小売業界のDXとは
小売業DXとはAIやIoTなどのテクノロジーを利用して、小売に関わる業務プロセスやサービスを見直し、店舗での業務効率化などにつなげることを言います。小売業界のDXの現状について、店舗と電子商取引サイト(ECサイト)が分かれており、顧客にスムーズな体験を提供できていないケースが多いと言われています。
ECサイト上で関連商品を訴求したり、近隣店舗の在庫を共有するためには、小売業のデジタル変革(DX)が必要不可欠です。当記事では、小売業の現状や課題、小売業DXによる可能性、そしてオンラインとオフラインを融合させるOMO(Online Merges with Offline)によって解決できる課題について詳しく説明します。」
小売業界の現状
IPAが2023年2月に発表した「DX白書2023」によると、小売業界においてDXを実施している企業は22.6%でした。そのうち、2019年から取り組んでいる企業は3.1%であり、2020年から取り組んでいる企業は4.4%でした。この調査結果から、小売業界におけるDXへの取り組みが年々増加していることが示されています。
例えば、小売業DXの取り組み事例としては、以下のようなものがあります。
AI画像認識を利用した惣菜量売り機の導入
工具ユーザーからの注文を不要にする“置き工具”サービス
NFTを活用したノベルティの提供
本部・各店舗間の業務連絡をクラウド化
しかし、全体的な導入率はまだ低い状況です。小売業界におけるDXの進展が遅れている主な要因として、次のような課題が指摘されています。
小売業界のDXにおける課題
DXを検討するときに、小売業界で生まれやすい課題について見てみましょう。
①経営戦略が不十分
DXを推進する際、もっとも大切な最初のステップに目的と戦略の制定があります。ただデジタル技術を導入するだけではDXにはなりません。DXの目的はデジタル技術を導入してビジネスモデルを変化させることです。そのため、DXによってどのような変革をもたらしたいのか、どのようにビジネススタイルを変えていきたいのか、明確に目的を立てることが必要です。この目的と戦略がきちんと立てられず不十分な状態にあると、ただデジタル技術を導入しただけで終わり、それを活かしきれなくなってしまいます。
②業務フローが不透明
DXは、現状の業務フローについて洗い出し、どの部分が従業員の負担が大きく、どの部分にデジタル技術を導入できるか検討することから始まります。しかし既存システムのフローについて、従業員がきちんと理解していない状態では、業務フローのすべてにデジタル技術を導入することになって、莫大なコストがかかることが考えられます。DXを行う際には、デジタル技術の導入コストもランニングコストもかかるため、コスト面を考慮し、必要な部分に効率的に導入することが大切です。
③IT人材の不足
DXを推進するためには、導入するデジタル技術やツールなどの詳しい知識を持った人材がいると心強いでしょう。しかし小売業界だけでなく、あらゆる業界でデジタル化が進み、ITの知識を持った人材は特に不足していると言われています。そのような人材の確保はなかなか難しいかもしれません。デジタル技術をうまく活用してDXを成功させるためには、外部企業をパートナーにして協力していくことも選択肢のひとつとして考えると良いでしょう。
④既存システムの老朽化
古いシステムを使用している企業にありがちなのが「既存システムの老朽化」です。老朽化であれば新しいシステムと入れ替えるだけで解決を図れます。
本質的な問題は、社内の誰も仕組みを理解していない古いシステムが存在し、システムが不透明化している場合です。このような状態だと、新しいシステムを導入してもデータ共有に莫大なコストと時間がかかります。
日本企業はITに関する予算を既存システムの維持に割きがちです。そのため、小売業DXを推進するには投資と捉え、既存システムを刷新していかなければなりません。
事例
AEON
日本全国に展開するスーパーマーケットのイオンでは、平日の夕方や週末など買い物客でにぎわう時間帯に、レジに行列ができていることが課題としてありました。待ち時間が長く顧客がストレスを感じる時間が長いと、別のスーパーに顧客が流れることも考えられます。そこでセルフレジが導入され、限られた従業員で数多くの顧客のレジ対応ができるようになりました。さらに、事前登録などもせずにスマホで決済できる「レジゴー」も展開されています。これは買い物カゴに商品を入れるときに、自分のスマホを使ってバーコードを読み取り、最後は専用レジで精算を済ませるスタイルです。よりスマートに短時間に買い物したい顧客に好評のようです。
小売業DXでできること
小売業でDXを推進することとして次のメリットを紹介します。
①業務を効率化できる
