DX導入では様々な課題に直面しますが、「2025年の崖」に代表されるように、企業は問題を先延ばしにできない状況へと追い込まれています。これから自社DXに着手する企業にとって、注力すべき点はどこにあるのかについて詳しく解説していきます。
DX導入の必要性とは?
DX導入で直面する課題を確認する前に、そもそもなぜ企業にDX導入が必要なのかを知っておきましょう。企業がDXを必要とする理由は様々ですが、大まかに以下の2つに集約されます。
- 市場環境の変化が激しい
- 「2025年の崖」を乗り越える必要がある
DXを力強く推進するには、DXの中長期的な計画や、継続的な投資を裏付けるだけの根拠がなければなりません。「自社になぜDXが必要なのか」に対する理由として、データドリブンマーケティングに変わりつつある市場環境の変化や、先延ばしにしてきたレガシーシステム残存の問題などがあります。いずれの事柄も、自社が今後10年、20年の中長期にわたって競争優位性を保つために今着手すべき課題であり、その戦略としてDXを掲げる企業が増えています。
市場環境の変化が激しい
昨今、企業のDXが注目・推進される背景に「市場環境の急激な変化」があります。様々な業界・分野でデジタルディスラプション(デジタル技術を活用した、既存の商習慣・ビジネスモデルの創造的な破壊)が起こっており、既存のビジネスモデルやマーケティング戦略では新興勢力に太刀打ちできない状況が生まれつつあるのです。
デジタルディスラプションを象徴するキーワードとして、「データドリブンマーケティング」や「BI(ビジネスインテリジェンス)」、「DI(データインテグレーション)」などがあります。企業は今後、競争力維持・向上のために、AIやクラウドなどの先端技術を応用したビジネスツールの導入などを契機として、自社DXの確かなファーストステップを踏み出す必要があるでしょう。
「2025年の崖」を乗り越える必要がある
「2025年の崖」は、経済産業省が2018年9月に公表した「DXレポート」で言及された内容であり、「日本の多くの企業が抱えるレガシーシステム残存の課題を2025年までに解消できなかった結果、日本企業は市場競争力を失い、2025年以降、年間最大12兆円の経済損失が生じる可能性がある」ことを指摘したものです。DXレポートでは、市場環境の変化において足かせとなるのがレガシーシステムであり、レガシーシステムの刷新を足がかりとして、2025年に向けたDX施策を展開していく必要がある、と言及されました。
DXレポートが公表された2018年当時、「2025年の崖」の受け止め方は企業それぞれでしたが、デジタルディスラプションなどを顕著として、徐々に自分事として受け止める企業が増えてきています。DXを1つの潮流や流行としてではなく、経営レベルで受け止めるべき課題を内包した取り組みであると今自覚しなければ、企業の競争優位性は今後一層厳しいものとなっていくでしょう。
今さら聞けない「DX」と「デジタル化」の違い・関係性
先ほど「市場優位性を保つために、デジタルツールの導入を契機とした自社DXのファーストステップを踏み出す必要がある」と説明しましたが、DXとデジタル化の違いについて、いまいち理解できていない方もいることでしょう。「何をもってDXと定義するのか」については解釈が分かれる部分ではありますが、DXとデジタル化の違いは「目的」にあると端的に説明できます。
- DX:先端技術を活用して社内業務の改革を達成し、顧客へ新たな価値を提供する
- デジタル化:デジタルツールを導入し、社内業務の効率化・省力化を図る
DXの最終的な目的は「顧客への新しい価値提供」にあり、その過程においてデジタルツールを活用した社内業務の効率化などがあります。つまり、DXはデジタル化の過程を経て達成される事柄なのです。ゆえにデジタルツールを導入して社内業務の効率化・省力化を実現しても、DXの過程ではファーストステップに留まっていることになります。ここから歩みを進めるには、企業の経営層がDXの重要性を理解し、経営レベルで自社DXを構想することが重要です。その後DX推進チームなどを設置し、自社DXを力強く牽引する人材(DX人材)を育成・確保するステップへと移行していく必要があります。
企業のDX導入率・導入状況
企業のDX導入はまだまだ発展途上といえます。2018年9月にDXレポートが公表され、その後もDXレポート2、DXレポート2.1と追加で調査書が報告されていますが、依然として、中小企業を中心にDXの取り組みは進んでおらず、多くの企業で「未着手」あるいは「単発的な施策に留まっている」のが現状です。2025年まで残された時間は短く、未だ自社DXに取り組み切れていない企業にとって、これからの数年は厳しい戦いを強いられるでしょう。DXの取り組みはいきなり大成することはありませんので、1つずつ自社の課題を解決していくことが近道となります。
日本国内全体としてはDXが進み、大手企業の牽引状態が続く
IPA(独立行政法人情報処理推進機構)が作成した「DX推進指標 自己診断結果 分析レポート」によると、DX推進の自己診断ツールを活用する305社の自己評価を調査したところ、2020年の平均値は1.60となり、2019年の1.47ポイントから0.17ポイント上昇したことが分かっています。日本国内全体としてはDXが進んでいる印象を数値からは受けますが、実態は大手企業が牽引しているような状況であり、中小企業全体ではDXが進んでいるとは言えない状況があると報告されています。
また、2020年に自己診断ツールを活用して提出した大手企業は141社であり、そのうち2019年から継続して実施した企業は60社(42.6%)となりました。その60社は「すべての項目の現在値の平均が上昇」しており、DXの取り組みを着実に進めていることがデータから読み取れます。
