 つまり、「日々は現金主義、 決算で発生主義」 という現状を、重要なところから見直しましょう。 例えば、売上であれば入金ベースではなく、 業務の完了や請求書を発行したところで記帳しましょう。 おそらく、これは日頃、 会計事務所から改善 してほしいといわれていることと同じだと思います。
- スピードを出すためには、メリハリをつける
月次決算で重要となるのがスピードです。経営者は経理担当者である皆さんが思っている以上に、数字を手元に早くほしいと考えています。出てき また数値について、自分の肌感覚との答え合わせをしたい、何か変わったこと が起こっていないか確認したい… 経営者は月次決算をまさにこのような 目的で使いたいのです。とすると、月次決算が締まるのに1か月以上かかるというのでは遅す ぎてあまり役に立ちません。 魚と同じで、 数値も鮮度が大事です。やはり 翌月2、3週目、遅くても翌月末までには数値を経営者に届けたいところです。とすると、 月次決算が締まるのに1か月以上かかるというのでは遅す ぎてあまり役に立ちません。 魚と同じで、 数値も鮮度が大事です。やはり 翌月2、3週目、遅くても翌月末までには数値を経営者に届けたいところです。しかし、重要なものは発生主義という点と、なるべく早く数字を締めるという点は少し矛盾すると感じる方もいるかもしれません。 発生主義で実 務をこなすには手数がかかりますから、スピードが出にくくなるのも確か です。そこで、勘定科目単位で月次決算を組み立てることがポイントとなります。月次決算でやるべきことと、やるべきでないことを明確に分けていくとよいでしょう。
- 勘定科目ごとに「経営の役に立つか」を考える
次図は、月次決算で科目ごとに発生主義にするかどうかを整理したもの です。金額的な重要性や、固定費か変動費かなど、 他の要素もあるので一概に はいえない場合もありますが、一つの目安として参考にしてみてください。
まず、売上、仕入や外注費は、会社の事業の根幹に関わるもので、最初に、 発生主義にしてほしいものです。逆に、手を抜けるところもあります。 重要でないものは現金主義のまま とします。 この発生主義にする、しないの区分けをする時に大事になるの が管理会計の目的になります。この目的とは、 経営者の経営意思決定に役 立つことです。この目的に合わないものはやらないという判断をするといいでしょう。
賞与は判断が難しいかもしれません。 賞与引当金を計上して月次決算で 費用とすることで、月次決算の数字を正確にし、同じ年のどの月が儲かっているかの判断に役立てることができます。ただし、賞与は売上と連動する ものではなく、人事考課などに基づき、大体毎年同じ時期に支払われるもの です。このため、支払った時に費用としても、前期比較や月次分析で判断を 誤るということも少ないと考えられます。つまり、会社の求めるものに応 じて手間をかけるかどうか決める項目といえます。
たな卸資産も、在庫の金額が大きく、月での変動が大きければ、ぜひ月次 で正確にしたい項目ですが、少額であったり、毎月同じくらいの在庫であれ ば、月次では無視しても問題ないと判断できます。そして、減価償却費は過去に支払った金額を按分した費用ですので、 月ご とに分けたとしても減るものではありません。そこで、ここでは②に分類 しています。正直なところ、正確性を追い求めるとキリがありません。 経営の役に立 つかどうかという判断基準を持って、適度なところで正確性をあきらめる というところが、時間をかけないで管理会計を活用するコツなのです。管理会計も、 月次決算、 現金主義と発生主義など意外に親しみのある内容だと感じたのではないでしょうか。
勘定科目を増やすことが管理会計に?
