激しい環境変化の中で、企業が熾烈な競争に勝ち残るために、イノベーションが求められています。イノベーションとは、新しい顧客価値を生み出すための革新の事業活動で、より良い製品・サービス、より多くの価値、より大きな満足の提供です。こうしたことを背景に、方法論としてのデザイン思考、アジャイル、リーンンスタートアップのような方法がNALをはじめ多くの企業で実践されています。それぞれ独自の起源を持ちますが、これらがすべて直線ではなく、円形のループ構造の思考プロセスです。本記事では、まず、デザイン思考とは何か、どうやって企業の具体的なイノベーションに結び付けるかをまとめてみました。
1. デザイン思考とは
デザイン思考とは、デザイン(設計)を行う際のプロセスを用いてユーザーの課題を定義し、解決策を見いだすマインドセットのことです。英語では、「Design Thinking」と表記します。
新規事業への繰り返し型モデルの適用
ここで使われているデザインとは、一般的な「装飾」という意味のデザインではなく、「設計」という意味で使われており、ある問題や課題に対し、その解決策を生み出す(設計する)ための思考術という意味で「デザイン思考」と呼ばれています。そして、あらゆる業界・職種の中で問題や課題が発生している現代においては、幅広く活用することのできる重要なマインドセットです。
エンドツーエンドのイノベーション プロセス
2. デザイン思考のフレームワーク
デザイン思考は、下図のフレームワーク「共感」「問題定義」「創造」「プロトタイプ」「テスト」のような「5つのプロセス」で表されます。
2.1. 共感(Empathize)
まずはユーザーの思考を理解し、ニーズを探っていくところから始まります。デザイン思考においては、ここで「ペルソナ」を設定することが重要です。
「ペルソナ」とはいわゆる「ターゲット」のことを指しますが、一般的に「ターゲット」といえば「30代女性」といったような幅広い層のことを指すのに対し、デザイン思考における「ペルソナ」とは、「年齢・居住地・職業・家族構成・趣味・現在の悩み・日々の生活スタイル」など、実際に実在する人物であるかのような詳細な部分まで設定していきます。
そうすることで、マーケティングに関わる多くの関係者の中で詳細な共通認識が生まれ、マーケティングの方向性がズレてしまうことを防ぐことができます。また、この部分で設定したペルソナは、その時代において容易にイメージできるような人物像である必要があるため、社会の変動が激しい現代においては頻繁にペルソナを見直していく必要があります。
このペルソナ設定のプロセスを怠ってしまうと、この先にどんな良い案を出したとしてもマーケティングが上手くいかなくなってしまうため、フレームワークのはじめの部分である「ペルソナの設定」が特に重要なプロセスです。
ペルソナを設定してそこで終わりではなく、設定したペルソナの情報を背景としてそこからその人物に共感し、潜在的にどのような課題を抱えており、どのようなニーズを抱えているかを次のフェーズで探っていきます。
2.2. 問題定義 (Define)
前段で設定したペルソナの情報をもとに、その人物の潜在的な課題やニーズを探っていきます。
ここで有効な手段の一つとして、カスタマージャーニーマップの作成が挙げられます。カスタマージャーニーマップとは、顧客がある商品・サービスの購入に至るまでの行動・感情・思考などを時系列順に可視化してマッピングしたものです。
この場合で言うと、前段で設定したペルソナの情報をもとに、その人物のカスタマージャーニーマップを描いていきます。そして、そこで可視化された行動や思考をもとに、その人物の潜在的なニーズや課題を探っていくことで、新たなサービスとしてのコンセプトの部分を定義していきます。このフェーズも前段同様、サービスのコンセプトに関わってくる部分であるため、重要なプロセスとなります。
デザイン思考の5つのプロセス
2.3. アイデア創出 (Ideate)
ペルソナの持つ課題やニーズを定義した後は、それを解決するための案やアプローチを概念化させていきます。
