ベトナム統計総局は12月29日、2022年の実GDP=国内総生産の成長率は8.02%に達し、2009年以降で最高となった。また、インフレ率は3.15%となり、7年間連続でインフレの抑制に成功したことが明らかとなった。厳格だった新型コロナウイルスに関連する移動制限が緩和され、個人消費が大きく回復した。2022年初に公表した政府目標6.0~6.5%を達成し、1997年以来となる8%超えで近年最も高い成長率となった。
1.GDP成長率
2022年の世界経済は多くの課題に直面し、多くの国が数十年ぶりの高インフレに見舞われ、金融引き締めの政策を取らざるを得なかった。同時に、大国間の戦略的地政学的競争、ロシアとウクライナの軍事衝突、自然災害、世界規模での感染症、気候変動などの発生により、世界の財政・金融市場、エネルギー安全保障、食料安全保障のリスクが高まっている。このような背景の中で、ベトナムのGDPの成長率は8.02%に達し、この12年間での最も高い成長率であったほか、ASEAN=東南アジア諸国連合とアジア太平洋地域においてもトップに立った。
その一方で、2022年に、新規設立企業と事業再開企業の数は20万8千社を超え、ドイモイ刷新事業が1986年に実施され始めた頃より10倍増、また、2021年1月の企業法発効時と比べ30%以上増加している。
図1:実質GDP成長率の推移
出所:ベトナム統計総局の2022年12月29日付けのプレスリリースを基にジェトロ作成
具体的には、2022年の成長率を産業別にみると、農林水産業が3.36%、鉱工業・建設業が7.78%、サービス業が9.99%となった(参照:以下の表)。農林水産業は、畜産物の安定供給や養殖水産の生産量・輸出額の増加に伴い、安定した成長率になった。鉱工業・建設業は、新型コロナウイルス流行前の2019年には及ばないものの、前年の2倍近い成長率となった。GDPの約4割を占めるサービス業は、新型コロナ流行下の低迷からの反発で、大きく回復して経済成長を牽引した。
表1:実質GDP成長率の推移
項目 |
2019年 |
2020年 |
2021年 |
2022年 |
実質GDP成長率 | 7.36 | 2.87 | 2.56 | 8.02 |
農林水産業 | 2.67 | 3.04 | 3.27 | 3.36 |
鉱工業・建設業 | 8.21 | 4.38 | 3.58 | 7.78 |
サービス業 | 8.08 | 2.01 | 1.57 | 9.99 |
出所:ベトナム統計総局の2022年12月29日付けのプレスリリースおよび2021年統計年鑑を基にジェトロ作成
2.貿易推移
輸出入総額が7億3000万ドルを超えたことにより、ベトナムは世界最大の貿易国上位20か国の一つとなっている。ロシア科学アカデミーに属するベトナム・ASEAN研究センター長のウラジミール・マジリン博士は次のように評価している。
「国際的な信用格付け機関の専門家は、他国と比べベトナムの経済には目立った成果があったことを認めています。ベトナムは急速な経済成長によって、新しいアジアの虎と呼ぶことができるでしょう。つまり、経済開発の成功モデルということです」。
2022年の輸出は3,713億416万ドル(前年比10.5%増)、輸入は3,589億192万ドル(7.8%増)で、貿易収支は124億225万ドルの黒字となった。前年に続き、2022年も輸出入ともに過去最高を更新した。しかし、上期(1~6月)は輸出が前年同期比17.3%増、輸入が15.5%増とともに2桁増だったのに対し、9月以降に貿易額が落ち込み(2022年12月23日記事参照)、下期(7~12月)は輸出が4.3%増、輸入が0.7%増と伸びが鈍化した。世界的なインフレによる経済減速などが影響したとみられる。
表2:2022年ベトナムの主要国・地域別輸出入(通関ベース)
出所:ベトナム税関総局
通年の輸出を主要国・地域別にみると、米国が1,093億8,889万ドル(前年比13%増)で1位、次いで中国が577億260万ドル(4.5%増)、韓国が242億9,350万ドル(10%増)だった。中国と香港の経済や消費活動がゼロコロナ政策によって伸び悩む一方、そのほかの上位国は2桁増の伸びで、特に欧米の伸びが目立った。下期は大幅に伸びが鈍化した国が多かったが、対日本輸出はむしろ増加した。特に縫製品が好調だった。新型コロナウイルス感染対策の規制が緩和され、ベトナムでの生産と日本での需要が回復したことなどが背景にあるとみられる。