- 部門別 PL の前に、売上を細分化してみよう
予算管理と同様、管理会計のもう一つの花形とされるものに、部門別PL があります。実は、中小企業によっては、部門別PLを作成するのが適していない場合 があります。その第一の理由は、部門別PLの作成には膨大な手数がかかる ためです。例えば、仕訳の際にすべてのPL科目に事業部門の情報を入れることは手 間のかかることであり、入力したからにはチェックもしなければなりません。また、共通費の配賦の仕方にも工夫が必要です。そこで、部門別PLに代わって、 まずは、売上高などの重要な科目だけ細分化するというやり方をおすすめします。ご存じのとおり、 「売上-費用=利益」 であり、 まずは売上にだけ注目する のです。 売上を細分化し、 中身と傾向を理解することで、売上アップから 利益アップにつなげるヒントを得る方法を見つけられることも多いのです。
- 経営者がもっとも知りたいのは「売上」 なのに・・・
PLの中で経営者がもっとも気にしている科目は何でしょうか。 それは、売上です。 しかし、PLの中ではほぼ唯一の収益なのにもかかわらず、 細分化されずにたった1つの勘定科目として扱われることがほとんどです。 費用はその性質ごとに名前が付けられて、金額がわかるというのと対照的です。 これを補うために、売上については別の管理方法を取り入れている会社 も多いのではないでしょうか。 例えば、販売数量と販売単価に分けて状況を把握しているのもよくみかけます。 その一方で会計の面では、売上は大 切なものなのに大事にされていないことが多いのです。 そこで、このような事態を解消すべく、売上を構成する勘定科目を複数に 分けて設定することをおすすめします。
- 「売上は 「顧客」からいただくことにまずは注目
売上は部や課といった社内部門ごとに把握されるのが一般的です。例えば、 営業部門が一課から三課まで分かれている場合には、その課ごとに売上が 把握されます。 予算作成時に 「ノルマ」として各課ごとに売上金額を設定していることが多く、これと比べるためといえます。 営業パーソンごとの売 上を集計する場合もありますが、これも同じ考え方です。このような会社の 「中」の区分は、各人に目標をもって頑張ってもらうの には役に立ちます。 しかし、会社の事業戦略として、売上アップのヒントを 得るには、会社の「外」の区分に目を向けてみるとよいでしょう。 代表的な ものとして、顧客に注目した区分です。まずは、単純に顧客ごとの売上を把 握してみましょう。
- 売上の傾向を説明するニッパチの法則
「売上上位2割の顧客で売上金額の8割を占める」 という話を聞いたこと があるでしょうか。「28 (ニッパチ)の法則」 とか「パレートの法則」と呼 ばれる経済学の法則です。 つまり、顧客ごとの売上は均等に分かれず、偏り が大きいということを意味しています。皆さんの会社は、顧客数は何件あって、 1顧客当たりの売上はいくらで、 上位2割の顧客が占める売上はどれくらいでしょうか。 ぜひこれらの数 字は覚えておくといいでしょう。 経営者や営業畑の方に一目置かれるはずです。自社のこれらの数字を見ても、一部の顧客に偏っている会社と、多くの顧 客から広く売り上げている会社とに分かれます。 同じ業界に所属する会社 の間でも、売り方によっては傾向が異なることもしばしばです。大事なのは、単に顧客ごとの売上を計算することではありません。 その 全体像を数字を使って正しく整理した上で、どうしたら更に売上を伸ばせ るのかを検討することにこそ価値があるのです。残念ながら、経験が長い方ほど作業として割り切って本当に大事な情報 を見落としてしまうことがあります。 また、計算だけは自動でなされ、 資料 も毎月共有されているものの、 整理や検討が十分にされていない会社も多 いものです。 逆にいえば、集計された数字を丁寧に分析することで、 他の 会社から頭一つ抜けることができるのです。当然ながら、 売上は顧客からいただけるものです。 売上の数字に注目す るのであれば、 まずは顧客別に区分された売上を検討することから始める と多くのヒントを得られるはずです。
- 自社の目的に応じて、 エリア別や販路別も効果的
