概要
DX白書2023は、情報処理推進機構(IPA)が企業のDX推進を目的に、2023年3月に発行した報告書です。この報告書では、「DX白書2021」の続刊として、日米企業アンケート調査結果の経年変化や最新動向、国内DX事例の分析に基づくDXの取組状況の概観、DX推進への課題や求められる取組の方向性などなどについて解説しています。今回は、この「IPA DX白書2023」から読み取れる日米のDXの違いや、今後企業が取るべき対応について考察します。
出典:https://www.ipa.go.jp/publish/wp-dx/gmcbt8000000botk-att/000108041.pdf
日米におけるDXの取組状況
日本でDXに取組んでいる企業の割合は2021年度調査の55.8%から2022年度調査は69.3%に増加、2022年度調査の米国の77.9%に近づいており、この1年でDXに取組む企業の割合は増加している(図表1-7)。ただし、全社戦略に基づいて取組んでいる割合は米国が68.1%に対して日本が54.2%となっており、全社横断での組織的な取組として、さらに進めていく必要がある。なお、DXに取組んでいる企業の割合とは「全社戦略に基づき、全社的にDXに取組んでいる」「全社戦略に基づき、一部の部門においてDXに取組んでいる」「部署ごとに個別でDXに取組んでいる」の合計のことをいう。また、全社戦略に基づいて取組んでいる割合とは「全社戦略に基づき、全社的にDXに取組んでいる」「全社戦略に基づき、一部の部門においてDXに取組んでいる」の合計のことをいう。
業種別のDXの取組状況を図表3-2に示す。日米ともにDXに取組んでいる割合が高いのは「金融業、保険業」、割合が低いのは「サービス業」となっている。
とくに、日本の「サービス業」ではDXに取組んでいない割合が4割を超え、同業種の米国企業や日本企業の他業種に比べ、DXの取組が遅れていることがわかる。
DXの取組状況を従業員規模別でみると日本は従業員数が多い企業ほどDXの取組が進んでいる(図表1-8)。日本の「1,001人以上」においてはDXに取組んでいる割合は94.8%と米国と比較しても高い割合を示しているのに対して、従業員規模が「100人以下」の日本における割合の合計は約40%、DXに取組んでいない企業が60%近くになっており、中小企業におけるDXの取組の遅れは顕著である。
なお、DXに取組んでいる割合とは「全社戦略に基づき、全社的にDXに取組んでいる」「全社戦略に基づき、一部の部門においてDXに取組んでいる」「部署ごとに個別でDXに取組んでいる」の合計のことをいう。
DXの取組において、日本で「成果が出ている」の企業の割合は2021年度調査の49.5%から2022年度調査は58.0%に増加した。一方、米国は89.0%が「成果が出ている」となっており、日本でDXへ取組む企業の割合は増加しているものの、成果の創出において日米差は依然として大きい(図表1-9)。
外部環境変化とビジネスへの影響評価
DX戦略策定に際しては、自社のあるべき姿(ビジョン)達成に向け、外部環境の変化や自社のビジネスへの影響を鑑みた取組領域を設定することが必要となる。
パンデミックをはじめとした、外部環境変化に対する企業のビジネスへの影響と対応状況を尋ねた結果を示す(図表1-11)。外部環境変化への機会としての認識で影響がありビジネスとして対応している割合で日本が高い項目は「技術の発展」「SDGs」「パンデミック」の3項目で約3割となっている。「プライバシー規制、データ利活用規制の強化」「地政学的リスク」「ディスラプターの出現」の3項目はビジネスとして対応している割合が米国の約4割から5割に対して日本は2割以下となっており、環境変化への認識と対応が遅れている。日本企業はグローバルな外部環境の変化へのアンテナを高くしていくこと、および変化を機会と捉えていくマインドのシフトが求められる。
なお、影響がありビジネスとして対応しているとは「非常に強い影響があり、ビジネスを変革させ最優先で影響に対応している」「強い影響があり、ビジネスを変革させ影響に対応している」の合計のことをいう。