輸入は、中国が1,178億6,663万ドル(前年比7.9%増)で1位、韓国が620億8,863万ドル(11%増)、日本が233億7,382万ドル(2.7%増)と続いた。
なお、日越間の貿易額につきまして、ともに増加傾向にある。ベトナム税関総局の統計によると、年のベトナムの対日貿易額は、2013 年以降、中国、韓国、米国に次いで第 4~5位の貿易相手国となっている。
図3:前年度伸び率の推移
出所:ベトナム税関総局
対世界輸出を主要品目別にみると、1位は電話機・同部品、2位はコンピュータ電子製品・同部品、3位は機械設備・同部品だった。縫製品(前年比14.7%増)や履物(34.6%増)、水産物(23.0%増)などの消費財が新型コロナ禍からの需要回復により好調だった。他方、電話機・同部品は0.8%増にとどまった。ベトナムに同社世界最大のスマートフォン生産拠点をもつサムスン電子は、下期に年内出荷目標台数の下方修正と減産調整をした。また、欧米や中国などの建設需要の減退を受けて、鉄鋼の輸出額は32.2%減と大幅に減少した。
輸入の主要品目別は、1位がコンピュータ電子製品・同部品、2位が機械設備・同部品、3位が電話機・同部品だった。資源高の影響で石油製品の輸入額が大きく増加した。下期には生産財となる上位品目の輸入額が軒並み前年同期比マイナスとなっている。2022年終盤に減速した製造業の生産状況を反映する結果となった。
図4:日本の対ベトナム輸出入の推移
また、多くの品目において、輸出額が前年比で大きく増加した。主な品目として、鉄鋼製品、プラスチック製品、原油、ガラス・ガラス製品、化学品、その他金属・金属製品、カメラ・ビデオカメラ・付属品、肥料などが挙げられる。一方、ベトナムの日本からの主な輸入品目は、コンピュータ・電子製品・部品、機械・機器・工具・スペアパーツ、鉄鋼、鉄鋼スクラップなどである。
3.外国直接投資
フランスのパリ経営大学院の講師であるブ・タン・ナム博士は次のように語っている。
「ベトナムが発展できたのは強みを活用したことによるものです。適切な投資政策、労働雇用政策により持続可能な開発に配慮することで各国の産業界の信頼を醸成することが出来たら、多くの外国投資家はベトナムに来て下さるでしょう。つまり、ベトナムは、外国投資家にとって投資先であるだけでなく、互恵パートナーでもあります」。
図5:ベトナムの海外直接投資
ベトナム計画投資省は 2022 年通年のベトナムへの海外直接投資(FDI)の認可額(推定値)が277 億米ドルとなり、前年比 11%減少したと発表した。しかし、FDI 実施額(推定値)は 224 億米ドルに達し、前年比で+13.5%増加した。2022 年 12 月 20 日までの累計で、全国には 36,278 件の有効なプロジェクトがあり、それらの FDI 認可額は 4,387 億米ドルを超えている。
図6:国・地域別のFDI認可額(10億米ドル)
国・地域別にみると、シンガポール(64.6 億米ドル)、韓国(48.8 億米ドル)、日本(47.8 億米ドル)、中国(25.2 億米ドル)、香港(22.2 億米ドル)の順であった。
海外直接投資の活発な状況は、外国人投資家が投資環境やグローバルサプライチェーンにおけるベトナムのポジションに大きな信頼と期待を寄せていることを示唆している。FDI の傾向をみると、徐々にハイテク分野の比率が高まっているようである(2022 年 7 月 28 日付けベトナム・アジア通信「中国からベトナムへのグローバル企業の生産拠点移転」参照)。これは、技術を活用するプロジェクトを優先し、品質を向上させ、競争力の高い製品を製造し、ベトナムを世界の供給ネットワークに深く組み込ませるという政府の方針に沿っている。
まとめ
ベトナムの2022年の社会経済状況は引き続き好調でした。高い経済成長率のほかインフレが抑制されている。また、複数の政策や方策が適切なタイミングで発布、実施されてきた。ウラジミール・マジリン博士によりますと、ベトナムが成長を維持できた要素は、大量の外国投資の誘致と、多国籍企業の生産拠点移転であるとした。ベトナム政府は、2023年のGDP成長率を6.5%にするという目標を設定している。専門家によりますと、この目標を達成するためには多くの課題があるということですが、ベトナムは政府の複数の包括的な方策に基づき課題に対応する用意があり、今後も成長目標を遂行していく。