顧客別に分けた売上をもう少し大きなくくりで分けるのも有効です。 例えば、顧客の業種別、顧客のエリア別などです。それ以外にも、顧客の新 規獲得に力を入れる事業であれば、新規顧客と既存顧客という分類もいい でしょう。勘定科目の話に戻すと、正直なところ、顧客別に売上高の勘定科目を設定 しているところはどちらかといえば少数派です。その代わりに、エリア別の売上高を採用しているケースはしばしば見かけます。 例えば、東京と神 奈川など地域ごとに売上を分けておくと、決算書の前期比較でどこのエリアの売上が増減しているかがわかります。さらに、販路別という方法もあります。 例えば、 最近、 株式会社形態で農 業に事業として取り組む法人が増えています。 そこで、農協の売上と独自 の販路として開拓したスーパーマーケットの売上を分けて勘定科目として みましょう。そうすると、農協以外の売上を積極的に増やしていきたいという経営者 の目標の達成度合いが、いつもの決算書を通じて把握できるのです。 一般 的に、独自販路のほうが利益率が高いため、利益がどれだけ増えて、税金が どれだけかかるかという説明にも繋がっていきます。作成した決算書をそ そのまま税務署に提出することもできます。経営者にとっては、自分が知りたい情報がひとまとめにわかるというのも、 売上について複数の勘定科目を用いることによる大きな利点です。
- 販売形態別なら、利益率の傾向もわかる
利益率が異なることに注目した売上の分け方としては、他のケースも挙 げられます。それは、飲食店での販売形態別での分け方です。新型コロナウイルスの影響により、 店内飲食に加えて、 持ち帰り (=テイクアウト) を始めたり、より注力する飲食店も数多くあります。居酒屋がお 弁当を始めるのも同じことです。この販売形態に応じて勘定科目を分ければ、容易にそれぞれの金額がわかります。例えば、「店内飲食売上」と「持ち帰り売上」 などです。面白いことに、この 「店内飲食売上」と「持ち帰り売上」の利益率は、飲食 店でも取扱い種目によって異なっています。 店内でお酒を振る舞うようなところは、お酒の利益率は高いので、「持ち帰り売上」が増えることで利益率 が下がってしまいます。一方、ピザ屋やうなぎ屋のような飲み物の占める 割合が低い業態だと、利益率が下がらず、 数多くさばける分「持ち帰り売上」が増えることで利益が増加する傾向があります。つまり、いつもの決算書の売上を区分することで、現状を把握し、自社の 業種に応じた販売戦略を考える材料になるのです。必ずしも、わざわざ別 の資料を作る必要はありません。ちなみに、「店内飲食売上」の消費税率は10%、「持ち帰り売上」は軽減税 率8%と税率が異なります。勘定科目を分けることで消費税の税率区分に 対応できるため、消費税の処理に関する間違いも見つかりやすくなります。つまり、一石二鳥の方法といえるのです。
- 補助科目ではなく、勘定科目がおすすめな理由
少し実務的な話になりますが、勘定科目ではなく補助科目を使って、売上 を分けるのはどうでしょうか。補助科目を使う場合には入力や管理が煩雑になってしまうというデメリットがあります。例えば、補助科目の項目に追加があったり、減ったりしたと きに、追加や削除をしないといけないということです。さらに、削除しない ままになり、使わない補助科目が増えてしまうのは間違いのもとにもなり ます。また、仕訳で入力ミスがあったときに、補助科目まで直すのは面倒かもしれません。加えて、前述のとおり、経営者に報告する決算書には補助科目が通常表示されません。したがって、別で内訳を用意しなくてはならず、経理担当者である皆さんの手間がかかると同時に、経営者にとっても資料が多すぎてしまうという弊害があります。これらの理由から、補助科目ではなく勘定科目を使って区分するほうかおすすめといえます。
いつもの帳票でできる! 管理会計の見方
- 管理会計は「ありもの」 活用からはじめよう
管理会計をはじめたいという会社の方に、よく聞かれる質問があります。「管理会計システムは必要ですか」「どの管理会計システムがおすすめですか」というものです。いずれの質問に対してもこう答えています。「新たな管理会計システムを導入することは必須ではありません。どの管理会計システムがいいのかも会社の管理会計の活用段階や課題次第です」 自社の管理会計で見るべき視点や項目が固まっていないうちにシステム を導入してしまうと、むしろ業務を硬直化させてしまうリスクが高いのです。しかし、実際にこう答えると、せっかくやる気に満ち溢れていた担当者の 方は、肩透かしをくらったような表情を浮かべることがあります。 ぜひそ のやる気は、システムという手段ではなく、 管理会計の実践自体に向けてほしいのです。このことは大手に比べて資金に制約のある中小企業にとってはむしろ良 いニュースといえるはずです。 裏を返せば、 中小企業が管理会計をはじめるためのコツはここにあるのです。それは、「ありもの」を活かすということです。
- まずは会計システムをフル活用する