自己診断に至っていない企業を考慮すると、DXへの取り組みは未だ発展途上
IPAが実施した「DX推進指標 自己診断結果 分析レポート」は、一見すると日本全体のDX推進状況を示したように感じますが、実際に分析対象となった企業総数は「305」であり、そのうち中小企業の数は「112」に留まっています。また、2016年時点のデータで日本全体の中小企業数は「357万社」であり、そのほとんどが自己診断レポートを提出していない実態を鑑みると、日本全体としては、よりDX未着手/発展途上の企業が多いと推測されます。
これから自社DXに着手する企業は、この状況に余裕を持つのではなく、早急に対応すべき課題であると認識し、着実に計画を進めていくことが重要です。
DX導入に際して企業が直面する課題
DX導入に際して企業が直面する課題には、以下のようなものがあります。
- 経営層の理解不足
- 現場のコミットメントが得られない
- 自社DXを主導する人材の不足
- レガシーシステムの刷新
- DX施策に継続的な予算を割けない
まず直面するのが「経営層の理解不足」と「現場のコミットメントが得られないこと」です。これらの課題を克服するには、社内の雰囲気作りが重要であり、またDXリテラシーを高めるための講座・ワークショップを計画するなど、具体的なアクションが必要となってきます。そこから「自社DXを主導する人材の不足」へとぶつかり、人材確保が難航することから、DX人材を内製化する動きへと移っていきます。IT人材をDX人材へと育てていくことで、レガシーシステム残存の問題が徐々に浮き彫りとなり、レガシーシステム刷新の対応や、新たなシステムの採用、デジタルツールの導入など、継続的に予算を割いていくフェーズへと入っていきます。
経営層の理解不足
企業DXは経営層の理解が得られなければ、そもそもスタート地点に立つことができません。先述したように、デジタルツールの導入などを通じて自社DXの推進を図っても、施策の目的が各部門・部署に閉じられているようでは、企業全体の取り組みとして吸い上げることは難しくなってきます。はじめは各部門・部署で取り組む効率化・省力化の取り組みも、いずれは企業全体としての売上拡大、企業価値向上へとつながっていく必要があります。そのためには、DXの取り組みを中央・またはトップで吸い上げる機関が必要であり、そこに経営層の強い意思が介在していることが重要になってくるのです。
現場のコミットメントが得られない
普段の業務に忙しい現場担当者の理解を得るのは、決して簡単なことではないでしょう。DXの構想は上層部で行うものの、現場で実際に先端技術を用い、日々の業務に落とし込むのは社員1人ひとりであるため、現場担当者のコミットメントが得られなければ、DXの取り組みは思うように前に進みません。経営層の理解不足の壁を越えられたのなら、勢いそのままに現場担当者の意識も変えていきたいところです。
自社DXを主導する人材の不足
自社DXの構想が全社的に共有され、現場担当者の意識改革も順調に進む頃、自社DXは新たな壁にぶつかります。それが「自社DXを主導する人材の不足」です。やる気はあっても、主導に必要な知見・ノウハウがあるかどうかは別問題であるため、自社リソースで間に合わない場合は外部パートナーなどに協力を依頼しましょう。
レガシーシステムの刷新
DX人材の育成・確保によって人材不足を解消した後は、構想した自社DXの計画に沿って、レガシーシステム刷新の問題へと取りかかります。昨今はデータのクラウド移行など、オンプレミス型の管理から管理コストが低い方法へと変化する流れがありますが、同時にセキュリティ面の強化も必要となるため、IT人材/DX人材を確保するだけの予算と体制作りがポイントとなってきます。
DX施策に継続的な予算を割けない
DX推進はいずれ、IT人材/DX人材によるシステム開発/保守業務などへと予算を割く必要が出てきます。DX推進は中長期的な経営戦略として位置づけられるようになるため、継続的に投資を行う姿勢が重要となります。後述するようなDX推進にかかる補助金などを活用し、自社DXを力強く進めていきましょう。
DXの推進ステップ|自社DXの始め方は?
DXの推進ステップは、主に以下のような過程を経験します。
- 全社的なDXリテラシーの向上
- 事業アイデアに基づいた個別最適施策の実行
- DX推進チームの設置と連携強化
- 中長期的なDX施策の立案
まずは経営層と現場担当者の意識改革、およびDXリテラシーの向上を意図して、全社的なDXリテラシー向上の機会を設けることになります。例えば業界のDX事例をケーススタディとしたり、自社DXの構想のためにDXアイデアを出し合ったりといった講座・ワークショップが望まれるでしょう。その後、事業アイデアをもとに部門・部署ごとで個別最適施策の実行へと移っていきます。いくら全社的な取り組みとはいっても、はじめは部門・部署内での取り組みから始める必要があります。各部門・部署の取り組みの成果は、徐々にDX推進チームへと吸い上げられ、全社的な施策として連動、一体感を持つようになります。DX推進チームは各部門・部署の動き、成果を注視しつつ、中長期的なDX施策の立案へと展開していく流れになるでしょう。
まとめ
DXの取り組みは日本全体で見ると、未着手・発展途上にあることが分かっていますが、「2025年の崖」はすぐそこまで迫っています。DXの必要性を感じている企業は今すぐにでも行動に移すべきといえるでしょう。しかし自社DXのファーストステップはなかなか踏み出しにくく、スタート地点に立つまでもいくつかハードルがあるといえます。
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