取組領域、推進プロセスの策定
DXを進めていくうえでは、「顧客や社会の問題の発見と解決による新たな価値の創出」と「組織内の業務生産性向上や働き方の変革」という二つのアプローチを同時並行に進めることが重要である。既存事業のDXによって得られた原資を新たな価値創出に向けた活動に充当していくことで、企業の競争力と経営体力を高めながら、環境変化にも対応することが可能となる。
DXの取組領域ごとの成果状況を尋ねた結果をみると、デジタイゼーションに相当する「アナログ・物理データのデジタル化」とデジタライゼーションに相当する「業務の効率化による生産性の向上」において、成果が出ている割合(「すでに十分な成果が出ている」「すでにある程度の成果が出ている」の合計)が約80%であり米国と差がなくなっている。(図表1-12)
一方、デジタルトランスフォーメーションに相当する「新規製品・サービスの創出」「顧客起点の価値創出によるビジネスモデルの根本的な変革」については20%台で、米国の約70%とは大きな差があり、デジタルトランスフォーメーションに向けてさらなる取組が必要である。
DXは、顧客ニーズの不確実性が高く、技術の適用可能性も不確かな状態で推進することが多く、状況に応じて柔軟かつ迅速に対応していくことが必要です。そのため、アジャイル的な取り組みが求められます。しかし、アジャイルの原則とアプローチを組織のガバナンスに取り入れている日本企業は、いずれの部門においても半数以下になっており、米国企業との差は大きくなっています。
企業競争力を高める経営資源の獲得・活用
DXの推進にあたっては、経営層の積極的な関与やDX/ITへの見識と経営層、業務部門、IT部門が協働できるような組織作りが必要となる。IT分野に見識がある役員が3割以上の割合を日米で比較すると2022年度調査は日本が27.8%、米国が60.9%である(図表1-14)。日本は2021年度調査から割合は増加しているものの米国と比べて2倍以上の大きな差があり日本の経営層のITに対する理解が不十分であることがDXの取組の阻害になることが懸念される。
経営者・IT部門・業務部門が協調できているか尋ねた結果を示す(図表1-15)。「十分にできている」「ま あまあできている」を合わせた割合は、米国では8割であるのに対して日本は4割弱となっておりDXを 全社的に推進していくうえでの課題となっていることが推察される。
DX推進のための予算確保の状況として米国は「年度の予算の中にDX枠として継続的に確保されて いる」が40.4%と最も割合が高いのに対して、日本で最も割合が高いのは「必要な都度、申請し、承認され たものが確保される」で45.1%となっている(図表1-16)。日本は継続的に予算が確保されている割合が 少なく、約3割が予算が「確保されていない」状況である。DXが全社横断で取組む中長期の取組である ことを踏まえると一過性ではない継続的な予算を確保していくことも重要である。
目指す人材像
DXを推進する人材について、人材像を設定し、社内に周知しているかを尋ねた結果を示す(図表 1-20)。人材像を「設定し、社内に周知している」割合は日本では18.4%、米国では48.2%、「設定していない」 割合は日本では40.0%を占め、米国の2.7%に対する大きな差が見られる。人材像が明確になっていない ことが人材の獲得・確保において「戦略上必要なスキルやそのレベルが定義できていない」「採用した い人材のスペックが明確でない」などの課題につながっていることから、日本企業はこの取組の遅れを 認識し、早急に取組む必要がある。(第4部第1章4.「DXを推進する人材の獲得・確保」を参照)
DXを推進する人材の「量」「質」