「ありもの」としてまず活用してほしいのが、会計システムです。ほぼすべての会社で、会計システムが使われているはずです。ここには、お金に関する情報のすべてが記録されているわけですから、これを使わない手はありません。 もしかしたら、「通常の経理や税務のためのシステムな のに、そんなことができるのか?」と思う方もいるかもしれませんが、実は 会計システムには随所に管理会計の視点がちりばめられているのです。代表例として一つ挙げるとすれば、月次推移表です。私が知る限り、すべ ての会計システムで標準的な帳票として用意されているものです。 特に手 数をかけることなく利用することができます。中小企業が管理会計においてまず取り組んでほしいのは、 過去のデータ を目的に適った形ですぐに用意できるようにすることです。 そのためには、 仕組みを整える必要がありますが、「ありもの」の会計システムは、私たちに 手間なく正確な情報を用意してくれるすばらしいツールといえます。管理会計は、数値を使って将来を考えることを目的にしていますが、その ためには、過去のデータが必ず必要になります。 例えば、予算や業績見込み といった将来の数値を作るときにも、 実績数値を必ず確認しなければなり ません。このように、管理会計の土台は、会計システムの中にある実績数値といっしても言い過ぎではありません。実績数値を上手に保管し、取り出しやすい 形で提供してくれる会計システムを味方につけましょう。
- 「月次推移表」から、 業績の変化とミスの両方がわかる
では、実際にどのように活用できるのかを、 先ほど例に挙げた月次推移 表で見てみましょう。 月次推移表は、 貸借対照表と損益計算書の両方を用 意していることが多いですが、 特に損益計算書は分析しやすくておすすめ です。損益計算書(以下「PL」 と呼びます)の月次推移表は、通常、縦軸は勘定 科目ごとに表示されます。 横軸には、各月が並びますので、これを左から右 へ視線を横に移してみてください。これを繰り返すことで、勘定科目ごとの性質から、 季節や月による変動の 状況など、自社のPLの特性を理解することができます。実は、通常の経理業務の過程では、 前期比較や予算比較が中心のため、この月次推移という視点はあまり取り上げられません。しかし、管理会計に おいては自社の事業の特性を理解するためには必須の視点といえます。また、横に眺めていると、これまで数字が入っていた勘定科目がゼロに なっていることに気が付く場合もあります。それをきっかけに調べてみる と、仕訳漏れを発見することもあるでしょう。管理会計のためだけではなく、会計の正確さにも役に立つことも十分あります。最近の会計システムでは、月次推移表の勘定科目名をクリックすると、補 助科目や事業区分などより細かい区分で容易に確認することができる場合 も多くあります。 このドリルダウン機能も併せて活用すると、月次推移表 から理解できる情報はさらに広がることでしょう。
- 決算書の代わりに残高試算表を手元に用意
月次推移表と並んで、ぜひ活用してほしいもう一つの帳票は、残高試算表 です。残高試算表は簿記の学習の中でも説明されるくらい、会計にとってはベー スとなる帳票ですので、どの会計システムにも標準装備されています。日頃私たちは、 決算書を使って経営者に説明することが多いと思います。確かに、最終結果を説明するのには、シンプルにまとまった決算書が適して います。 その一方で、より多くの情報を得たい場合に役立つのが、この残高試算表なのです。
- 取引の規模や流れがつかめる 「残高試算表」
重要なのは、この残高試算表をどのように使ったらいいかということです。貸借対照表をまず確認します。 借方の1年間の合計と貸方の1年間の合 計から、取引の流れや大きさを知ることができます。 例えば、売掛金が1年 でどれくらい発生して、どれだけ回収することができたのかがわかります。 その結果、会社の取引規模がつかめるのです。また、借入金についても返済がどれだけ進んでいるのか、追加の借入が あるのか、もし返済が進んでいたら借方に金額が入っているはずだが、追加 の借入も同時にしているのであれば貸方 借方の両方に金額が入っているは ずといったことがわかります。このように、いろんな取引の結果として当期末の残高が決まるのですが、それに至るまでの取引の規模や流れをつかむ上で、残高試算表は情報源に なります。一方、損益計算書は少し見方が異なります。売上などの収益科目は、基本的には貸方に金額が入ります。そのはずな のに借方に大きな金額が入っていたら、多額の値引きやリコールが起きて いるのかもしれません。また、単純な会計処理のミスが起きていることも 考えなければいけません。
月次比較の徹底的攻略法
- 月次決算では丁寧に数字を 「比較」しよう
月次決算の数値が早く正確に出せるようになったら、月次決算の数値を 分析してみましょう。月次決算を作る目的は、会社の実態を客観的に把握 することにあります。 そのため、 単に数字を締めるという「月次決算」の作 だけで終わってしまってはいけません。その数字が意味することを抽出 して経営者に届ける月次決算「分析」こそが重要です。
「分析」というと、 もしかしたら ROE (5 参照)、営業利益率や回転期 間といった経営指標を思い浮かべる方が多いかもしれません。 ここでは、まず皆さんにとって身近な手法である 「比較分析」 を見てみましょう。比較とは、 2つの数値の差額を出してその原因を探るというとてもシン プルな手法です。 もしかしたらそのシンプルさと身近さゆえに物足りなく 感じる方もいるかもしれませんが、実は 「比較を制するものは分析を制する」です。
