金融DXとは、金融に関わる業務プロセスやサービスのDXを実現させることです。金融業のシステムはレガシーシステムであるため、何も対策しなければ2025年を境にシステムが寿命を迎えて競争力や保守コストなど経済的な面で大きく遅れを取ってしまいます。
デジタル化の進展による顧客体験の高度化や複雑化した社会課題に多角的に取り組むためには、金融業においてもDXの推進が欠かせません。当記事では、金融DXの概要や先行事例、金融DXに向けた課題やポイントについて解説します。
金融DXとは
「金融DX」とは、金融に関わる業務プロセスやサービスをデジタル化を図り、業務改革などを行うことを指します。ITの進歩によって市場のデジタル化が急速に進みました。市場のデジタル化が進展した結果、金融機関は顧客体験の高度化や経営・業務の効率化など、内部改革や経営・事業課題の対応、チャネル戦略の練り直しが求められています。
また、高齢化に向けた地方経済再生やESG投資やカーボンニュートラルといった新たな社会的責任などの複雑化した社会課題にも取り組まなければなりません。様々な課題に対して多角的に取り組むには金融DXが非常に重要です。
DXとは?ビジネスにおいて重要な理由
DX(Digital Transformation)とは、デジタル技術を浸透させて人々の生活をより良いものに変革させていくことです。スウェーデン・ウメオ大学のエリック・ストルターマン教授が2004年に提唱した「進化を続けるテクノロジーが人々の生活を豊かにする」という概念がもとになっています。
ビジネスにおいてDXは「デジタル技術やデータを活用してビジネスに関わるすべてのプロセスに変革をもたらす」と定義され、経済産業省を中心に積極的にDXを推進しています。
また、デジタル技術の進歩ならびにデジタル化によって、市場環境の変化スピードは非常に早くなりました。様々な業種でこれまでにない新しい商品やサービス、ビジネスモデルが生まれています。
競争力を維持・強化し、今後も持続的に成長していく企業にしていくためには、DXによってあらゆるデータを収集・分析し、経営や意思決定に反映させる必要があるでしょう。
なぜ金融業でDXを推進する必要があるのか
冒頭でも紹介したとおり、金融機関が様々な課題に対して多角的に取り組むためにはDX推進が欠かせません。ただ、金融業がDX推進する必要がある1番の理由が「2025年の壁」です。金融業の最重要課題は信用を得ることであり、そのためには顧客の資産を安全に預からなければなりません。
そのため、セキュリティを最優先にするあまり金融機関のシステムはオンプレミス化(サーバーやソフトウェアを自社で構築し設置する運用方法)され、1部のシステム業者担当者しかアクセスできない閉じられたシステムとなっています。したがって、金融各社の要望通りにシステムが設計・拡張されたことで複雑化し、ガラパゴス化している状態です。
金融業界でDXが推進されなければ、2025年を境に既存システムが停止したり、データを新システムに移行できなかったりという事態になりかねません。また、メンテナンスや監視が不十分となり、セキュリティが脆弱になる恐れもあるでしょう。
これらの問題を解決するためには、システムを刷新し金融DXの推進が必要不可欠となります。
金融DXにおける課題
金融DXにおける課題として次の3つが挙げられます。
・レガシーシステムからの脱却
・DX人材の確保
・顧客のITリテラシーのばらつき
それぞれ詳しくみていきましょう。
レガシーシステムからの脱却
「レガシーシステム」とは、過去の仕組み・技術によって構成されたシステムです。レガシーシステムは変化に対応しづらく、新システムとの互換性が高くありません。
前述のとおり、金融機関のシステムはオンプレミスによって金融各社で独自の開発・拡張が進み、ガラパゴス化しています。事実、経済産業省が発表した「DXレポート」によれば、金融企業の100%が何かしらのレガシーシステムを抱えていることが明らかになっています。
特に長期間手が加えられていない部分は老朽化・ブラックボックス化が進んでいることから改善がしづらく脱却が難しいとされています。また、金融業界は顧客の資産を安全に管理し信用を得ることが前提のため、ミスは許されません。
そのため、ミスの発生リスクがある新しい取り組みに慎重になったり、無意識に避けたりする傾向にあることからシステム刷新が進みにくいのが現状です。
DX人材の確保
DX人材の確保が難しいのも、金融DXの大きな課題となっています。金融業界では「FORTRAN」や「COBOL」といった古いプログラミング言語が使用されてきました。
ただ、これらのプログラミング言語を使用していた多くの人材が定年による退職を迎えていることから、後継者に技術やノウハウなどを継承する必要があります。しかし、これらのソースコードは難易度が高いものが多いことから、引き継ぎが難しい状況です。
また、金融DXを推進するには、金融業務を理解したDX人材を育成しなければなりませんが、的確な対応ができる人材を短期間で育成できません。経済産業省によれば2025年にはIT人材が約43万人不足するといわれており、外部からDX人材を確保するのも難しい状況に陥っています。