小売業におけるDX最大のメリットが、業務の効率化です。小売業では商品の仕入れや在庫管理が必要ですが、全てを人の手で行うのは時間がかかるうえ、大きな負担が生じます。そのような作業にデジタル技術を導入することで、作業時間が大幅に短縮され、業務を効率的に行えるようになります。またレジ業務においては、キャッシュレスサービスを導入することで、レジ対応にかかる時間が削減されるうえ、現金の数え間違い等のミスも減るなど、業務の効率化・安定化が望めるでしょう。さらに従業員の勤怠管理やデータ管理などでも、DXを推進し効率化を図ることで、企業全体の生産性を上げることにもつながります。
②コストを削減できる
人がおこなうアナログな作業には、その分人件費が発生します。しかしDXを行うことで、人件費をかけずに、より短い時間で作業できるようになります。人件費の大幅なカットは、店舗運営にとって大きなメリットとなるでしょう。また、デジタル技術を活用して店舗の販売状況にあわせた適切な在庫管理を行えれば、無駄に多く発注したり在庫を抱えたりすることも少なくなり、在庫管理などのコストカットにつながります。飲食店であれば、廃棄する食材を減らすことができ、フードロス問題の解決にもつながるでしょう。
③顧客満足度が上がる
業務の一部にデジタル技術を導入するIT化やデジタライゼーションとは違い、DXの大きなメリットのひとつが、顧客満足度の向上です。DXを推進することで店舗運営のさまざまな場面で業務効率が上がり、従業員の負担が軽減されると、従業員はその分の時間を顧客対応などに集中できるようになります。必要最低限の従業員の数でありながら、きめ細かな接客を可能にして、顧客満足度が上がることが期待できるでしょう。また、DXによってアナログで行っていた顧客管理をデジタル化することで、よりパーソナルな対応もできるようになることが期待できます。
④ヒューマンエラーを減らせる
従来の人の手で操作するレジ業務では、釣り銭の渡し間違い、残金の数え間違いなどが生じる可能性があります。また在庫管理についても、実際の在庫と帳簿の数が合わないといった場合もあるでしょう。人が行う作業では、どうしてもそのような人為的なミスが生まれがちです。しかしDXによってデジタルで管理できるようになれば、ヒューマンエラーを最小限に抑えることができます。キャッシュレス決済を導入すれば、会計時に現金のやりとりが行われないので、従業員の負担が減るうえに、データの連携によって在庫管理がリアルタイムで正確に行えるようになります。
⑤従業員のエンゲージメントが高まる
エンゲージメントとは、企業に対する信頼や愛着のことです。DXによってさまざまな作業が効率化されれば、従業員への負担が軽減するため「働きやすい環境」になります。すると、自然と仕事へのモチベーションが高まり、離職率の低下や社内の雰囲気が良くなることが期待できます。人手不足が進むなか、大切な人材を確保しておくことは小売業の運営にとって必要不可欠です。DXによって従業員のエンゲージメントが高まれば、優秀な従業員に長く働いてもらえる可能性も高まります。
⑥OMOを実現できる
スマホやタブレットが普及した現代、顧客は常にオンライン上でつながっている状態です。オフラインである店舗に足を運んでいても、オンラインでつながっている状態は変わりません。
そこで生まれた概念が「OMO(Online Merges with Offline)」です。オンラインとオフラインを統合したマーケティング手法のことを言います。現代では、単なる商品やサービスの購入にとどまらず、購入前の認知の段階や、購入後のアフターフォローまで含めて、すべての顧客体験を向上させることが大切になっています。そのような流れの中、オンラインショップで購入した商品を実店舗で受け取ったり、実店舗で実際の商品を確認してからオンラインで購入したりなど、さまざまな販売スタイルが誕生しています。OMOの実現には、顧客満足度の向上に役立つDXが一助となるでしょう。
まとめ
小売業はかつてオフラインの店舗が主流でした。しかし、オンラインのECサイトが登場したことで、オフラインとオンラインが分断され、顧客体験をシームレスに提供することが難しくなっています。
シームレスな顧客体験を実現するためには、店舗とECサイトの境界をなくし、オンラインとオフラインで得られたデータを連携させる必要があります。ただし、多くの企業は業務効率化のためにITツールを導入したり、既存システムの維持に予算を充てたりしています。
オンラインとオフラインを融合させて小売業のデジタル変革(DX)を進めると、小売業務を深く理解したDX人材が不可欠です。DX人材を急速に育成し、推進の原動力となる人材を確保できるかどうかが、小売業の未来を左右すると言っても過言ではありません。DX化のご検討している方は、是非ご遠慮なく、ぜひNALへお問い合わせ ください!