- 「引き算」 の比較、 「割り算」の経営指標
比較が「引き算」の手法だとしたら、経営指標は「割り算」の手法です。 経営指標はその性質上、月次ではそれほど変動することは多くないもの です。また、変動したとしても、その原因は「月末が銀行休業日だった」 な ご、経営には示唆が少ないケースがほとんどです。そのため、月次でわざわ 計算するのはもったいないというのが経営指標分析がされない大きな理 日です。では、経営指標はいつ、どのように、どんな指標を使ったらいいの については、この後詳しく説明します。
一方、比較は、管理会計のみならず、数値管理全般の鉄板技といえます。「分 析とは比較である」という言葉を、とあるデータサイエンティストの方が発 言しているのを聞いたことがあるのですが、 まったく同感です。
例えば、 当期の実績数値だけでは、それが多いか少ないかは、長年の動向 を知っているベテラン以外はすぐに理解することは難しいでしょう。 つまり、「実数」だけでは、実は情報として不十分なことも多いのです。しかし、参考になる数字と比較、つまりその差異に注目することで、目の 前の当期の実績数値が多いか少ないかがわかります。 そうすると、会社の 経理に詳しくない人でもその増減を通じて実態に迫ることが可能になるの です。特に、 中小企業の場合は、ビジネスモデルはシンプルな一方で、 それぞれ の会社の個性が強いことが多いものです。 このため、 他社と比較したとき に役立つ経営指標が意味をなさないこともしばしばです。その代わりに、 自分の会社が、 経営者の狙いどおりに進んでいるのかどう かを判断するために、自社の前期や前月との比較により実態を把握してい くことのほうが意味があるといえます。
経営指標は、ROEや回転期間といった貸借対照表項目を含むものも多く、月次ではあまり変動しないと考えられます。このため、月次で指標を算出しても、会社の実態の把握に役立つ可能性はあまり高くないでしょう。なので、年に1回か半年に1回くらい、あるいは何かおかしいなと気になったとき、健康診断のように経営指標の数値をみておく程度が良いでしょう。そのくらいで、経営指標に表れる大きな流れは把握できるのです。
- 比較の目的をふまえて差異を調べる
比較分析というのは、 当期の実績数値を関連する数字と比較してその差 原因を探る手法のことです。ただし、実務では毎月くり返し行うため、「分析」 というよりも単なる「作業」になってしまいがちです。 しかし、それぞれの 比較には本当は目的があります。ぜひそれを押さえておきましょう。比較対象として登場する数値は、主に前期実績と予算の2種類があります。予算は中小企業では作成しない会社も多いので、ここではまず、よく使わ これる前期実績を見てみましょう。 当期実績と前期実績を比較する方法を、 「前 ■比較」と呼びます。 これには、前年と違う今年のトレンドを把握するという目的があります。
おそらく、「前期比較なら前からやっている」 という会社もあるでしょう。 しかし、前期比較形式で帳票を会計システムから出力して眺めるだけ、又は 前期実績との差異について経営者に質問されたときにその内容を調べてい るだけならば、 十分ではありません。 ぜひ差異の金額を計算するのではな く原因を調べる、 経営者に聞かれる前に自分たちで気になる差異を確認す るようにしましょう。というのも、比較した差異の数字それ自体というより、その背景で何が 起きているかという情報のほうがよっぽど重要だからです。 そして、 経営者 が知りたいのは差額ではなく、原因となる情報なのです。つまり、前期比較はその差異を計算することではなく、その差異が意味す ある事業の変化を把握するために行います。 数字に裏付けされた情報は、 経 営判断で価値の高い情報となります。
- 差異を調べるには、「仕組み化」が必須
といわれても、実務では、たくさんの差異をすべて調べるのは本当に大 変です。なるべく効率的に差異を調べることができるようにするためには、 仕組みを整えることが必要です。 仕組みといっても恐れる必要はありません。ここでも「おりもの」 を使いましょう。先ほどと同じく、会計システムが役 に立ちます。まずは、会計システムの勘定科目を活用しましょう。 会計システムであれば、 と当期の比較表は簡単に出てきます。 中には手作業で前期比較の資料 を作成している会社もありますが、システムから自動で作成されるのであれば、 時間にもつながります。 ここでも、通常の経理作業や税務申告を目的 とした、会計システムを活用することで、経営に役立つ情報を同時に得ることができます。
「細分化」 & 「切り口が同じ」なら、差異は調べられる!