人材の確保は、DX戦略を推進する上での重要な課題である。そのため、自社の人材の充足度を把握 し、継続的に人材確保をする必要がある。 DXを推進する人材の「量」「質」の確保について尋ねた結果を示す。 「量」については、2022年度調査では、DXを推進する人材が充足していると回答した割合が日本は 10.9%、米国は73.4%であった(図表1-21)。「大幅に不足している」が米国では2021年度調査の20.9%から 2022年度調査の3.3%と減少する一方、日本では2021年度調査の30.6%から2022年度調査は49.6%と増加 し、DXを推進する人材の「量」の不足が進んでいる。 なお、DXを推進する人材が充足している回答とは「やや過剰である」「過不足はない」の合計のこと をいう。
DXを推進する人材の「質」の確保について2021年度調査と2022年度調査で比較した結果を示す(図表 1-22)。日本では、「やや不足している」は2021年度調査の55.0%から2022年度調査は34.4%と減少している 一方、「大幅に不足している」は2021年度調査30.5%から2022年度調査は51.7%になり明確な不足を回答 する企業が半数にまで増加している。 日本の企業でDXを推進する人材の「量」「質」の不足が増加した要因としては、この1年でDXに取組む 企業の割合が増加し、それにあわせてDXの推進に必要な人材に対するニーズが増えていることが考え られる。(第3部第1章2.「日米におけるDXの取組状況」を参照)
DXを推進する人材の獲得・確保
DXを推進する人材の獲得・確保の取組の状況としては日米ともに「社内人材の育成」(54.9%、 42.5%)の割合が一番高い(図表1-23)。日本と米国の差異をみると米国は、日本より「特定技術を有する 企業や個人との契約」(42.5%)、「リファラル採用(自社の社員から友人や知人などを紹介してもらう手 法)」(24.9%)などさまざまな社外からの獲得手段の割合が高く、日本企業もこのような手段を積極的に 活用していくことが必要と考える。
企業文化・風土
DXの推進のための企業文化・風土の「現在」の状況を尋ねた結果を図表1-26に示す。日本は「できてい る」の割合が高い項目として「企業の目指すことのビジョンや方向性が明確で社員に周知されている」 (30.4%)、「個人の事情に合わせた柔軟な働き方ができる」(28.0%)が挙げられるが、すべての項目が40% 以上の米国との差は大きい。DXが組織に根付いていくためには土壌となる企業文化・風土のあり方 も重要でありDXにふさわしい姿に変革していくことが求められる。
企画開発手法
企業の環境変化への対応や新サービスの短期間での立ち上げ、といったビジネスニーズに対応する ためには、企業のITシステムにはスピード・アジリティや社会最適、データ活用を実現する機能が求め られる。図表1-28は、前述のビジネスニーズに対応するためにITシステムに求められる機能について、 各社の「達成度」を尋ねたものである。「達成している」「まあまあ達成している」の合計は、米国では6割 から7割に対して、日本では多くの項目で2割から4割程度である。前述のDXを実現するためのITシステ ムに求められる重要な要素であるスピード・アジリティや社会最適、データ活用の観点からみても、今 後の改善が必要となる。
まとめ
日本国内の市場が縮小していく中、グローバル競争における優位性を高めるには、DXを進め、業務、組織、プロセス、企業文化・風土などを変革する必要があります。しかし、「IPA DX白書2023」の調査によれば、2022年度の日本企業のDX推進は進展しているものの、日米間の差が依然として大きい状況です。成果はデジタイゼーションやデジタライゼーションの分野で見られますが、顧客価値創出やビジネスモデルの変革といったトランスフォーメーションの成果が不十分です。さらに、DXの推進が拡大する中で、人材や予算の確保が共通の課題となっています。
DXを進めるには、経営層が全社的な取り組みとして認識し、コミットメントすることが不可欠であり、IT部門・業務部門との協調も求められます。人材の確保・育成に向けては、必要なスキルやマネジメント制度を整備する必要があります。企業文化・風土の形成も重要であり、ビジョンや方向性を明確にし、リスクを取る文化を醸成することが必要です。全社的な取り組みの成功には、経営層の強い意志が欠かせず、DX推進のエンジンとなることが期待されます。