ここで重要なポイントとして、案出しにおいては質よりも量を重視することであり、ブレインストーミングなどの手法を用いることによって考えつくアイデアを次々に出していきます。その後、出てきたアイデアをカテゴライズし、精査していくことで形にしていきます。
2.4. プロトタイピング (Prototype)
次に、出てきたアイデアをもとに、そのアイデアを組み込んだ試作品(プロトタイプ)を実際に見えるような形・動くような形で作っていきます。実際にプロトタイプを作成することで、アイデアを具現化することができ、イメージがわきやすくなります。
ここで重要なのは、試作品を時間をかけて細部まで作りこむのではなく、低コストで早期に作成することでレビュー・改善のプロセスを回し、これまで見えてこなかった課題点を洗い出い出すことでプロダクトとして高品質なものへブラッシュアップしていく点にあります。
2.5. 検証 (Test)
プロトタイプを作成して終わりではなく、そこからユーザーレビューなどを通すことによってこれまで見えてこなかった課題を洗い出していきます。そして、レビュー・改善のサイクルを回していくことによってプロダクトとして高品質なものへと昇華させていきます。
その後、実際に完成したプロダクトを市場に出した後も、このサイクルを回し続け、常に改善させていくことが重要です。
3. デザイン思考の効果
デザイン思考を実践することによって、以下のような効果を期待できます。
- アイデアを提案しやすくなる
デザイン思考では、ニーズを軸にして、プロセスを繰り返しながらアイデアを生み出していきます。試作(Prototype)というステップがあるように、まず考える、とりあえずつくってみるという姿勢があるので、質をいったん置いて考える習慣が身に付きやすいです。
デザイン思考が根付いていない環境では、間違った発想だったらどうしようと躊躇してしまうこともあります。組織にデザイン思考が浸透していれば、アイデアを提案するハードルが低くなり、活発に発想が行われることになります。
- イノベーションが生まれやすくなる
イノベーションを生み出すためには、ユーザー中心・顧客中心の考え方が重要です。徹底的にユーザーに寄り添うことによって、支持を得られて需要が高まっていく傾向があります。
デザイン思考は、ユーザーやクライアントのニーズを基盤としているため、イノベーションとの相性が良いのが特徴です。ニーズをとことん追求した質の高いプロダクトが生まれやすくなるのはもちろん、デザイン思考によってこれまでにない新しいプロダクトが生まれる可能性も秘めています。
- 多様な意見が受け入れられるようになる
デザイン思考はたった一人で行うものではなく、プロセスの中でブレーンストーミングなどを経て、様々な意見に触れることができます。
メンバーそれぞれの視点や価値観が異なり、多様な意見から一つのプロダクトを作る過程で、多様性を受け入れる姿勢が身に付くのがメリットです。多彩なアイデアや指摘が飛び交うことによって思考の幅が広がり、ニーズを広く捉えた革新的なプロダクトが生まれる可能性があります。
- コミュニケーションが活発になる
デザイン思考を進めるプロセスで、メンバー同士のコミュニケーションが活発になります。メンバーそれぞれの考え方や価値観への理解が深まり、チームの結束力が高まるのもデザイン思考のメリットです。
この時、自由かつ公平に発言できる環境を整える必要があります。意見交換が活発に見えても、実際は役職者や年長者だけが発言している場合もあるでしょう。それでは活発なコミュニケーションとは言えず、チーム力の強化は難しいです。役職や年齢などに関わらず発言できるように配慮し、誰でもアイデアを言えることで、意見交流が活発になります。
おわりに
デザイン思考の本質は「ユーザー中心で問題を解決するための思考法」です。デザインを活用して市場のニーズを的確に捉え、柔軟に反復や改善を繰り返しながら新たな価値を創り出していく取り組みを指します。現在、弊社NALはデザイン思考も実践し、また、DX推進のコンサルティングを行っています。
➡ 弊社でデザイン思考を実践するのはこちらのリンクです。
「会社の中で課題が発生している・新たなサービスを創りたいがコンセプト策定のところで詰まってる」といったような方は是非この記事をご参考ください。