仕組み作りの具体的な方法に加えて、仕組み作りのポイントも押さえておきましょう。例えば、先月の売上高が前期よりも著しく増加していたとします。この 場合は、売上高がどの部門で増えているか、どの商品で増えているかなどを 確認すると思います。 このように、より細かい単位に分割して差異のあり かを調べるという方法を皆さんは採るのではないでしょうか。つまり、比較をするためには、対象となる2つの数値が、 ①細分化ができ、②細分化されたその切り口が同じである必要があるのです。先ほどの売上の例のように、 部門や商品といった同じ切り口で、 前期と当 期の売上の数字を区分けできれば、 どこに違いがあるのかが一目瞭然です。
頻度に注意して使う、経営指標
- 経営指標は、他社や過去の自社との 「ざっくり」比較に向く
4で、月次では比較を徹底的に行うことを取り上げました。そうはいっ ても、経営指標が気になる、使ってみたいという方もいるでしょう。そこで、中小企業におすすめの指標とその使い方を見てみたいと思います。 確かに、経営指標は使い方によっては経営に役に立つものです。客観的 な視点から自分の会社の状況を把握したり、自分の会社の強みを把握した りできます。最近では、ROE (「アールオーイー」と読みます)、ROA (「アールオーエー」 と読みます)という言葉を聞いたことのある方もいるかもしれません。新 聞などで目にすることも増え、流行っていると感じます。 加えて、流動比率、 営業利益率などは中小企業でもよく利用されています。こういうものをまとめて 「経営指標」 と呼びます。 まずは、 「パーセンテー ジで示される数字」とざっくり思ってください。経営指標の多くは、2つの 数字を割り算して求められるため、 パーセンテージで表示されます。 経営指標は、他社とざっくり比較をするのに役に立つものです。
- 経営指標は「健康診断」、年に1回が目安
比較は月次でするものと説明しましたが、 経営指標はそれほど頻度は高 くなくていいでしょう。 具体的には、1年に1回程度がおすすめです。健 康診断や人間ドックも年に1回受ける方が多いのではないでしょうか。こ れと同じです。健康診断などでは、血液検査をはじめ受けた検査の結果が、いろいろな
数値となります。 目安として提示されている正常値や、 前年の自分の数値 と比べることで、自分の現在の健康の善し悪しを把握するはずです。正常 値と比べるのはまさに他社比較であり、前年の数値と比べるのは過去の自 社との比較と同じことです。つまり、客観的に定点観測することが状況把握に役に立つのです。 健康 についても言えることですが、日々の変化は小さすぎて、自分では気が付か ないということもありえます。だからこそ、年に1回程度は客観的に自社 を見つめ直すのもいいでしょう。もしくは、調子が悪いと思ったときは、積 極的に調べてみるのも大事です。
ただし、経営指標も健康診断の結果も、これだけでは本当に病気なのか、 そして何が原因なのかはわかりません。そこで、健康診断であれば精密検 査が必要になるのと同様に、 月次での比較分析を活用することで詳細がわ かります。このように、 経営指標は、問題の兆候を把握するのには役に立つ ものなのです。また、せっかく経営指標を計算するのであれば、経済産業省の「ローカル ベンチマーク」を使うのもいいでしょう。 これはまさに企業の健康診断と 呼ばれています。 各業界の平均数値を無料で入手できるので、他社との比 較を容易に行えます。
- 中小企業向きとはいえない ROEROA
5年ほど前から、ROEとROAという言葉をよく聞くようになりまし た。新聞記事でも頻繁にみかけます。 顧問先の経営者の方からも、「うちの ROEはどれくらいなの?」「うちのROEは大丈夫?」と聞かれることがあ ります。税引後純利益を株主資本で割って計算さのがROEです。株主資 本とは、貸借対照表の純資産の部のことです。つまり、株主が出したお金に対して、どのくらいの利益を稼いだのかという効率を見ています。ちなみに、利益のことを Return、株主資本のことを Equity と呼びますので、 それを割 り算 (On) したものということで、それぞれの頭文字をとってROEと表記 されます。
