概要
介護の現場でもDXを推進しようという風潮があるため自分の施設でもそろそろ取り組む必要があるのはわかっているけれど、何から始めてよいかわからず困っている人はいませんか?
この記事ではLinkJapanのブログにもとづいて、纏めました内容です。介護の現場におけるDX推進とは何かから事例、今後の課題まで詳しく解説します。
Dxとは?
DXとはデジタルトランスフォーメーションの略称で、日本語ではデジタルへの転換と訳されます。
2022年に経済産業省が発表した「デジタルガバナンス・コード2.0」の中で、DXは「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と定義づけられました。
単にデータやデジタル技術を導入して仕事の効率化を図るといったことではなく、組織、プロセス、企業文化や企業風土といった企業のあり方そのものを変革するのを目的としているのが特徴的だと言えるでしょう。
このことから介護業界でDXを推進する時には単に業務負荷を軽減するだけではなく、介護のあり方そのものをデータやデジタル技術の導入によって変えていく必要があるということです。
介護業界でDXが注目される背景
2022年に株式会社富士キメラ総研が発表した「2022 デジタルトランスフォーメーション市場の将来展望 市場編」によると2020年の医療・介護におけるDXの国内市場規模は731億円でしたが、2030年では2,115億円(2020年度比2.9倍)に拡大すると予想されています。
このように介護業界におけるDXが注目される背景には、どのようなことがあるのでしょうか。
3つご紹介します。
参考:株式会社富士キメラ総研 プレスリリース「『2022 デジタルトランスフォーメーション市場の将来展望 市場編/ベンダー戦略編』まとまる(2022/3/15発表 第22025号)」
介護業界における人手不足
介護業界におけるDXの推進は、現場の人手不足の解消に一役買う可能性が高いでしょう。
2021年に厚生労働省が発表した「第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」において都道府県が推計した介護職員の必要数を集計した結果は次のようになりました。
2023年度 | 2025年度 | 2040年度 | |
介護職員の必要数 | 233万人 | 243万人 | 280万人 |
一方2021年に厚生労働省が発表した「令和3年介護サービス施設・事業所調査の概況」によると介護職員の総数は188万863人だったため、2023年の必要数を満たすためにはまだ介護職員が44万9千人程度不足しています。
しかしDXを推進することで事務作業や訪室回数を減らせるため、介護の現場における人手不足の問題を解決できる可能性が高まります。
介護業界における人手不足の詳細も知りたい方は、次の記事もご覧ください。
参考:厚生労働省「第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」
厚生労働省「令和3年介護サービス施設・事業所調査の概況」
高齢者のデジタル活用の浸透
介護業界でDXが注目される背景には、高齢者のデジタル活用が進み受け入れられやすくなっているという側面もあります。
2021年に総務省が発表した「令和3年版 情報通信白書」で年齢別に端末の利用状況について確認した所、次のような結果でした。
20才~29才 | 30才~39才 | 40才~49才 | 50才~59才 | 60才以上 | |
スマートフォン | 95.0% | 94.5% | 87.5% | 89.0% | 81.0% |
ノートPC | 46.0% | 41.5% | 44.5% | 50.5% | 60.0% |
タブレット | 22.0% | 31.0% | 27.5% | 26.0% | 26.0% |
高齢者を含む60才以上の人のスマートフォンの利用率は他の世代と比較すると10%前後低いですが、ノートPCの使用率は逆に10%~20%高く、タブレットではあまり大きな差が見られません。
またインターネットを使ってどのようなサービスを利用しているかを聞いた所、次のような結果だったのです。
20才~29才 | 30才~39才 | 40才~49才 | 50才~59才 | 60才以上 | |
インターネットショッピング | 69.5% | 73.0% | 70.5% | 76.0% | 78.0% |
オークション・フリマ | 40.0% | 40.0% | 32.0% | 35.5% | 17.5% |
クレジットカード・デビットカード決済 | 70.0% | 68.5% | 61.5% | 67.0% | 67.5% |
QRコード決済 | 61.0% | 62.5% | 46.5% | 51.0% | 34.5% |
音楽配信 | 43.5% | 27.0% | 25.0% | 23.5% | 20.0% |
動画配信 | 70.5% | 62.5% | 51.5% | 54.0% | 39.5% |
SNS | 71.5% | 62.0% | 42.5% | 38.5% | 28.5% |
メッセージングサービス | 64.5% | 61.0% | 47.0% | 43.5% | 34.0% |
公的サービス | 19.5% | 18.0% | 15.0% | 19.5% | 26.5% |
音楽や動画配信、コミュニケーションにインターネットを活用している60才以上の人は他の世代と比較すると少ないですが、インターネットショッピングやクレジットカード決済などはほとんど差がありません。