一方、税引後当期純利益を総資産で割ったものがROAです。 先ほどの株 主資本の代わりに、総資産で割ったものです。 これは、会社が持っている資 産全部を使ってどれだけ利益を稼いだのかという効率をみる指標です。 なお、 資産を意味する Assetの頭文字のため、ROAと表記されます。大前提としてお伝えしておきたいのは、ROEは上場会社向けの指標とい うことです。 上場会社はその名のとおり、 社外に会社のためにお金を出し た株主が多数います。 そこで、 株主にとって好ましい業績なのかをわかり やすく伝える指標としてROEが重宝されています。一方で、 中小企業の場合には社長がオーナーということが多く、 会社の業 績について経営者は誰よりもわかっていますから、 ROEやROA をそんな に重視しなくてもいいのではないかと思います。ただ、あまりにも有名な指標なので、 内容とその意味合いを押さえてお くのもいいでしょう。 聞かれて「わかりません」 というよりは、今述べた 理由と合わせて自社での取扱いについて提言できればスマートだと思います。
- 回転期間は違和感を感じたら、定期的に経過観察しよう
「回転期間」は古くからある指標ですが、とても大事な情報を与えてくれ ます。 売掛金を月次の売上高で割ることで、「売上高の何か月分の売掛金が たまっているのか」を教えてくれるものです。回転期間については、年に1度に加え、気になったときに計算してみるといいでしょう。例えば、「売掛金残高が 前よりも増えてきた」と 気になって、 実際に計算 してみたとしましょう。 前期までの売掛金の回転 期間は、大体1.5か月分 だったのに、最近では2か 月分もあることが確認できました。 このような場合には、しばらくの間、 例えば3か月に1回など、ときどき計算してみるといいでしょう。健康診断での経過観察定期的な 再検査のようなものです。
これは在庫を抱えているような業種の仕入と在庫の関係でも考え方は同 じです。 結果が悪かった場合、単に数値を見ているだけでは状況は良くな らないので、同時に原因を探したり、 対処したりという行動も必要です。 在 であれば、どの商品が多く残っているのかを確認したり、その原因が営業 の予測とのズレにある場合は、営業と原因を探り、今後の販売見込みが妥当 なのかを検討します。そういうアクションを取りながら定点観測することで、管理会計による業績の改善につなげることができます。
- オーナー会社に役に立つ「自社流」の利益
それ以外にも中小企業にとって注目すべき指標というと、やはり利益は外 せません。オーナー会社の場合には、税引後当期純利益よりも、これに役員 報酬や減価償却費を足した調整後の利益のほうが経営者に重宝されること があります。つまり、一般的に使われる利益ではなく、自社の目的に応じて アレンジした利益を使うのもアリなのです。
役員報酬を足した利益がなぜ重宝がられるのでしょうか。オーナー会社では、役員報酬を業績に応じて毎年改定するのが多いものです。例えば、利益が 多ければ翌年は役員報酬を増やすという具合です。 とすると、会社の事業 の純粋なもうけを見るには、 役員報酬の分を足し合わせてみたほうがブレ が少ないのです。どのような視点で判断したいのかを踏まえた上で、適切な指標を使うこ とが大事です。 既に使っている又は一般に使われている指標ももちろん候 補にはなりますが、 自分の会社の実態に合うのかを必ず判断するようにし てください。 その上で必要に応じて、 先ほどのようにアレンジすると良い でしょう。
では、減価償却費を足した利益は何に役立つでしょうか。 それは、資金繰 りを簡易的に示す材料として使えます。 ご存じのとおり、 減価償却費は会 計上は費用ではあるものの、 実際にお金がそのときに出ていくものではあ りません。 そこで、 減価償却費の金額の分だけ利益に足すことで、 手元に残る資金がおおむね把握できるのです。資金繰りが気になる経営者の方には、この指標を見せると確実に役立ちます。
まとめ
NALはアジャイルチームに管理会計の適用を進んでおります。マウスとテンキーだけを使った入力は、会計事務所にとって大切な効率 化が実現できるのはもちろん、 アジャイルチームに管理会計の取組みにもつながります。また、次のセクションを説明させていただきます。ご不明なところやご質問などについてNALまでお問い合わせください。