これらの結果からも、高齢者におけるデジタル活用は少しずつ進んできているのがわかります。
働き方改革
2019年4月1日から始まった働き方改革は、業種や職種、地域や企業の規模などを問わずに推進されています。
そのため介護業界でもこれは例外ではなく、DXを推進することで介護の現場で働く人たちが少しずつ多様な働き方を選択し、より自分に合ったキャリアプランを実現できるようになってきているのです。
介護業界でのDX推進の現状
DXが特に進んでいる分野 | 割合 |
介護記録業務 | 51.8% |
介護報酬請求業務 | 41.1% |
身体介護業務 | 34.5% |
一方今後DXに取り組みたい分野についてたずねた所、次のような結果でした。
今後DXに取り組みたい分野 | 割合 |
介護記録業務 | 33.3% |
その他施設利用者の支援業務 | 22.4% |
身体介護業務 | 22.1% |
2021年から、科学的介護情報システム(LIFE)にデータを提供すると介護報酬として「科学的介護推進体制加算」がもらえるようになったため、介護記録業務が多い結果となったと言えるでしょう。
参考:TRYTキャリア「【介護事業所におけるDX実態調査】半数がコロナ下でDXに取り組んでいる実態が明らかに」
介護業界におけるDX推進の好事例
社会福祉法人善光会では、組織を横断し介護業務全体をデジタル化するだけではなく、事業やビジネスモデルの変革も踏まえたDXに取り組んでいます。
具体的には介護業務を「見える化」し、トヨタ式の「カイゼン」を行う際にデジタルツールを用いたのです。
この取り組みで、次のような結果が出ました。
- 間接介助と間接業務が総勤務時間の30%を超えていたため、24時間モニターセンターを導入して巡回の削減したり、タブレット入力に変更したことで、直接介護にかけられる時間が増えた
- バイタルサインを24時間モニターセンターで感知し巡回を減らしたため利用者の半数以上の睡眠の質が向上した
- 利用者対職員の人数は全国平均で2:1だが善光会では2.8:1となった
介護業界DX推進の先駆者であるというビジョンをしっかりと掲げ、現場の課題をDXによって「カイゼン」した好事例だと言えるでしょう。
参考:NHKクローズアップ現代「最新技術で老後は安心!?“デジタル介護”最前線」
東洋経済オンライン「介護施設が『デジタル化』に取り組んだら起きた事」
介護業界におけるDX推進の課題
「介護事業所におけるDX実態調査」でDX推進における課題についてたずねた所、次のような結果でした。
DXの課題 | 割合 |
知識・ノウハウがない | 43.2% |
予算がない | 40.3% |
費用対効果が低い・わかりにくい | 31.7% |
これらの上位3つの課題について、内容とともに解決策も含めてご紹介します。
参考:TRYTキャリア「【介護事業所におけるDX実態調査】半数がコロナ下でDXに取り組んでいる実態が明らかに」
知識・ノウハウがない
DX自体が経済産業省によって2022年に定義づけられた新しい概念であることから、知識やノウハウが少ないのは介護業界に限った話ではないと言えます。
そのため厚生労働省のYouTubeチャンネルでは、「介護事業所におけるICTの普及・導入セミナー」という再生リストを作ってICT活用の基本から好事例まで広く情報提供をしています。
また厚生労働省のホームページには「介護サービス事業所におけるICT機器・ソフトウェア導入に関する手引きVer.2」が掲載されており、DXを推進するための体制作りから事例まで紹介されています。
DX推進について知識やノウハウが足りないと感じたら、まずは情報収集をすることから始めてみましょう。
予算がない
DX推進のための予算がない場合、ICT導入支援事業を活用すると介護ソフトやタブレット端末の導入を支援してもらえます。
ICT導入支援事業とは地域医療介護総合確保基金を利用した補助金事業で、2021年には47都道府県、5,371の事業所が補助金を受けDX推進につなげています。
補助上限額は職員数に応じて定められていますが、補助対象は介護ソフト、情報端末、WiFiルーター、バックオフィスソフトなど幅広いので、予算がなくDXが推進できないと悩んでいるなら補助要件を満たすかどうかをホームページで確認してみましょう。
費用対効果が低い・わかりにくい
DX推進は費用対効果が低く、わかりにくいと感じて踏み込めないなら、ICT活用の事例だけではなく、介護ロボットの導入効果実証事例などにも目を通してみるとよいでしょう。
介護ロボットポータルサイトには、現在の開発機器一覧、製品化機器一覧など介護ロボットに関する基本的な情報だけではなくわかりやすいコラム記事や事例なども掲載されています。
ICTや介護ロボットが介護の現場においてどのような課題を解決できたのかという視点で目を通すと、費用対効果があるかどうかがわかりやすいでしょう。
参考:介護ロボットポータルサイト「介護ロボット導入効果実証の活用事例」
TRYTキャリア「【介護事業所におけるDX実態調査】半数がコロナ下でDXに取り組んでいる実態が明らかに」
まとめ
介護業界におけるDXは、人手不足の解消や高齢者のデジタル活用の進展、働き方改革の影響を受けながら注目されています。DXの導入には知識やノウハウの不足、予算の制約、費用対効果の不透明さといった課題がありますが、これらに対処するためには情報収集と学習、ICT導入支援事業の活用、他業界での成功事例の参考が必要です。組織内にDxの開発を検討している場合は、NALへお問い合わせ ください!